157 幼女と心強い協力者
お店の奥でのこそこそ話を終えたアマンダさん達は、少し経つと私達の所に戻って来た。
それから、私とアマンダさんが改めて再会を喜び合うと、2人の少女がそれぞれ自己紹介を始める。
「私は姉のフウ=フーラ。国王様の近衛騎士団団長を勤めさせて頂いています」
「私は妹のラン=フーラ。国王様の近衛騎士団副団長を勤めさせて頂いています」
「「二人合わせて、フウラン姉妹とお呼び下さい」」
双子の姉妹は最後に声を揃えて、綺麗に左右対称で可愛くポーズをするとドヤ顔になる。
「う、うん。よろしくね。私はジャスミン=イベリスだよ」
私は息のぴったり合った双子の姉妹に圧倒されて、眉間に汗を流しながら答えた。
すると、双子の姉妹が目を輝かせて、私に顔を近づけさせながら話し出す。
「「話は聞きましたよ、お嬢さん。もの凄くお強いそうですね? あの魔族フルーレティを一撃で倒したそうではありませんか。その小さな体に、どんな秘密が隠されているのか、凄ーく興味がありますねー」」
ち、近い。
顔が近いよ。
「あ、あはは……」
私が苦笑すると、アマンダさんが2人の肩を掴んで、後ろにグイッと引き戻す。
「フウ、ラン。ジャスミンが困っています。それ位にして下さい」
「「はーい。アマンダさん」」
双子の姉妹が何やら意味ありげに、ニヤニヤと笑いながらアマンダさんの顔を見て返事をする。
すると、話を聞いていたリリィが頬杖をつきながら、ジト目でアマンダさんに話しかける。
「ねえ、アマンダ。聞いたわよ。貴女、王女様なんでしょう? 何で自分の護衛に、敬語なんて使っているの?」
あ。
言われてみれば、そうだよね。
アマンダさんは顔を顰めてリリィを見る。
「何処でそれを……」
そう呟くと、アマンダさんはおでこに手を当てて、ため息を一つ吐き出した。
そして、微笑しながら説明を始める。
「私の出身は海底国家バセットホルン。そして、この二人はバセットホルンの騎士では無く、獣人国家ベードラの近衛騎士なのよ。今は同じ目的の為に、一緒に行動しているだけで、私の国の騎士ではないの」
そっか。言われてみればそうだよね。
もしかして、他国の国の偉い騎士さんが相手だから、丁寧に言葉を使っているのかも? あれ?
でも、なんで別の国の近衛騎士の団長さんと副団長さんが、アマンダさんと行動してるんだろう?
近衛騎士って、私の認識が間違っていないなら、普通は自分達の国の王様を護る人だよね?
近くに王様がいるのかな?
それとも、アマンダさんも別の国のとは言え、王女様だから?
と、私が頭に?を浮かべていると、双子の姉妹がクスクスと笑いだす。
「「あの堅物のアマンダさんが、心を打ち解けているなんて、正直かなり驚きですよ。お嬢さん達やりますな~」」
「それほどでもあるなのよ」
「何でおっぱい女が偉そうなんスか?」
「がおー」
あっ。
ラヴちゃんが、フウさんとランさんのポーズの真似してる。
可愛いなぁ。
「それにしても、随分と賑やかになったのね? こんなにも多くの精霊を連れているなんて、正直驚いたわ」
「えへへ。皆は私と契約をしてくれたお友達なんだよ」
「そう。素敵なお友達ね」
アマンダさんが私の頭を優しく撫でる。
「うん」
「ところでアマンダさん。目的ってなんなのよ?」
スミレちゃんがアマンダさんに訊ねると、アマンダさんは私の頭を撫でる手を止めた。
「それは……」
アマンダさんが言い淀む。
すると、双子の姉妹が「お答えしましょう」と、声を合わせてポーズをとった。
「「サルガタナスと言う名の魔族を追っているのです」」
「サルガタナス様を追っていたなの!?」
スミレちゃんが驚いて、ううん。スミレちゃんだけじゃない。
私もリリィも驚いて、フウさんとランさんに視線を向ける。
すると、アマンダさんが私の頭から手を離して、深刻な面持ちで答える。
「実は貴女達と別れた後、色々あってサルガタナスを追う事になったのよ。目的はサルガタナスと決着をつける事よ」
「「トランスファで追い詰めたのに、逃がしてしまったんですよ。まさか、辺境の村にサルガタナス以外の魔族までいるなんて、思いませんでしたよね」」
トランスファ!?
