50.壊滅
中庭から建物の中に入っていくと、広いエントランスには赤いフカフカの絨毯が敷かれており若干足元の感触が心許ない。
そして目線より高い位置にはビルの看板かと思う程大きな絵画が掲げられていて、その存在感から目が離せない。
「張り込んだものね~」
「あの絵か?確かにデカイが、正直金持ちの考える事はよく分からん」
「何言ってるのかしら。あれ全部宝石を砕いた絵の具で描かれてるわよ。術の媒介にする気なんでしょうけど、それはこんな所にまで誘い出すわよね」
「まぁあれだけでかけりゃ動かせないだろうが、一体アレは何が描いてあるんだ?俺は芸術ってのとあまり仲良くないんだが?」
「「砂漠の守護者よ」」
「また急に仲良くなりやがって……」
絵画の下に佇むフロリベスは覚悟が決まったのか、落ち着いた様子でコチラに喋りかけてくる。
「雌雄を決しましょう?ペルラ……ブラックフェニックス……どちらも嫌いじゃなかった。でも相容れなかったそれだけの事」
「そうね。今更話し合う事なんて何もないものね。そうなったら最後は己の存亡を賭けて戦うのみ……それでいいわ。私は飲むわよ」
「いや、俺はどうする?二人の戦いを中立の立場で見ればいいか?」
「「そんな訳ないじゃない」」
「だから、なんで2人だけ納得し合ってるんだよ。それだけ理解し合える仲なら戦わなくてもいいんじゃないか?」
「無理よ。私は多くの部下を失い、同僚も尽くいなくなったわ」
「それはそうかもしれないが、別に引退して困らない程度には資産残ってるんだろ?」
「私はズルズルと過去を引き擦るのが嫌いなの。前向きな事業や意見には耳を貸すし、お金も出すけど、後ろ向きな相手に付き纏われて黙ってる趣味も無いの」
「いや、じゃあ最初から恨まれる様な事するなよ!まあいいや。二人が戦うってならそれでいいんだけどよ。2対1であとから文句言わないんだよな?」
「何言ってるのかしら?私には砂漠の守護者、太陽の隼がついているわ」
「そうね。代わりと言ってはなんだけど私には不死の霊鳥がついているんだから丁度いいわね」
目の前のやたら大きな絵画は確かに言われてみると鳥に見えなくもないが、何と言うか抽象的というか、古代的と言うか、象形的にも見えるし、古代の壁画を芸術家が模写しましたという雰囲気なのでその辺の知識が無い自分に隼だと判断するのはちょっと無理だ。
あと、自分が不死の霊鳥ってのは言いすぎだろう。まぁブラックフェニックスって名前を容認してはいるが……。
フロリベスがいつもの鞭とは様子の違う杖を取り出し、掲げ、それが先端から少しづつ光の粒子となって消えていく。
そしてその粒子が絵画に吸い込まれるように消えていくに連れて、少しづつ隼から感じるプレッシャーが高まっていく。
「装備一本消費して使う術ってのは、やっぱり強力なものなのかね?」
「当たり前でしょ?私の可愛い子達をさっき見なかったの?あれ一回発動するだけで金貨何万枚消費するか……」
言われてチラッとレディの手を見ると確かに10本の指に装備していた指輪の宝石が2個消えている。
「あの戦いでそんな強力な術使ってたとか、幾ら金持ちでも贅沢すぎやしないか?」
「はぁ……これだからニューターってのは困るのよね~。寧ろあのデカブツをあっさり粉砕するあんたの装備の方が異常だって、どうやったら気がつくのかしら?」
そこでフロリベスが準備を終えたのか、仕上げとばかりに派手なエフェクトが発せられる。
最初から飛ばしていきたいのは山々だが、太陽の隼とやらの能力がさっぱり分からない自分としては、安全を確保する為にベルトには水精のフィルムケースと氷精のフィルムケースをセットし、フェニックステイルには雷精と重精を確認しつつ相手の出方を伺う。
絵画から飛び出したように鳥……じゃない。鳥頭に白い布に身を包んだヒトの体、大きな黒い羽を持つみた事無いタイプの獣人が、フロリベスの隣に降り立つ。
その太陽の隼が杖を掲げると同時に、ベルトを起動し青地に白いパイピングと模様が浮き出る。
そして太陽の隼の杖先に炎が現れたかと思うと、どんどん圧縮されていき、その熱だけで周囲の景色が歪み始める。
始めの合図も何もないが、流石に止めねばまずいだろうと悟り、重精を発動しつつフェニックステイルを振るい、先制攻撃仕掛けた。
が、それはフロリベスの鞭に絡め取られ、引き合いに持ち込まれる。
やむを得ず今度は雷精で仕掛けると、太陽の隼が目からビームを発して弾き飛ばした。
