32.孔雀
「ふぅ……暑い……」
周囲の風景がずっと熱で揺れる環境、点々と木が生えているものの、視界を遮ると言うには少なすぎる量。
見晴らしのいい平原でいながら、熱帯の気候を持つその地は【王国】と【砂国】の中間地点、通称サバンナだ。
あくまでプレイヤー間でそう呼ばれているだけで、環境としてもかなり厳しい地なのであまり賑わっているわけでもない。
北の果ての雪国【帝国】は寒すぎて過疎だが、こっちは暑すぎて過疎という事だ。
相変わらずこのゲームの環境再現はやりすぎという意味でおかしい。何でこんな所をやたらとこだわるのだろうか?
しかし、何でこんなプレイヤー不人気の場所に来ているかというと、相変わらず蠍の差し金。
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「さて、調査は継続中だが、その間お前を遊ばせておくのは時間が勿体無い。そうは思わないか?」
「別に俺は俺でフィルムケースの研究とか色々とやる事があるんでな。同感とは言いがたいぞ?」
「そうか、だが俺の立場からするとそう言わざるをえない。何しろ邪神教団の動きがこれだけ活発で、しかもここ最近で一気に聖石が集まりつつある。となれば最悪の事態も考える必要がある」
「よく分らんな。そもそも聖石ってのは願いが叶う玉だが、大方使用済みの品なんだろ?んで邪神教団ってのは、邪神を信仰して教義が平等な破滅だったか?まあ碌なモンじゃないのは分るが、最悪って言う程の事なのか?」
「そうだな。いくらお前が余計な事を聞かずに仕事してくれる物分りのいい奴でも、そろそろ話さねばならないか……」
「いや、別に言いづらい事ならいい。それで俺を遊ばせておくわけに行かないってなら、次はどうする?」
「全く、聞き訳がよすぎてな。まあいい一旦お前さんのパワーアップの為に必要な素材を集めてきて欲しい」
「俺のパワーアップの為に必要なものなら喜んで行くし、わざわざ頼まんでも取って来いと言えばいいだろうが?」
「ふん、ここ最近のお前の活躍に見合った報酬も出せて無いのにそういう訳にもいかんだろう。しかもお前のパワーアップがこちらの利益にもなってる訳だから尚更、出来るだけの物はこちらで用意してやりたいってのが、心情なんだがな」
「随分と気にかけてもらってありがたい話だが、その素材ってのはよっぽど手に入れづらいものなのか?」
「ああ、特殊な魔物でな。そいつの尾羽が手に入れば、お前の武器のアップグレードできる」
「俺じゃなきゃやれないってのは、つまり前みたいに瘴気関連とかか?」
「いや、複数の精霊の力を使う魔物なのだ。ヒトが複数の<精霊術>を持つ場合、制限があるモノなんだが、お前はその<錬金>のお陰でその制限から外れた武器を使うだろ?そういう意味でお前じゃなきゃ集められん素材なのさ」
「……<精霊術>使いを何人か集めれば済むんじゃないか?」
「まあどこぞの金持ちならそんな方法で集めるかもしれんが、裏家業の男一人の装備の為にそこまで人員を動かせるかと聞かれたら、な?」
「そりゃそうだ。分った。場所は?」
「【王国】と【砂国】の狭間、熱帯平原だ」
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と言う訳で、自分の装備の為なので暑くても我慢するほか無い。
しかし自分も錬金師の端くれならば、当然暑さに対応する為の道具も持っている。
精霊の力を生活に便利に使うのが本来の仕事だから、当然といえば当然の事!
【帝国】に生える虫除けの草!(ハッカ)と【馬国】の鳥の羽!
この二つを組み合わせると、そこはかとなく冷風を発生させるアイテムを作成できる。
ちなみに全く需要がないので、基本自分用の趣味アイテムだったが、まさかこんな所で使う時がくるとは……。
いや、サイーダ風に言うならば、こんな事もあろうかと!だな。
黒にリペイントし直した鎧風皮の服が、太陽の熱を吸収して尚更暑い。それを思う度にサイーダの顔が思い出させられる。
そして、肝心の魔物はあまり飛ばない鳥。
丁度目の前を歩いていくが、揺れる景色の所為で絶妙に遠近感が失われて、大きさがよく分らない。
まあいっかと、節尾剣を構えて先制攻撃。
あっさり、斬りつけられた鳥が怒り出し、こちらに駆け寄ってきて、一羽ばたきして空中に躍り上がる。
そのまま鋭い爪で蹴りつけて来たところを回避しつつ、寧ろ横合いから、
掃蹴術 鬼憂
払い蹴りでダメージを与えていく。
こちらに向き直った鳥が嘴で攻撃した所に、右拳を合わせ、まぜーるくんナックル火風で爆殺。
既に何体か倒しておおよそ倒す為のルーティンが確立できたので、あっさりとしたもの。
まあ今倒しているのは、前座だ。
黒っぽい地味なモコモコした鳥をひたすら狩っている状態。こいつを狩っているとその内出てくるらしい。コイツのボスが……。
急に影がかかり、振り返ると自分と太陽の間に大きな影?
