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143 幼女は簡単に騙される

「そしてあれは、私が4歳の誕生日を迎えた日、ジャスミンが両腕いっぱいに花束を……」


 リリィはとても良い笑顔で、それはもう楽しそうに嬉々として話をしている。

 いつまでも続く美化された過去の話を聞きながら、私はふと気が付いた。

 ゾンビとミイラだけじゃなく、ビフロンスが助けを求めるような目で、もの凄く私を見ていたのだ。


 う、うわぁ。

 そんな目で見られても……。

 って言うか、ビフロンスは私の事が嫌いなんでしょう?

 なんで私に、そんな追いすがるような目を向けているの?


 私は一つため息を吐き出して、リリィを見つめた。


 まあ、10日も聞き続けるのは、私だって辛いもんね。

 でも、どうやって止めよう?

 さっきと同じ話は流石に使えないし、何かないかなぁ。


「ジャスミンが私に見せた可愛らしい笑顔は、今でも昨日の事の様に思い出せるわ。え? どんな笑顔か知りたい? 仕方ないわねー。良いわよ。それは……」


 誰も知りたいなんて言ってないよ? リリィ。

 て言うか、て言うかだよ?

 さっきからずっと思ってる事だけど、聞いていて凄く恥ずかしいよ。


 先程から続くリリィの話は、全部が美化された私の事ばかりで、本当の本当に聞いていて恥ずかしい。

 そして、本当にリリィの話は長くて、かれこれ話し始めてから2時間以上は経っている。

 それだと言うのに、まだ話が序盤なのだ。

 何故その頃の記憶が曖昧あいまいな私に、それがわかるのかは凄く簡単だ。

 リリィの誕生日の話は、リリィが川で溺れた2日後の話なのだ。

 つまり、1日をだいたい1時間かけて話し込んでいる。

 と言いたい所なのだけど、実は誕生日の話はまだ始まったばかり。

 川で溺れた次の日の話だけで、2時間近く話していた。

 ちなみに、その日は私とリリィは会っていない。

 川に遊びに行った日は、夜遅くまで起きていたから、次の日の朝には起きなかったのだ。

 それで、両親が朝早くに私達を家まで運んだらしく、私とリリィは2人とも自分の家のベッドで昼頃に目を覚ましたのだ。

 だから、会っていないのだけど、そんな会ってもいない日の話に2時間もかかっていたわけだ。

 おかげでラテちゃんだけでなく、トンちゃんまでもが、ここの備え付けのベッドに寝転んで眠りだしてしまった。

 そんなわけで、これ以上この話を聞いてなんていられないと言うのも、冗談ではなくなってきていた。

 私は意を決して、リリィの話を止めるべく立ち上がる。


「ね、ねえ、リリィ?」


「あら? 何かしら?」


「えっとね、その……」


 うぅ。

 なんだか、こう、改めて言おうと思うと、それはそれで恥ずかしいかも。


「昔のお話は、その、ね? 私とリリィの大切な思い出だから、他の人に話さないでほしいなって……」


 私がモジモジと恥ずかしながらそう話すと、リリィが目を見開く。


 え? 何?

 リリィ、凄く驚いたような顔になってるよ?


 その時、リリィが静かに目を閉じた。


「その通りだわ。私達の大切な思い出を、こんな奴等に聞かせるなんて、勿体無いわよね」


 そしてリリィは深呼吸を一つして、ゆっくりと目を開くと、私を見て微笑んだ。

 鼻血付きで。


「それにジャスミンが可愛すぎるから、ここで押し倒したくなっちゃったわ」


 その言葉に、私も柔らかな微笑みで返す。


「やめて?」


 私とリリィは微笑み合い、私はリリィの鼻血をティッシュで拭う。

 すると、それを見ていたビフロンスとゾンビ達が、一斉に歓声を上げる。

 私はそれを見て、いつかのケット=シーちゃん達の事を思い出す。

 そしてそんな中、ビフロンスがまるでつきものが落ちたような顔をして、私達に歩み寄って来た。


「間部弦、いいや。俺達の純白のパンツ、ジャスミン。ありがとう。俺は、お前の事を誤解していたようだ」


「うふふ。確かにジャスミンのパンツは純白だけど、純白のパンツでは無くて、純白の天使よ」


「はは。そうだったな」


 何この会話?

 と言うかだよ。

 そんなに、リリィの話きつかったの?

 さっきまでの、私に対して向けていた憎しみいっぱいの顔が、嘘のように爽やかな笑顔に変わってるよ?

