30.脳筋
【闘都】は夜も賑わっている。
そして、道行くヒトの姿も非常に個性的で統一感がないのは、仮面武闘会開催期間中だからだろう。
祭りに浮かれるヒト混みの中、半裸に仮面の男がいようとも、全身鎧に見せかけた皮服の男がいようとも、誰も気にしない。
「なぁ、あんたあのままあの館でやってた方が有利だったんじゃないか?」
「有利?ああ……俺の目的とは違うな。あいつらにはあいつらの目的があるんだろうが、俺には俺の目的がある」
「目的って、平等な破滅じゃないのか?」
「そりゃ教義だな。俺からしたら形ある物はいずれ滅びるんだから、そんな躍起になるもんでもない」
「ふん、じゃあなんだってあんたも、あの連中も邪神教団なんかに?」
「俺は仲間は売らん。だが俺のことならいくらでも話してやろう。別に隠すこともないし、見た目と違って話をするのは好きな方だ」
「そいつはまあ意外だな。何か脳筋とか言ってたし、筋肉でしかモノを語らんのかと思ったぜ」
「ふん、俺は見て分かる通り獣人族の出身だ。獣人族ってのは生まれながらに身体能力が高いのが特徴でな。だが俺の種族は歌舞音曲に秀でいてはいても筋肉は育たない非力な種族だったんだ」
「……それで絶望して邪神を信奉する様になったってか?」
「はは!ちょっと違うが単純さではそんなもんさ。種族の壁に阻まれて一定以上鍛えられない体を更に鍛える方法を探す内に行き当たったのさ。俺はシンプルに筋肉を求めて邪神教団に入った。それで今は『脳筋』と呼ばれるまでになったって訳さ。単純だろ?」
「まあ分りやすいって事には好感が持てるがな。なんでまた道をそれちまったんだか」
「俺にとっては真っ直ぐな道さ。結局この世界の連中は神より与えられた運命を素直に受け入れることこそ善だと思ってやがる。俺はその運命を捻じ曲げなきゃ、道を真っ直ぐ歩けなかったんだよ。自分が定めた目的を追う事は間違ってるか?悪か?おかしいことなのか?じゃあなんでお前はそんな日陰の道を歩いてる?」
「ふん!別にあんたを責める気はないさ。俺だって似たようなもんだ。俺を殺した奴らを殺し、力で他人を嬲る奴らを心いくまで叩きのめし、傷つけて、無限に後悔させたい。それだけだ」
「歪んでるな~……はは!出会い方が違えば、仲間になれたろうに。でも無理か、俺達の仲間にはお前に叩きのめされて、流れてきた奴もいるわけだし」
「どういう事だ?」
「それこそ力で他人に理不尽を押し付けた馬鹿が、痛い目見て勘当されて行き場を失って俺達の仲間になる事もあるってことさ。結局一番歪んでるのはお前か?裏の連中を叩きのめす為に裏の世界に来たお前は、表にも裏にも生きる場所がなく、ただ世界の片隅をこそこそ生きるしかないってわけだ。同情するよ」
「別に、自分で望んだ道だ後悔はない。それより筋肉にしか興味の無いあんたが、俺とわざわざ戦うことに何の意味がある?余計な寄り道じゃないのか?」
「それで仲間が助かれば売れる恩もあるし、お前を倒せればそれはそれで収穫もある」
「他にもありそうな?」
「まあ他にもあるが、全部が全部話してやるほどお人好しでもない」
「なるほどな。それで?ここで止まったって事は、闘技場でやりあうのか?」
ニヤッと笑う半裸の男はそのまま開きっぱなしの闘技場へと入っていく。
そのまま真っ直ぐリングに向かうが、ヒトっこ一人いない。無用心この上ないが、こちらとしては都合がいい。
「今は祭りの最中、あっちもこっちも警備してたんじゃ手が足りないからな。リングは見学自由、その代わり何があっても運営は責任取りませんてな。元々暴れる為にあるリングだちょっとやそっとの事で傷つけられるものでもないしな」
「それで夜中に仕掛けでもして、明日の闘技に水をさす奴でも現れたらどうするんだ?」
「勿論試合前にそんな物は念入りに検査されるし、そもそも闘技場のルールに反する事は勝手に拒絶されるからな。この場で出来る事は戦うことだけだ」
