47.孤軍
邪神の化身との対決は順調な滑り出しのように見える。
あくまで見えるだけだが、集団戦と言うものに全く造詣がないのだから仕方ない。
しかし寄せ集めの筈のプレイヤー達が一丸となって動く様は、なんとも絵になると言うか壮大な光景だ。
今回集まったのはざっと2000人程度らしいが、それでこんなにうじゃうじゃと人が動くと言うなら、現実の何万と言う人がぶつかり合ったとされる戦争はどうなってしまうのだろうか?
ちなみにゲームの中とは言え世界の命運を握る戦いに2000人は少なく感じるかもしれないが、まず一点目として邪神の化身から発する瘴気の所為でNPCは一切近づけない。
二点目として、プレイヤーを幾ら集めたところで日本国内サーバーしかなく、未だ手に入れる事の出来ない人も多くいるゲームで、一定以上の戦闘能力があり、同時接続のタイミングで偶々手が空いているなどと中々に要求されるハードルが高い。
まあそもそも集団戦自体が自分の所属するクランですら100人戦闘がやっとの事だと聞いている。
そんな中2000人率いて戦うプレイヤーがいるってのがそもそも異常な事だし、それがついこの前まで指名手配で追われに追われながら聖石を集めてた隊長だってんだから、意味が分らん。これが正直な感想。
戦闘前まで静かに潜んでいた間に知った今回の作戦内容としては、この大砦に邪神の化身を突っ込ませるのが目標らしい。
浮いて移動している釣鐘状の山の様な敵をどうやって突っ込ませるのかは不明だが、少なくとも移動の直線状にこの大砦は設置されている。
それはまるで運営が、この大砦を拠点に邪神の化身と戦えとばかりに用意したようなピンポイントの配置だが、その辺のご都合主義位は目を瞑る。それがゲームと言うものだ。
逆に言うとその折角の配置を不意にするかのようにその大砦に突っ込ませ、大量のフェニックスフレアボムで消し飛ばすつもりらしい。
確かにフェニックスフレアボム1万基あれば、大抵の魔物はドロップ品ルートすら出来ないほどに粉みじんに消し飛ぶだろうが、それをここぞと言う戦いで実行するのは馬鹿げているを越えて、狂気じみているとしか言いようがない。
いや寧ろ狂気の沙汰だからこそ、世界中に追われる立場にいながら飄々とアイテム集めして邪神の化身を復活させた挙句、それを倒す為の指揮を取ってるのだろうか?
自分で考えながら何か頭がおかしくなってきたぞ?
まあ出番はないし、のんびり構えてプレイヤー最大規模の集団戦とやらをのんびり拝むとするかとすっかり観戦ムードになった所で、異変が発生した。
隊長と遠距離攻撃担当と見られるプレイヤーが一斉に大砦に向って走って帰って来ている?
一斉にと言っても隊長だけ異常に足が速く、あっという間に辿り着き、扉と言うものがあるのに完全に無視して何をどうしたか外壁を登って外壁の一番高い場所からなにやら遠くを眺めている。
何を眺めているのだろうと、自分も目を凝らしているとだんだん正体が見えてきた。
敵の空中戦力だ。
基本このゲームはプレイヤーは空を飛べない。自分は飛んでいると言うより風精で吹き飛ばされて、そこから滑空しているだけだし、空中を自在に移動するスキルもアイテムも聞いた事がない。
テイムか何かで鳥に乗ったりとか考えなくもないが、そもそも鳥は飛ぶためにその体重は尋常じゃなく軽くできている筈だし、よしんば鳥をテイムしたとしても足でつかまれて運ばれるのが関の山だろう。
グリフォンみたいな魔物ならいけなくもない気がするが、未だグリフォンに乗って空を飛んだプレイヤーと言うのを聞いた事がない。
つまり空中戦力は撃ち落すしかない訳だが、果たしてどうやら遠距離攻撃部隊を引き返させたのはそれが目的のようだ。
一人また一人と大砦に戻ってくる遠距離攻撃担当プレイヤー達が外壁に並び次々と邪神の化身を撃ち落して行くが、どうにもキリがなさそう?
