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26.ヒーロー?

 予選通過後、案内されたのは【闘都】指折りのホテルの一室。予選通過者は大会運営側から宿泊施設を無償で提供してもらえるとの事なので、遠慮なく利用させてもらう。


 取りあえず装備を確認次第【闘都】に潜む邪神教団の噂でも拾いに行くかと、ごそごそと装備を弄っていたら、扉をノックする音が自分しかいない静かな部屋に響く。


 「誰だ?」


 「すまん。急な事で警戒させてしまったかもしれないが、ちょっとした提案がある。顔を貸してもらえないだろうか?」


 完全に怪しい話だが、相手は下手に出ていて尚且つ、何かを強制するわけでもない。寧ろただ話を聞いて欲しいだけの様だ。


 こういうパターンで一番面倒なのは八百長のお誘いだが、自分としては隊長が優勝するか、何なら聖石を隊長が手に入れてくれればそれでいい。


 寧ろ自分の仕事はこの【闘都】で行われるらしい魔石の取引を潰す事、そして聖石を狙うであろう敵を潰す事の二つだけ、正直大会は勝とうが勝てまいがあまり意味は無い。


 逆に考えればこの面倒くさそうな裏話に乗るか、乗るフリをして全容を知っていた方が色々と有利に運ぶ可能性もある。


 「分った今出る」


 そう応えて、すぐに身の回りを整え、扉を開けるとさっきの緑の全身タイツが立っていた。


 「よう!さっきは世話になったな……。ああ!別に復讐とかじゃないぜ。俺の仲間も予選通過した奴がいてさ、ちょっと手伝いでお前に声掛ける役を仰せつかったってだけ!面白い話だと思うからさ、話だけでも聞いてみろよ!」


 そう言うなり歩き出したのでついて行くと、そこは比較的こじんまりした落ち着いた雰囲気の酒場だ。


 正直な所BARとかそういう場所に出入りした経験がなくちょっと緊張してしまい、


 「なぁ、ここって誰でも入っていい店なのか?」


 つい不安を口にしてしまう。


 「ん?ああ今回のこの企画を話す為に貸切にしてるから気にしなくていいぞ。もし未成年なら酒は飲めないけどな」


 「成人はしてるが、そこまでいける口じゃない」


 「別に必ず飲めとか言われないから安心しろよ。さっきから言うようにちょっとした企画というか提案があるから、話を聞いて欲しいだけなんだ。ちなみに腹が減ってるなら、つまみ位は頼んでもいいぞ」


 ふむ、今迄酒場にたむろする悪党まがいは痛めつけてきたが、自分が酒場で密談する当事者になろうとは……。


 そのまま流されるように緑の全身タイツに付いていき、中に入ると案の定というかイメージ通りと言うか、ちょっと薄暗く間接照明が妙にいい感じに雰囲気をかもし出す酒場?PUB?分らんけどそういう感じの大人の社交場だ。


 貸切という事だし、取りあえず目立たないように店内の片隅に空いていたテーブルを陣取り、スツールに腰掛けて店内の様子を確認する。


 すると、間もなくスルッと現れた黒いベストの男が注文を取りに来たのだが、こういう場合どう対応するのが正解なんだ?チップとか必要なのだろうか?


 「こいつは余りいける口じゃないんだ。シードルかなんかと合うつまみを少し多めで」


 自分の雰囲気を察してかどうか分らないが、代わりに緑の全身タイツが注文してくれた。


 そして運ばれてきたのは林檎味の弱めの酒と白身魚のカルパッチョ野菜多めだが、これがイケる。


 甘みと酸味のバランスがいいあっさりとしたジュースのような酒と、オリーブオイルと妙に深みのある塩味のドレッシングがかかったサラダ&カルパッチョ!


 本来ならゆっくり咀嚼して、酒を飲む為に噛むようなつまみなのだろうが、止まらね~~~~~。


 つい、食事に夢中になっていると今回の仕切りらしき男の声が聞こえてくる。


 「さて、皆集まってくれてありがとう。今回来て貰ったのは他でもない。本選トーナメントの件だ」


 小さな壇上で話をしているのは赤い重甲タイプのプレイヤーだ。


 何となく和洋折衷鎧の冑に太陽のような朱色の円が飾られてる?かなり独特な造形の鎧だが、和風鎧が好きなのかも知れないし、別にそういう趣味をどうこういう感性は持ち合わせていない。