「審判がいようといまいとか?」
そのままリングに上がっていく半裸の男、自分も少し離れて向かい合う。
「俺の名は四天王ベガ。以前にはうちの者が世話になったな。弔いと言う程のものじゃないが、相手させて貰おう」
「俺は名乗らなくてもいいか?」
ニヤッと笑うベガが上半身の筋肉に力を込める様にポーズをとり叫ぶ。
「さて、楽しい時間の始まりだソウボウキン!サンカクキン!ジョウワンニトウキン!ゼンワンクッキングン!ダイエンキン!…………ふぅぅんぬ!パンプアァァァァップ!」
ベガの上半身が見る見る膨らみ、その体を支える為に両拳を地面について体勢を保っているが、妙に様になっている。
ただならぬ雰囲気に自分も戦闘態勢を整えねばと、フィルムケースを二本抜き取る。
風と氷に決めた。
何しろ相手はどう見てもパワータイプ、火石だと噛み合い過ぎて万が一があるし、それならいっそスピードで撹乱がいいだろう。
ベルトを起動すれば、装甲が緑に変わり白い文様が浮かび上がる。
試作剣Ⅱを起動すればさっきセットしたままの雷精が発動し、剣身が現れ暗いリング上を薄っすら紫に照らし出す。
ニヤニヤとこちらを見守るベガは待ちの姿勢なのだろう。多分予想通りパワータイプで、カウンターの構えと見るべきだ。
だからと言って、予想以上のスピードで攻撃してこないとも限らない。
既に先に戦闘をしてる自分としてはエネルギー残量問題があるし、出来るだけ早く勝負を決めたいが、油断できる相手でもない。何とも面倒だ。
試作剣Ⅱを一振りすると、変則的な軌道で伸びてベガを打つ。
「ぐぅあぁぁぁぁ!」
思った以上に効いてる?
「あ?見掛け倒しか?それとも術に弱いとか?」
「何言ってやがる?お前のこの武器どれだけえげつないか理解してないのか?一切制御をしないヒトが使っちゃいけないレベルの精霊の力!これだ!コレを喰らいたかった!」
言いながらいつの間にかメリケンサックを填めたデカイ拳で殴りかかってくるのを、回避しつつその腕にもう一発攻撃を当てる。
また叫び声を上げながら動きが止まった所で、風精を側のスイッチを起動。
何しろコイツの部下は凍りついた状態を解除する術の使い手だったし、上司が同じ事を出来ないと思う方が楽観主義過ぎるだろう。
鎧が黒に戻り、パイピングが代わりに緑に発光し始める。
そのまま真っ直ぐ突っ込み、ジャンプからの。
掃蹴術 鬼憂
切り裂くようなエフェクト共にそこから緑の衝撃が広がり、ベガの全身の細胞を伝っていくのが見て取れる。
そのまま一旦距離を取ると、その場に仰向けに倒れたベガ。
ピクリとも動かない巨体に近づくと急にベガのベルトが起動し、再生が始まった。
倒れたまま腕を振り回してきたところを回避しつつ、右手のまぜーる君ナックルを確認しておく。
何しろベルトを破壊しない事には倒せないという事が分かった。
まだこのキックの効果を把握し切れてない自分がいけないのだが、練習台は案山子くらいしかいないのだから仕方ない。
風精は衝撃が拡散し、全身の細胞一つ一つにダメージを与える物だと思っていたが、どうやら核を傷つけるには至らなかったらしい。
となると体を突き抜けて、核に対してダメージが収束する雷精か、ベルトを破壊してからもう一回風精かと言う所だろう。
ベルトのエネルギーはそう何発分も残っていないし、試作剣Ⅱも同様だ。
試作剣Ⅱは一旦しまい、代わりに相棒の尾節剣を引き抜き構える。
「あ~いいもの喰らったぜ~これが欲しかったんだよ俺はよ~何度も言うようだがな。ダイタイシトウキン!ヒラメキン!ヒフクキン…………パンプアァァァァァップ!」
今度はモリモリと上半身が膨らんでいくベガだが、それよりも客席に気配があるのが気になる。
「酔っ払いか?」
「さあな。嘴突っ込んでこなければなんでもいい!いくぞ!」
拳を大きく振りかぶるベガだが、あからさまに間合いじゃないという事は広範囲の術か?
