25.ブラックフェニックス
【闘都】で行われる大会の名は『獅子英雄杯』というらしい。
常に一人しかいない『決闘王』の称号を手に入れる為、名を引き継ぐ為に、代替わりの度に行われる大会。という設定だ。
実際このゲームがプレイされるようになってから、開催されるのは初めての大型クエストといった感じか?
運営イベントとはまた違った世界観と連続関係にある催しの為、NPCも普通に参加できる所が味噌かもしれない。
なにしろNPCが一位になって決闘王になる可能性だってあるのだから。このゲームのNPCは結構容赦なく強いので、本当に可能性がないとも言いきれないだろう。
受付は【闘都】中央の一番大きな闘技場となっていて、随分と大勢のプレイヤーやNPCまで並んで行列を作っている。
これだけ参加者がいるんじゃ隊長も大変だな~もしかしてアレか?優勝者と交渉して聖石だけ手に入れようって魂胆か?それはそれで合理的だし悪くはないと思う。
ぐるっと見回す限り、顔を隠しているヒトが多い為、自分の装備でも全く目立たない。
フルプレートでフルフェイスを被ってるのみではなく。あからさまに仮面を装着しているプレイヤーやNPCも少なくはないのだ。
何しろこの大会は仮面武闘会なのだから。ネタの様だが一応謂れがあり、初代決闘王はライオンの獣人だったとの事だ。しかも友人に騙され多額の借金を負った為、負ければ死の覚悟で闘技に挑んでいたらしい。
それでも勝ち続け、その時代の邪神の化身を封印する英雄の一角となったほどの人物だったとか。その人物以来決闘王は獅子の面を被る習慣になっていて、この大会もどんな身分や立場の者でも、ただ力のみを示す場であるという前提から、仮面での参加が義務付けられている。
ただ受付の段階から顔を隠しているのは総数の半分程度ではあるが、皆思ったよりそれぞれ違う個性的な仮面を用意しているのが不思議なくらいだ。
今、受付を終えて横を通り抜けていった人物など、骸骨風の鎧に仮面だが、言ってみればヒーロー物のやられ役戦闘員にしか見えない、ネタか記念参加だろうか?
さて自分はというと、一応基本装備はいつも通りだが、念の為ベルトとまぜーるくんナックルだけは外してアイテムバッグに仕舞ってある。
何しろ大盛況だし、知り合いにしろ過去に恨みを買っているPKにしろ誰に見られているか分らない。
ベルトのような特殊装備は流石に隠して、一般プレイヤーの参加者に見せかけつつ、連節剣と手の内に隠せるフィルムケースだけで何とかする予定だ。
今の所改人らしきヒト影は見えないし、どうなる事やら予想できない。周囲を何となく警戒しているうちに、自分の受付の番が来た。
「リング名を登録して下さい」
やたらと、にこやかなNPCの女性に声をかけられるが、AIとは言えこの人数をその満面の笑みで対応し続ける事に、ちょっと感心してしまう。
「すまないけど、リング名と言うのは?」
「はい!仮面武闘会ですので、リング名の登録が必要となります。もしお考えでなければ候補を挙げさせていただきますが?」
ふむ、こうやって受付しているのか。しかし自分一人の為に幾つも候補を考えてもらうのも忍びない。
「じゃあ、あまり尖ったものや変なものでなければ、適当に登録お願いします」
「畏まりました!見た目の特徴と合致して、尚且つ現状被りのないリング名は『ブラックフェニックス』となります。登録完了しました。お疲れ様です。予選当日は北西の水の闘技場にお集まりください」
「あの、水の闘技場と言うのは?」
「はい!今大会では使用されないギミックですが、水を利用した戦闘を楽しめる特殊闘技場となっております。ただ当闘技場一番人気は筋肉の筋肉による筋肉の為の闘技会通称『筋肉の祭典』重量部門となっております」
「そうですか、筋肉関係の闘技会じゃなくて助かりました」
という事で、登録が完了したのでそそくさと退散。
さて自分はブラックフェニックスとして数日以内に予選会に参加せねばならないのだが、同時に聖石狙いの改人を探しつつ、魔石の取引も潰さねばならない。
しかし、これだけヒトが沢山いるのにそんな怪しげな取引がされるのかが、問題だ。
正直な所怪しい取引なら、ヒトの少ない場所でこそこそやればいいのに、邪神教団は実は承認欲求過多なのか?
