45.復活
とある日の事【王国】のアジトでログインし、クランの研究棟に向かうか、ブラックフェニックスになって闘技場に行くか迷っている所に、いつも受付にいるニコニコしたおばちゃんが近づいてくる。
「ほら、あなたの得物だよ。それじゃ任務を伝えるね」
「はぁ?何でおばちゃんが任務を伝えるんだ?」
「第10機関長、あんたの依頼人の蠍ね。大空洞に閉じ込められちゃったのよ」
言いながらフェニックステイルを渡してくるが、何かまた少し変わった気がする。
「えっと、どっちから処理すりゃいいんだ?こりゃ」
「まずは得物の方だけど、今までよりずっと連続使用時間に余裕が出来て、一々腰のホルダーに戻さなくてよくなったの」
何を言ってるんだ?と思ったが現物を直接見れば一目瞭然。
ホルスターから線が延びて、フェニックステイルの柄の後ろに繋がっている。
つまりベルトやボディに仕込んでいる〔術士の石〕から直接エネルギー供給が可能なのだろう。
なんならホルスターにも石が仕込まれている。
更に手を放すと、勝手に丸まりホルスターに戻っていくので、ダメージを喰らって手放す心配がなくなったし、重精斥力装置を使う時に一々仕舞わなくても、鎧の一部として処理してくれるかもしれない。
「なるほどな。これは便利だし助かるが、問題は蠍の方だな」
「そうね。場所は【教国】にある大空洞、そこで大量の瘴気にまかれて立ち往生しているのよ。それの救出に向って欲しいの」
「ああ、つまり蠍救出依頼だから、おばちゃんなのか。瘴気ってヒュムには毒なんだろ?大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないわ。でも今は他の機関長達と一緒だからある程度の時間は保つとは思うの。だから大急ぎで助けに行ってくれないかしら」
「そういう事なら急ぐが、その機関長ってなんだ?」
「あらあら、聞いてなかったの?あなたへの依頼はずっと【教国】第10機関から出されていたものよ?機関って言うのは【教国】の機能と仕事を振り分けたもので、第10は主に内部の調査、場合によっては処分。つまり嫌われ役ね。だからあなたみたいな口の堅い外部人員が必要なの」
「内部調査に外部の人間を使うってのは、なんか醜聞が漏れそうだし、普通はやらなさそうだがな」
「そう?でも蠍はあなたを信用してたわよブラックフェニックス」
「そうかい?それなら信用に応えなきゃな。その大空洞ってのは【教国】に行けばすぐ分るものなのか?」
「ええ、誰でも知ってるわ。かつて世界樹が有ったとされる聖地の一つよ。本当にただの巨大な穴がぽっかり空いてるの。その最下層で大事な用件があったらしいんだけど、邪神の化身が復活しちゃったのよ。それで瘴気にまかれちゃって、本当に困ったもんね~」
「ちょっと待った!邪神の化身復活したのか?!」
「そうよ?だって復活する事は決まってたじゃない。何を今更慌ててるの?」
「いやいやいや!世界の敵だよな?何の前触れもなく、そんなあっさりと復活しちまうものなのか?」
「そうね~多分復活に関わった当事者からしたら本当に色々あったんじゃないかしら?でも、端から見たら確かにいきなりよね~困っちゃうわ~」
「困っちゃうわ~って、何かもっと大変な敵なのかと勝手に思ってたんだが、そこまでじゃないんだな」
「?最悪世界が滅びるわよ?」
「世界が滅びるかもしれないのに、困っちゃうわ~って?」
「困っちゃうじゃない。あなたが寝てる間の事だけど、破滅の光を使ったのよ。本当に世界が昼より明るくなったんだから!もうね、びっくり!」
「へ~、世界が昼より明るくか~」
駄目だ理解の範疇を越えた話だこりゃ。まずは目の前の蠍救出に集中しよう。
大急ぎでブラックフェニックス状態になり、準備を万端に整える。
空腹度と渇水度が途中で切れないように、おばちゃんがアラビアータとコンソメ風スープを作ってくれたのでかっこむ。
「さっきも言った通り内部は濃い瘴気で満ちてるから応援も道案内もないから、くれぐれも慎重にね」
「ああ、とにかく下に向っていけばいいんだろ?」
「そうよ!横道に逸れると複雑な道のりになるから、出来るだけ真っ直ぐ降りていくといいわ。あとこのセットも一緒に持って行って頂戴」