「目からビーム……?」
思わず間の抜けた声を発してしまうのと同時に太陽の隼の術が完成、異様な輝きと熱を発するそれを高い天井付近に打ち上げて、エントランスが灼熱の砂漠のように明るく暑くなった。
「何を焦ってるのかしら?アレは砂漠の太陽を生み出す術よ?別に私にとっても不利には働かないわ?」
「知るかよ!知らないから攻撃を仕掛けたんだろうが!しかもそうなるとこの場で影響受けるの俺だけじゃないか!そりゃ邪魔した方が良かったんじゃないか?」
「普通はそんな事を喋る前に口が渇いて皮膚が焼け付く感覚にダメージを受けるものなんだけど」
……氷精発動しててラッキー……。
ま、まぁ何が来るか分らないから氷精で耐性を上げておいたんだから計算通りと言っても過言ではない。
そして睨み合い、うだるような暑さの中誰一人表情を変えずに、動き出しを探り合う。
フロリベスがスッと鞭を振り上げ、引き合いになっていた鞭を回収しつつ、反対の手で腰の鞘から大きく湾曲した大振りなナイフを引き抜いた。
軽いステップで、その場でフワッとジャンプしたかと思うと、着地で発生したエネルギーをそのまま無駄なく転用したかのように滑らかさで飛び込んできた。
尾剣術 円
あまりに無駄のない攻撃で間合いを見失い、全包囲攻撃で突き放そうとしたが、あっさりとナイフでこじ開けられて間合いの内側に入られてしまった。
掃蹴術 鬼憂
術を載せた払い蹴りは、一歩引いてあっさり避けられ、そのままクルッとバレリーナのように小さく早く回転して、再びナイフで襲い掛かってくる。
力のベクトルを自在に操るかのような連続攻撃に、防戦一方に追い込まれ、焦って距離を取ろうと鞭を振りながら横に転がって逃げた。
それと同時にエントランス中央で爆炎が発生。
いつの間にかレディが虫型の何かを隣に置き、太陽の隼も杖をコチラに向け、何か術を使用したのだろう。
どうやら太陽の隼は術士寄りの性能の持ち主と考えていいだろう。
金貨を何万枚も消費させてしまうのは申し訳ないが、そちらはレディに任せて自分はフロリベスとの戦いに専念させてもらう。
鞭が振るわれ、それを回避しつつコチラもフェニックステイルを返すが、あっさりと回避された。
だが、その回避の隙に右腕の内側を探り、土精と水精を選択。そのまま地面を殴りつけると、赤い絨毯にエフェクトが重なる。
気がつかなかったのか、フロリベスが足を取られ態勢を崩した所に、重精を発動しつつフェニックステイルを振り下ろせば、ナイフで受けられるもののその衝撃に更に態勢が悪くなる。
ここぞとばかりに畳み掛けようと雷精を発動しつつフェニックステイルを振り上げた所で、赤いビームが飛んできて脇腹に突き刺さった。
「ぐふっ!くそ!また目からビームかよ!」
「油断しないの。さっさと精神力の枯渇したそっちを片付けてこっちを手伝ってくれないかしら」
言われてみると、いつもどでかい砂の術を連発するフロリベスが、近距離攻撃なんぞ珍しい。
とは言え、無視していきなり太陽の隼に仕掛けてもそれはそれで今の戦況のバランスが崩れるだけだし、やっぱりやるしかない。
それに、今自分はその精神力の枯渇したフロリベスに押されてる真っ最中だ。
地面に対してさり気なく術を使って嫌がらせをする事で、何とか均衡を保ってるに過ぎないのに、集中を切らすわけにも行かないか。
態勢を立て直したフロリベスが、ナイフを前に構え直す。
「精神力が枯渇してる……ね。言ってくれるけどペルラ?貴女もそろそろきついんじゃなくて?何で私がブラックフェニックスの相手をしてるか分かってるんでしょ?」
「そうねぇ……確かに今この場で精神力に余裕があるのは私達じゃないわねフロリベス。寧ろいっそ余裕がある同士で戦わせたらいいんじゃないかしら?」
「それだと、また次があるじゃない。ここで終わらせるって約束よね?」
「そうね。そういう事だから急いでもらっていいかしら?ブラックフェニックス」
「言われても俺だってそんな余裕じゃないっての」
その時、フロリベスのナイフからエフェクトが発せられ、地面を割るように鋭い砂の波が迫ってきたので回避する。
「精神力枯渇って話はどうなった!」
「この程度の小技を使う程度には残してあるわ?足場を悪くしてくれたのは貴方でしょう!」
言いながら更に鞭で追撃を加えてくるので、それも回避。
「ほら~押されてる場合じゃないわよ~」
レディまで煽って来るんだが、ここには敵しかいないのか?
