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42.裏闘技

 「おい、お前達が俺にも闘技に参加しろって言ってきたんだぞ?」


 「あ……それはそうなんだが、見ての通り全員装備から何からボロボロにされちまって、何にも出来ないんだ」


 「一体全体何があったんってんだ?」


 「そりゃこっちの台詞だぞ。無限に再生してくる化け物みたいな敵だとは聞いてたし、それこそヒーローの敵だと勢い込んだもののよ……」


 「ああ!筋力は異常だし、動きは人間離れしてるし、酷い目に合ったぜ」


 「おいおい、ヒーローだろ?それじゃ支部壊滅は失敗したのか?」


 「いや!それは世界の為平和に暮らす人々の為、やりきったぞ!代償として装備をフルメンテに出す事になっただけだ」


 「ありがたいことに修理費は全部ガイヤのスポンサー持ちだそうだ。いやー酷い目に合った」


 「戦う前は随分と楽しそうだったのに、闘技場で戦いなれてるんじゃなかったのか?」


 「寧ろ俺達は普通の人間範疇の動きをする敵に慣れちまってるから、急に舌が伸びてきて絡め取られるとか」


 「骨の一部が飛び出して腹を貫かれた時の驚きと感覚といったら、そりゃ怯むだろ」


 「まぁ、腹貫通した所でエフェクトが散るだけで、内臓が零れ落ちるとかそういう事はないし、別に何て事ないだろ?」


 「なんつう奴だ。あんな異常な連中と見えない場所で戦い続けてただけの事はある。俺達が日朝ヒーローなら、ブラックフェニックスは深夜特撮ヒーローだったんだな」


 「なんじゃそりゃ?まぁいいや。お前達のお陰で俺の依頼主もご機嫌だったし、俺も闘技で一戦しないと義理が立たんと思ってたが、その状態じゃ無理そうだな。また来るぜ」


 「おう!また誘うから、お前も誘ってくれよ!世の闇で動く邪神教団との戦い!いつでも協力するからな」


 「懲りない奴らだな~」


 そんな訳で、折角【闘都】にやってきたのだが、ヒーローも悪の組織も軒並みボロボロだそうな。


 あっという間に手持ち無沙汰になり、いっそ【闘都】周辺のPKでも狩ってやろうかと思いつつ、ブラブラしていると、見覚えのある巨漢が一軒の食事処と見られる店から出てきて、どこかに向う。


 普段ならそんな事はしないのだが、今日は暇なので折角だからつけてみる。


 これが女子相手ならストーカー行為だし、男相手だからってやっていい事じゃない。


 しかし、目の前を歩いているのはこの都の裏に蠢く悪党、ベガだ。


 勿論悪党だからつけ回して言い訳じゃない。寧ろ危険に巻き込まれる可能性が高いので、悪い人とは積極的に距離をとった方がいい。


 まぁ、悪党だからって昼日中から飯食ってて悪い訳じゃないし、この都を拠点にしていればそこいらをうろついている事もあるだろう。


 だが今迄自分は敵に興味がなさ過ぎたと反省したばかり、ここは一つ敵の日常を探って、弱点の一つでも見出してやろう。


 例えばそうだな……火精耐性はあるのに猫舌とかな!


 どうせ暇だからとアホな事を考えつつ、一定距離を保ってベガの後ろをついて行くと、今度は床屋か?


 この世界自分も含め皆アバターだが、こういう施設に行けば髪型や髪色変更なんかも可能だ。


 特殊なカラーにしたければ、色々と集めなきゃいけないアイテムもあるのだが、多少の気分転換程度なら、別に高いモノでもないし、噂によると美容系スキルと言うのも存在しているらしい。


 自分は余り興味ないのだが、それこそNPCからの評判に関わったり、完全に顔を変える整形のようなことも出来るらしい。


 勿論現実みたいに手術する訳じゃないので、本当にアバターの見た目が変わる。


 ちなみに髪型を変える時も別に切ってる訳じゃないので、ショートからロングに変更する事も可能だ。


 そう言う所はリアルより、ゲーム性を取るのが、このゲーム運営の謎バランス。


 必要もないのに何故か設置されてるレトロな髪を切る例のデカイ椅子を倒して、髭を当ててもらってるベガ。


 何やら店主らしき白髪の理容師と話しているようだが、片や顔にタオルがかかり、片やマスクをしているのでその内容までは分らない。


 何なら読唇術を持ってる訳でもないので、見えたからと言って分る可能性は限りなく低い。


 床屋の向かいの甘味処で、クレープが売っていたので、適当に頬張る。


 ちらっと店員を確認すると、どうやらプレイヤーらしい。


 最近はプレイヤーもかなりゲームの社会に溶け込んでいる気がする。


 最初はフルダイブVRのMMOだからと矢鱈と闇雲に魔物を狩っては素材を売るのがゲーム!とばかりのプレイヤーばかりだったものだが、寧ろ今はNPCが主役の社会に参加してるって感じか?


