49.砂漠の花
「さて、雌雄は決したわ?フロリベス……貴女は【砂国】の商売一切から手をお引きなさいな。暮らしていくに十分な資産はあるでしょ?」
「確かにこの結果に異論を差し挟む余地はないわ。でもねペルラ……これで終われる訳ないじゃない」
「変わらないわね。貴女はいつもそうやってずるずると決まった事をこれでもかと引きずって……その先には滅びしかないわよ?」
「それを望んでいるから邪神教団になんて入団したんでしょ。死ぬ時は一緒に【砂国】の砂に還ると約束したの覚えてる?」
「忘れたい過去ね。あの頃は本当に幼かったし世の中には善意が溢れていると思っていたわ。それが姉妹の様に育った相手に滅びを望まれる事になるなんてね。嫌になるわ~」
「今更昔の事を持ち出して、どういうつもりかしら?」
「持ち出したのは貴女の方よ。何をそんなに怒っているの?私だけが【王国】【商人】今の父親に引き取られた事?」
「違うわ。それについては別れの時だって祝福したし、貴女の成功を祈ったじゃない。その気持ちに嘘も偽りもないわ」
「それじゃあ、なんで?」
「貴女があの男の下で頭角を現したと噂で聞く度に心躍ったし、何度でも祝福したわよ。でもね、それだけ。貴女からは何の連絡もなし、私だけじゃない。【砂国】のスラムに流れ着いた家族同然の商隊の仲間達が皆貴女の援助を待っていたわ。勿論そんな簡単にお金を持ちだせるなんて思ってもないけど、せめて一言あっても良かったんじゃない?」
「そう、それが貴女が私にこだわる理由なのね。言い訳はないわ。寧ろなんでスラムから這い上がろうとしなかったのかしら?」
「立ち上がる力すら残されてなかったからよ。忘れた?喜捨の掟」
「私の芯にも刻まれているわ砂漠の掟はね。じゃあ貴女は忘れた?歩けなくなった者は砂に返せって」
「そうね掟は残酷だわ。厳しい環境で生き残る為には時として冷酷な判断も必要かもしれない。でもねだとしても私は貴女を許せないの」
「そう?それで?この場でやる気?私にブラックフェニックスに【教国】の機関長なんて、ちょっと戦力差が有り過ぎないかしら?」
「そんな事無いわ。来なさい!」
フロリベスが叫びながらさっと席を立って、どこかへ向う。
正直な所無視してもいいんじゃないかとレディの方を見やると軽く首を振り席を立ち、フロリベスについて行く。
てっきり蠍もついていくのかと思ったら、
「呼び出すだけ呼び出しておいて、用済みだからって放って置くのは流石に道義に悖るだろう」
そう言って、ソタローの方へと行ってしまった。
仕方無しにレディについて行くと、闘技場の一部に馬車が乗り入れられており、それに乗り込む。
完全に敵対している筈なのに、一緒に馬車に乗ってどこに行こうというのだろうか?
馬車に乗るのを躊躇していると、レディに目で促され結局自分も乗り込む事に、非常に面倒くさい予感しかしない。
気まずい車内、蠍を待つ気もないのかさっさと出発し、夜の【闘都】をゆったりと駆ける。
「あのよ。2人の間の話に割って入る気はないんだが、一個言ってもいいか?」
「「なにかしら?」」
「いや、どっちの立場になって考えてもおかしいだろ?レディは自分から罠に掛かりに行く様なもんだし、フロリベスは何で素直についてくると思ったんだ?」
「「貴方がいるからよ」」
「何で喋りが被るんだよ!本当は仲良しなのか?……まあいいや、俺がいるからって何でついていくんだよ?商売する権利を失ったんなら、次は何を賭けようってんだよ!」
「言ったでしょ?全部滅ぼしたいの。でもペルラ一人を呼び出す事は無理よね?だから貴方も連れて行くの」
「はぁ?なんでレディは俺がついていくなら罠にわざわざ掛かるってんだよ」
「当然でしょ?邪神教団を潰す協定を結んでるんだから、貴方は少なくとも敵に回らない。そしてフロリベスが使えるであろう戦力に対して優位に戦える筈よね?邪神教団は既に壊滅寸前、【教国】の裏切り者は掴まり、さっきの脳筋は目の前で封印された。それに【森国】にいるとされる一人は貴方が倒したのよね?それならばあとはフロリベス以下の戦力のみ、今潰さなくていつ潰すの?隠れてコソコソ妨害される位なら張れる時に張らないとね」
「【砂国】出身だけあって、賭け事も得意ってか?まぁ、俺もやるしかないか……今回は案内だけだと思ったが、仕方ない」
「「やる気ないのね」」
