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51.核

 ちょっとした虚無感とでも言うのだろうか、クランホームの端の別棟で久しぶりにゆっくり時間を使って<錬金>に没頭できると思ったのも束の間、何故か窓の外から吹き込む風に気を取られる。


 ゲームの世界は目下、邪神の化身通称『邪天使』討伐に向けて一致団結し、活動している筈だが、自分はすっかり蚊帳の外。


 別にいじめられてる訳でもはぶられてる訳でもないが、望んで生産職としての自分でいるそんな気分。


 蠍は【教国】内の醜聞を処理する為に色々忙しいらしく、特に依頼もない。


 いっそPK狩りに戻ろうかと思ったが、そんな必要もないくらい普段は温厚なプレイヤーまで横槍を入れるPKに対してかなり厳しい措置を取っているらしく、獲物もいない。


 そもそも、邪神教団をつぶしてからと言うもの、不思議と以前の復讐心が湧き出てこないのか、はたまたPKKに飽きただけなのか、モチベが全く起きてこない。


 「ないないないないなんにもな~~~い」


 風に乗っていく自分の声を聞く者もいないだろう。急な依頼で使い切ってしまった火精と風精のフィルムケースも作り直し、あとは何をしようか……。


 ぼんやり天井を眺め、そのまま後ろに仰け反った所に、白い騎士が立っていた。


 「よう、珍しく暇なんだが、何か噂話でもないか?」


 「何だよなんにもな~いって」


 「聞いてたのかよ。別に、やる事もなければモチベもないし、どうしたもんかね~ってさ」


 「じゃあ邪神の化身討伐にでも参加したらどうだ?」


 「だから集団戦は苦手なんだって」


 「違う違う。今は皆で藪刈りしてるから、それを手伝えよ」


 「はぁ?何でまた藪刈りなんかしてんだよ?」


 「邪天使に複数形態があるのは知ってるよな?今の形態が竹なんだよ」


 「意味が全然伝わってこないんだが?」


 「だ~か~ら~今の形態が竹で、どうやら地面からエネルギー的なものを補給してんじゃないかって話でさ。本体の竹の周りに竹藪が出来ちまって、今はその周りの藪の片づけ中なんだよ」


 「はぁ……燃やしちまえば?」


 「ガイヤが同じ事考えて、大規模に燃やした結果!竹藪の範囲が増えやがった」


 「そんなんどうするんだよ?」


 「地道に鎌で切って、根から引っこ抜くしかないって言って、生産職だろうが戦闘職だろうがその手の<採集>系スキル持ってる奴は総出で竹藪刈りさ」


 「そりゃご苦労な事だが、俺向きじゃないな。採取系は余り育ててないし、普段はクランで供給されてるもん使う事が多いからな」


 「向いてる向いてない関係ないと思うけどな。プレイヤー総出でやってる事でしかも戦闘じゃないんだから、暇つぶしでもいいから参加すりゃいいのに」


 「まぁな。体動かす事が気分転換になるのは確かだろうが、なんつうか今のこのもどかしい感情に身をゆだねてたいって言う欲求もあるんよ」


 「そうだな。なんか邪神教団の件って一応解決したんだろ?俺も一斉襲撃の時に加わった所為か報告だけ貰ってるぜ」


 「ああそうなのか。ヒーロー連中にも近いうち報告しなきゃと思ってたから、伝わってるなら助かるわ」


 「結局張り合いを失っちまったって事なのか?俺から見ても相当の力を手に入れてそれを全力でぶつけられる相手が消えちまったわけだ。それでモチベ切れを起こしてる」


 「そうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれん。まだ気持ちの整理がついてないんだよな」


 「でも、まだ勝ってない相手はいるだろ?闘技の時の隊長とかさ。挑んでみたらどうだ?」


 「いや、今忙しすぎるだろ!それに隊長はライバルって感じしないんだよ。あいつが指名手配されながら他人の見えない所でクエストを受けてて、更にそれを俺が裏からフォローしてた所為か、勇者を見守る暗殺者みたいな気分でさ」


