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29.混乱

 大急ぎで装備を整え扉を細く開けて会場内を窺うと、一人の小太りの男がローブの人物に吊り上げられている?


 会場の真ん中近く、さっきまで多くのヒトがひしめき合って話をしていた場所に、今は高身長のローブの人物が片手で小太りの男の首を掴んで高く持ち上げ、小太りの男は完全に気道が詰まっているのか顔がどす黒く染まっている。


 叫び声を上げたのはローブの人物の足元で腰をぬかしている女性だろう。もしかしたら小太りの男の連れかもしれない。


 取り合えず、身の危険を感じてさっさと逃げ出さない位には情の通じた相手なのだろう。


 「魔石を渡せ」


 ローブの男が小さくもない声で、それでいて囁く様に呟くと、


 「あ、あれはレディに……」


 「誰の物かは関係ない。いいから魔石を出せ!出さぬなら……」


 「うぅぅぐふぅぅ」


 ローブの男がよりきつく小太りの男の首を絞めた事で、引き絞られるような呻き声が会場内に響き、思わず背中に寒気が走った。


 仕方ない、ローブの男は十中八九邪神教団だろう。何しろ見慣れた衣装だし、間違っていたらその時はその時だ。


尾剣術 縛


 ローブの男の腕から胴体にかけて締め付けていくと、節尾剣の節が食い込みローブが破け、その下の肉体も傷つけていく。


 小太りの男が取り落とされると同時に、女が小太りの男に取り付き何とか引っ張っていこうとする。


 「出たか、ブラックフェニックス。闘技は見せてもらったが、その程度の腕で我等に楯突くとは少々、無謀というものでは無いか?」


 「そうか?どの辺が無謀なのか是非ともご教示いただきたいことろだが?」


 「ふん!」


 ローブの男が気合を入れるなり、引っこ抜かれるように引き寄せられてしまう。


 すぐさまもう片方の尾節剣を操作して天井のシャンデリアに巻きつけながら、ローブの男に巻き付いている方を解除して着地する。


 「一応確認しておくが、お前は邪神教団だな?」


 「その通りだが?それが今更どうしたというのだ?」


 「いや、邪神教団が魔石を狙ってるって言う噂は聞いたが、レディに渡る筈だった魔石を横から奪いに来るってのは、どういう事かと思ってな?邪神教団が魔石の取引をするって言う噂だったんだがな?」


 「ふん!どうだっていいだろう。今は目の前にある脅威を振り払う事に全力を注ぐがいい」


 「アホか?筋力と再生力頼みの『改人』如き、今更物の数じゃないんだよ。俺の仕事は別にある。おい!女!魔石ってのは何処にあるんだ?」


 「ば、馬車に!命だけは助けて!」


 「はっはっは!ヒーローが聞いて呆れる、すっかり悪役のようじゃないか!何だお前も魔石が欲しかったのか?」


 「ちげーよ。俺の仕事はいつも一つ。気にいらない奴を心いくまで痛めつけるだけだ。それで取引相手がレディってのは間違いないんだろうな?」


 「はい!「違うわ私じゃない」


 未だに地面に座り込んでる女の声をさえぎり、二階の手すりにもたれかかって話しかけてくるレディ。


 「何だこれ!どいつもコイツも言う事が食い違ってんじゃねーか!」


 「おい!貴様!金ならいくらでもやる!いいからそいつを片付けろ!」


 急に会場の壁側に避難してた脂ぎった男から声を掛けられるが、随分と気に入らない物言いだ。


 「なぁ、俺がなんていってたか聞こえてたか?俺の仕事は俺の気に入らない奴を痛めつける事だ。声覚えたからな?次俺の前で話す時は覚悟しろよ?」


 「くっくっく!お前邪神教団の方が向いているぞ?気に入らないもの全部一緒に滅ぼしちまわないか?」


 「うるせー!!!!他人が考え事してる時くらい黙ってろ!俺が今一番気に食わないのはあの脂ぎったじじいだが、アイツは関係ねぇ……次に気に入らないのは誰だ?レディ……は保留、そこの女は意味わかんねぇ……小太りのじじいは……???おい!女!連れの男はどうした?」


