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112 幼女と辛辣な魚人達

 魚人。

 普段は海の中で生活をする種族で、陸で生活する者は少なく、基本は他種族と交流の無い種族。

 肺とエラで呼吸出来る器官が存在する。

 見た目も様々で、パッと見は人と変わらないけれど、背にヒレを持つ者や人魚のような姿をした者など、様々な姿をした者がいる。

 彼等は閉鎖国家と言われる程に、他種族との交流を好まない魚人が多い。

 だけど陸に住む魚人は魚人の中でも特殊で、普通に他種族と交流もするし、とても仲が良いのだ。


 それだと言うのに、私は今、もの凄く心が折られそうになっていた。

 何故かと言うと……。



 ◇



「人間風情が! 他をあたりな!」


 バンッと、大きな音を立ててドアが閉められる。


「これで何件目よ?」


「えっと……何件目だろう?」


「15件目です」


 じゅ……15件。


 15件と聞いて、リリィがうんざりといった顔になる。


「ここの連中、どうなってんのよ?」


「今日は諦めて、宿を探した方が良くないッスか?」


「そうなのよ。宿は明るいうちから探すのが、ベストなのよ」


「そうだね。今夜泊まる所を探そっか」


 私はトンちゃんとスミレちゃんに賛同して、宿を探す事にして歩き出す。


 さて、今の私達の状況は、結構先行き不安な状況だった。

 港町オカリナに到着した私達は、船に乗って海を渡る為に、目的地行きの乗船出来る船を探していた。

 だけど、私達を待ち受けていたのは、罵倒と啖呵ばかりの言葉の数々。

 顔を見るなり帰れだの、人間風情に乗せる船は無いだの、海で溺れて魚の餌になれだの、死ねだのなんだの他にも言えないような事まで色々と言われた。

 中には、スミレちゃんを見て、襲ってきた人までいた。

 そんなわけでスミレちゃんは今、顔が見えなくなるくらい大きめの、フード付きのローブを羽織っている。


「それにしても、困った連中ッスね。魚人って、何であんなに人間嫌いな奴ばっかりなんスか?」


「知らないわよ。脳みそ魚なんじゃないの?」


 の、脳みそ魚って……。


「ラテ、魚人が嫌いになりそうです」


「あ、あはは……」


 私は苦笑しながら、ご機嫌ななめなラテちゃんの頭を撫でる。


「やっぱり、私が一緒にいるからなのよ」


 スミレちゃんがしょんぼりして立ち止まる。


「関係ないでしょ。あの魚共、間違いなく人を毛嫌いしてるわ」


「そうだよ。スミレちゃん。どちらかと言うと、私とリリィの顔を見て、もの凄く機嫌が悪くなってたもん」


「幼女先輩、リリィ……」


 スミレちゃんが目を潤ませると、腕で涙を拭った。


「あ。あの旅館良い雰囲気じゃない? あそこにしましょう」


 リリィがそう言って、オシャレな感じの旅館に指をさした。


「うん。良さそうかも。……って、あれ?」


 私は返事をしたその時、道の隅っこで座り込んで丸くなっている魚人の女の子の姿を見つけた。

 歳は私より2つくらい上だろうか?

 丸くなってるから、よくわからない。


「ちょっと待って? あそこにいる子、どうしたんだろう?」


 私がそう口にすると、皆もその女の子に注目する。


「何かあったのかしら?」


「わかんないけど、私、ちょっと行って来るね」


 私はそう言うと、女の子に駆け足で近づいた。

 近づくと、女の子は全身びしょ濡れで、少し泣いているのがわかった。


「どうしたの?」


 私はしゃがんでから、そう訊ねると、女の子は顔を上げた。


 わぁ。

 凄く綺麗な子。


 その女の子は綺麗な顔立ちをしていて、まさに美少女と言える女の子だった。

 私が女の子の顔に見惚れていると、女の子が顔を強張らせて後ずさり、そして大声を上げた。


「人間!? 寄るな! 近づくな!」


 うぅ。

 また、またこの反応なんだね。

 でも、この子の場合、少し怯えてる?


「えっと、私は怖くないよ? 何もしないよぉ」


「嘘をつくな! 人間は皆、私達魚人の敵だ!」


 て、敵って……。

 本当に何があったんだろう?


「あっち行け!」


 女の子はそう言うと、私の胸元をバンッと強く押した。


「きゃ」


 私は突然の出来事で、反応する事が出来なくて、そのまま勢いで尻餅をついてしまった。

 そして、そのはずみで私が首から提げていたアマンダさんから貰ったネックレスが、キラキラと飛び出した。

 すると、ネックレスを見た女の子が、目を見開いて驚く。


「そ、それは……」


「え? これ?」


 私はそう言って、ネックレスを手に取って、女の子に見せる。

 すると、女の子はこくりと無言で頷いた。


「これはアマンダさんって名前の、お姉さんから貰ったの」


「あ、アマンダ……さん? アマンダ=М=シー様の事……?」


「うん。あれ? 様? もしかして、知ってる人?」


 私がそう訊ねると、女の子はわなわなと震えだし、そして大声を上げる。


「アマンダ様は私達の、この国の王女様よ!」


「……え?」


 私は一瞬、何を言われたのかわからなくなり、目を丸くして固まってしまった。


「何で人間なんかが、王女様から、そんな大事な物を貰い受けるのよ!?」


「ええぇぇぇぇっっ!?」


「まさか、王女様に何かしたんじゃ!? いったい王女様に何をしたの!? 言いなさいよ!」


 女の子が私を問い詰めるが、今の私にはそれが聞こえない。

 だってそうでしょう?

 あまりにも驚きすぎて、それどころじゃないのだから。

 私の頭の中はパニックなのだ。


 アマンダさんが魚人の国の王女様!?

 じゃあ、アマンダさんって魚人だったの!?

 メイド服で全然わからなかったよ!

 って言うか、なんでメイドの格好なんかしてたの!?

 って言うか、私失礼な事しなかったかな!?

 って言うか、って言うか、って言うかーっ!?


 私の混乱が解けたのは、それから少しして、異常に気がついたリリィ達が駆けつけた時でした。

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