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37.夜会

 指定された屋敷に向うと、初老の男が外で受付をしていたので、招待状を渡すと扉を開かれ中に導かれる。


 これでこの中ではずっと警戒される立場になるのだろう。


 何の為にわざわざ招待してくれたのかは知らないが、どうせ碌な事じゃない。


 ゆっくり会場内を巡り、どこに何があるのか配置を確認するも、今回は勝手に入れる部屋はなさそうだし、一体どこで着替えればいいんだ?


 相変わらずこの手の集まりでは、招待客達が商売の話に花を咲かせている。


 誰も彼もが仮面を被っているのによく相手をちゃんと認識できるもんだ。


 ふと、謎のプレッシャーを感じて入り口の方を見やると、丁度開いた扉から現れたのは、全く隠す気のない覇気を纏った二人組み。


 何が起こるか分らない夜会に男女でのお越しだが、女の方は闘技場の有名プレイヤー、もう一人は見覚えないがローブ姿を見る限り術士か?


 いずれにしても例のレディの代理の者ってのが、この二人である事は間違いない。


 何しろ闘技場有名プレイヤー炎の巫女ガイヤのスポンサーがレディである事はこれまた有名な話だ。


 素手プレイヤーなら武器持込の出来ないこんな会場でも暴れるに申し分ないだろう。相方もきっと何がしか戦う手段を仕込んでいるに違いない。


 いずれにしても、こんなやる気満々の奴らとは関わり合いになりたくない……無理だ。


 すぐに目を逸らしたのに完全にガイヤからロックオンされている。


 「あんた!何者だい!」


 「いやもう、本当に関わらないでもらって……」


 「だから、あんた何者だい?こんな所に来るニューターなんて、そうはいないだろ?ここの主人がどういう人物なのか知らないのかい?」


 「まあ、そりゃ知ってて来てるが、別に理由まで言う必要ないだろ?目立ちたくないんで、そっとしておいてくれよ」


 「あぁぁぁん?そうはいかないね!今日は特にキナ臭いってのに、巻き込まれる奴を放っておく訳ないだろ!」


 「いや、親切なのか、おせっかいなのか……頼むからこれ以上目立つのは勘弁してくれ」


 「ガイヤさん、この人もこう言ってるし少し様子見ましょうよ。見た感じ腕に覚え有りって雰囲気だし、何かあれば協力するって事でどうですか?」


 「分った、それでいい。何かあればちゃんと手伝うって」


 「分ったよ。気をつけな」


 すっかり目立ってしまったが、まあどうせ元々監視はされてるんだろうし、仕方ない。


 気を取り直して、いつもの蠍の部下が隠れている場所を探そう。


 しかしまあ部屋はない、机の下って訳もなかろうし……ふと大きな一枚ガラスの向こうに目をやるとやたらと大きな木が一本見える。


 こんな砂漠地帯に木なんて珍しいなと眺めていると、窓の下の茂みが動く。


 遠くの木を見る振りをしながら窓際に近づくと、蠍の部下が隠れていた。


 窓に触れてみるが、どうやって開けるのか分らない。もしかしたら嵌め込みか?だとしたら割るしか……。


 これはタイミングを見計らって飛び出すしかない。損するのはどうせフロリベスだし、構わないだろう。


 もし弁償する事になったら請求がいくのは蠍だが、まあ同情はする。


 「あの樹が気になりますか?」


 急に声を掛けられた所為か、ゾクッと背中に悪寒が走り、振り返ると見知らぬローブ姿の男が立っていた。


 何となく自分と意匠が似た雰囲気だが、何者だ?


 「ええ、こんな砂漠の真ん中に珍しいなと思いまして」


 「そうですか。あの樹はこの街の象徴、オアシスと共に遠い昔からこの地を見守る賢樹様ですよ。丁度今の期間は有力者達が賢樹様に挨拶に来る為、只でさえ賑やかなこの街が更にヒト通りが多くて、混沌として中々に愉快ですね」


 「その賢樹様ってのは、何で賢いって言われるんだ?」


 「くくく、賢樹様を知らねばそうなりますか。賢樹様は本当に長い事この地を見守る存在ゆえに、その幹に触れれば会話する事も可能なら、相談ごとにも乗ってくださるんですよ」


 「そりゃ、確かに賢樹様と言っても差し支えないのかもな。それで?何か用か?」


 「いえいえ、同国人がこの夜会に呼ばれていたので、ちょっと興味があっただけですよ。どちらの機関の方かとね。何しろ今日は……」


 「ふふふ、折角来たのにもうお帰りですの?帰ってもいいですけど、その魔石は置いていってくれないかしら?」


 その時会場中の視線が一点に集まる。


 フロアの階段の上から、今日の主催であるマダム・アリンが現れ、その視線の先にはガイヤとさっきの術士がいた。


 今回魔石を持っていたのは二人の内どちらか?……いや、術士の男の傍らにあからさまな箱を持つ男がいる。


 気の強いガイヤは、扉の前に立つ屈強な男を物ともせずに押し通ろうとしているが、多分手長の改人?