 尋ねた瞬間、目の前に影が落ちる。


 反射的にその場を転がり避けると、自分がいた場所に小太りの男が降ってきた。


 そのままピクリとも動かない小太りの男、一体何があったというのか?さっきまで女の横で倒れていた筈なのに、混乱が収まらない。


 「さあ、どうするのだ?ブラックフェニックス。お前が余りに脅しまわるから会場内が随分静かじゃないか。出てくるだけ出てきて、一体何がしたいのか言ってみろ?」


 「そうだな。まずはお前を潰す!」


尾剣術 串


 右手の剣を地面に突き立てれば、ローブの男下から尾節剣が襲い掛かる。


 男は地面から攻撃が来るというのは予想していたのだろう、ローブだけを残して避けた事で、ローブだけが串刺しになったが、すぐさま地面に引っ込めて追撃する。


 ローブを脱ぎ捨てた『改人』は長身で妙に腕が長く、その腕で床をぶん殴ると明らかに高級そうな床材の石が砕け、その勢いで自分の尾節剣の狙いがそれた。


 「ふん、じゃあ本当に筋力と再生力だけか見せてやろう。真に【訓練】を積んだ『改人』の力というものをな」


 言うなり明らかに間合いの外から拳を突き出してくると、あっという間に目の前に拳が迫り、間一髪で回避。


 その腕が戻る所を見ると、明らかに腕が伸びていた。つまりただでさえ長い腕が更に伸びる体質だという事だ。


 まあその程度の能力くらい、と思ったものの次弾が早い。


 左右のパンチの連打が早くて重く、氷水と雷火のミックスフィルムケースじゃ、バフが完全に不足している。


 何とかクリーンヒットだけは喰らうまいと、回避をしつつ、いざという時は急所にならない場所で受ける。


 しかしベースの能力が低い自分にはかなりきつい、兎にも角にも手に持った尾節剣を一旦腰に仕舞う。


 そして一瞬の隙を突いて風のフィルムケースを引き抜き、手に握ったまま発動。


 発動する暴風に一瞬敵の攻撃がやみ、自分は吹っ飛ばされた。


 二階に上がる大きな階段に激突して止まった所で、大急ぎで手に持った風ともう一本氷のフィルムケースを引き抜いてセット、緑地に白のラインが浮かび上がる。


 こんな室内で火事でも起こしたら事だし、どう考えてもこれしかないだろう。あとは土くらいだが正直全開で使って地震でも起きたら、やっぱり建物ごと崩れかねないもんな。


 周りにヒトがいて、尚且つ室内と言うのはどうにも具合が悪い。


 尾節剣を再び引き抜き、攻撃を仕掛けていく


 相手が直線的に殴りかかってくるのを自分は横に回避しつつ、尾節剣で斬りつける。


 敵の攻撃は当らず、自分の変則的な動きは確実に敵を捉えるが、大きな問題は相手の再生力が無尽蔵に対して、自分は稼働時間に制限がある。指輪で回復も勿論出来るがあくまで継戦時間が伸びるだけの話だ。


 どこかで仕掛けねばと、両手の尾節剣を同時に伸ばし、


尾剣術 縛


 敵の両手を封じる。力づくで引っ張られるが、狙い通りだ。


 風精バフの全力スピードで床を蹴り、一気に距離を詰め、尾節剣の収縮で軌道を合わせて『改人』に突っ込む。


 足を伸ばしながらキックのスイッチを入れると、白のラインが消えて、緑地だけの鎧に白いパイピングが光り、あとは当てるだけ……


 「おい、危ないぞ」


 下から攻撃をくらい、天井に打ち上げられた。


 そのままの勢いで天井を蹴りつけると、一瞬で建物が凍りつき氷の反射する不思議な趣の館に変貌してしまった。


 取り合えず、再びシャンデリアに尾節剣を巻きつけて勢いを殺しながら地面に戻る


 「遅かったじゃないか。二人でかかれという命令だったのに」


 「肉体の形状を変化させると戻るのに時間がかかるのはお前もよく知るところだろう?それにも関わらず一人で楽しみやがって」


 もう一人増えた『改人』と思われる敵はその体に付いている服の残骸から、さっきの小太りの男だったと分る。


 つまり最初から自作自演だったと言う訳だ。


 「女は?」


 「とっくに逃げたぞ?あいつはああやって気配を殺すのが上手いからな~。あとは顔や声も変えるし、潜入向きなんだ。じゃあ続きと行くか?」


 「まあ、決着はつけない訳にはいかんだろうが、こうも混乱したままだとどうにも本気が出せないんで、聞かせてくれ。魔石なんてのは初めから存在しないんだな?」


 「どうだろうな~。表向き俺達が自作自演して、その間に既に取引は済んでる可能性がないとも限らないな」


 「じゃあ、なんでレディの名前を出した?変に名前を出さない方が、疑いが残ったんじゃないか?お前達が自作自演に使った事で逆に信用が増すだろう?」


 「どうだろうな~。寧ろ黒幕だからこそ敢えて仕向けた可能性もあるし、単純にお前を混乱させるつもりでやったかもしれないし」


 「だとしたら何故俺の質問に答える?混乱させたままの方が、お前達に有利なんだろ?」


 「さあな~ただの時間稼ぎかもしれんし、お前に勝つ算段がついたから余裕を見せてるだけかもしれん」


 その時何処からともなく石が飛んできたので避けると、何やら紙が巻きついている。


 紙には文字が書かれているがこのゲーム特有の文字で書かれているという事はNPCからの物だ。


 一応生産者の嗜みとして文字を読むスキルは持っているが……。


 [魔石発見レディの馬車]


