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十二の試練  作者: 笹の葉
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第11話

 憑依2日目にして野宿を初体験した輪廻は街中をドラゴンネックタートルの甲羅を回しながら歩き続ける。

 早朝であった為、人目にはあまり触れていないようで奇異の目を向けられる事は無かったが、流石に自宅に持ち込む段階になると声が掛けられた。


「グレイ! 無事だったか! よかったよ、ホントによかった!」


 そう言って走り寄って来たのはロイだった。


 ロイは輪廻ことグレイが失踪してから日暮れまではアーリアの森で捜索していたが、魔物が活発化する夜は流石に危険だと判断し、入れ違いで家に帰っていないかを確認しに行った。

 だが、ここで問題がある事にロイは気付いた。 グレイが行方不明になった事を家人であるエリーに伝える必要があると。

 昨日記憶を失った挙句、今日は行方不明。そのどちらにもロイが関与している。

 この事実を告げた場合、果たしてエリーはロイに対しどういう行動に出るだろう・・・


 そう考えた時、レティシアも怖いな。そう思った。


 どう言い繕っても有罪確定しか想像できなかったロイは取り敢えず問題を先送りにして朝までグレイを待つことにした。

 「きっと朝には帰ってくる」根拠のない言い訳をしてグレイの家人に知られない様にこっそりと屋敷の前で待っていたのだ。

 帰ってこなかった場合は死んじゃってる可能性も視野に入れる必要があったのだが、グレイの姿を確認したロイは首の皮が繋がった事に安堵し、駆け寄ったのだ。


「まぁ、完全に無事とはいきませんでしたが、何とか帰って来れましたよ」


「いやぁ、まさか私もアーリアの森に逃げ込むとは思わなかったんでね、それよりその大物はどうしたんだい?」


「アーリアの森での戦利品ですよ」


 ロイが近寄ってドラゴンネックタートルを確認する。


「ほぉ、ドラゴンネックタートルじゃないか。今のグレイでよく仕留められたね」


「まぁ、大分苦労したと言うか、死ぬ程痛い目に遭いましたよ」


 そう言って遠い目をする輪廻にチャックは声を掛けずに見守る。 チャックは下手に声を掛ける事を避けたようだ。

 他の者には見えないチャックと会話する輪廻は(はた)から見るとヤバい電波を受信している変人にしか見えないからだ。

 その事を考慮したのだろう。


「ふむ、右脇腹にブレスでも喰らったのかね? 服が焼け落ちているんだが、怪我をしている様子が無いな。どうなっているんだ?」


 ロイの疑問に輪廻はギクリとして固まるが、すかさずチャックがフォローする。


「リンネ、ドラゴンネックタートルの視界を遮る為に服を奴の頭に巻いたがブレスで燃やされたと言えば納得するんじゃないか?」


 その言葉にハッとして顔を上げ、手振りでチャックに礼をするとロイに向けて言い訳をする。


「い、いや、ドラゴンネックタートルの視界を遮る為に服を脱いで奴の頭に巻いたんですよ。でもそのままブレスを吐かれて服が燃えちゃったんですよ」


「ふむ、とっさの判断で取った行動にしては理に叶っているな、中々成長しているじゃないか! と言うか、思い出してきたのかい?」


「・・・記憶は何にも戻ってない・・・です」


 まさか「中身が別人です」なんて言える訳もなく、後ろめたい気持ちを隠しつつ答えるが、どうにも言葉が震える。


「まぁ、記憶の方は仕方がないか、そっちはゆっくり思い出せばいいさ」


 そう言って笑うロイに輪廻が声を掛ける。


「そう言えば、このドラゴンネックタートルの甲羅なんですが、良い武器の素材になるって聞いたんだけど、誰か加工できる人知ってます?」


「うん? それなら鍛冶屋のペインが出来るはずだ。 彼は魔鋼やミスリルも扱えたはずだからね。まぁ、その前に解体しないとね」


「この街にいるんですか?! 加工できる職人が!」


 輪廻はチャックに聞かされていた内容から武器を作るのはかなり難しいと考えていたが、あっさりと加工できる職人を見付けてしまった事に驚いた。

 これにはチャックも「まさか?!」と驚いていたが、輪廻に無視されたので誰にもその声は届かなかった・・・


「あぁ、いるよ。私の愛剣もペインが作ってくれたものなのだよ」


 そう言って自慢げに自分の腰に差した剣を見せてくる。

 彼の愛剣は肉厚の両刃の直刀で刃渡り120cm程だろうか。少し長めの刀身に両手でも扱える程の長さを持つ柄。実用重視の無骨なロングソードだった。いや、バスタードソードと言っても良いかもしれない。