それって、私達の故郷の村だよ。
「そう言う事だったッスね~。あの時サルガタナスが、あっという間に逃げ出した理由がわかったッスよ」
「逃げ出した? 貴女達、サルガタナスに会ったの?」
アマンダさんが訊ねてくると、リリィが少し苛立ちを見せながら答える。
「会ったと言うか、ジャスミンがサルガタナスに狙われているのよ」
「そうだったのね……」
アマンダさんが真剣な面持ちで、手に顎を乗せる。
「それにしても、まさかあの時アマンダも村に来てるなんて知らなかったわね」
私がうんうんとリリィの言葉に頷くと、アマンダさんが苦笑した。
「ごめんなさい。トランスファに貴女達が住んでいる事は知っていたのだけど、巻き込みたくなかったのよ」
「「それに、村中猫だらけで、村人が誰もいませんでしたしね」」
「そうね。でも、そのおかげでサルガタナスを見つける事が出来たのだけど、結局逃げられてしまったわ」
アマンダさんはそう言うと、小さくため息を吐き出して苦笑した。
すると、そこでプリュちゃんが私の腕にしがみついて、アマンダさん達に質問する。
「ちょっと良いか? サルガタナスはドワーフ族の鉱山街で、サーカスを公演するんだぞ。この町にも宣伝用の張り紙がいっぱいあったから、知ってると思うけど行かないのか?」
「「そうそう。問題はそれなんです」」
双子の姉妹がこれでもかと言うくらいに、絶望を体で表したオーバーリアクションを左右対称にとりながら、言葉を続ける。
「「あの張り紙を見た私達は、これはチャンスだラッキーだぜイエーイ! と舞い上がって、鉱山街へと足を運びました」」
そこで姉のフウさんだけが動いて、悲しみを体全体で表して、ポーズをとって言葉を続ける。
「サルガタナスは魔族で悪い奴。退治するから入れてくれと言ったら、そんなの俺達には関係ないと断られ」
続いて妹のランさんが、フウさんと左右対称になるように全く同じ動きをして、ポーズをとって言葉を続ける。
「国王様からの伝令を伝えると、お前達の国の一員になった覚えはないと追い出されました」
ランさんが言い終わると、双子の姉妹が今度は明るく息ぴったりに、左右対称にウインクしてポーズをとる。
「「そんなわけで、今はここで一休み。ダラダラと過ごして、ティータイムしてました。ウェーイ」」
双子の姉妹は言い切るとドヤ顔になり、それを見ていたアマンダさんがため息を大きく吐き出した。
私もノリの軽さに、額から汗を流して双子の姉妹を見る。
ウェーイって……。
「がおー」
ラヴちゃんは、すっかり双子の姉妹が気に入ったようで、目をキラキラさせながらポーズを真似る。
すると、プリュちゃんがラヴちゃんの横に立って、真似してポーズをとった。
「だぞー」
やーん!
ラヴちゃんとプリュちゃん、2人とも可愛すぎるよ!
カメラ! カメラは無いの!?
永久保存したい可愛さだよ!
私が2人の様子を鼻息を荒くして興奮しながら悶えて見ていると、ラテちゃんとトンちゃんが呆れた目をして私を見つめる。
「馬鹿が増えたせいで、ジャスが変質者っぽい顔になったです」
「いつもの事ッスよ」
「す、凄いなのよ。フウちゃんとランちゃんは、パンツまで左右対称なのよ! フウちゃんが右側に、ランちゃんが左側に、それぞれ片方だけに紐がついた紐パンなのよ!」
「「凄いね魔族のお姉さん。正解だよ~ん」」
と、双子の姉妹が左右対称にポーズをとりながら、スミレちゃんに指をさしてウインクする。
もちろん、ラヴちゃんとプリュちゃんも真似をする。
「これ位当然なのよ。私の能力を使えば、造作もないなのよ」
勝ち誇ったように、スミレちゃんが腕を組んでドヤ顔をする。
スミレちゃん、ありがとう。
突然おバカな事言いだすから、現実に戻って来れたよ。
でもね、スミレちゃん。
恥ずかしいから、そんな事を大声で言うのやめて?
などと私が冷静になって、おバカまっしぐらなスミレちゃんを見ていると、リリィが真剣な面持ちで口を開く。
「そっちの事情はわかったわ。そう言う事なら丁度良いわ。私達の目的も鉱山街なのよ」
「そうなの?」
「うん。実はね……」
私達はアマンダさんと双子の姉妹に、私達の旅の目的や、鉱山街に向かう理由を説明する。
そして説明を終えると、アマンダさんも双子の姉妹も、快く協力を引き受けてくれた。
アマンダさんが協力してくれるなんて、凄く心強いよ!
よーし!
待っててねニクスちゃん!
絶対に助けてあげるからね!