 「ふむ、レディ……あんたの馬車で魔石が発見されたらしい?どういう事だ?」


 「さぁ?どうもこうもハメられたんじゃないかしら?それよりあなたの攻撃の所為でこの館寒いわ」


 「あぁぁぁぁ!何がどうなってんだこりゃよ!!」


 「ふん、混乱が深まるばかりのようだな。取り合えずこちらはお前を倒す事を命令されていて、やっと二人がかりでやる準備も整ったんだ。やらせてもらうぞ?何しろ周りの連中の所為で、使える武器が限られてるんだろ?」


 「そこまで計算づくかよ。なのに魔石関連は妙にやり方が杜撰って言うか適当だ。欲しい筈の魔石をレディの馬車に乗っけてお前らは何を得するってんだ?知らないところで取引が進んでたなら、お前らが暴れない方が目立つ事も無かった筈だ。つまり何とかレディに魔石取引の件を擦り付けたい奴がいるって事だ。それにしてはやり方が……」


 「思考がどうどう巡りになってるぞ」


 言うなり小太りだった男が蹴りを見舞ってくる。さっきとはうって変わって妙に足が長く、体も随分と痩せた。


 高く空中に飛びそこから降ってくる踵落としで、地面が揺れ凍ったシャンデリアが落ちてきて、周囲の人々から悲鳴が上がる。


 一気に暗くなった館のホール内、試作剣Ⅱを取り出して雷のフィルムケースを挿して起動すると、周囲が明るくなった。


 紫色の光にホールが照らされ、手の長い男と足の長い男と対峙する。


 手長が再び殴りかかってきた所を試作剣Ⅱで迎撃すれば、触れただけで痺れるらしく、手が縮こまり動きが止まった。


 更に足長の方にも振り回して斬りつければ、振りから少し遅れて伸びる微妙な軌道に虚を突かれたのか、足長も痺れて動きが止まった。


 そのまま風精の勢いで走りこみ、ジャンプと同時に氷精側のスイッチを発動、白い光をまとって足長を蹴り崩す。


 一瞬で凍りついた足長が蹴りの勢いで粉砕されながら、紫の光を受けてキラキラと光る氷片となって崩れ落ち、戦闘不能に陥いったのを横目で確認しつつ、指輪をベルトに差し込んで回復。


 じりじりと下がる手長に、剣を再び叩きつけようと剣を振り上げた所で、天井が抜け屋根の残骸と共に巨体の男が降ってきた?


 巻き散る埃や潰れて崩れた破片が収まるまで少々かかる。


 ホールの中央には殆ど裸の巨体の変態がニヤニヤとこちらを見下ろしていた。


 「おい、お前達の方は仕事が終わったんだろ?だったらコイツは俺に任せて、さっさと引き上げろ。俺がいる内に仲間を回収しないと、手遅れになるぞ?」


 どうやら変態は手長足長の味方らしいが、何かあからさまに立場が上であることを見せてくるという事は?


 「四天王か?」


 「おっ!察しがいいな!俺は巷じゃ『脳筋』と呼ばれる者だ。ここは仕切りなおさないか?」


 「どういう事だ?」


 「ああ、お前もここじゃ全力を出せないんだろ?いい所があるからそっちでやろう。お前は邪魔がいなくて全力を出せる。俺は一応仲間が脱出できる。これでWinWinだ。な?」


 「一緒に出て行かなかった場合の不利益は?」


 「俺がこの場で大暴れ、お前さんの信用はガタ落ちだ」


 「現時点で館一軒ぶっ潰す要因を作って、ガタ落ちなんだが?」


 「まあそりゃな~、でもお偉いさん方の命を救ったんだから、そこまで悪くは言われんだろう。もし言ったらそいつは恩知らず、こういう場じゃ上手いく行かなくなるだろうよ」


 「どうだかね~」 チラッとレディの方を見上げると館の天井が抜けようが、変態が現れようが、平然とこちらを見るばかり。自分の視線に気がついても肩をすくめて好きにしろとジェスチャーだけで示してくる


 「分った移動しよう。だがこの中にお前達の仲間が紛れてない保障はあるのか?俺がいなくなったあと暴れられたんじゃ、形無しなんだが?」


 「いないな。あと安心しろお前さんが一緒に来たレディってのは、強いよ。俺か俺と同格の奴じゃなきゃ勝てんさ」


 「分った、ついて行こう」


 自分が言うと手長が足長の核を拾って去って行く。

次週予告


 次から次へと情報が増え混乱するブラックフェニックス

  謎解きは投げ出して半裸の男に付いていく

   敵は『脳筋』錬金の力は筋肉に通用するのか?

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