そう言ってデカイ箱を渡されるが、幸いアイテムバッグに入れる事が出来る品だったので、詰め込んで急ぎ出掛ける。
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ポータルを使い【教国】に飛ぶと、趣のある独特の美しい街並みの印象を粉々に粉砕するかのように、デカイ釣鐘状の山が浮いていた。
【教国】は都一つしかない特殊な形態の国で、ポータルで飛べる場所も勿論一つだけ。
本来なら大賑わいの筈の国が、今は廃墟のように静まり返っている。
破壊痕の一つもないのに、歩いているのは犬の様な普通の動物が一匹といった異常な様子に思わず気を飲まれるが、プレイヤーは瘴気の影響を受けないのだし、自分にしか出来ない仕事をしに行こう。
一点困るのは【教国】にいるヒトなら誰でも分かると言う、大空洞の場所を聞く相手がいないと言う事だ。
流石にそこらをほっつき歩いてる誰かのペットらしき獣に聞いてもな~……。
「なぁ、お前は大空洞って知ってるか?」
「くぅ~ん」
か細く一鳴きするとどこかに向って走り出す犬が、少し走るとこちらを振り返る。
いや、まさかな~と思いながらついて行くと、そこには確かに大穴があった。
底は到底見えず、向かい側の端すらどうなっているのか分らない。そして頭上には山。
とりあえず尻尾を振ってこちらを見てくる犬に、携帯食料用にと買っておいた干し肉を与えると、嬉しそうに食べてどこかに去っていった。
とりあえず穴の縁まで来ると、うっすら瘴気が穴の中からモヤモヤわき立つのが見える。
しかし、どうやって降りようか?
下はほぼ絶壁だし、階段があるわけでもない。
大きく息を吸い込み、自分の顔を一発はたく。
「男は度胸!」
アーマーのギミックを展開して、グライダー状態にする。
あとはそのまま穴の中に突っ込んでいくのみ!
念の為、フェニックステイルに陽精のフィルムケースをセットしておく。
何しろ上から見る限り中はかなり暗そうだ。一応夜間戦闘に備えたスキル構成ではあるが、念を入れておいて困る事はないだろう。
穴の中は案の定かなり暗いが、真っ暗と言う程でもない。
そして、本当に何にもないただの空洞だ、
フワフワと円を描くように慎重に降りていくが、今の所異常は感じられない。
もし仮にあの上に浮いている山が邪神の化身で、この穴から出てきたのだとしたら、さもありなん。
障害物的なものがあっても、全部破壊してしまったのだろう。
ちなみに邪神の化身がなんであの山かと予想できるかと言うと、幾らなんでもこのゲームで山が浮いてるなんて事はないからだ。
そして真下には瘴気で満ちる空洞があって、そこに機関長とかいうお偉い連中が閉じ込められてる。
どう考えても、邪神の化身復活を邪魔しようとして、返り討ちにあったとしか思えん。
そういや、聖石を集めてた隊長はどうなったんだろうな?
邪神の化身を復活させるようなヤバイ奴が相手だし、やられちまったか?
もしくはイベント的な何かで奪われちまったか、そんな所だろう。
しかし、随分と深い穴だ。幾ら降りても地面に辿り着かないんだが、世界樹ってのはそんなに巨大な樹だったのか?
だったら、どこに行っちまったんだろうな?枯れちまったのか?
自分の中に色んな疑問が浮いては消える。応えてくれる相手はいないと分ってていても、止まらぬ思考。
幾らでも無限に続いていそうなくらい大穴に落ちていく、緩やかに真綿で絞め殺されるような感覚に抗う為には考え事でもしてないと心を保てない。
ふと、遥か下の方で、何か光ったような気がした。
気のせいかもしれないが、念の為と思い、フェニックステイルを陽精を使って光らせて振り回してみる。
白く目を潰すような明かりに結局辺りの様子は見えないのだが、剣を戻すとやはり下で何か光っているのが見えた。
少なくとも底はあるのだという安心感に、ほっと胸を撫で下ろし、ゆっくりと光った場所を目指す。
光が近づくに連れて、その場には数人のヒトが固まっている事が分る。
壁際の足場で何やらフィールドを展開しているが、それで瘴気を防いでいるのだろうか?
