46.傍観者
-【王都】アジト-
「それで?黒幕だったあの倒れていた男は、無事だったのかよ?」
「ああ、今ではピンピンして、やらかした分無給で不眠不休で働くとか言ってるな」
結局の所、あの釣鐘型の山みたいな巨大な自対邪神の化身兵器は、邪神の化身だった。
複雑なようで、単純な話。
対邪神の化身兵器として開発していた例の釣鐘は、邪神の化身に操られて作っていたものだったということらしい。
そしてその全ての黒幕が倒れていた男。洗脳が解けてショックで倒れていたのだろうとの事だ。
「やらかした分、働いて返すってのは健全だな。何でも操られてたんだろ?」
「ああ、本人の意識に刷り込まれるように、意識と記憶に捻れが生じていった様だ。元々第12機関は対邪神兵器開発を担っているから、偶然手に入れた聖石のエネルギー保持量に惹かれて研究していたのが、いつの間にか取り込まれていたと……そんな所だ」
「つまり、隊長と邪神教団と洗脳されてた第12機関長の三つ巴で聖石を狙ってたって訳だ」
「それが、そうでもない」
「じゃあ、他にも勢力があったとか?」
「いや、邪神教団ってのがそもそも【教国】の差し金で作られた組織なんだ」
「はぁ?」
「なんつうか【教国】ってのは国を名乗っているが、実質対邪神組織なんだよ。国という態勢が現状に合ってるから、そうしているに過ぎない。突き詰めちまえば、邪神と戦う力があればそれでいい」
「それと、邪神を信奉する組織を作ることにどんな意味がある?」
「いいか?ヒトってのは何か一つの事を正しいと言うと、絶対反発する者が出てくる」
「まぁ、そりゃ何事も反証ってのは大事だろ?」
「そんな大層なものじゃない、なんでも反対したいヒトもいれば、何となく受け付けないとか言うヒトもいるって事だ。だから最初から反対意見の者を集める組織も作っておくんだ」
「そうする事で、従わない連中も上手く管理できるとか?」
「ああ、上手くとまでは言わないが、動向を見守ることは出来る。それがいつの間にか第12機関の実験に使われてたんだよ」
「改人は人体実験で作られたとでも言う気か?」
「遠からずだ。前にも言ったが、はじめは爪弾きにされた者達を集めるだけの組織だった筈なんだが、あの狂研究者が血迷って聖石の利用方法として、人体に埋め込むなんて方式を生み出した挙句に情報を垂れ流ししたらしい」
「なぁ、やっぱりおかしい奴を野放しにするのはやめた方がいいんじゃないか?その第12機関の機関長」
「当時の本人の認識としては、私財を切り崩してヒトの世の主流に乗れぬ者達に生きる場を与えたかったらしい。それをフロリベスが上手く増やした上で組織も膨らましていったそうな」
「危険人物とやり手が手を組んじまった訳か」
「ああ、更に力なき者の為にベガが立ち上がった事で、色々と研究成果を持ち込んでいった」
「んで、どっぷり洗脳にはまった頃には、改人の研究も渡っていたと」
「そんな所だ。洗脳によって善行を重ねた気分だったらしい」
「まさかとは思うが、四天王の一人って事はないよな?」
「確信のある質問だろ?四天王の一人で間違いない。表向きには【教国】の機関長って言う肩書きがあるが故に、秘匿されていたようだが、本人の口から全部吐かせた」
「吐かせたって……拷問かなんかか?」
「いや、聞いたら全部洗いざらい話した」
「やっぱり洗脳は解けてるのか?」
「分らんから一応監視付きで、ひたすら仕事させてはいるが、今の所変な様子はないな」
「そうか、まあ俺が何か言ってどうにかなるモノでもないし、別にいいか。それで?邪神の化身は復活しちまったし、邪神教団も技術供与してきた第12機関長も正気に戻った。俺の仕事は終わりか?」
「まだフロリベスとの決着がついてないだろ?」
「それはそうだが、もうここまで来たらどうでも良くないか?レディとフロリベスで決着つけてもらえば、全て丸く収まる……」
「そうはいかん、レディは【王国】海運事業の実質仕切りを担う大物だぞ?負けてもらっては世界の損失を補填する方法が思い浮かばん」
「別にフロリベスがいるんだから損するのは一部の既得権益者だろ?」
「相手は邪神教団だぞ?」