しかし、いくら頭の中で嫌味を考えた所で、敵の姿は一向に見えない。ならばやる事は一つ!腹ごしらえだ。
正直な所今回の任務はある程度自分の裁量で決断するものとなっている。つまり何かあったときに腹を据えて物事を決める必要があるという事だ。
ならば、そのいざという時腹が減って動けないなどという事があってはいけない。
何しろこのゲーム渇水度や空腹度が設定されている。それが尽きれば戦うどころじゃなくなってしまう。
だからこそ、NPCの商店初め、プレイヤーも<調理>なんかが出来るようになっているのだ。つまり腹が減っては戦ができないそのものだ。
【闘都】をうろつき、気になったのは特にメニューも何もなく何が食べれるのか分らない店。現実ならこんな店に絶対入らないが、ゲームならという好奇心が自分の冒険心をくすぐる。
どうやら料金は一律で、別に高いものではない。そしてシェフが自分を見て勝手にメニューを決めるらしい。
自分の目の前に出てきたのは、ニンニクと唐辛子をたっぷり使ったショートパスタのアラビアータ?何でこのメニューなのか聞くのは野暮というものだろう。
黙ってパスタを食べると何故か不思議と今の自分の気持ちに火をつけるように、全身から熱を発し、気力が湧いてくる。
自分の攻撃的な感情に呼応するように【闘都】のギリギリ外から叫び声が聞こえてきた。
急いで気配を消しつつ向うとPKの真っ最中、闘技場名物、PKの闘技者狩りだ。今日は大会参加の為に油断しているプライヤーだらけでさぞかし、儲けもいい事だろう。後悔しろ!
日頃からPKを繰り返すほど、落とす金額も増える。つまり日頃の行いの悪い者程、一発負ければ失うものも多いのだ。今から自分の奇襲を受けて悔いろ。改める必要は無いから、ただ絶望に打ちひしがれろ!
高鳴る鼓動と妙に楽しい気分に笑みがこぼれるのを抑えきれない。
さあ無力な子羊にトドメだと狼の牙が立てられる所に、自分の尾節剣が脳幹を抉り取った。
自分は腹の黒い狼を食い散らす禿げ鷹!猛禽ブラックフェニックスだ!
その後も【闘都】周辺には食いごろの勘違いPKが溢れ、箸にも棒にもかからない勘違いPK共を捻り潰し、ミンチにし、持てるだけの金を巻き上げる。
すっかり改人の事も取引の事も忘れ、数日間PK狩りを楽しんでいたら、予選当日になっていた。
遅刻だけはまずいと、本気で大慌てで会場に向かうと、個室エレベーター?のような物に乗せられ、何か上に上がったと思ったら、石造りの平坦なフィールドに出た。
既に数人の出場者が一定間隔で、待機している。とりあえず姿から少しでも特徴を拾おうと観察していると、何か妙に凝った衣装が多い。
仮面武闘会とは聞いていたが、コスプレ大会も兼ねているのか?正直自分のハリボテ装備が全く違和感ない事が、違和感なんだが?
何かエレクトリックギターを手に持ち、肩部にスピーカーのくっ付いた緑の全身タイツとか。
青と言うより、水色の全身タイツと片金属と思われる水色の装甲を組み合わせた奴とか。
他の連中も多分栗鼠と思わしき全身着ぐるみの低身長の奴に、裸ふんどしで顔をすっぽり河豚の被り物の奴とか!何か自分の個性の無さに自信を失いかけてきた。
[コレから行われるのは~~~!バトルロイヤル!予想以上の参加者をふるいに掛けるため、一斉に戦っていただきます!]
まあ、そりゃ一斉にこれだけの人数集めたんだから、そりゃそうだわな。
どうやらリングは結構高い位置にあるらしく、場外は負け。ちなみに場外の下は水なので落っこちてもそれで死ぬ事はないのだろうが、自分は<水泳>のスキルは持っていないので、できれば勝ち残りたい所だ。
一応今の所、改人らしき相手はいなさそうだが、まあいてもベルトを仕舞っている以上今回は負けても仕方ない。正体を割ることを優先しよう。
その為にはまず一回全員攻撃して、再生するかの確認だな。誰も改人の特徴的なベルトを装備していないようだが、それこそいつもの自分のようにカムフラージュしてないとも言えない。
[はじめ!!!]
さて、まずは開幕どう立ち回ろうか、様子を見ているといきなり緑の奴が大音響をかき鳴らし、衝撃波で押される。
自分だけでなく全員ノックバック効果を受けているようだが、このままだと場外になりかねない。
特に実際の重量の軽い自分は一番最初に落っことされかねない。それならばとすぐに尾節剣を抜いて、地面に突き立てる。
尾剣術 串
尾節剣が緑の奴を貫くと、音が止まりノックバック効果も消えた。
同時に自分の左手にいた河豚ふんどしが銛を片手に襲い掛かってきたので、左手の尾節剣も抜き、
尾剣術 円
自分の周囲に伸ばした尾節剣の結界を作って跳ね飛ばす。
ふと予想してない手応えがあったので、後ろを振り返ると黒い軽装のナイフ使いが巻き込まれて跳ね飛ばされ場外に落っこちていった。
多分奇襲をかけようとして、タイミングを間違ったんだな。憐れな事だが運も実力の内だ。
再び、緑の奴から大音響が鳴り響いたと思ったら、エレクトリックギターで地面をぶん殴った音だった。
だが全く鈍い音ではなく、何故か空気を引き裂くような甲高い音が鳴り響き、緑の奴の周囲に群がった敵の動きを止めていたので、
尾剣術 串
緑から引き抜いた尾節剣を動きの止まっている奴等に一発づつ刺して、再生具合を確認していくが、全員白だ。
次はどうするかと、周囲を窺っている内にふんどし河豚が銛にエフェクトを載せて投擲体勢になっている?