「だから、なんで言葉が被るんだよ!そりゃやる気もなくなるだろ。俺の元々の仕事は邪神教団を潰す事じゃない。聖石とか言う邪神の化身の核を集めるのを邪魔しろって所から始まって、蠍の依頼で敵対してただけだ。肝心の邪神の化身が復活しちまったのに、何を勢い込んで戦えってんだよ」
「「そうね。貴方には戦う理由はないわね?」」
「分かっても連れて行くんだな。俺も分かったよ腹据えて戦えってんだろ!」
「そりゃそうよ。散々邪魔してくれたんだから貴方を巻き込む事に今更罪悪感なんてないわよ。これで決めましょう」
「ふふふ、まぁ少し位は手伝うから頑張ってね」
「いや、レディ……あんたがメインじゃないのか?よくまあそんな余裕あるな。まぁいいどうとでもしてくれ」
そんな話をしている内に馬車が止まりとりあえず降りると、手長足長の改人が2人をエスコートして、一つの城?に連れて行く。
自分も城の中に入っていくと、広い中庭一面に咲く赤と白の花に目を奪われる。
何の花なのか、ちょっと気になって近づいていくと、入ってきた城の門が落とされ、鉄柵で外界と隔たれた。
「なぁ、この花どこかで見た事あるんだが?」
「「砂漠の花よ」」
「へぇ、そんなに暑い訳でもないのに咲くんだな」
「ふふふ、これから戦いだって言うのに花が気になるなんて、貴方も余裕じゃない。もし気に入ったのなら贈らせて貰うわ」
「そうね。もしペルラを潰したら私の方から贈ってあげる。ちなみにこの花は砂漠に咲くだけあって気温差に強いから、育てやすいわよ」
「勝っても負けても花が貰えるなんて、悪い話じゃないな。全く二人共器が大きいのに何でこの争いはやらなきゃならんのか」
「仕方ないじゃない。因縁てそういうものよ」
言い終わるや否や、地響きとともに城から現れる巨大化したベガ並サイズのヒトが2人、手長足長を一人づつ丸呑みして、全身が小刻みに震えだす。
「さ・て・と……ベガが残した改人達と私の最後の手駒、これで改人は出尽くしたわよ。始めましょう」
フロリベスの合図でベルトを起動、とりあえずバランスを取る為に火雷と土石をセットしてある。
フェニックステイルには氷精と雷精でとにかくまずは動きの妨害を狙ってにセットしてみたがどう出るか。
「サンドゴーレム!」
フロリベスが叫ぶと、地面から巨大改人並みのサイズの砂の塊が生えてきた。
そしてそれを手に持った鞭で一つ叩くと、そのまま崩れ落ちるサンドゴーレム。
一体何の為に出したんだ?と思ったそれを読んだかのように、
「砂よ……」
術エフェクトが発生。
巻き上がる砂に、右腕に仕込んだフェニックスアームから氷と風を選択し、適当にそこらにあった夜の城を照らし出す灯火をぶん殴ると、冷たい風と共に白い靄が発生し、一帯を目隠ししつつ、巻き上がる砂とぶつかって対消滅していく。
「ふふふ、術には術を基本中の基本ね。サンドゴーレムを破壊してまで布石した砂が台無しみたいね」
「砂はまだ有るわ」
鞭を一振りして砂を物理的に巻き上げたフロリベスが何やら術を発動すると、砂がサラサラと舞ってこっちに吹き付けてくる。
「仕方ないわね~ガーネット守って頂戴」
小さな呟きと共にレディが動き、左手の人差し指にはめていたリングから術が発動する。
センスがいいレディにしては随分と派手な宝石を両指にはめているなと思っていたのだが、どうやら術の媒介だったらしい。
術エフェクト共に現れるのは額に丸い宝石を埋め込まれたような姿の小動物。
そしてその小動物が結界のようなモノを形成すると、砂の侵入を防いだ。
「何なんだ?守ってくれるのはありがたいが……」
「分かってないわね~あの砂は触れるだけで切り刻まれるわよ?細かく砕いたガラスを飛ばしてくるとでも言えばいいかしら」
「マジかよ。陰険な術だな」
しかしそんな砂にお構いなく今度は巨大改人が大きく腕を振り上げている。
「アレは防げないわよ。細かい攻撃は全て遮断してくれるけど……あっ!ちなみにこちらからの攻撃は通るから」
「クソ!先に言えよ!」
言いながらもフェニックステイル氷精を発動しながら、巨大改人を殴りつける。
一瞬で全身が凍りついたように動きを止めた巨人に、ちゃんと自分の攻撃が効く事を確認し、安堵するが、
もう一体の方も野放しに出来ないので、雷精でぶん殴れば、痺れながら動きを止めた。
「あらあら、見掛け倒しね」
「ブラックフェニックスの武器の性能が高すぎるのよ。ずっとそれでこちらは歯噛みしてたんだから。でも油断はしない事ね」
言うなり、改人達が光ってあっさり普通に動き出した。
「ベガの部下に同じ事出来る奴いたな。だったら核を探し出して、雷精で狙い潰してやるよ」