 「そりゃ、どんな気分なのか一度味わってみたくもあるけど……まぁいいか少しのんびり過ごしたらまた何かクエスト探そうぜ!」


 「すまないけど、そうもいかない」


 白い騎士と話している間にいきなり割って入る女の声。


 「あんた、蠍の部下」


 「ニキータ」


 「初めて名前聞いたな」


 「あんたは他人に興味がなさ過ぎる。それより、緊急事態だ。すぐ呼んで来いと命令された」


 「何があったんだ?」


 ニキータに聞くと視線を白い騎士の方へとやるので、


 「どうやら俺は席を外した方がいいみたいだな」


 と、察してくれる白い騎士。


 「すまん、何か分からんけど行ってくるわ。戻って来たらまた次のクエストの話でもしよう」


 「分かった噂仕入れておく。どんな任務か知らんけど、勝てよ」


 「いや、ただ勝てって言われてもな。そっちこそ邪神の化身頼むぞ」


 「俺が手を抜く訳ないだろ。それよりお前はヒーローなんだから、勝たなきゃ面白くないだろ」


 「いや別に自分で名乗った訳じゃないし、なによりヒーローが必ず勝つなんてそう上手く行くほど世の中甘くないんじゃないか?」


 「そりゃそうだが、なんつうの?今のお前は抜け殻みたいに見えるからさ。だから何か執着して欲しいんだよな。今のままじゃ負けるにしても全力出せないまま終わるんじゃないかってよ」


 「そう……なのかもな。でもどうしようもないだろ。やるだけやって派手に散る。フェニックスフレアボムだけはちゃんと持ち歩いてるし、爆発オチだけはつけてくるってどうだ?」


 「くだらねぇな~。いいから勝つって約束しろよ。負けたからって責めはしないから、お互いに必ず勝とうぜ」


 「分かった。お互いに必ず勝とう。そもそも俺は戦うのか?」


 「戦う」


 短くニキータが答えたので、やはりこれから自分は戦いに行くのだと少しだけ気合を入れ、ブラックフェニックスの装備に着替えて、クランホームを出る。


 見送ってくれた白い騎士に、


 「行ってくる。必ず勝つ」


 とだけ伝え、ポータルに向った。


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 ニキータに指定された通り【教国】に飛ぶと、以前見たとき同様、ヒトっこ一人姿の見えないゴーストタウンのままだった。


 「邪神の化身の瘴気問題ってまだ解決してなかったの?」


 「いや、今回は内部から漏れ出してる。皆、避難はしてるけど、この瘴気濃度で戦うすべがない」


 そういうニキータはいつの間にかどこから出したのか、顔にガスマスクのような物を被り、更に服も布製ながら髪すら表に出さないような厳重な装備に身を包んでいる。


 「その内部ってのは、例のデカイ縦穴の中か?」


 「違う。正面に一番大きな建物が見えるでしょ?あそこがこの国の中心、あそこから瘴気が漏れ出して国中手に終えなくなった」


 「なんでだよ?」


 「それは向こうで聞いて」


 言いながら進み出し、うっすらと色づく嫌な臭いの煙にまかれながら、この国の中心と呼ばれる建物に向う。


 明らかに入り口らしき扉の前にも誰もいない。


 そのまま奥へ入り、荘厳な宗教画の描かれた天井を見ながら真っ直ぐ道なりを進み、美しく装飾された階段を登っていく。


 その後もグネグネと登ったり降りたり、奥の部屋に入ったりと進む内にいつの間にか地味な木製の部屋に入りこんでいた。


 どうやら地味な場所は事務所と言うか、内々の仕事をする場所らしい。


 表向きは荘厳で裏側は地味って、宗教施設としてどうかとも思うが、この国の宗教って要は邪神を倒すことだしな。


 そして、明らかに様子の違う厳重な金属扉の前で止まる。


 「この先はあんたの領域、私は避難する」


 「え?おい……」


 言うだけ言い置いて、どこかへと立ち去るニキータ。


 仕方なく金属扉を押すと、思った以上にスッと開いて、ちょっとドキッとするが、中から濃い瘴気が溢れて来た事で、すぐさま気を引き締め直す。


 内部に居たのは蠍と第12機関長、そしてキジンの三人。


 「あ~……どういう状況?」


 「ははははは!安心してくれたまえ!ちゃんと説明するよ!」


 宇宙服のようなダボっとした機密服の第12機関長が高笑いしながら応対してくれるが、顔のところが透明のガラスじゃなかったら、声もこもってるし、誰なのか全く見分けつかない所だった。


 対して蠍は割りと軽装だが、体の周りにフィールドのような物を発生させて、瘴気を防いでいる。


 「よく来てくれた。お前にしか出来ない仕事だ。俺もそろそろ限界だ」


 やたら疲れた様子の蠍だが言う程限界にも見えないのは自分の主観の所為か?


 「まず!僕の仕事はな~んだ!」


 いきなり第12機関長からクイズを出されたのだが、何かこんなテンション高いヒトなのか?同格の筈の第10機関長である蠍とは対照的と言って間違いないと思うレベルの明るさなんだが?