これはヤバイやつだと勘が騒ぎ、左手の尾節剣を巻き取り仕舞い、
風精のフィルムケースを取り出し握り締めたまま地面をぶん殴るように発動すると、体が宙に舞い上がる。
自分の体があった場所を螺旋状のエフェクトを巻いた銛が通過して行き、自分は高々と飛んだところで服に仕込んであるグライダーで体勢を整え、右手に持った尾節剣を栗鼠の着ぐるみの首に巻きつけ降下。
体勢を崩して転ぶが、何とかフィールドに戻れた。
そこで、ふんどし河豚と栗鼠が同時に敵に回ってしまったので、風精のフィルムケースをしまい。再び両手に尾節剣を持って、二人同時相手にする覚悟を決めた。
いつの間にかふんどし河豚の手元には銛が戻っているので、さっきの大技は気をつけねばならない。
そして栗鼠の方は今の所全く情報がない、だがぼやぼやしていては先制を取られてしまう。
成り行きとは言え2:1の状況を作ってしまったのだから、速攻しかあるまい。
まず二人相手に右手左手両方の尾節剣を振るって襲い掛かる。ふんどし河豚は銛で受けたので、
尾剣術 縛
そのまま銛と手をまとめて拘束して一旦動きを封じる。
栗鼠は避けて、潜るように間合いを詰めてきたので、そのまま精神力で尾節剣を操り、栗鼠の背後から突き刺す。
だが、刺したのは残像だったのか幻覚だったのか、少しずれた位置に姿が移動していて、そのまま飛び込みで顔面にストレートパンチを見舞ってきた。
掃蹴術 駝懲
足を折りたたみ相手の体と自分の間に入れて、強引に蹴り飛ばす。
ストレートパンチが掠りはしたが、クリーンヒットだけは何とか回避。何しろハリボテ装甲の自分がクリーンヒットを喰らうのは、かなりまずい。
左手側の尾節剣に仕込んだ氷水を発動し、自然回復力を高めて今掠った分を少しでも取り戻すようにして置きつつ、今の攻防で拘束から抜け出たふんどし河豚の対応もしなければ……。
気がついたら水色の奴がふんどし河豚に襲い掛かり、
「ブラック!助けに来たぞ!」
何か自分に対して叫んでいるが何のことだ?
まあ、いいかと栗鼠の方を見たら、緑の奴が襲い掛かり、
「ブラック!お前には楽器のほうが似合っているぞ!」
だから何のことだ?
自分に集中していた二人を背後から襲い、あっという間に倒した二人の攻撃力はかなりの脅威だが、さっきから何を言っているかが分らない。
「おい!ブラックは複合武器を持っているのだから、うちの5人目の戦士に決まってるだろう!」
「いや!お前の所は太陽とか空とか星とか月とかのイメージだが、夜のイメージは悪の幹部がいるんだから、ブラックは戦士にしちゃ駄目だろう。うちは楽器さえ使えれば誰でもいいのだから、うちの追加戦士になってもらう!さあ!どんな楽器がいい?なんならリコーダーだっていいんだぞ!」
「いや、俺はそういうのじゃないから」
「何を言ってるんだ!その全身タイツの着こなし!かなりの手練と見たぞ!常日頃から相当着慣れている証拠だ!」
「じゃあ、お前はどういう戦士だって言うんだ!何のために戦ってるんだ?」
「え?ええ?復讐とか?」
「なぁぁぁぁん!復讐系ヒーローって!邪道界の王道ヒーロー!そんな難しい設定でやってるとは、こいつはタダ者じゃないぜ」
「確かに、ちょっと禍々しい雰囲気のある武器と防具だ。だがそれでこそ追加戦士に相応しい!さあ音楽の力で正義に目覚めるんだ!」
両手の尾節剣をしまい、左手に風精のフィルムケース、右手にサイーダに作ってもらった風火装置を取り出す。
「悪いが、今の所誰かとつるむ気はない」
風火装置のスイッチを押して地面に転がし、風精のフィルムケースで空中に舞い上がる。
右手で土石を取り出し精神力を流し込んだ所で、爆風が更に自分を高く舞い上げた。
爆風で周囲はよく見えず、体勢を整える事も出来ぬままリングに叩きつけられると、
[勝者!『ブラックフェニックス』!!!本選出場おめでとうございます!本選出場者にはこちらで宿を手配してますので、どうぞご利用ください!]
どうやら、変な水色と緑の奴は吹き飛んで場外に落ちたか、死に戻ったらしい。
自分も耐えられるか分らない所だったが、ギリギリ何とかなったようだ。
次週予告
【闘都】の裏で蠢く邪神教団の野望を邪魔する為大会に参加する事になった黒い怪鳥
彼をブラックと呼ぶ謎の全身タイツたちの力も利用し何とか予選を乗り越えたものの
待ち受けるのは正義と悪の連合、『ヒーロー?』ブラックフェニックスとして大会を羽ばたく




