36.賭博の街
「お次は『キジン』と来たか。全く次から次へと重要な情報を持ち帰ってくる奴だ」
「そうなのか?そういう調べ事はそっちの仕事なんだと思ってたが、邪神教団ってのはそんなに情報が出てこないものなのか?」
「ああ、こう見えて俺達の組織は世界中に根を張って、細大漏らさず情報収集している筈なんだが、まあ組織ってのはどうしても内部で更に派閥なんかもあるからな」
「なる程、アンタは如何にも汚れ仕事って感じだし、相当嫌われてるんだろうな」
「相当って事はないだろうが、恨みはかってるさ。それなりにな」
「組織内で恨みを買うなんて、よっぽど嫌な仕事をしてるんだろう?じゃなきゃ俺みたいな部外者をわざわざ連れ込んで仕事を任せられるまで育てたりしないもんな」
「ふん、普段は余計なことは聞かないくせに、そういう所の察しはいいから、こっちは助かるんだが、次の仕事の話と行こうか」
「最近やけに仕事のスパンが短いのは、やっぱりあれか?邪神教団に関して相当切羽詰ってきてるって事なのか?」
「そうだな正直な所対応できる人員がいない。俺達も荒事はそれなりにこなすが、どちらかと言うと内部調査と内々での処理が担当だからな。ああいう化け物みたいな力を相手取る手段が不足している」
「随分と素直に手の内を明かすんだな?それじゃまるで俺の<錬金>しか寄る辺が無いって言ってるようなもんだぜ?もう少し駆け引きを楽しまないか?」
「何を厄介な女みたいな事言ってるんだ?それとも次の相手を察したか?」
「……って事はフロリベスの事が分ったってのか?」
「ああ、分ったも何も本名だったぞ。裏社会の有名人『脳筋』のベガに引き続き、調べたらあっさり出てきやがった」
「本名って……そんな堂々と邪神教団ってやってていいモノなのか?寧ろ今迄本名で活動してる奴に気がつかなかったって、実はあんたが所属してるのは笊組織なのか?」
「違う。情報はあってもそれをどうやって精査して使うかが問題だ。これまでは邪神教団四天王すら知られていなかった。多分四天王なんてのも最近の話だろう。元々はケチな地下組織だった筈なんだ」
「ケチな地下組織ねぇ、とりあえず今迄は言われるままに戦ってたが、俺も少しは事情を知ったほうがいいのか?」
「珍しいな。いつもは何も知らずに戦う方が気楽とばかりなのに、心境の変化か?」
「どうだろうな?ただ、ここまで縁が深くなってくると俺なりに相手さんの境遇にも同情が生まれかねない。それならいっそちゃんと知っておいた方が、踏ん切りがつくかも知れんてな。はっきり言って現状俺は邪神教団の連中がそこまで悪い奴らと思えなくなってきてるぜ」
「なるほど。まあ俺としてはここでお前さんに戦線離脱されても困るし、誠意を持って現状分かる範囲で説明しよう」
「いいのか?」
「全く問題ない。寧ろお前が聞いて来るのを待ってたくらいさ。まず、邪神教団って名前自体はかなり古いもんだ。どんな時代でアレ、どうしても社会に適応できない奴らってのはいるさ。そういう連中の拠り所は結局幸せな連中の足を引っ張る所に落ち着く。勿論全員が全員誰もがとは言わんがな」
「そりゃ俺だって似たようなもんさ。嫌いな連中を引きづり降ろして、どこまでも後悔させることにしか興味ないんだからな。寧ろそっちよりの思想だ」
「お前さんはなんて言うか、ニュアンスが違うだろ?でもまあ名前こそ古いが教団自体は現れたりなくなったり、そんな磐石な物でもなかった筈なんだが、現教団はいつの間にかちゃんとした組織体系が出来て、運営されるようになってた。それこそいつの間にかな」
「そのいつの間にかってのが問題だな。ケチな組織だから監視を怠ってたとかそういう事か?」
「いや、ちょっと前までは慈善団体だったんだよ。身寄りを失った者達への救済を目的とした割と健全な組織だった。平等なる破壊だって、いずれ世界は終わるっていう終末思想の解釈の捻れだ。そんな物は別に邪神を冠してない集団にだって珍しいものじゃない」
「ふーんつまり、拗らせた慈善団体がいつの間にか攻撃的かつ、何がしかの目的に向って運営されるようになったって訳か」
「そう、そしてその一角を担うのがフロリベスだ」
「流石、四天王ってか?慈善団体に『改人』なんて存在を与えて、何やら裏社会を蠢く組織に変えた。あの女そんなに危険な奴だったのか」