 もう、なんて言うか、別人にしか見えないよ。


 などと考えながらビフロンスを見ると、ビフロンスと目が合った。

 そして、ビフロンスが私に微笑みかける。


 いやいやいや。

 いくらなんでも、変わりすぎだよ。


「せめてものお礼だ。ゾンビに能力を解かせよう」


「え? 能力?」


「ああ。ゾンビの能力は、周囲から光を奪い、夜を永遠とさせる能力だ」


 夜海化の原因って、ゾンビの能力が原因だったんだね。

 意外とゾンビに、お似合いの能力な感じ。

 真っ暗な所で出てくるゾンビって、もの凄く怖いもんね。


 と、私が納得していると、ミイラが包帯を外し始める。

 それを見て私が驚いていると、ビフロンスが私に微笑みミイラを手差しする。


「あいつ等はゾンビに包帯を巻かせて、ミイラっぽくしてみたんだ。ゾンビだけじゃ、味気ないだろ?」


 いや、味気ないだろと言われても……って、あれ?


 その時、私は困惑しながら、ビフロンスに起こっている異変に気がついた。


「足が……」


「ああ。これか?」


 なんと、ビフロンスは足の先から、徐々に段々と消えていたのだ。


「今の俺は死んで、ただの霊体だからな。そろそろ時間が来ただけだ」


 ビフロンスはそう告げると、俯いて肩を震わせる。

 私はそれを見て、ビフロンスに優しく話しかける。


「成仏するんだね。次に生まれ変わる時は、友達になれると良いね」


 私がそう言うと、ビフロンスが顔を上げて、突然愉快そうに笑い出した。


「馬鹿め! 俺がお前を本気で許すとでも、思ったのか!?」


 え、ええぇぇ。

 まだ懲りないの?


「そんなに地獄に行きたいのなら、私が送ってあげるわよ?」


 リリィが笑顔でビフロンスに迫る。

 ビフロンスは顔を真っ青にして、宙に浮いて、船室の天井にへばりついた。


「こら! 降りて来なさいよ!?」


「降りて来いと言われて、素直に降りてなんかいられるか!」


「ご主人、何やってるッスか?」


「あ。トンちゃん。起きたんだね。おはよー」


 目を覚ましたトンちゃんに挨拶をすると、それと同時にラテちゃんが私の頭の上に乗る。


「ラテも起きたです」


「ラテちゃんもおはよう」


「です」


 その時、突然幽霊船が激しく揺れる。


「な、何!? 今度は何が起きたの!?」


 私が慌てていると、その様子を見たビフロンスが、嬉々として声を上げる。


「俺の魂が浄化される事によって、俺の魔法で繋ぎとめられていた船が、崩壊を始めたんだ! ざまあみろ! これでお前達もあの世行きだ!」


「はあ!? 冗談じゃないわ! ジャスミン、早くここから出るわよ!」


「う、うん!」


 私とリリィは手を取り合って、一緒に船室を出る。


「じゃあな! 先に地獄で待ってるぜ!」


 船室を出る時に、背後からビフロンスの喜び楽しそうに笑う声が聞こえてきたが、今はそんなものを聞いてあげている時では無かった。

 私はここまで来た道を思い出しながら、リリィと幽霊船の廊下を駆け抜けている時、大変な事を思い出した。


「リリィ、どうしよう!? ヒトデ太郎さんを置いて来ちゃったよ!」


「あら? それなら大丈夫よ」


「え?」


「ほら」


 リリィが私と繋いだ手と、別の手を私に見せる。

 その手には、しっかりとヒトデ太郎さんの足が握られていた。

 そう。足が。

 しかも、向き的に、顔が下になっていた。


 ええぇぇぇーっ!?

 足!?

 ちょっと、リリィ待って!?

 ヒトデ太郎さんの顔、めちゃくちゃ引きづってるよ!?

 せめて腕、腕を持ってあげて!?


 私がヒトデ太郎さんの惨状を目のあたりにして、あわあわとしていると、トンちゃんが私の頬っぺたをツンツンする。


「ご主人、天井に風穴を空ければ、一気に外に出られるッスよ」


「トンちゃん頭良い!」


「それ程でもあるッス~」


 そうと決まれば。と、私はトンちゃんから送られてくる風の加護を魔力に変換。

 そして、天井に向かって、魔法で作り出した風の砲弾を解き放つ。

 私が放った風の砲弾は、もの凄い勢いで天井を突き破っていき、綺麗な夜空が広がった。


「ジャス! やりすぎです!」


「え?」


「ジャスミン!」


「きゃあっ」


 ラテちゃんの言う通り、この時、私はやりすぎてしまった。

 私が放った魔法、風の砲弾は、幽霊船に対してあまりにも強大で、沈みゆく幽霊船の崩壊を加速させてしまったのだ。

 崩壊していく幽霊船の床も、衝撃で崩れ去り、私はリリィと手を繋いだまま真っ逆さまに落ちていく。

 そして、崩れる幽霊船の残骸が私の上に落ちてきて、私はその衝撃で気絶してしまうのだった。

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