「結構長いんですね」


「あぁ、対人戦だけならもう少し短い方が扱い易いんだけどね。私は主に魔物を相手にする必要があるから、これ位の長さは欲しいんだよ」


 なるほど、と感心する輪廻だったが、チャックはロイがかなりの大物を相手にすることを想定していることに気付いた。

 魔物でもゴブリンやオーク等であれば対人戦とそう変わらない長さで十分である事を知っていたからだ。

 これだけ厚みのある業物を扱えるとすると、どれ程の人物なのだろうかとチャックの好奇心を刺激する。

 好奇心の赴くままにチャックはロイについて輪廻に質問する。


 普通に輪廻が答えたらロイから不信の目を向けられるだろう。いや、頭を打って記憶を無くしている事になっているので更に頭がおかしくなったと誤解され、憐みの視線を向けられるかもしれない。


「リンネ、今さらで申し訳ないが、こちらの御仁は誰なんだ?」


「ロイ・アーマライトだ。どうやら俺の師匠らしい」


 輪廻は人前でチャックと話すのは不味いと思ったのだろう。小声で囁くように答えたのだが、その答えはしっかりとチャックに届いていた。


 そしてロイの名前を思い出すようにチャックが思考の海に沈んでいると、輪廻はロイに呼ばれたのでチャックをそのまま放置した。

 だからチャックの零した言葉は誰にも伝わらなかった・・・


「ロイ・アーマライト・・・ 消息不明だった剣聖の名前じゃないか・・・」





 輪廻の視線が剣から離れたのを見計らいロイは剣を仕舞い、声を掛ける。


「グレイ。それよりもそのドラゴンネックタートルを先にペインの所へ持って行くかい? 確か彼の所でも解体はできた筈だから頼みに行こう」


「あー、そうですね。先にお願いして来ようかな。あ! その前に家に一度顔出しておいてもいいですか? 昨日帰ってないから無事な事だけでも伝えておかないと不味いですよね?」


 そう問われてロイも思い出したのか、少し顔を顰める。 グレイが正直に事の顛末をエリーに伝えた場合、エリーから抗議の声が上がるかもしれない。

 出来れば(ほとぼ)りが冷めるまでエリーとは会いたくない。そう考えてロイは次善の策に移る。


「そうだね。それじゃドラゴンネックタートルは私が先にペインの店まで運んでおくから、グレイはエリーに無事を伝えてからペインの店に来たまえ」


「わかりました! って、俺、ペインの店を知らないんですが、どうやって行けばいいんですか?」


 逃げようとしたロイを輪廻が偶然引き止める。


「くぅ、天然で引き止められるとは?!」


「え? なんです?」


「いや、なんでもないさ。 そうだな、執事のチャベスと一緒に来ると良いだろう」


「えー、あのお爺さんに手間を掛けさせるのは忍びないですよ。それよりロイが少し待っててくれれば問題ないでしょ?」


 そう言って(もっと)もな意見をする輪廻。


「いや、だから・・・あー、君は記憶を失っているんだから、少しは家人との交流を図ってだね。少しでも自分のことを思い出すべきだと思うんだよ。うん」


 我ながら良い言い訳が出来たと思いながらロイはグレイに語る。

 一方、記憶の事を持ち出されると憑依している輪廻としては後ろめたさがあるのであまり強く反発は出来ない。

 ここはロイに従う事にして1人で家に帰ることにする。


「分かりました、それじゃ、またあとで!」


 そう言って輪廻は家へと歩き出す。


 ロイも返事をすると、ドラゴンネックタートルを引き摺ってペインの店へと急いだ。









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