 「あれは予選の時の水色の奴、スカイブルーが所属するパーティのリーダー『プロミネンスレッド』だ」


 ふむ、自分が戦った相手のパーティとなれば、自分に恨みがあるかもしれないし、ここは気を引き締めて掛からねばならない。


 それにしても、本戦トーナンメントの件をこんな大人数集めてどうする気なんだ?大規模に買収して有利に進めようって腹か?それならかなりの策士だし、根回しも上手いんだろうな。


 「一応説明させてもらう。さっき本選トーナメントのグループ分けと対戦表が発表された。そして、掲示板どころか主だった攻略掲示板、挙句にはゲーム内でもあからさまにこう言われている『Aグループが実質決勝戦』と」


 ここに呼ばれたからにはきっと自分もBグループなんだろうが、つまりこっちは本命じゃないって事か。それで買収して取り合えずAグループとの決勝に誰を上げるかみたいな話し合いにでもなるってか?


 まあ自分はこの大会にあまり興味は無いとは言え、素直に買収だの裏取引だのに応じる性質でもない。


 話に乗るフリをして、手が滑って対戦相手を倒すのも楽しそうだ……。


 そこで、冷静に周囲を見回すと、何でだろうか項垂れているプレイヤー達が何か2種類いるように感じられる?


 割と体にぴったりした服を着ているプレイヤーが多いのは間違いないのだが、やたらカラフルな奴らとモノトーンな奴ら?


 そんな事を考えていたら話は続き、


「それはそうだ。優勝候補の炎の巫女と剣聖の弟子がAグループラストで当たる組み合わせなのだから、そこが一番盛り上がるのは分かる。そして、Bグループがネタグループと呼ばれるのも分からなくは無い」

 

 何か大事な事に気がつきそう?


 あれ?自分はネタ扱いなのか?いや、何かカラフルな奴等が多いからネタとか言われるのだろう。多分自分はモノトーン組みだから、大丈夫の筈だ。ベルトは他人に見つかるような使い方してないしな。


 「だが!俺たちだって負ける気でやってるわけじゃない!しかしこのままでは一部の変わり者しか俺達の戦いと本気を見てくれないだろう!だから!ネタと言うなら本気でネタをやってやろうじゃないか!そしてこの大会を盛り上げてやろうじゃないか!」


 何言ってるんだ?自分は普通に戦うぞ?ああいや、隊長と邪神教団を炙り出す為に上手く戦う。


 「話は分かるが、それはつまり演出をしてヒーローに私達が負ければいいのか?」


 そう言うのはやたらスタイル良い女性、黒皮の体にぴったり合う衣装に凶悪そうな骨ばった長い尻尾の装備をしている。


 ヒーロー?ああ、あれ?あのカラフルな全身タイツは日曜日とかのヒーローのつもりなのか?


 じゃ、じゃあモノトーンは悪の幹部?そうなると自分は完全に悪ポジションじゃん?まあいいけど『よく来たなレッド!』とか言うのか?


 「それは違う。闘技場は本気で戦う事を美徳としてる。そこを曲げればただのヒーローショウだ。本気の戦いに演出をつける。ここの【闘技場】はそう言うことが出来る。幸いスポンサーのNPCに子持ちの人がいて快く引き受けてもらえた。さらに出場者のNPCも意味は分かっていなかったが、凶暴な正義でも悪でもない獣人などキャラ設定でやる事自体は乗り気だ」


 しかもNPCまで乗り気!ちょっと待てよ?自分は全く気乗りしないぞ?なんでそんなショーみたいな闘いを?いやでもそういう感じなら逆に本来の目的を隠せるのか?ただこの大会大事なのは隊長の動向だぞ?


 「そこで、本選前で皆準備など忙しい事と思うが、それぞれのキャラクター設定等を提出して欲しい。それを元に演出をしてもらい、今回の大会の主役は俺達だったと言わせよう!俺達だって予選を勝ち残ったんだ!多くの人々の中を勝ち残り本選に出場するんだ。やるにもやられるにも派手に行こうぜ!」


 そんな事を考えている内に、酒場にいる人達の熱気が伝わってくる。これは反対できる空気じゃないぞ?誰か空気読めない人出てこないかな?