「あら~忘れたのかしら?残りの改人全てを取り込んでいるのよ?核が幾つあると思ってるのかしら?」
「くっ!」
余裕のフロリベスに思わず、適切に返す言葉が出ない。
「止める事は出来るんだから落ち着きなさいな。一撃で決めようとするのが貴方の悪い癖よ。その尋常じゃない精霊の力を使う装備を頼るのが悪い訳じゃないけど、高出力の武器一撃で葬れなかったら手が続かない。だからあのベガに手をこまねいたんでしょ?」
「それはそうだが、俺は元々そこまで戦闘が得意じゃないんだ仕方ないだろ?」
「全くどの口が言うのかしらね?改人だって生半可の事では手が出ない存在の筈なのに」
「足りないのは自覚といった所かしらね。もっと自分の力を信じて腰を据えて戦ってごらんなさい」
何故か2人の矛先が自分に向いているが、今はやるしか仕方ないとレディの結界から飛び出し、再びフェニックステイルで巨大改人に殴りかかる。
確かに動きを止めてから発光するまでにある程度タイムラグがあるし、やってやれない事もないかと、雷精を土精のフィルムケースに差し替えて、凍らせて地面からの攻撃の二段攻撃に切り替えた。
すると、思っていた以上のダメージが出て、巨大改人の一体が足を砕かれその場に倒れ伏す。
もう一体を攻撃と思った所にフロリベスの術が発動したのが見えて、一旦結界内に戻る。
様子を見ていると、今度は砂を大きな拳に変化させ、質量で押し潰しに掛かってきた。
それに合わせて、巨大改人も覆いかぶさるように殴りかかってくるのをどう回避するかと辺りを見回し、走り出そうとした所に、今度は右手の人差し指を立てたレディが囁く。
「ルビー……お願い」
すると額に宝石のはまった赤い翼の鳥が出現し、羽から尋常じゃない熱量の炎を発しながら頭上に飛翔する。
思わず自分まで焼かれるかと思ったが、そんな事はないらしい。これがちゃんとコントロールされた術かと関心している間に、巨大な砂の腕も巨大改人も諸共ふっ飛ばした。
何かもう自分いなくてもレディだけで勝てるんじゃないか?と思わなくもないが、気がつくとさっき足を砕いた巨大改人がゆっくりと立ち上がるところだった。
相変わらずの無茶苦茶な再生能力だが、そういう相手と長らく戦ってきたのだ。ここが正念場と立ち上がると同時にまた足を砕く。
そこでベルトのフィルムケースを水精と重精に切り替え、アーマーが青地に銀色のパイピングと模様に変化する。
あまり使わない組み合わせだが、手持ちの残りを考えると仕方ない。
早速ベルトのスイッチを起動し、両足に精霊の力を流し込む。
レディに吹っ飛ばされた巨大改人にフェニックステイルを伸ばして縮める勢いで水精を放てば、波紋の様なエフェクトが巨大改人に広がり、
バキバキと体内から次々と異音が聞こえる?
しかし、もう一発残ったままにしてはベルトに負担が掛かると思い、追撃。
掃蹴術 篇吟
一回空中に飛び、急降下しながら重精を打ち込むと、今度は全身が収縮していき、巨体が不自然に潰れていく。
少しすると効果が切れたのかサイズは戻ったが、全く身動きが取れなくなる巨大改人をうち捨て、次はフロリベスともう一体の巨大改人どちらをやるか、双方を見やる。
「腰を据えてって言った傍からまた大技。全く雑ね~。それも器用さのなせる業だと言うのは分かるけど、もうちょっと駆け引きやコツコツと積み上げて行く事は出来ない物かしら?」
「やってみようとは思ったんだが、生憎言われてすぐに対応できるほど器用じゃないんでな」
そう言っている所にもう一体の巨大改人が立ち上がり、フロリベスは城の中へと逃げていく。
「あら、喋ってる間に取り逃がしたわね」
「いずれにせよこのデカブツを止めなきゃ次には進めん」
それだけ言って、再び水精と重精の連撃で巨大改人を倒すと、今度も完全に動かなくなった。
「さて、まずはこいつらを封印処理か……核がたくさん有るって話だが、どうしたもんかね~」
「そいつは俺が受け持とう」
安全になった瞬間に姿を現した蠍が、サラッと横から掻っ攫って行きやがる。
まぁ、何をどうしたらいいかも分からない事だし、任せていいなら任せてしまうか。
レディと連れ立って城の中庭から、城の内部へと歩いて入り込む。
次週予告
全ての改人を投入した巨大改人を打ち倒したレディとブラックフェニックス
邪神教団最後の幹部フロリベスをを追って最後の戦いへと赴く
長き戦いと因縁に決着がつく邪神教団『壊滅』の時