「だから何だよ?ずっと敵対はしてきたが、あくまで邪神の化身復活って部分で利益がかみ合わなかっただけだろ?もう復活しちまったってのに、何をいがみ合う事があるんだ?」
「だろうな。なんとなくそう言うと思ったぜ。フロリベスに何度かはめられた件についてはもう溜飲が下がったか?」
「そりゃ、こっちは大人数で拠点を一斉襲撃してるんだぞ?お互い何も言わずそっと手を引けば一件落着って訳にはいかないのか?」
「全く……お前がそこまで乗り気じゃないとなると、どうしたもんかね~」
「まあなんだ?仕事だと言われればやるさ。俺の嫌いな賊を狩るのをあんたはずっと支援してくれてた。だったら危険な組織を潰すのが仕事だってならやる。ギブアンドテイクそれだけだろ?」
「確かにお前との関係はそう割り切った方がいいのかもな。俺だってずっと公平にやってきたつもりだしな。ならお前を動かすに足る報酬なり、情報なり集めてこよう。それまでは好きにしてかまわん」
「好きにしてって……邪神の化身は復活してるんだぞ?」
「そこまでの大事は俺の手には余る。既に各国のトップ同士が話し合いと調整を進めてるし、俺の出番はないよ。勿論お前が邪神の化身との戦いに参加したければ邪魔しないし、何なら手を貸す事も吝かじゃない。レディとフロリベスの件は改めて先方と話をつけてくるさ」
「別にやらないとは言ってないからな?必要ならちゃんと手は貸す。ただここまで知って邪神教団に対して憎しみはないってだけの事だ」
「分ってるさ。お前には十分戦ってきてもらったからな」
「何の意味もなかったようだがな」
「皮肉を言うなよ。まだ情報整理中だが、どうやらあの対邪神の化身兵器は未完成だそうだ」
「そうなのか?」
「ああ、お前のこれまでの働きのお陰で十分な資材が集まらず中途半端なまま起動し、邪神の化身となったそうだ。お前のこれまでの働きは無駄じゃない。間違いなくお前はヒーローだよ」
「妨害しか出来ないヒーローね……別に悪でも正義でも皆それぞれ事情抱えてんのに、あえてそれを分ける事で誰が得してるんだろうな?」
「今度は哲学か?」
「いや、正義なんて社会に適応できない奴らをボコボコにする以外に何に使えるのかと思ってよ」
「さあな?俺も正義なんて標榜するガラじゃないし、正義も悪も力を求めて、自分の都合の為に振るってるって言われて否定する言葉はない。敵は潰せと言うがな」
「ふん!まあいいさ。ずっと邪神教団とやり合ってて疲れたし、世の中が大慌ての最中に大いにサボるのも一興だろう」
「くっくっく……酷いヒーローだが、少し邪神の化身と戦うヒト達を見てきたらいいんじゃないか?」
「そうする。何かあればまた連絡してくれ」
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【王国】クラン『Kingdom Knights』
「つう訳で、俺は休暇だ。まずは研究資金稼ぎの為の<錬金>にでも精を出す事にする」
「はぁ?今プレイヤー総出で邪神の化身を倒そうって時に何言ってやがんだ?!」
いつもの研究棟の隅、自分の発言に一々驚いてくれる白い騎士、なんというか……。
「日常だなぁ」
「いや、だから何言ってんだよ!なぁ!おい!決戦の時が刻一刻と迫って皆が追い込まれてる時によう!」
「まぁ待て!俺だって何もしないとは言ってないだろ?」
「そうか?そうだよな!正義のダークヒーローブラックフェニックスに何の考えもないとかそんな事言わないよな!」
「おう!何しろフェニックスフレアボムの大量発注が来た」
「はぁぁぁぁぁああ???」
「いや、だからあの自爆にしか使えないって言われてたフェニックスフレアボムの大量発注がきたんだよ!やっと時代が俺に追いついたぜ!」
「えぇぇぇえええ!あんな危険物一体誰がそんなに欲しがるってんだ?」
「よく分らんが邪神の化身の外殻を破壊する為に1万基程セットするらしい」
「うぇうぇええええええ!!!アレ一個金貨何枚するって言ってたか?それを1万基だと!!なぁ、何かの間違いじゃないか?」
「いや、正式にNPCを通した取引だし、その場合詐欺はないだろう。と言うより特急料金でしかも前払いだった」