 誰も言葉を発しないが、その表情は沈思黙考とでも言うのだろうか、これから来る戦いに思いを馳せているようで、もう取り返しがつかないかもしれない……。


 「あの、ところで皆設定ってあるんですか?自分無いんですけど・・・」


 はっ!と声のする方を見ると骨の様な装備の如何にもヒーロー物の雑魚戦闘員を髣髴とさせる人物が座って堂々と酒を飲み、何かの実を頬張っている。


 「え?そうなのか???一番それっぽい格好してたからてっきり・・・何よりその全身タイツの着こなしと言うか板についてる感が、ちょっととって付けた様な雰囲気を完全に凌駕しているというか・・・もう日常的に全身タイツで過ごしているとしか思えないというか」


 皆、そうだそうだと言うように頷いているのだが、確かに全身タイツの着こなしは非常にしっくり来る物だ。


 自分も夜の姿として日頃から着慣れているが、それを遥かに凌駕するかの着こなしは骸骨の雑魚風ながら、熟練を感じさせる風格すら感じさせる。


 「だって、あんた戦闘員Aって名前だろ?どう考えたって、悪の組織の下っ端が何らかの理由で一人戦わなきゃならなくなったみたいな・・・」


 どこからとも無く、質問とも言い切れない声が聞こえてくる物の、


 「あの、皆さんは普段その装甲の下の全身タイツっぽいの着てないんですか?」


 逆に骸骨風の人物から聞き返される始末。


 「偶に着るくらいかな?」

 「この大会用に新調したな」

 「ここぞと言うボス戦の時に変身するようだ」

 「いや、流石に普段からって言うのはパーティメンバーにも悪いし・・・」


 え~・・・。ここに集まった大半が付け焼刃の全身タイツなの?自分は切り札を使う為に、日頃からコレ着てるんだけど?


 「まあ、いい!この話に乗ってくれるなら、君の分の設定は俺が考えようじゃないか!」


 プロミネンスレッド?が、骸骨の人の設定は付けるらしい。何なら自分の設定も頼みたい所なんだが……。


 「別に闘技場で演出付けられるのは、そういうもんだと思ってたので、問題ないです」

 「そうか!じゃあ、まずだなさっきの事情によって一人で戦わなくならなくなったと言うのは良いと思うんだ・・・」

 「下っ端怪人が普通にヒーローと戦えたらあれだから・・・」

 「いっそ、負けた人はこれと言う装備を一個づつ大会の間だけ貸し出すと言うのはどうだ?闘技場なら壊れて紛失する事もないし、そこはNPCに仲立ちしてもらって・・・」


 どんどん話が決まっていくんだけど、自分はどうすればいいんだ?


 「ん?なんだ?ブラックは復讐系ヒーローだろ?その全身タイツの着こなしといい、防具の細部までこだわりっぷりといい、よっぽど練りこんだ設定があるんじゃないか?」


 緑の全身タイツが話し掛けて来たところに、スカイブルーがやってきて、


 「あ!ここにいたのか!なんだよ~俺も予選で一緒に戦った仲じゃないか~」


 何かゲーム内にもかかわらずちょっと酔っ払ったテンションで絡んでくる。


 「いや、あのだな。予選中にも言ったが俺はそういうのじゃないんだ。しかも色が黒だろ?敵側じゃないのか?」


 「何言ってんだよ!だからこそだろ!」


 「そうだよ!悪から正義に目覚める復讐系ヒーローなんて、どれだけ美味しい設定なんだよ!」


 ちょっとスカイブルーは声が大きいので勘弁して欲しいと思ったが、時既に遅し……。


 「なぁなぁ、復讐系ヒーローなんだろ?じゃあさ!悪は駄目だろ?悪を皆殺しにする偏った正義とかさ!」


 何だこのミイラ男?余計な事は言うな。自分はひっそり隊長の闘いを見届けられれば……。


 「お~い!一戦目の組み合わせ出たぞ!戦闘員Aとブラックフェニックスだそうだ!」

 「じゃあ、あれか?ただの戦闘員と言えども容赦しない復讐系ヒーロー?」

 「だな!ブラックフェニックスが勝ったら、次の段階に進むし……」

 「戦闘員Aが勝てば、実は裏の事情があるって事か?」

 「でも、ブラックフェニックスが他のヒーローと当ったらどうするんだ?」

 「そりゃ復讐で塗り潰した黒い心をだな……」


 もう、観念した。決められた通りのヒーローを演じてやろうじゃないか!ドンと来い!


 一戦目の骸骨の男は申し訳ないが、倒して進ませてもらう。


 何者か知らないが、正々堂々と戦うので勘弁して欲しい。


 それよりも問題は負けた場合自分の装備を一つ貸し出さなければら無い事だが、どうするか……。


 流石に〔盗賊の篭手〕を貸し出すわけにも行かないし、フィルムケースももっての外だ。〔まぜーる君ナックル〕も自分以外のプレイヤーには意味ないし……。


 火風装置くらいか?自爆用とでも言って貸し出せるのは?貸し出す時、コレの名前何にしようか?


 闘技で戦うより、よっぽど頭が混乱してきた。

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