「いや、そこまでは言ってないが、重要な情報を持っているのは間違いないだろう。フロリベスの担当は主に邪神教団の経済的経営だと思われる。そしてそれは奴の生い立ちから予想されていることだ」
「ほー、まあ本名が割れてる訳だから、邪神教団なんてもんに傾倒する前も知られている訳だ。それで?」
「奴は【砂国】のそれなりに裕福な隊商の娘で、旅を中心とした生活ながらも不自由はした事のない娘だったようだ」
「それでサボテンの花か。それが何でまた邪神教団なんかに?男にでも裏切られたか?」
「いや、事故で隊商は財を失い解体。家族のように寄り添って生きてきた者達もバラバラに生活するようになったそうな」
「まあ、ありそうな話ではあるが、そんな凄惨な生活に身を落としたのか?」
「いや、スラムに居を置いたそうだが、慎ましやかに新たな仲間と生活していたそうだ。そんな折に邪神教団と接触したらしい」
「まあ慈善団体ならそういう事もあるだろう。それで終末思想に傾倒したか?」
「そこは分らん。だが、いつの間にか邪神教団を利用し、名のある【商人】へと変貌した。つまり邪神教団を稼げる組織に変えて、資金源を作ったのはこいつで間違いない。どうやったかは分らんが、隊商での経験が生きたのかも知れんな」
「ふーん、じゃあやっぱりフロリベスはマダム・アリンだったんだな?」
「まあそうなるな。これまでのお前の報告からもその可能性は高いと思って調べたが、それで間違いない」
「それで、レディとの関係は?」
「そっちは調べ中だ。何しろそっちはそっちでガードが堅い。しかも協力関係と来ている。余り突っ込んだ調査もしづらい」
「なるほどな。じゃあ今回はフロリベスにどんな嫌がらせをする?」
「招待状が届いた」
「あ?招待するとは言ってたが、招待状ってのは……」
「フロリベスとマダム・アリンが一致した理由、そしてそれが間違いないとはっきりと言える確証」
「向こうが名乗ってきたのか?やっぱりアンタのとこの組織、駄目じゃねぇか?」
「くそ!返す言葉が無いぜ。対価として要求されたのが、お前の正体か、招待に応じるかの二択だ」
「しょうもないシャレだな。どっちも断る訳には行かなかったのか?」
「魔石の取引があるらしい。何に使う気か未だ不明だが放っておく訳にもいかんだろ?
「まあいいさ招待に応じるつもりはあったんだからな。いつかのパーティみたいに潜入すればいいのか?」
「いや、今回はもうちょっと条件があってだな。必ずレディか、代理の者が参加する事だ」
「相変わらずレディにご執心みたいだが、俺がレディ代理として向かえばいいのか?そうすると必然的に……」
「正体がバレる。なので今回は他に協力を仰いだから、安心しろ。お前は何食わぬ顔で夜会に参加すればいい」
「普通そういうのって招待客名簿なり、招待状なりあるもんだろ?結局俺の正体バレるじゃないか?」
「俺の名前で入れば、正体は聞かんとの事だ。顔だけは隠して行く事になるだろうが、まあ正体が分からなくなるような<隠蔽>を多重に掛けたパーティ用の服を用意する。あとはいつも通り」
「適宜状況を見て隠れて着替えて、暴れろってか?アンタの名前で入れてくれるなんて、本当に実はそれなりの身分なのか?アンタも」
「前にもチラッとは言ったが、立場だけはな。だが実際にはこの通り現場まで出て来にゃならんし、何ら偉ぶれる要素もない」
「そいつはご苦労な事だな。じゃあ早速【砂国】に向うか」
|
|
|
|
-【砂国】賭博の街-
多重に<隠蔽>が掛けられたと言う服は、どことなく【教国】のローブ風で品のある意匠だが、正直夜会に出席する服として適切なものなのかはよく分らない。
しかし、任務で渡された服なのだし信用するしかないだろう。
思いっきり怪しげな仮面を被って街を歩くが、そもそもこの街全体が怪しく、それでいて何故か道行く人々が浮き足立ってる様にも見える。
蠍から事前に賭博の街だと聞いていたし、それでかな?とは思いつつも警戒して歩を進める。
何しろ装備一式は既に預けてあり、夜会で受け取る手筈だ。
つまり今の自分の武器はポケットの中のフィルムケースと<蹴り>のみ。