 AIが搭載されていると運営が公式に発表しているNPCだが、これが本当に普通にコミュニケーションを取れることだけでも、正直いつの間に世界がそこまで進歩したのか?と思わないでもないが、


 どうやらそれも、このゲームが運営されている理由らしく。


 自分達の行動や言動からAIが学習しているとのことだ。


 ある意味じゃプレイヤーでありながら情報収集の材料にもされているという事だ。


 まあどう考えるかは人それぞれだが、自分はゲーム世界に入りこんで遊べるという体験を一般人でも手に入る金額で体験出来るならそれはそれでいいかなと思う。


 よっぽど自分の情報を外に出したくない人間にはお奨めしないがな。


 なんなら普段さり気なく扱ってるアプリからだって無限に自分の情報を垂れ流しているのだし、今更どうしろって話。


 いっそ国の認可が必要なデリケートな研究と一緒に運営されてるゲームの方がまだ安心でいるって言うその程度の感覚だ。


 さて、考えがそれた所で、ベガが出てきてまた都内をうろつきはじめる。


 とっくに食べ終わったクレープの外紙は、破壊して霊子に帰した。


 お次はクリーニング屋?服関連装備のメンテナンスをしてくれる店なのだが、外観が完全にクリーニング屋だ。


 筋肉こそベガの武器であり防具の筈だが、なんでこんな所に用があるんだ?


 さっぱり、よく分らないがやはりここの店主とも知り合いなのか談笑している。


 それも店の外で待ちつつ、待ち行くヒトの流れを眺めて時間をつぶす。


 今見えているものが全部情報世界の作り物だと分っているが、目や脳が慣れると不思議と本当に自分がここに生きている気すらしてくる。


 死ねば死に戻るだけだし、怪我をしてもエフェクトが出るだけで、本当に手がなくなるわけでも、足が動かなくなる訳でもない。


 完全な虚構に没入していく感覚。ここで自分は一体何をしているのだろうか?


 つい思考の海で自問自答を始めた所で、ベガがまた出てきた。


 いつの間にか日が傾き始めるので、そろそろアジトに戻ろうかと思いつつ。次で最後と決めてベガについて行く。


 今度は少し大きめな劇場付きの飲み屋に入り込むので、ついて行くと扉前にいた丸坊主のセキュリティに止められた。


 「コチラ会員制となっておりますが、会員証はお持ちですか?」


 「いや、知らなかったんでな。すまん」


 「いえ、それではまたのお越しをお待ちしております」


 ぱっと見の圧力と違って丁寧な物腰、さすがは会員制の店のセキュリティと言うわけだ。


 ベガを付回すのもここまでか、丁度いいと思った所で、呼び止められる。


 「お客様失礼しました。お席に案内させていただきます」


 そう言われて、シャツに黒いベストを着た背筋のピシッとした男に案内されて、店内に入り込む。


 地下に降りていく形の様だが、何故か途中階で横道にそれて、個室に案内された。


 そこには暗い赤の革張りのソファが円形に並べられ、ベガが一人で飲んでいた。


 「何だ一緒に呑む友達とかいないのか?」


 「くっくっく、まあ座れよ」


 うながされるままにソファに座ると、案内してくれた男はいつの間にか部屋から消えて、ベガと一対一になる。


 「随分と優雅なもんだな会員制の店の個室で一人呑みとは……」


 「まぁ、ここもうちの収入源だからな。ずっとつけてたんだろ?」


 「何だ気がついてたのか、それなら声をかければいいのに」


 「別に見られて困るものもなかったしな。あの理容室あったろ?あそこで大体つけてる奴がいれば分るようになってんだ」


 「へ~、昼日中から邪神教団が何やってんのか興味あったんだが、ブラブラしてるだけだったな」


 「ふん、言ったら俺達はこの都の裏の顔だ。上からは金持ち共が支配しているつもりなんだろうが、住んでる連中がいなけりゃ街だろうと都だろうと立ち行かない。これは当たり前の話だろ?」