「マジかよ……世界には金持ちっているんだな……じゃあお前はそっちの準備があるから戦闘本番はぶっつけってことになるか……」
「?何で俺が参加するんだ?」
「いや、お前ブラックフェニックスじゃん!そりゃ出るだろ?」
「何でだよ?」
「いやいや!お前自覚ないのか?アレだけ闘技場で暴れておいて?お前既に巷じゃ上級プレイヤーの一角だって噂だぞ?」
「???どこのブラックフェニックスの話だ?」
「俺の!目の前にいる!冴えない<錬金>使いだよ!」
「あのさ?俺は集団戦苦手だって言わなかったか?」
「まだ、駄目なのか?」
「前よりはマシだろうが、でも今回は相当人数集まるんだろ?敵の姿を近くで見たが、尋常じゃないサイズだったろ?」
「まぁ、俺もちょっと見に行っちまったけど、アレはヤバイな……じゃなくて!マジか~お前は出れないのか~」
「何をそんなに落ち込んでんだよ?」
「いやだって邪神の化身だぞ?何だかんだ数年続いてるこのゲームで、やっと現れたワールド級って言ってもいいボスだぞ?負けたらどんなペナルティがあるかも分らないんだし、全力でかからない訳にいかないだろ?何とか参加出来ないのか?」
「何とかって言われても、俺が出た所で足手まといになるのは目に見えてるし、お前達に任せる」
「あっさり任せやがって……分った!約束する!俺がお前の分まで全力で戦ってくるぜ!だからお前はお前の出来る事全力でやれよ!」
「お、おう。まあそのつもりだが、約束するよ」
そんな会話だけして後の数日は必死にフェニックスフレアボムの材料となる火精風精のフィルムケースを生産し、足りない分は自分の変身用を使用した。
取り敢えずは邪神教団とも決着がついてるし、大丈夫だろうと言う判断だ。
風精は緊急脱出用にとって置きたい気持ちはそれはもう山々だったが、自分が戦わないなら、これから戦う奴らの為に使うのが生産職としての筋だろうと踏んでの行動だ。
たった二本フィルムケースが無いだけで自分を構成するピースが一部欠けた様な不安を感じるが、それだけフィルムケースに依存して来たと言う事なのだろうか?
結構それなりに日々真面目に技量を高めるべく【訓練】は続けていたつもりだが、やはり自分はアイテムや装備に頼らねば戦えない半端者、重要な戦いで足を引っ張る訳にもいくまいし、後方支援が似合うだろう。
つい誰もいない研究棟の隅でブラックフェニックスの装備を取り出す。
全身タイツに張りぼてアーマー、謎技術で精霊の力を通せるブーツ、盗賊の篭手、完成版まぜーるくんナックル事フェニックスアーム、妖怪?を倒して手に入れた冑、そして二本のベルト。
一本は勿論今現役で使ってるものだ。もう一本が、ボロボロになりながらも何とか残ったベルト。
旧ベルトはアタッチメントも爆ぜ飛び、最早一応使えるというレベルの代物だが、それでもフィルムケースが自分の最大の戦闘手段である以上はいざという時の予備がどうしたって欲しい。
と言う事で修理してもらい最低限の機能だけは復活した予備ベルトはいつでもアイテムバッグに仕舞ってある。
どうせ一緒に戦う事は出来ないが、それでも気になり決戦場に向う。
決戦場は【大砦】と呼ばれる【王国】平原の中心近くにある施設だ。
名前の通りやたら大きな砦で、戦う為に作られた施設にも関わらず、都かと言う程あらゆる機能が詰め込まれている。
それでいて、時折大量のスケルトンが現れて全部破壊されてしまうクエストも発生するらしいので、やはり都には出来ないのだろう。
邪魔にならない様、素知らぬ顔で大砦の片隅に潜み、時を待つ。
急にざわめきが増したかと思うと、遥か遠くに巨大な釣鐘状の山が見える。
大半の者は出撃し、その山へと向かって行くが、同時に山からもうじゃうじゃと何かが這い出すのがうっすら視認できる。
ここからどう戦うのかゆっくり見物させてもらおう。
ゲームとは言え、世界の命運を賭けた戦いでただの見物とはいい身分だが、戦えないのだから仕方ない。
次週予告
邪神の化身は復活したものの相変わらず集団戦を苦手とするブラックフェニックス
それでも彼は単独決戦場に向かい潜伏する
多勢がぶつかる戦場において『孤軍』世界を守る為に戦う