 これは急いで、着替えなければと窓の外をうかがおうとした時、さっきまで話してた男と目が合う。


 皆マダム・アリンに気を取られているのに、こちらへの警戒を解かないのはどういう事だ?


 そんなこちらの思惑をよそに、ガイヤがいきなり赤いオーラを発して、手長を……燃やし尽くした。


 容赦ないってレベルじゃない。気に入らないからやっちゃったのか?戦闘狂にしたってもう少し考えの一つも有りそうだが、いきなり燃やし尽くすレベルでぶん殴るとか……。


 そして術士もさして気にした様子も無しに、出て行こうとする辺り同類か?


 さすがにこの状況には目の前の男も扉の方に釘付けになった。


 この隙に窓を割ろうと思ったら、


  「ふ~ん、そう?コレだけこちらの手札を見せているのに、まだ姿を現さないのね?ブラックフェニックス」


 マダム・アリンが会場内を睥睨するように俯瞰して確認している?


 ならばと、丁度目の前にいる男の影に重なる位置にこっそり移動し、ポケットをまさぐり、陽精のフィルムケースを取り出して起動。


 すぐさま窓を割って飛び出すと蠍の部下が自分の装備を投げ渡して、そのまま館から逃げていく。


 相変わらず最低限にして必要十分な仕事だ。


 着慣れた装備を大急ぎで装着し、来ていたローブは鞄の中に仕舞い込む。ちなみにインナーの全身タイツは最初から着ていたので、裸にはなっていない。


 大急ぎで会場内に戻るとまだ大半は目潰しをくらって動けないでいたが、手長足長にガイヤと術士はすでに回復して戦いが始まっている。


 問題はさっきまで話していた男の姿が消えている事だ。


 いい状態じゃないのは当たり前だが、今探索している暇はない。すぐにも二人の助太刀に向わねば、無限再生する改人相手に有効打が無いだろう。


 一応口約束とは言え、いざとなったら協力するとも言ったし、ここは二人と魔石を持った男を逃がしてから、マダム・アリンに対応しよう。


 「待たせたな、マダム・アリン!いや四天王フロリベス」


 「ふふ、やっときたのね。ブラックフェニックス!罠と分っていてあえて飛び込んでくるなんて、なんてお馬鹿なんでしょう」


 「魔石の取引の情報をちらつかせて呼び出しなぞ、よくやってくれる。だが、お前の相手はこいつらの後だ」


 後だ……。


 すでに術士が足長を締め上げている。完全にベアハグで、圧倒的に力勝ちして足長が苦しみ、暴れる事すらできない。

 

 「よし、そのまま抑えてくれ……」


 「再生するなら、破壊しないままギリギリまで削る!」

 