敵の耐久力はかなり低く見えるものの数が尋常じゃなく、弾幕を突破してくるのが一体二体とチラホラ出てきた。
仮にこれで仕掛けられているフェニックスフレアボムが、邪神の化身到達前に誘爆でもしたら困るので、手近な2体をフェニックステイルで刈り取った。
やはりかなり弱く、目立たないように石精で強化した状態で殴りつけただけだが、あっさりと消えてしまった。
それこそさっき考えていた鳥の構造じゃないが、いかな邪神の化身の手下とは言え、空を飛ぶには相当な軽量化が必要なのかもしれない。
そうなると逆に本体は山みたいだし、飛ぶ機構もないのに浮いて移動してるのは何故?とならなくもないが、このゲームには重精というのがあるので、重力操作で浮いていると言うのは十分考えられる。
敵性である邪神の化身が精霊の力を使うのか?と言う問題もあるのだが、難しい所だ。何しろ魔素の効果は霊子の性質を変化させるものだし、この世界の物質は全て霊子から構成されている以上、邪神の化身も霊子から作られている。
つまり自分達神側の勢力が魔素を利用するように、邪神側勢力が顕現するのに肉体を霊子で構成していたとしても、そこはつじつまがあう?としておこう。
更に抜けてきた邪神の化身の手下を隊長が追いかけて殲滅しようとしているので、さっと身を隠そうと振り返ったところ、目の前に深淵があった。
心臓が止まるほど驚き声もでなかったが、自分の目の前にあるのは骸骨。その目の奥は深さを計り知れないほど闇。
吸い込まれるような闇に声まで奪われた気がしたがそんな事もなく、直後には
「スケルトンだ!」
と不覚にも叫んでしまった。
気がつくとそこら中にスケルトンが所狭しと並び、抜けてきた敵空中戦力を殲滅している。
スケルトンなのに味方なの?とちょっと不思議に思ったが、どうやら大砦中央にある一番高い塔の天辺で何かがスケルトンを指揮しているようだ。
邪神の化身の手下を追っていた隊長は何かを納得したかのように外壁に戻って再び指揮を取り始める。
スケルトンと遠距離攻撃プレイヤーの連携で邪神の化身の手下は抜けてこなくなったが、邪神の化身は順調にこちらに近づいて来ている。
無限に発生する敵相手にプレイヤーサイドも奮戦しているようだが、さっさと作戦完了の為に邪神の化身に近づいてきて欲しい反面、これ以上敵の圧力が増えても苦しいと言う所が遠くからでも垣間見れる。
さて次はどんな手でいくのかと、こっそり近づいて隊長の動向を窺う。
すると、どこから現れたのか巨大しゃれこうべが大砦中央の高い塔に手を伸ばし何かを載せて外壁まで運んでいる。
隊長はなにやら思案中で気がつかないようだが、考えがまとまったのか視線を邪神の化身に戻し、それから振り返るのとしゃれこうべの手の上から騎士のような格好をしたスケルトンが降りるのが同時だった。
「ここ任せちゃっても大丈夫ですかね?あの邪神の化身、邪天使が突っ込んできたら、ここら一帯吹き飛びますけど」
当たり前のように騎士スケルトンに話しかけるが、ここを任せてどうする気だ?やはり苦しい最前に戻るのか?まあそれならさり気なく出来る範囲で空中戦力掃除くらいは手伝うが……。
急にスケルトンが大笑いするかのように空に向って顎を鳴らす。
それを見ていた隊長が、
「じゃあ、全軍!後は任せた!自分は手下の発生源に突っ込んでみる」
とのたまう。
……ここは自分が止めるべきか?今この場でこの変人を止められるのは自分だけだよな?
どこの世界に総指揮を任された指揮官自ら邪神の化身本体に突っ込む奴がいる?
どう見ても、邪神の化身の手下の発生源は山の様な邪神の化身本体だと思うのだが、自分が見間違えていて、どこかにそういうスポットを生み出しているとかそういう?
