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27.戦闘員A

 真っ暗な【闘技場】のリングに観客の興奮と不安が入り混じったような息遣いが聞こえている。


 突然パシャンと機械的な音が鳴り響き、同時にリング中央に一人佇む骸骨風の全身タイツ男がスポットライトで照らし出される。


 ゆっくりと息を吐き出し、決められた台詞を思い出しながら、リングの上に飛び降りる。


 ちなみに自分のいた場所はリングサイドに設置されていたギミックだ。多分降りたら回収されるのだろう。


 「見つけたぞ!組織の者だな?例え末端の戦闘員であろうと容赦する事は出来ない!とう!!!」


 そして流れてくるアナウンスの声。


 [組織は多くの者を犠牲にし、多くの者を不幸に陥れた・・・彼はその一人]


 [ただの偶然に彼の家族は命を失ってしまう。しかし、偶然とはただの不幸のみとは言えない・・・]


 [彼は神鳥の力により、身を焼かれ、灰より再び身を現す]


 [しかし、彼の心は既に復讐の唯一つに塗りつぶされていた・・・]


 [神鳥の炎に焼かれ、その灰より現われたるその姿は、ただの黒。そう、神鳥の金炎より生まれいでし、彼の名は・・・ブラックフェニックス!]


 と言うのが、自分の設定だ。正気の沙汰じゃない。


 「俺は組織の者を最後の一人まで殺しつくすまで、何度でも蘇るだろう!復讐鬼?好きに呼べ!例えただの戦闘員であろうと必ず倒す!」


 ステージの周囲を黒い炎が立ち、会場の明かりが通常に戻る。


 そこに何をどうした物か、いかにもそれっぽいというか、日曜の朝に似合いそうな曲が流れてくるのだが、何となく静かな曲というか、寂しげな感じがするのは復讐系ヒーロー?の自分のテーマなんだそうな。


 相対する戦闘員Aの姿は、なんでだろう……妙に地味だ。


 骨と全身タイツとブーツにベルトという、いでたちで、武器はちょっと大き目の短刀?


 同じ姿の戦闘員BとかCとか出てきても全く違和感がない程に、地味だ。


 見た目の個性は完全におかしな方向の筈なのに、集団の中で個を埋没させる事に慣れてるというか、動きに無駄がなさ過ぎる?


 つまり強敵って事だ。地味さに目がいっていたが、コイツ強敵だ。


 一見吹けば飛ぶほど軽そうだし、装備の重量的にも間違いないだろう。にもかかわらず、地面と一体化しているかのような重心の安定感を感じる。


 半分生産職の自分だが、それでもここまで強い相手なら流石に危険を察知した。


 そこに生まれた自分の不安に付け込むかのような叫び声。


 「YEEEEE!!」


 戦闘員Aが叫ぶと、視界が歪み、色彩が狂い、そして世界が色褪せる。


 歪んだ世界が灰色がかって安定した所で、


 [キルゾーン!この異相次元では戦闘員の身体能力は20倍になる!(演出です)]


 「くっ!誘い込まれたか!!!しかし、俺は負けん!」


 この状況に飲まれないように、まずは役になりきる。


 節尾剣を両手に構え、左手は氷水を早速発動。


 [ブラックフェニックスVS戦闘員A!Fight!]