 何にも他人の話し聞かないんだけど、脳筋か何かか?ベガと仲良くなれそうな奴だな。


 見た目術士のような服なのに、中身は只の筋肉だこいつ。そのまま足長から力が抜けた。


 「力づくで、核に傷つけて終わらせるとか、何者だよ」


 そして、ガイヤの加勢に向おうにも、こっちも決着済み。


 まったく出番が無い事に頭を抱えつつも、逆に言えばここまで温存できたから良しとしよう。


 「どうやら、俺の相手はフロリベスお前だけだったようだな」


 「そうね~。本当はあなたを炙り出して倒す気だったんだけど、随分強い異物が二つ紛れ込んじゃったものね~。じゃあそちらのお二人は帰ってもいいわよ」


 「あぁぁぁん?邪魔するだけ邪魔して、今更帰れって?」

 「じゃあ自分は帰ります」


 ガイヤと筋肉の男の間で喧嘩が始まったが、帰ってもいいってのは多分嘘だ。


 すぐさま雷火と土石ハーフフィルムケースを起動、周囲に警戒していると、入り口の扉にいた初老の男が足長を掴み上げ、丸呑みにする。


 あまりに異様な光景に息を飲むが、二人のいい合いとフロリベスの茶化しが煩くて、集中できない。


 「さあ、核が二倍になった『改人』ちゃん達の力を試して頂戴」


 束の間、勝手なことを言い出すので、重精のフィルムケースを引き抜き手に持ったまま起動。


 周囲の重力を高めて足長を飲み込んだ二倍怪人を動きを封じる。


 そこらに散らばった机の破片もメリメリ音を立てて床に沈みこもうとしているが、まあなんでもいい。


 「こいつ達は俺が止める。その間に客を逃がしてくれないか?」


 言うが早いか筋肉の男が、手長を飲み込んだ方の怪人を弾き飛ばして扉もついでに破壊、そのまま逃げ道を作ると、一旦外に出て辺りを確認してくれているようだ。



 マダム・アリンの怪しげな取引仲間だったとしても、邪神教団と繋がりがあるかも分からない奴らが傷つくようじゃ、気になって大技は使えない。


 そのまま後を追うように館から脱出していく客達、これでやっと好きに暴れられる。


 そして、重精解除の方法だが、これまでは他のフィルムケースの力をぶつけて消していたが、今はフェニックステイルに装着するだけで力が剣身に流れ込み、操作可能になる。


 そこに戻ってきた筋肉の男にフロリベスの鞭が襲い掛かり、自分は重精のかかったフェニックステイルで横から邪魔をしていく。


 「おい!お前の目的は俺だった筈だ。そうやってコロコロ目移りしては見境なく襲い掛かって、どういうつもりだ?」


 「ふふ、時間稼ぎよ?」


 どういう事だ?とざわつく玄関の扉があったほうを振り返れば、逃げた筈の客達が屈強な男に担がれて屋敷の方に戻ってくるのが見えた。


 「どうします?」


 と、この状況でもどこか余裕気な筋肉の男に、


 「別にこんな夜会に参加するような奴らは大した連中じゃないし、見捨ててこの性格の悪い女を叩き潰す」


 ガイヤが冷徹すぎる言葉で返す。


 「出来ればこの女は俺に任せて客の救出に向って欲しいんだが?」


 「どうするの?こちらの手には人質がいっぱいよ?まさかヒーローが無辜の民を見捨てるような真似をするのかしら?」


 そこにフロリベスが茶化してくる。


 「誰がヒーローだ?馬鹿馬鹿しい……」


 とにかく状況が滅茶苦茶、多分改人がやられる事は折込済みで、ここまで手を考えていたのだろう。


 正に罠にかかりに来たのだが、一体何段構えで歓迎してくれる事やら。


 「あの提案なんですけど」


 筋肉の男から声が上がる。そしてそれからの交渉は、目を見張るばかりの陰険な提案。


 陰険に筋肉まで揃ってるなんて、何か極まってるなコイツと思わず顔をしかめるが、まあ冑のお陰で見えてはいないだろう。


 何でもコイツ、箱を抱えた【帝国】のNPCを連れ帰る為に来ただけで、あとはくれてやるという事らしい。


 しかも身分は【帝国】の【上級士官】だとか、これだから偉い奴は!


 「おい!お前は自分がよければそれでいいタイプの人間か?」


 思わず声を上げてしまった。ヒーローとかそんな事はどうでもいいが、人質取られて人質はくれてやるから自分は帰せなんて提案はなかろう。


 「そういうあなたは出来もしない事をどうにかしなきゃって口先だけで言って、何も出来ずに正義感ぶるタイプのヒーローですか?」


 「ふふふ、言われてるわよブラックフェニックス」


 「クソが!俺一人でもやってやる!」


 フロリベスに向き合い、隙をうかがう。


 「あの、鞄から剣と盾を出してもいですか?この人とは直接やりあわなければ、いけないみたいなので」


 と、言うのにこの陰険筋肉はよりにもよって、自分とやりあう気らしい。


 「いいわよ!どうぞ存分にやり合って頂戴!」


 「どういうつもりだ?」


 それには答えず、鞄から本当に剣と盾を取り出し、重量感のある一撃屈強な男の一人を薙ぎ払う。


 「どういうつもり?」


 今度はフロリベスの問いかけを無視して、もう一体も斬り捨てた。


 そこで、遂に我慢できなくなったのかガイヤまで周りの屈強な男を殴り始め、


 「だからどういうつもりなの!さっきの提案はどうしたの?」


 流石のフロリベスも焦り始める。


 そりゃそうだ。さっきまで他はくれてやるから自分だけ帰らせろといってた奴が、いきなり暴れ出したのだから呆気に取られない方がおかしい。


 その後もフロリベスと口でやり合いながら平気で屈強な男たちを斬りまくりながら表に出る。


 その時には自分にも明らかにこれはおかしいと分った。


 何しろ人質に手を出さないのだ。これだけ沢山人質にとっているのだから、さっさと一人や二人斬って見せしめにでもすればいいのに……。


 「と言うわけで、脱出しますよブラックフェニックス」


 陰険筋肉の声が聞こえ、はっきりと理解した。


 「くそ!そういう事かよ!」


 完全にしてやられた自分としてはそれだけ言うのが精一杯。人質から何から全部フロリベスが用意したエキストラ。


 魔石を売りに来た【帝国】NPCが餌。レディの手の者である陰険筋肉とガイヤ、そして敵である自分をはめる為の舞台。


 自分はさしずめ滑稽なピエロだったろう。いやサーカスのピエロは分ってて演じてるんだから、自分は一体に何になるんだ?


 当り散らすようにそこらのフロリベスの手の者を斬りまくりながら脱出し、庭を抜けた頃には誰も追ってこなくなった。


次週予告


 辛くも四天王フロリベスの手を逃れたブラックフェニックス

  夜会が終わって昼の世界に戻っても彼の周りにはトラブルが絶えない

   かつて任務の為に出場した闘技がいつの間にか人気となり『芝居』のような戦いに駆り出される

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