 「邪神の化身に対抗する兵器を作る事じゃないか?」


 「その通り!その為に作った天使が、邪神の化身になってしまった!悲しい!僕はとても悲しい!でもそこで泣き伏せて、何もしないそんな事でヒトを導く機関長と言う立場に立てるだろうか?否である!」


 「全部勝手に自己解決してるのは、まぁ構わないんだが、結局何だ?」


 「うん!だから邪天使となってしまった僕の対邪神の化身兵器を倒すべく、キジン君を修理したのさ!更にだ!僕の研究で邪神の化身の核には大量のエネルギーを貯める事が出来るし、それを利用する事も可能!つまり!僕が不幸にしてしまった改人達の核を利用する事で、キジン君改としてパワーアップしたから是非邪天使討伐に連れて行って欲しいんだ!」


 「……何で俺が呼ばれたんだ?」


 「あ~ちっと話が混乱するかもしれないが、こいつまた洗脳状態なんだ」


 「だから変なテンションなのか」


 「いや、テンションはこんなもんなんだが、その~キジンと呼ばれるあの兵器を送り込む理由は、どうやら邪神の化身を完成体に戻す為らしいんだ」


 「はぁ?邪神の化身を倒す為にキジンを直したんだろ?」


 「なんつうか支離滅裂なんだが、もう少し根気よく聞いてみてくれ、こいつ完全に逝っちまってるんで、支離滅裂な話を全部筋が通ってると思い込んでるんだ」


 「ううぅ……そう、キジン君に埋め込んだ核はヒトを媒介として十分すぎる魔素を取り込んだ高エネルギー体だ。邪神の化身に戻せば、不足を補って余りあるエネルギーを手にし、手がつけられなくなるだろう……よし!キジン君を邪天使に送り込もう!」


 「ああ、分かりやすくおかしいわ。それで、何でキジンはこの場に残ってるんだ?俺と戦った時は自由意志で戦ったように見えたが、邪神の化身の核でおかしくなったのか?」


 「いや、全くそんな事はない。使命の為に協力関係にあったこの男の言ってる事が矛盾しているので、目的を決めあぐねたが、決めたのだ」


 「決めあぐねたが、決めた?」


 「そう、あらゆる記憶を無くし放置されていた所を拾い、修理してくれたのはこの男だ。勿論記憶を取り戻せば、そちらが優先となるやも知れないが、それまでは付き合っていたのだ」


 「それで?基本は第12機関長の命令に従っていたって事だろ?支離滅裂な指示が出てるなら、落ち着くまで放って置けば?」


 「それも一つかと思った。しかし使命、記憶の断片は何かと戦う事だ。その為に得られる力を得る事は最優先事項だった」


 「うん、強くなる為に核を受け入れたって事?それなら目的は果たしたんだから、邪魔にならない所でちょっと大人しくしてるとか、次の力を手に入れるとか」


 「確かに核は強力だ。だがそれ以上にずっと必要だと予測していた力を手に入れたのだ」


 「え?何?」


 「心だ。成り行きとは言え邪神教団の者達は世界の敵となるに当って、それぞれの目的を持っていた。力の質は差があれども、何故四天王とそれ以外の差があるのか、更に弱い者がいるのか分析した結果、強い目的とそれを生み出す心、それが強さなのだと予測した」


 「う、ううん……そういうもんか?まぁ、俺も偶々敵対しただけで邪神教団の連中を嫌ってるわけでもないが」


 「そうか、それでもお前は全員倒してしまった。つまりお前が最強の心を持っていると推測される。お前のその心の根っこにあるモノ、それは復讐心。違うか?」


 「いや、当ってるな。直されたとか当たり前に言ってる所から察するにキジンってヒト以外の何かなんだろうが、心の事がそれだけ分かるなら、俺のを真似なくても強くなれるんじゃないか?」


 「あくまで分析の結果だ。だが俺はお前に一度負けた事で、お前に対する復讐心を手に入れた。今の俺はお前に勝つ事を最大の目的としている」


 「つまり、ただ何かと戦う為に強くなるっていう以上のモチベーションを手に入れちまったと」


 「その通り、そしてお前と戦い越える為に最も良い手段は、邪神の化身に与する事だ。そうすれば必ずお前は立ちはだかるだろう」


 「それで、この瘴気垂れ流しの惨状が発生したと」


 「いや!キジン君はそんな事はしないよ!僕が無理やり搭載したらこうなってしまったんだ!はははは!このパワーなら絶対邪天使を倒して、最強形態天使になるぞ~!」


 「蠍、キジンとはやりあわなきゃいけないみたいだから、第12機関長連れ出してくれる?」


 「ああ、そう言ってくれるのを心の底から待ち望んだぜ。勝ってくれよ」


 「絶対に勝つと約束してきた」

次週予告


 改心していたと思われた第12機関長の洗脳は解けていなかった

  倒したと思ったキジンは復活していなかった

   ブラックフェニックスは誰にも『語られない戦い』に赴くのだった

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