 「ま、そりゃな」


 「この都だって金持ち共が好き放題金の力で上から押さえつけてきたから、そこに反発した現地民が見えない繋がりを持つ事で、対抗して来たっつう過去がある」


 「そりゃ、物騒な話だな」


 「そうか?お前の事だからいけ好かない金持ちを暴力でねじ伏せるんじゃないか?」


 「かもな。だが俺も依頼人がいて成り立ってるし、好き放題って訳にはいかんぜ」


 「ふん!まぁそうやって邪神教団は力のないあぶれ者の集まりが更に集まって出来てんだよ」


 「なるほど、確かにフロリベスも邪神教団の援助で今の地位についたんだったか?」


 「ああ、アイツは元々金持ちで、事故で没落、また金持ちになったが、没落した時に世話になった連中への義理を忘れる奴じゃない」


 「なんだ?アイツの拠点を同時襲撃した事、怒ってるのか?」


 「いや、俺達とお前は今の所敵だ。理由は簡単、邪神の化身を復活させたいか、させたくないか。はっきり意見が割れて、お互いがお互いの足を引っ張り合ってるのに、文句言ったところで仕方ないだろ」


 「流石、幹部ともなると話がよく分るんだな。それじゃ何だってんだ?」


 その時、扉が開き女が一人入ってきた。


 「ちょっと協力して欲しい事があるのよ」


 「フロリベス……今俺達は敵だって認識が合った所なんだ。協力しろってのはおかしいだろ?」


 「それがそうでもない。お互い利のある話だ」


 「そうよ。私とペルラ……レディの間に因縁があるのは知ってるわよね?」


 ペルラといった瞬間。ベガがフロリベスを睨んだのが分ったが、多分レディの本名なのだろう。


 そしてそれは邪神教団の四天王すら名前を声に出してはいけない相手なのだろう。


 「そりゃな。レディの情報提供とバックアップあってのこの前の同時襲撃だからな」


 「確かにアレでかなりの痛手を負ったわ。手足のように動かせる改人を殆ど失なっちゃったしね。それでレディに決着をつけるためにメッセンジャーをして欲しいのよ」


 「ああ、そんな目で見るな。落ち目の連中の話にあのレディが乗るのか?ってんだろ?乗るぜ。何しろレディは闘技が本当にお好きだ。ところがどっこいこっちには俺と言う現地民に顔が利く者がいる」


 「つまり闘技を邪魔されたくなければ、話に乗れって訳か。そんな脅しが効くかねぇ?」


 「効くかどうかは、関係ないの。決着を付けたいのはお互い様なんだから、あとはこの話に乗る理由があればそれでいい。このまま行けばお互い足の引っ張りあいでただの泥沼」


 「金持ち喧嘩せずってのは、そんな事をすればお互いが損をして、その間に横合いから全部掻っ攫われるのが分ってるからさ」


 「ふーん、それで俺は何を伝えればいい?」


 「裏闘技で決着をつけましょう。元々アレは利益がぶつかって揉める【商人】同士がどうにもならない時にどっちが手を引いて不利益を飲むか決めるものだから」


 「何を賭けようが、お前には関係ない話さ。お互い代表を出し合って闘技で決着をつけるだけ。立会人には全く利害関係がなくて、結果を曲げたりする事が絶対にない偏屈者を呼んだ」


 「そっちの代表は?」


 「内緒。そういう物なのよ。ルールも遵守するわ。というかしなければ問答無用で大変な事になる立会人だから」


 「何でまたそんな融通の効かない立会人を……」


 「こちらの本気を見せる為よ。本当にこの闘技で全てを決める気なの」


 「逆を言えば、それでこけても支障がない程、計画は進んじまってるってか?」


 「くっくっく、いい読みだ。フロリベスに聞いたぜ?四天王だっつってんのに、未だにこちらの全容が分ってないんだろ?」


 「そうだな。俺は勿論暴れる専門だし、依頼主も分ってるんだか分ってないんだか」


 「あなたもこの裏闘技に何か賭ける?」


 「賭けられるような持ち合わせが無いな」


 「まだ日はある。ゆっくり考えるといいぜ。じゃあ伝言頼むぞ」


 「頼むって、裏闘技で決着つけたいって言ってるって伝えればいいのか?」


 「そうよ。あとはおおよその段取りと言うものは決まっている物だから」


 「逆に変えちまうとそこに付け入る隙が生まれるから、粛々と決まり通りにやるのが慣例なんだよ」


 金持ちってのは面倒くさいなと思いつつ、とりあえず引き上げて蠍にこの件を伝える。

次週予告


 ベガとフロリベスの誘いに一先ず蠍に報告するブラックフェニックス

  四天王との決着までの時間に戦闘能力上昇を求め【森国】へと向う

   そこにはやはりもう一体の四天王が立ちはだかるがその姿は武人と言うより『機械人間』

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