 声がかかると同時に、動く気配がしたので斬り払うがあっさりかわされ、地面を傷つけるだけで終わった。


 急に戦闘員Aが大きくなったと思ったら、碌に動きも見せずに距離を詰めてきていたので、大急ぎで下がりながら攻撃を仕掛ける。


 しかし、いくら尾節剣を振っても、すり抜けるかのような最低限の動きで回避してどんどん距離を詰めてきた。


 そして視界から消えたと思った瞬間には、手首を掴まれ、短刀で喉を突かれていた。


 視界から消えた事、突かれたのに刺さった感触が無かった事、速度に対して異常すぎる正確な攻撃位置と、一気に色んな事が浮かんでは消えていく。


尾剣術 串


 左手の尾節剣を収束させて地面につき立て、術を使用するが、これもあっさりと回避されてしまう。


 地面の中から剣が突き出される奇襲術なのに、連続で使っている内に完全に慣れてきた戦闘員Aがまた近づいてこようとするので、剣を引き抜く。


尾剣術 円


 とにかく突き放そうと、二本の尾節剣を振り回して結界を作っているのだが、当ったと思うと短刀で弾かれて、隙間をこじ開けられてしまう。


 そして再び姿が消えたと思ったが、今度は後れを取るまいと尾節剣を仕舞い、火精と風精のフィルムケースを取り出す。


 そのまま発動し火達磨になり、


 「フェニックスゥゥゥドライブゥゥゥ」


 必死に寝ずに考えた必殺技だ。


掃蹴術 篇吟


 飛び上がって、風精で変則的な加速をつけつつ蹴りで襲撃すると、相手はいつの間にか別のナイフを取り出して防御している。


 延焼しないという事は、相当の精神力を込めて相殺していると考えていいだろう。


 風精で自分の延焼が掻き消え、地面に降り立つと、今度は冑を掴まれそのまま首を開かれてナイフで突かれる。


 今度はグッサリ刺され、更に体が動かないという事は硬直が発生したのだろう。


 そのまま滅多刺しにされ、硬直が解けると同時に突き飛ばされた。


 再び尾節剣を取り出して氷水を発動し、少しでも回復しようとすると、戦闘員Aもナイフを仕舞って短刀に持ち変えていた。


 そしてその短刀で頭を殴られると、鈍器で弾かれたように脳味噌がかき混ぜられ、思わず左手の尾節剣を取り落とす。


 だが、このまま負けるわけにも行かない。


 腰に下げていた火風装置に指が触れ、反射で引き抜いてしまった。


 更に顔を殴りつけてくるのを右手の尾節剣で庇いながら、


 「くそ!死なば諸共だ!フェニックスフレアボム!」


 これも一晩悩みぬいた火風装置のスイッチを押そうと頭の上に持ってくる途中で、手首を打たれてそれも落としてしまった。


 そのあとは、何をどうされたのか一方的にボコボコに殴られて、控え室に戻されていた。


 取り合えず、引き上げる戦闘員Aに一言伝えようと、外に出るとちょうどタイミングがよかった。しかも手にフェニックスフレアボムを持っている。これなら貸し出して使ってもらえれば、いい実験になる。


 「よう、強いな戦闘員A!普通の戦闘技術じゃ到底追いつかなかったわ。その筒はスイッチを押すことで、大爆発を起こす。大きな火精ダメージと物理衝撃ダメージが発生する。うまく使ってくれ」


 一応最低限伝えたい事は伝わっただろうか?その場を立ち去る。


 それにしても一回戦目から強敵過ぎるだろう。ふざけた見た目と実力が全く噛みあってない相手だった。


 隊長に優勝させるって言うのは失敗しちまったし、あとは隊長の聖石交渉が有利に運ぶように、まずは隊長を探す事に力を入れるとするか。


 一旦大会から支給されている宿に戻ると、いつからいたのか蠍が部屋でくつろいでいる。


 「よう、随分と一方的に負けてたが、ベルト使わなくて良かったのか?」


 「一応正体隠してるからな。切り札もあまり見られたくないし、仕方ない。何より相手が強かったから、ベルトがあっても勝てるとは限らなかった。まあ隊長を優勝させるって依頼は難しそうだが……」


 「何言ってるんだ?お前が戦ったのが隊長だぞ」


 「は?はぁぁぁぁぁ?隊長って集団戦の隊長だよな?なんであんな個人戦闘が強いんだ」


 「知らねぇよ!でも逃げた時だって賊を最終的に一人で15人片付けてるだろ?個人戦闘能力も化け物じみてやがるんだよ」


 衝撃だった。


 勝手にライバルのつもりで、追っていた相手が明らかに化け物じみた強さになっていた。


 夜だけとは言え、色々な敵と戦ってきた筈だが、戦闘中に見失うほど早い相手はいない。


 ふざけた格好をしていたし、自分同様本気装備じゃなさそうだったが、それで相手にならなかったのだから、もし突然出会ってガチでやりあったら、多分負け以外ないだろう。


 「アレだけ強かったら、単独で優勝するんじゃないか?」


 「可能性は高い。俺なりに調べたが、今回優勝候補のAグループの二人に勝った経験があるらしい」


 「つまり、俺は邪神教団の邪魔する方に集中すればいいって訳か」


 「そうなる……?お前に客人が来たらしい。俺は一旦また情報収集に戻る」


 言うが早いかスルッと部屋から出て行く蠍は、本当に暗殺かなんか仕事にしているんじゃないかと言う程気配を感じさせない。術を使っている様子もないという事は、技術なのか装備なのか、もしくは両方かもしれない。


 そして部屋の扉をノックする音が聞こえたので、


 「鍵は開いてるぞ」


 と応えると、見覚えのある奴等が現れた。


 「よ~う!ブラックフェニックス~!何だよ~つれね~な~」


 と、まるで酔っ払いのように絡んでくる白い騎士に、


 「アンタね~アレだけ色々開発させておいて、使わずに負けるってどういう事?あんな骸骨男ベルトの力を使えば一発だったんじゃない?」


 と、サイーダだ。一回会ったきりだと思ったのに、いつの間に仲良くなったんだこいつら?