少しづつ目が慣れてくると、それが鳥だと分り、素早く距離を取る。
離れて見れば、極彩色の羽を何本も持つ孔雀。
現実の孔雀もそれは大層派手だが、コイツの羽は一本一本ベースの色が違うようだ。
ボスサイズの敵を前にコレまで温存していたベルトの力を解放。
とりあえず、水氷で青地に白の文様が浮き出る。
何故この二種を選んだかと言うと、涼しそうだから!案の定、凄い涼しい!ずっとボンヤリしていた頭が一気にすっきり明快に晴れ渡った。
自分の戦闘体勢が整ったのを感じとったのか、孔雀が羽を広げると目がチカチカする。
特に何かの効果とかでもなく、単純に色の種類が多すぎて、気持ち悪い。
左手には試作剣Ⅱを持ち、雷精のフィルムケースをセットし、紫の刀身を作り出す。
孔雀が尾羽を一振りすると地震が発生し、いきなり体のバランスが崩れ片膝をついてしまう。
そして、自分が動けない所に孔雀が鋭い爪で頭をカチ割りに来た。
これは一つのパターンだな?と脳裏に刻みつつ、試作剣Ⅱで迎え撃つと、
爪から痺れたのかあっという間に飛びのく孔雀。
そして別の尾羽を振ると、自分の頭上だけ局地的豪雨が降り注ぐ。
防具に水精がついてる為、特に影響は出ないが、もし他のフィルムケースだたらどんな目にあってたのだろうか?
ちょっと興味が湧くが、死に戻りはしたくないので、真っ直ぐ孔雀に襲い掛かる。
右手に節尾剣を引き抜き、
尾剣術 串
地面から孔雀を串刺しにしつつ間合いを詰めていく。
すぐさま振り払った孔雀が更に別の尾羽を振ると、今度は空中に氷が発生し、礫が襲い掛かってきた。
両手が塞がっているので已む無し、氷精の耐性でダメージ軽減されるのを期待して、更に強引に突っ込む。
バチバチと体に当たる礫で生命力を削られるが、まだ許容範囲。
尾剣術 円
節尾剣を振り回して孔雀にダメージを与える事で氷の礫を止めた。
そして追撃の、
尾剣術 縛
節尾剣で動きを封じつつ、剣の収縮する勢いを利用して飛ぶ。
氷精のスイッチを押し、服の表面から白い模様が消え、代わりにパイピングが白く発光。
そのまま孔雀を蹴ると、凍って砕けた。
生命力は全損させたが死体は残っているので、素材剥ぎ取りタイム!
自分も生産職の端くれ、素材回収用のスキルは手に入れた。
<採集>を使って素材を剥ぎ取ると〔水の尾羽〕〔氷の尾羽〕〔土の尾羽〕が手に入った。
コレで良し!と言う訳にはいかない。
なんでもこの孔雀は前8種類、陰精陽精以外の精霊の力を各尾羽に宿しているらしく、その8種類をコンプリートしなければならない。
何なら自分は節尾剣両手持ちだし、16本必要なのかな?
まあ、まだ素材集めは始めたばかりという事だ。
まずはコツコツと地味な方の鳥を倒しまくり、ある程度倒すと急にでてくる孔雀を倒す。
また氷と水、物欲センサーか?と思いつつも、狩りを続けていると氷と水と土。
それにしても、敵の攻撃パターンが土と水と氷しかないのはどういう事だ?
狩りの場所が悪いのか、はたまた自分の防具の問題?だとすると土精については自分は使ってないのだが?
