120 幼女は精霊さんの情報網を知る
リリィとスミレちゃんとライリーさんの3人に水の精霊の存在を話すと、ライリーさんが顎に手を当てて唸る。
そして、ライリーさんは目をつぶって首を横に振ると、私に目を合わせた。
「すみません、魔性の幼女さん。水の精霊様の事は、今はそっとしてあげてもらえませんか?」
「え?」
「どういう事よ?」
「実は俺達も魔族を何とかしてほしいと、水の精霊様に最初頼みに行ったんです。しかし、結果は最悪でした」
そこまで言うと、ライリーさんは一度ため息を吐き出してから、言葉を続ける。
「水の精霊様は魔族から返り討ちに合い、オイルまみれにされて、泣いて逃げちまったんです」
あらら。
水の精霊さん可哀想。
「それで、トラウマが甦ってしまったみたいなんです」
「トラウマ? プリュイにトラウマなんてあったッスか?」
「はい。俺達この町の町民も、それまで知らなかった事なんですが、水の精霊様は過去に人間と契約を交わしていたらしいんです」
「ラテもそれは初耳です。プリュイも人と契約してたですか」
「しかし、水の精霊様は捨てられたそうなんです。お前の様な使えない精霊なんかと、契約をするんじゃなかったと言われたそうです。しかも、よっぽど気にくわなかったのか、その時水の精霊様はかなり強く叩かれたそうです」
す、捨てられた?
捨てられたって何?
と言うかだよ。
叩かれただなんて、酷過ぎる。
水の精霊さんが可哀想だよ。
「あー。プリュイはおちこぼれッスからね~。加護もそんなにないし、扱いも下手下手の、精霊界でもドンケツのびりっびりッス」
トンちゃん言いすぎだよ。
「でも、だからって叩くのは良くないッスね~。酷い事するッス」
うんうん。
そうだよね。
やっぱりトンちゃんは、口は悪いけど良い子だなぁ。
「もしかして、アンタ達この町の人達が、人間を嫌っていたのって?」
「あ、ああ。それに関しては、本当にすまなかった。その通りさ。それから人間を見ると、皆も水の精霊様の落ち込み様を思い出すのさ。マノンなんて水の精霊様の話を聞いて、人間恐怖症になっちまった。魔性の幼女さんのおかげで、だいぶ良くなったみたいだけどな」
そんな理由があったんだね。
確かにそんな事があったら、人間嫌いになっても仕方がないかも。
「はいはーい! 質問なのよ。トンちゃん、捨てるって何なのよ?」
あ。
うんうん。
私も気になる。
「ご主人の前では、あまり言いたくない事だけど、仕方ないッスね~」
トンちゃんが、やれやれといった顔で私の肩に座る。
「ボク達精霊は、契約者に加護の恩恵の一部を分け与えるッス。そして契約者は、ボク達精霊に過去などの情報を提供するッス。だけど、それだけだと、ボク達精霊の方が明らかにお得ッスよね?」
「え? そうかな? 特にそんな風には思わないけど……」
私が素直にそう答えると、ラテちゃんがクスリと微笑んだ。
「ジャスはバカだけど、ジャスのバカは嫌いじゃないです」
「え? 何それ?」
私おかしな事言った?
加護の代わりが情報ってだけじゃないの?
と、私が頭に?を浮かべていると、トンちゃんが話を続ける。
「何かと契約者に負担がかかるからこそ、契約に合わない働きしか精霊側が出来ない場合、契約者が一方的に解約出来るんスよ」
負担?
情報提供って、そんなに負担かなぁ?
……あぁ。
でも考えてみれば、たしかに自分の過去だとか、前世の事だとか知られちゃうのって、人によっては嫌なのかも。
それって、人に知られたくない事まで、全部筒抜けになるって事だもんね。
「へー。じゃあ、ドゥーウィンもラテも条件が揃えば、ジャスミン次第で解約出来るのね」
「その通りッス。って、ハニー。怖い事言うッスね」
「解約されちゃうのって、怖い事なの?」
私が思ったままトンちゃんに訊ねると、トンちゃんはもの凄く嫌そうな顔をして答える。
「一種の汚名になるッス。そうッスね~。ボク達精霊は、大自然から加護を受けているッス。それは、この世界にいれば、何処にでもあるものッスよね? だから、別の場所にいる同じ属性の精霊の情報は、加護を受けると同時に一緒に入ってくるッスよ」
「だから、解約されてると、それが世界中の精霊に知れ渡るです。隠そうとしても無駄です」
うわぁ。
それを聞いちゃうと、確かに嫌かも。
前世で言う、ネットみたいなものだよね。
一度ネットに上げてやらかしちゃうと、全世界に広がっちゃうやつ。
私だったら、そんな事になったら、ひきこもりになる事確定だよ。
水の精霊さんも、きっとそれで、怖い思いをしちゃったんだ。
そう思ったら、私はなんだか心の中が熱くなるのを感じた。
「水の精霊さんに会いに行こう! 私、その子に会いたい!」
「会いに行くのは良いッスけど、居場所は知らないッスよ」
「ラテも知らないです」
「そ、そうなんだ」
トンちゃんとラテちゃんの返事を聞いて、私がシュンとなっていると、ライリーさんが私の肩をポンっと叩いた。
「魔性の幼女さん。貴女になら、水の精霊様に合わせても、良いと思えましたよ」
「え?」
「案内します」
「ありがとー! ライリーさん」
私は感謝を述べて、ライリーさんに抱き付く。
すると、それを見ていたリリィが、すぐに私とライリーさんを引き剥がす。
「さっさと行くわよ」
あ。
リリィってば、ヤキモチ焼いてる。
可愛いなぁ。