 「あのな……火精の方はフィルムケースを直で使ってて延焼が発生しなかったんだぞ?しかもあのスピードで降下してもあっさりブロックされたって事はだな……」


 「いや、戦闘員Aはかなりの精神力を持ってかれてたし、ベルトは精神力を溜めて置ける構造上、諦めずに何発か打てばチャンスはあったな」


 「だよね!全くアンタって奴は!手加減して負けてたら世話ないよ!」


 こりゃ、何言っても二人がかりで言い負かしてくるだけだし、話題を変えよう。

 

 「ところで、なんでブラックフェニックスが俺だって分ったんだ?」


 「いやそりゃ分るだろ。声とか何となく動きとかでさ」


 「あのねーその全身タイツ誰が作ったと思ってるの?分るに決まってるじゃん」


 「よくそれだけの情報で、部屋まで来たな……」


 「別に間違ってたら謝って帰ればいいじゃん?それよりその格好!お前が黒い怪鳥だったんだな!俺がいくら噂話を仕入れてきても釣れなかったのは、そういう事だったんだな~」


 「ねー!アンタが闇のヒーロー黒い怪鳥で、秘密裏に悪党を葬るダークヒーローだったなんてねー!」


 「いや、待て!誰がダークヒーローだ?ちょっとPKが嫌いでPKKしたり、NPCからのクエストでちょっと裏社会系の仕事をしてただけだぞ?」


 「そうなのか?でも皆言ってるぞ?ブラックフェニックスが黒い怪鳥で、秘密裏に悪を滅するヒーローだって、なのに本戦一回戦負けって」


 「うんうん、だって新聞にも書いてあるし、前に黒い怪鳥の記事出した記者が、間違いないって……折角だからお金賭けたけど一回戦で負けたって」


 「負けたもんは仕方ないだろうが、一々チクチク言葉使ってんじゃねーよ」


 「まあそりゃな。勝負は水物だし仕方ないけどな。何だかんだ言ってもあの相手の骸骨男は強かったもんな。バフを使った様子もないのに、異常なスピードと見切り、誰だか分らないが確実にトッププレイヤーだろ」


 「ふーん騎士団から見てもそのレベルって事は、やっぱり相当な相手だったんだ?まあいいか!私の用は別にあるのよ」


 「なんだってんだ?」


 「てっきり俺と一緒にコイツをからかいに来たと思ってた」


 「いや違う!その装甲見せて!ぱっと見金属に見せかけてるけど、絶対違うよね?私の目は節穴じゃないよ!」


 「……まあいいけど、まだ使うからすぐに返せよ」


 仕方無しに着替えて鎧部をサイーダに見せてる間、取り合えず宿に備え付けのお茶を飲みながら、白い騎士と雑談を再開する。


 「しかしまあ、お前が本当に鞭剣使いになってるとは……相手が悪かったが、普通に考えてあの変則的な軌道はやば過ぎだろ」


 「基本的に筋力的なステータスが俺は低いからな。器用さとかそっちよりの武器で、尚且つ精神力を利用できる物にしたんだ」


 「なんで術士にしなかったんだ?術士も生産と兼務出来るの結構あっただろ?もしくは<精霊術>だったらネックになる消費媒介の賢者の石を作り放題なんだから、高火力後衛アタッカーって道も合っただろうに」


 「……この手でPKを倒したかったからだな。お前達だから素直に吐いたが、本来PKKなんて碌なもんじゃない事は俺がよく分ってる。それでもやる以外道がなかった。その狭い道に入れる武器は限られてくるんでな」


 「ふーんそうか、別にPKKなんて『騎士団』(俺達)だってやってるんだから、素直に言えば良かったのに……、まあ黒い怪鳥の噂から察するに、俺達に迷惑かけないようにその道を選んだんだろうが、これからはブラックフェニックスだもんな」


 「何だよこれからって?」


 「お前とその鎧は既に公然のヒーローになっちまったんだから、クエストの事は別としても、PKKについては連携出来るじゃん?」


 「知っての通り、俺はパーティ組んだりとかそういうのが苦手なんだが?」


 「分ってるって!謎のヒーローブラックフェニックスは裏社会のダークヒーローだからな。くっくっくそれが騎士団の生産棟の片隅でいつも一人でぶつぶつ言ってる<錬金>プレイヤーだなんて誰も気がつかないってな!」


 何かテンション上がって気持ち悪い白い騎士から、目を離すと……。


 「お!おぉぉぉぉ!うぉぉぉぉん!なんという天才的機構!ここがアーなって、ここがコーなると?ふひぃー!でも天才である私には分る!まだまだ改良の余地があるという事が!こうなったら、すぐにでもブラックフェニックスパーフェクトフォームを作らねば!」


 何かこっちも気持ち悪い。全くどうなってるんだ?

次回予告


 奇しくも一回戦で裏から協力するはずだった隊長と戦うことになり敗れたブラックフェニックス

  しかし彼の【闘都】での任務は終わらない

   金持ち達の裏の顔を暴く為仮面武闘会ならぬ『仮面舞踏会』に潜入する

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