103 幼女の敵は不憫で可哀想
「ら、らめ……だからぁ……ん、ぃぁ」
アスモデちゃんが、ますますあられもない姿になっていく。
服装がはだけるだけでなく、髪も乱れていくせいで、なんだかエロくて色々と危ない。
どうでもいいけど、尻尾を握られただけなのに、なんで髪の毛と服まで乱れるんだろう?
私は横目でルピナスちゃんを見る。
目を丸くして、口をポカーンと開けて見ているようだ。
あ。
ルピナスちゃんのこの顔可愛い。
写真に収めたい!
って、そんな事考えてる場合じゃないよね!
私は大きく息を吸って、思いっきり大声で叫ぶ。
「リリィ! ストップ! ストーップ!」
「どうしたの? ジャスミン」
「リリィ、止めてあげて? もう色々と、絵面的にもやばい事になってるから」
「でも、今良い所なのよ?」
良い所って、何を言ってるの?
もうそれ、絶対に他の事は、どうでも良くなっちゃってるよね?
「そうなのですよ! あと、後少しだけでもなのです!」
何言ってるの? スミレちゃん。
あと、涎拭いて?
「リリィ、本当にやめてあげて?」
私は真剣な顔でリリィを見つめる。
すると、リリィは苦笑して、アスモデちゃんの尻尾を離してくれた。
「うふふ。ジャスミンったら、ヤキモチを焼いてしまったのね? 心配しなくても、私はジャスミン以外には、興味ないわよ」
なんか勘違いされてる。
うーん……。
「もう、それで良いよ。とにかく、尻尾触っちゃダメなんだからね? わかった?」
「ええ。もちろんよ」
リリィは上機嫌になり、鼻歌まじりに私のもとへ戻って来た。
すると、涙目でアスモデちゃんが私を睨む。
「こ、これからが本番よ!」
アスモデちゃんは乱れた服や髪を直しながら、目に溜まった涙を拭った。
な、なんだか可哀想になってきたよ。
なんか、頑張れって、応援したくなってきちゃった。
ベルゼビュートは興味無さそうに、今のやり取り見てたし。
退屈だって、言いたげな顔だったもん。
……あれ?
ちょっと待って?
興味無さそうに見てた?
それって……。
私はベルゼビュートを見る。
表情一つ変える様子もなく、ただこちらの様子を見ているだけだった。
やっぱりそうだ!
変態じゃない!
魔族なのに、変態じゃないよ!
わぁ。
ちょっと感動だよ。
今まで、魔族は変態って感じだったもん。
ペットを猫だけって目的が、若干アレなだけで、結構まともな方だよね!?
などと私が考えていると、アスモデちゃんが私をもの凄く怖い目で睨んで、指をさしてきた。
「そのニヤケ面もそこまでよ!」
あ。
私、また顔に出てたんだ。
うぅ。
恥ずかしい。
私が恥ずかしがっていると、アスモデちゃんがリリィを見て、妖美に微笑む。
「私は元々ケット=シーとして、この世界で生まれたの。だけど、私は他の子達とは違う」
「何が言いたいの?」
リリィが訝しげに訊ねると、アスモデちゃんはニヤリと笑う。
「あは。まだわからないの? 良いわ。教えてあげる。私はケット=シーでありながらも、人の姿を得て、能力を最大限まで高めた存在なのよ。つまり」
アスモデちゃんがリリィに指をさす。
「アナタは私の呪いから、絶対に逃れられない!」
アスモデちゃんが高らかに宣言した瞬間、場がシンと静まり返り、全員がリリィに注目する。
そして、私は確信した。
あ。
これ、大丈夫なやつだ。
と。
「さあ、猫になるがいいわ!」
アスモデちゃんが、パチンッと指を鳴らす。
わぁ。
凄ぉい。
かっこいいなぁ。
私それ出来ないんだよね。
「あ、あれ?」
アスモデちゃんが、もう一度パチンッと指を鳴らす。
いいなぁ。
私もパチンって鳴らして、魔法とか使えたらかっこいいのになぁ。
今度練習してみようかな?
「え? 何で? 何で猫にならないのよ!?」
アスモデちゃんが段々と焦り出して、若干涙目になってきた。
そして、何度も何度も健気に指を鳴らす。
トンちゃんが私の肩の上で、その姿を見て、笑いを堪える。
何度も指を鳴らすアスモデちゃんに、リリィが仕方がなさそうな顔をして、口を開いた。
「猫になんて、なるわけないじゃない」
「へ?」
「だって、その猫にされちゃう能力は、私は自力で克服したのだもの」
リリィの言葉で、アスモデちゃんが目を見開いて驚く。
そしてもう一度指を鳴らそうとしたが、それはむなしい音を立てて、鳴らずに終わってしまった。
「忘れたの? 私が元々、猫にされてあなた達に捕まっていた事」
「ああぁあーっ!」
アスモデちゃん。
やっぱり忘れてたんだね。
リリィが猫の姿から元に戻っていたのに、ラークの家では何も言ってなかったもんね。
今思えば、気がついてなかったのかぁ。
まあ、普通にありえないもんね。
仕方がないよ。
うんうん。
わかるなぁ。私。
そりゃあ、開いた口も塞がらなくなるよ。
アスモデちゃんの驚く顔を見て、トンちゃんが笑いを堪え切れずに爆笑する。
「トンちゃん、失礼だよ?」
「はいッス~。プププ」
トンちゃんが笑いを堪えるのを、私はジト目で見てから、アスモデちゃんの方に目を向けた。
アスモデちゃんは余程驚いたようで、暫らくの間、硬直しました。