雷精を発動しつつ、フロリベスにフェニックステイルで攻撃を仕掛けるが、ナイフで受け止められる。
よく考えたら雷精を発動してるのにあっさり防御できる時点で、術を使ってる証拠か。
尾剣術 串
雷精で上に意識を向けて、下から重精で攻撃した所、間一髪で回避したフロリベスの足に掠った。
更に追撃の横なぎで、雷精を振るえば、フロリベスの腹にも掠る。
流石に胴体に雷精を食らえば、痺れるのか動きがあからさまに悪くなるフロリベス。
尾剣術 縛
フェニックステイルを巻きつけ、動きを封じた所で、右腕の内側の氷精と重精を選択。
飛んできた赤いビームを殴りつける。
すると凝縮した冷気が目の前に発生しフィールドを形成したように、赤いビームを四散させ弾き飛ばす。
そのままベルトスイッチを起動、氷精の白いラインが通った足でフロリベスを蹴り、そのまま凍らせた。
召喚者を封じた筈なのに、まだ健在の太陽の隼。
「なぁ、普通あいつも消えるんじゃないか?」
「無理よ。さっき杖一本消費したの見たでしょ?そういう契約なのよ」
「そういう契約ねぇ……よく分からんが、アレはアレで倒さにゃならんって事でいいんだな?」
「そうよ。私もギリギリって所なんであと頼むわね」
そこで、太陽の隼が炎の玉を飛ばしてきたので、残ってた水精で蹴り飛ばせば、周囲に肌を焼き尽くすような熱い蒸気が満ちる。
それまで、エントランスに降り立ってからその場を全く動かなかった太陽の隼がフワッとその場で浮いた。
羽があるとは言え、明らかに物理の法則を無視した浮き方だが、この世界には重精というものが存在するので、そこはもう重力操作だとすんなり受け入れよう。
そして、右腕の内側の氷精重精を選択。
飛んできた目からビームを殴って防ぐ。
何と言うか、行動パターンと言うか、攻撃の溜めが何となく噛み合って来た。
お返しとばかりにフェニックステイルを振るえば、スルッと空中に逃げられる。
風精があれば追いかけることも出来るが、この前のフェニックスフレアボム大量発注の時に使ってしまって、今は手元にない。
手持ちでどうするかと言う所だが、屋内で召喚された事が救いだったと思うしかないか。
屋外で呼べばもっと太陽の隼を有利に使う事が出来たんだろうが、デカイ絵画を媒介に使う性質上、外に出しっぱなしにも出来なかったろうし、仕方なかろう。
上空から連発される火の玉を回避してはそこら中、燃え上がるように地面のダメージエフェクトが増えていく。
徐々に動ける範囲が狭まっていくが、これが太陽の隼の狙いだというなら、ちょっと甘い。
と、いう訳で右腕の内側の水精と土精を選択、地面を殴りつけると燃えるエフェクトを中和する。
それで、戦術が成り立たなくて苛立ったのか、空中からこちらに向かって急降下しながら目からビームを発して襲い掛かってきた。
すぐさま冑に精神力を流し込み影を発生させて移動すると、あっという間に影が破壊されたが、移動した自分に目が追いつかなかったのか、太陽の隼の一瞬の迷いに乗じて雷精を発動しながら殴りつける。
地に落ちた太陽の隼を今度は、重精を発動したフェニックステイルで殴りつけると、そのまま地面に倒れ伏す。
ベルトスイッチを起動、氷精で太陽の隼を蹴り飛ばす。
しかし、凍りつくまでは行かず、転がりながらも立ち上がろうとする。
更に追撃で、水精で蹴り込むと、更に転がりそのまま壁に激突。
ピクピクともう虫の息だ。
首からかけていた何やら変形十字のような大きなアクセサリーを手に取り、天井近くに浮く高密度の火球の塊に掲げる太陽の隼。
「はやくこっちに来なさい!」
レディには珍しく厳しい声に、急いで近くに行くと、うっすらと光るフィールドと言うかエネルギーシールドが張られていて、その内側から一帯を消し飛ばす尋常じゃないエネルギーの奔流を見る。
どれ位経ったのか、その場に有った建物は殆ど何も残らず、若干の柱と壁が黒い煙を発するばかり。
ふと気がつくと、足元には獣やら虫やら亀やら額に宝石の埋まった生き物が大集合していた。
「いつの間にこんなに呼び出してたんだ?」
「全く……、貴方が太陽の隼の攻撃に対応出来てなかったから、先読みの獣に、反射神経を上げる虫にと次から次へと呼び出して、大赤字もいい所ね」
「そりゃすまなかった」
「いいわ。貴方に頼んだのは私だし、これで面倒な因縁も片づいた。仕事に精が出るというものよね」
レディの切り替えについていけず、長らく戦っていた邪神教団最後の一人を倒した事にいまいち実感の持てないまま、ゆっくり夜が明ける空と、赤から白へ白から赤へと色の変化していく中庭一面の砂漠の花を眺める。
次週予告
遂に邪神教団と長きに渡る戦いに終止符を打ったブラックフェニックス
世は邪神の化身戦に盛り上がる中
敵を失った事で静かに身を休める筈が
封印した改人の『核』にはまだ役割があった
まだ戦いは終わらない