ローブ姿だし、どことなく術士風にも見えなくもないだろうが、自分が使える術は<尾剣術>と<掃蹴術>なのでごりごり近接タイプ。
だが、戦闘職メインじゃないので、フィルムケースの補正がなければステータス的にはかなり控え目でもある。
まぁ、このゲームはステータスの数値化がされていないので、多分そうだろうと言う程度で何の確証もないのだが。
しかしまぁ、落ち着きのない街だ。
あちらこちらで喧騒が聞こえ、時には身分あるヒトが乗っていると分る馬車が街中を通り抜け、三つ揃えのスーツにアタッシュケースを持った人物が闊歩する。
「は?え?」
思わず、その装いに変な声が出てしまった。
皆大概ファンタジーな格好しているのに、一人随分高級そうなスーツに身を包む人物がいたら、そりゃ驚くだろう。
「ん?どうした?」
そして自分の声に気がついたその人物に声を掛けられてしまった。
「ああ、いや変わった格好だなと思ってな」
「そうか?賭場の戦闘服と言ったらコレだろ?結局最後は運命の女神に愛される者が立っている世界だ。そうだアンタ神職だろ?そのローブ【教国】の物だしな。一つ祈ってはくれないか?お布施はする」
「悪いが祈りってのはやってないんだ。それに俺が祈った所で悪運くらいしかつかないぜ」
「そうなのか?まあいいさ。それよりちっと危ないぞ!」
声を掛けられるまでもなく危険を<察知>して、転がって回避すると、大根棒を振り回してくる巨漢が叫び声を上げている。幾ら賭博の街とは言えNPCが暴れていいモノなのか?
そんな疑問も束の間、その巨漢の腹は鎌に割かれていた。
スーツの男がどこから出したのか鎖鎌で、大根棒の間合いの外から一方的に攻撃を繰り返す。
その動きはどこか自分の使っている節尾剣にも似た物で、つい目で追っていると、どうやら回り込んできたらしき小兵が、凶悪そうなナイフでスーツの男に突きかかる。
こうなったら、やむなしと、
掃蹴術 鬼憂
術を発動しつつ蹴り払うと、横合いから喰らった小兵の動きが止まる。
そしてそのまま、
掃蹴術 駝懲
横腹に見舞うと吹っ飛びその場に転がって動かなくなった。
振り返り、巨漢とスーツの男の戦闘を見るとそちらも勝負がついた様で、鎖鎌の鎖でぐるぐる巻きになった巨漢に短刀の様な鋭く短い刀が突きつけられている。
「悪いな。こいつらは賭場で悪さしてたからちょっと痛めつけた連中なんだが、こうなるならちょっとじゃなく徹底的にやるべきだったわ」
そういうスーツの男の危険な目から自分の同種なのだろうと悟り、祈りは出来ずとも、何かしてやれる事はないかと、アイテムバッグを探る。
とは言え自分が持ってるのは大概<錬金>素材とかそんなガラクタばかり、まあそれでもマシな方だと思える一つの黒い石を差し出す。
「祈りは出来ないが、コレをやるよ。アンタが逆境に負けないようにな」
「何だこりゃ?立派な石じゃん?黒って事は陰精か何かの石だよな?」
「ああ、フレーバーテキストに魔除け効果ってあったからな。ブラックオニキスだとさ。持っていけよ」
そうして、立ち去ろうとすると、
「おい!金は払うぞ!」
と、止められるが、別に金には困ってない。
「こんな所で運命の女神に祈らにゃならない相手から受け取れるかよ。それにいいモノ見せてもらったからな」
「いいモノ?」
怪訝な顔をするスーツの男と別れ、今の戦いを頭の中に反芻する。
何しろ今のスーツの男は鎖鎌に風精を纏わせる事で、範囲拡大する事で敵の間合いの感覚をずらしていた。
ついこの前、土精を纏わせて地面からの攻撃をした時に、その効果が拡大されたばかりだ。
つまり、他の精霊の力にも使い方がある!かもしれない。
そのヒントの一つを貰ったのだから、そりゃ礼をするのも当然だろう。
風精はベルトのアタッチメントに挿して緊急脱出に使っていたが、これはちょっと考えどころだ。
寧ろあのアタッチメント、風精以外を挿した場合、背中から何が発生するんだ?
説明に風精とセットって書いてあったから、他の組み合わせを考えてなかったわ。
帰ったらまた実験だなこりゃ。
次週予告
四天王フロリベスの誘いに乗り自ら罠にかかりに行くブラックフェニックス
四天王ベガを脳筋と言う本人が力づくで罠を踏み破りに行く所業に気が付かないまま
またトラブルを起こしそうなプレイヤー達と妖しげな『夜会』で暴れる