一先ずまぜーる君ナックルに土水をセットして、地面をぶん殴ると、
案の定ベガも同じ事を考えていたのか地面を殴って、術を発動。大きく揺れるリングだが、自分の周りだけは中和して何も起こらない。
更にまぜーる君ナックルに火風をセットしながら近づく。
こちらの間合いで尾節剣を振るい攻撃するが、その程度はやはりあっという間に回復されてしまう。
真っ直ぐ突っ込んでいくとベガが拳を応戦するように振ってくるが敢えて避けずに右手でその拳を殴り返す。
当然だが筋力のぶつかり合いなら自分が吹っ飛ばされるので、火風を発動している。
拳で荒れ狂う爆発を受けたベガが吹っ飛ばされた所で、もう一度ベルトの風精を起動、緑にパイピングが光る。コレで決められなかったら自分の精神力を使うしかない。
腕のダメージを回復しながら立ち上がるベガに、膝を折り畳みながら蹴りを見舞う。
掃蹴術 駝懲
さっきと同様、緑のエフェクトと衝撃がベガに伝わる。
だが今回の狙いはベガのベルトだ。腹のど真ん中を蹴りこんでベルトを破壊しつつ、そのままベガの全身の細胞にもダメージを与えていく。
同時に蓄積したエネルギーを使い尽くしたベルトとスーツから色が抜け落ちる。
そして、倒れながらベガの蹴りがこちらの腹部にヒットして、高く空中に放り出された。
そのまま背中から地面に落ち、衝撃に息が詰まると同時に、物が破壊されて消える時に発する光が自分の周りから浮き上がるのが見えた。
この光は世界を構成する霊子で普段は目に見えないが、物としての役割を終えて世界に帰る一瞬だけ光って見えるっていうのが、自分達錬金士共通の知識だが、何が壊れたんだ?
ゆっくり起き上がると、妙に肩が軽い?
気がついたら上半身のアーマーが消えて、下地の全身タイツがむき出しになっている。
下半身と冑は無事だったようだが、この状態でベルトの力は使えるのか?
「ほぅ、随分と脆い防具だったようだな。道理で素早く動くし、異常なジャンプ力だと思ったぜ。まあいい。別に俺の中でお前の評価が下がるものじゃない。お次はどうする?」
左手に填めた指輪をベルトに差込み自分の精神力を送り込んで、ベルトのエネルギーを充填しつつ、少し時間を稼ぐ方法を考える……というかお喋りでもするしかないか?
「なんで二回目の風精が効かなかった?それによっては他の方法を考えないとならんのだがな?」
「あ~それは内緒なんだよな~本当は教えてやりたい所なんだがな。お前としては時間を稼ぎたいんだろ?そりゃそうさそれだけの大技を連発できる奴はいない。回復の時間が必要だ。何か別の話をしよう」
「随分と気前がいいんだな?」
「まあ俺の目的とお前と戦う事は一致するからな。別に待ってもらったからなんて気を使う必要はないぜ。ただの利害の一致だ」
「ふん、そうか。じゃあ話せるかは分らんが、今回はなんで聖石を狙わない?幹部がお出ましなら今までより確実に手に入りそうなものだが?」
「相手があの『決闘王』だってのにか?そりゃ俺も挑みたいのは山々だがな。一対一なら間違いなくやるだろうけどよ。こんな都のど真ん中でそんな騒ぎを起こしたら、それこそ乾坤一擲の作戦が必要になるだろうな?失敗したら終わりのやつだ。聖石に関しては他にも当てがあるし、今回の作戦には組み込んでないぜ。ちなみに今一番多数所持している奴を襲撃する計画もない。何しろあの逃げ足だ探し出す方が難しい」
「本当か?本当なんだろうな……。毒気のない奴だ。俺の仕事は気に入らない奴を痛めつける事の筈なんだがな」
「やっぱりお前の方が歪んでいるよ。お前はお前の組織から依頼された仕事で俺達と戦い、俺は俺のために戦うそれでいいだろう」
そんなこんなで充填が終わったので、氷精を引き抜き代わりに試作剣Ⅱにセットしていた雷精のフィルムケースをセット。
雷精のボタンを押すと無事起動し脚部のパイピングだけ紫に光る。
バフも無事発動しているようで、移動速度は早いまま。
更に雷精の反応速度でベガがスローモーションに見えた所で、
掃蹴術 篇吟
跳躍して、そのまま落下しつつベガに蹴りをくれてやる。
一瞬でベガの内部を駆け巡る紫のエフェクトが、核を傷つけたのかその場で動かなくなる。
取り合えず上司を呼んで封印して貰うかと、ベルトをオフにした所で、背中に衝撃を感じてその場に転倒する。
すぐに節尾剣を両手に持ちながら立ち上がりつつ振り返ると、暗い闇の中から黒い鞭が飛んでくる。
尾節剣で迎撃すると更にもう一本鞭が飛んできたので、それも絡め取る。
「砂よ……」
女のか細い声がかすかに聞こえたと思った瞬間、大量の砂に巻き込まれ吹き飛ばされた。
気がついた時には、闘技場のど真ん中に一人大の字で倒れ、ベガも襲撃者の姿も消えていた。
次週予告
四天王に勝った筈が横槍が入り振りだしに戻るブラックフェニックス
装備を破壊され数日間の休暇の予定だったが優勝者である戦闘員AにPKの魔の手が迫る
ヒーローも怪人も手を取り合い救援に駆けつける中に『黄金鎧』を纏うヒーローが混ざっていた