考えがまとまらぬまま、あっという間には遥か遠くに駆け去っている隊長、せめて階段とか使えよと思うが、平気で普通なら落ちて死に戻る高さの外壁を飛び降り、当たり前のように馬並みのスピードで駆け去っていく。
そして、やはりと言うか何と言うか、隊長は当たり前のように邪神の化身に突っ込んでいく。
途中から完全に姿を見失ったが、まるでジャンプ台のように真っ直ぐ邪神の化身へと地面を隆起させている場所があり、そこのヒトの動きが激しい事から、多分そうなのだろうと予想する。
そこで一段落し、空中戦力は自分が手を出す必要ないし、下の集団戦に混ざって戦うのは自分には無理だろう。
何もする事無いなと観戦に戻ろうとした所で、怪しげなヒト影を見つけた。
スケルトンは現状邪神の化身の手下しか攻撃しないし、遠距離プレイヤーも上ばかりを見ている。
そんな中、こそこそと大砦の影から影を歩くように移動するヒト影があれば、おかしいと思うだろう。
あまりに怪しげな行動にこっそりと後ろをついていくと、大砦中央の塔に入りこんでいくヒト影。
砦内に誰もいないのを確認し、更にそこからなにやら探し物をしている様子に、ますます怪しいと声を掛けてみる事にする。
「よう、こんな所に何の用だ?」
「!!!誰だ!」
「いや、お前が誰だよ。表じゃ邪神の化身と戦ってるって時に、コソコソとこんな所に入りこんで何しようってんだ?」
「うるせー!俺の勝手だろうが!何で説明しなきゃならねーんだ!偉そうに!」
「はぁ?不審人物がいたから、ちょっと話を聞いただけで、何が偉そうなんだ?」
「誰が不審人物だ!何でそんな事を決め付けられなくちゃなんねーんだよ!」
言いながら、ゆっくり間合いを詰めてきたかと思うと、いきなり隠してたナイフで突いてきた。
まぁこちらも明らかな不審人物相手に油断も何もしようがないので、ベルトを起動。
氷精水精の青地に白いラインの色使いに変化しつつ、ナイフを受けると中々のダメージ。
不意打ち系スキルを使った物理ダメージと見たが、まあ許容範囲だ。
「刺された以上殺るのは間違いないんだが、目的はなんなんだ?」
「くそ!貴様!ブラックフェニックス!何でこんな所に!前線に行かなかったのか?」
「……ブラックなのに色変わる前は気がつかなかったのか?っつう事は……俺の見た目をよく知らないが、闘技場か何かでは見た事がある?邪神教団なら何故か俺の姿だけは情報共有されてるはずだし……お前プレイヤーか」
「だったらなんだよ!」
「いや、だがPKみたいな外道共なら散々狩ったしもっと早く俺に思い至ってもいい筈だ。本当にお前何者だ?」
「うるせー!つってんだろ!」
言いながらナイフを振りかぶってくるが、ナイフとは思えぬ遅さに、フェニックステイルでナイフを切り払って跳ね飛ばす。
「弱いな。コメントに困る弱さだな。マジでなにがしたいんだ?」
「クソ!お前はいいよ!強いもんな!すっかり有名プレイヤーの一角で、さぞかしチヤホヤされるんだろう?だが俺達みたいな底辺は今からじゃどうあがいたってお前達上級プレイヤーには追いつけない!だから邪神の化身に一旦リセットしてもらうんだよ!」
「はぁ?邪神の化身が勝ったらリセットなんて誰が言ったんだ?」
「公式が、邪神の化身との戦いの結果で今後が決まるって言ってるんだよ!アップデートで今までの要素が上手く回らなければ、トップが入れ替わる事だってあるかもしれないだろ!」
「それは、邪神の化身に勝ったとしても新要素が加われば同じだろ?」
「それじゃ強い奴らは皆強いままじゃねーか!俺達みたいに弱くてどうにもならない苦渋を味あわせてやりたいんだよ!そんな事も分からねーのか!」
「……分かるっちゃ分かる。俺も俺を殺した奴等を同じ目に合わせたくて、こうなったからな。だが、それとこれとは別だ。お前は強くなりたいのに他人を弱くする事しか考えてない。それじゃまた別の強い奴に嫉妬するだけの無限ループだぞ?」
「じゃあどうしろってんだよ!強い奴を出し抜いていきなり強くなる方法なんかあるのか?」
「ないだろうな。だが俺も半分は生産職でこの程度にはなったし、真面目にクエストなり【訓練】してれば、それなりには成れると思うが?」
「結局それかよ!なぁ!あんたも同じなら黙って見過ごしてくれよ!俺にはこれしかないんだよ」
「だから、これってなんだよ?この戦いを邪魔する気なのは分かったが何をする気だ?」
「はぁ?この砦に隠してあるって言うフェニックスフレアボムを起動して、邪神の化身破壊の邪魔をするに決まってるだろ!」
「フェニックスフレアボムを起動したら、お前も死ぬぞ?一万基とか半端な数じゃないし」
「分かってる!死に戻るくらいどうって事無い。それで上級の連中に追いつけるなら!」
「いや邪魔したから追いつけるわけじゃないってずっと言ってるんだが?他人の話聞かないのか?」
「だから何度もうるせーって言ってるだろ!お前だって他人の話聞いてないだろうが!俺にはこれしかないんだよ!」
そう言って、もう一本の隠したナイフで突いてきたが、今度はカウンターでフェニックステイルを振るい、一方的に切り伏せる。
「悔しかったら復讐しに来い、邪神の化身討伐の邪魔はさせん」
「クソが!」
謎のプレイヤーにトドメを刺す。
次週予告
邪神の化身との決戦を陰で支えるブラックフェニックス
ヒーローとはいつも孤独にそれを主張せずに在る者かもしれない
しかし復讐者にはそんな純粋な者ではいられない『因縁』が有る