その日はもう2体倒したが、やはり土水氷だけ。意味分からん。
一旦近くの拠点にいしている町に戻り、計画を立て直す事にする。
闇雲にもっと遠くに探しに行くのも一つだろうが、まずは情報収集をしよう。
蠍の話では8種類の精霊の力を使うはずだし、羽の色も何回確認しても8種類あった。
ちなみにベルトにセットするフィルムケースは変更して、別の色で戦ってみたがそれはどうやら関係ないらしい。
町に付いてすぐまずは着替える。何しろ黒装備は熱を吸収し放題で凄く暑く感じる。
適当に町で買った白い風通しのいい服に着替えて、町の食事処で休憩。
出てきたのはスパイシーな挽肉料理と米。と言っても日本米じゃなく、細長いパラパラした奴だ。
とりあえず食事をしながら手に入れた尾羽を眺め、何か見落としがないか戦闘を思い出す。
「あら、こんな田舎街でも立ち寄るものね?もし良かったらその尾羽譲っていただけないかしら?相場以上には支払うわよ?」
聞いたことのある声だと思い、振り返れば褐色の肌の女性が供を連れて自分のすぐ横に立っていた。
声を掛けられるまで気がつかないとは、よっぽど考え事に集中していたのか?
まあ何にせよ、返事をしないというのはまずいか。姿は記憶にないが、声だけで言うならマダム・アリンだろう。
「すまないが、俺も必要があって集めてる物なんでな」
「そう……水と氷と土ばかり?」
「……本来は8種類揃えたいんだが、どうにも手詰まりでな」
「ふふ、じゃあこうしましょう。情報と引き換えに今ある3種を一本づつ譲ってくれるかしら?」
「分った。じゃあ先に渡そう」
そう言って、氷水土の尾羽を一本づつ渡すと、不思議そうな顔をするマダム・アリン。
「値切らないのね?」
「今の俺に必要なのは情報だし、値切ってその分情報も出し惜しみされたんじゃ、損しかしないからな」
「逆に、いくらでも出すと足元をみられる可能性もあるわよ?」
「それならそれで、やりようはある」
「そう?確かにそれなりに腕は立ちそうだけど、それなりの域は出なさそう。でもあなたにはそう言う明らかな敵対って言うスイッチが必要なのかもね。奪われてきたヒトの顔だもの」
「そうかい?それで?他の尾羽を手に入れる方法ってのは?」
「あの鳥は攻撃された精霊の力に反応して、相反する精霊の力で攻撃してくるわ。そして手に入る尾羽は攻撃に使った種類のものだけ。つまりあなたは火か雷の使い手って事ね」
「そういうカラクリか!だから複数の<精霊術>使いが必要になるって訳か。助かった。コレで残りも手に入れる算段がついた」
「そう?この情報だけで他の尾羽も手に入れられるなんて、よっぽどのコネクションがあるのか、もしくはやっぱり実力者なのかしら?まあいいわ。もし感謝してくれるなら私も欲しい情報があるの相応の値段で買うから、もし知ってたら教えて頂戴」
「一体何の情報だ?」
「黒い怪鳥、もしくはブラックフェニックスと呼ばれる黒い鳥型鎧の人物をこの辺で見なかったかしら?」
「……見た。あの夜暴れてた奴だよな?」
「やっぱり私の正体に気がついていたのね。あの晩ぶりね。それで何処で見たのかしら?」
「俺と同じさ」
「孔雀を狩ってたのね?それでそれから?」
「どうだろうな。流石に付け回すわけでも声を掛けるものでもないしな。獲物も被ってるし」
「それは、そうね。ありがとうお礼はどうする?現金でいいかしら」
「いや、金には別に困ってない。それより差支えがなければ、何であんな奴の情報を集めてるのか聞きたい」
「危険人物だからよ。世のヒトを脅かす裏社会の人物。【王国】のレディとも裏で繋がっていると噂されているわ」
「それを何でまたあんたが、追う必要がある?危険人物なら国なりなんなり、金があるなら傭兵でもいい。そういった連中に任せた方がよくないか?」
「まっ!そう思うわよね。でもそれは内緒。一つだけ言うならレディに恨みがあるのよ。それじゃ、また縁があたらどこかで」
そのまま立ち去るマダム・アリン。
まさかとは思うが、あの夜の魔石はマダム・アリンがやったのか?
流石に安直過ぎる気もしなくはないが、一つ確認する方法はある。
自分が囮になればいいのだ。
下手をすれば改人との戦闘になるかもしれないし、一旦ログアウトしよう。
次週予告
魔物狩りに精を出すブラックフェニックスの前に現れたのはマダム・アリン
名も立場もあるはずの人物が何の変哲もない町に立ち寄り不穏な気配が漂う
何故己を狙うのかその理由を探る為自ら『囮』となる事を決めた