壁際に目を凝らし、何かの残骸が突き出ているのを見つけたのでフェニックステイルで絡めつつ、着陸する。
その場には10人の男女と一人の倒れている男。
「蠍いるか?」
「よく来てくれたなブラックフェニックス。救援隊が来るにはもう少し時間がかかるだろうと思ったが、先行してお前を派遣してくれるとは、うちの連中も気が利くな」
「そうなのか?一応コイツを持ってけって言われたんだが?」
そう言っておばちゃんから預かった箱を差し出す。
結界のようなモノを張っているが、幸い自分に影響は無かったので、箱を結果の中に押し込む。
すると、中には何やらローブやら指輪やら色々と詰め込まれていたが、自分に判別で来たのは〔術士の石〕だけだ。
「なんだ?〔術士の石〕が必要だったんなら、俺が作ったやつも使うか?」
「それは助かるぜ!お前の<錬金>で作った質の石ならかなり助かる!」
と言う事なので、自分が金策用に溜め込んでいた〔術士の石〕も全部蠍に渡した。
「それで?脱出プランは特に聞かないまま来ちまったんだが、これで何とかなるのか?」
「ああ、本気で助かった。術で結界張って粘ってたが、永遠にそうしてる訳にもいかんからな」
「さっきごそごそ取り出した装備で、瘴気の中でも行動できるってか?」
「察しがいいな!その通りだ。ついでで悪いが、脱出も付き合ってもらっていいか?」
「別にかまわんけど、俺は直接グライダーで降りてきたから、道はわかんねーぞ」
「それは問題ない。困るのは魔物だ。俺達もそれなりに戦えるが、瘴気の所為で制限もある。お前が一緒に来てくれると助かる」
「分った」
了承すると、機関長達が一斉に動き出すので、自分は蠍と一緒に歩く。
「それでどこまで聞いたんだ?」
「あんたが第10機関の機関長だって事と、この場にいるのが【教国】のお偉いさんだって事か」
「それだけの情報で、よく飛び込んできたな。上に浮いたやつは見たか?」
「ああ、今も浮いて蓋みたいになってるぜ。あれが邪神の化身なんだろ?」
「……いや、対邪神の化身兵器の筈だが?」
「そうなのか?まあどれが邪神の化身かはまだ聞いて無いから、勘違いしてたわ。そうかあの山みたいなのは対邪神の化身兵器なのか。じゃあ邪神の化身は?」
「いや、知らんが、邪神の化身が復活したのか?」
「ああ、なんか破滅の光を撃ったら、昼より明るくなったって聞いたぞ」
「くそ!ちょっと閉じ込められてる内に、外は大変な事になっちまったみたいだな」
「まあ俺も寝て起きたらこれだから、よく分らんが、こっちは何があったんだ?てっきり邪神の化身復活を止めようとして返り討ちにでもあったんだと思ってたんだが?」
「まあ、色々あって隊長の指名手配を解いたんだよ。そしたらそこで倒れてる第12機関長が対邪神の化身兵器を起動して、このざまだ」
「ふーん。それにしても対邪神の兵器ってのは何でこんな瘴気を吐き出すんだ?」
「それは分らん。分るのは作った第12機関長だけだ」
そんな話をしていると、不気味な真っ白いヒトが四つん這いで走り寄ってきた。
何となく気持ち悪かったので、フェニックステイルを取り出し、雷精のフィルムケースをセット。
ぶん殴ると、バチバチと紫のエフェクトが走って、それだけでひっくり返り動かなくなる気持ち悪い何か。
近くで見ると肌も白ければ目も真っ白で、黒目の無いヒト型の化け物。
死んでいるようだが、元々死体のようにも見えるし、どうしたものか。
すると、女性のヒトが何か術を使い、降り注ぐ光の中に化け物が消えていってしまった。
「どうなってるんだ?」
「何だ、初めて見るのか?ヒトの死体が魔物化した物を倒すと信仰が溜まる。信仰ってのは<法術>を使う時の媒介として消費されるものさ。さっきの術を使用すると魔物の死体を完全浄化して、多くの信仰を手に入れる事が出来る」
「なるほどね。あの白いのはヒトの死体が魔物化したもので、それを浄化する方法をあんたらは持ってると」
「そうだ。だが、瘴気の所為で十全な状態で戦える訳じゃない」
「分ってる。俺はいつも通り暴れりゃいいんだろ?敵がヒトの死体だって言うなら、余計にやりやすい。俺は対人戦の方が得意だ」
「そうだな。ここは任せるぜ、次の部屋にはうじゃうじゃ出て来るからな」
「は?」
空洞の壁には扉があり、皆ぞろぞろと中に入っていく。
魔物が出ると知ってても尚いくという事は、避けられない順路と言う事なのか?
次週予告
遂に復活した邪神の化身
予言は当り世界は決戦へと準備を始める
しかしこれまで邪神教団と戦い続けたブラックフェニックスは集団戦が出来ない
『傍観者』としてその行く末を見守るのみ




