24.期待
どうにも研究に身が入らない。結局の所素材が集まらねば何の研究もしようが無いのだが、だからと言って黙々と金稼ぎの為の生産というのも、気分が乗らない。
理由は簡単、圧倒的に強い敵の存在だ。技量で負けてるとか以前に、攻撃が効かない相手をどうやって倒すのか?
話から察するに相手は完全に邪神教団だろう。そして自分が的にかけられているとなれば、いずれ戦う事だけは間違いない。
一つ目の方法は自分が単純に強くなる事だが、はっきり言って夜だけ戦闘職のにわかの自分にはその方法がさっぱり分らない。
そうなると、昼生産職の顔で何か考えねばならないのだが、さっぱり何も思い浮かばない。寧ろこちらの切り札を余裕を持って受け止められたシーンばっかりフラッシュバックする始末だ。
精霊の力をどう使えば、攻撃の効かない相手に効かせる事が出来るというのか?鎧の様な重装備に身を包んでいたから、こっちは貫通しそうな雷精で攻撃したってのに、ビクッとしただけで、あっさりこっちを投げ飛ばしやがった。
もし仮にあの敵が術に強いのだとすれば物理で殴る必要があるが、生憎と自分の物理攻撃手段は尾節剣と蹴りだけときている。並みの相手なら火精のバフで多少なり攻撃力に補正もかかるだろうが、果たしてあの黒い鎧の敵に効くのだろうか?
「さっきから、何を考え込んでるんだ?」
「あ?いつからいたんだよ」
「なんか独り言で、雷精が効かないとかなんとか言ってた辺だが?」
「そうか、いつの間にか独り言まで漏れてたか」
「それで、何かあったのか?いつもなら研究の邪魔すんなとか言って来そうなものなのに、今日はその研究すら手に付いて無いじゃん」
「いや、ただ攻撃の効かない相手にダメージを通す方法ってあるのか考えてただけなんだわ」
「なんだそりゃ、攻撃が当らないとかならいるが、効かないってそりゃチートじゃないのか?」
「そんなんじゃねーよ。そういう敵がいたらどうやって倒すべきかって話だ」
「そうなるとどう考えてもタネがあるだろうな。物理が異常に高いとか、術の相殺が異常に上手いとか、そういう奴ならいるが、全く効かないとなると理由があると見るな」
「物理は効きが悪いんだよ。しかも攻撃対処能力も高くて上手く受け流すのも上手い。その上でクリーンヒットさせたと思った術も効かないって、どうしたら良いと思う?」
「どう考えてもお手上げだと思うがな。多分思った通りの効果が得られなくて、相手の姿を大きく捉えてるとかじゃないのか?」
「本当は効いてるのに、効いてない様に感じてるって事か?」
「ああ、そういう感じ?ちゃんと探れば弱点もあれば、効かないように見えるタネもあるんじゃないか?」
「なるほどな。確かに初見の相手だったら、まずは情報を集める為に色々やってみる必要があるか」
「そうそう、もし短期決戦タイプだったら、粘り勝ちできる可能性だってあるんだしさ」
まあ、自分がフィルムケースのベルトを使うのにも時間制限があるんだがな。
最近手に入れた試作剣にも術士の石を取り付けるように頼んだが、これも結局時間制限は変らんし、戦闘持続時間の向上は確かに課題かも知れない。
「随分と真剣に考え込むんだな。今まで全然戦闘は出来ないって言ってたのに、どこかで戦ってきたのか?」
「まあ、ちょっと【森国】でな。だがいきなり強敵に会っちまって、頭抱えてたところさ」
「何でまた【森国】なんかで……あそこは癖が強いぞ?真っ向勝負タイプじゃない敵が多いし、手に入れられるスキルもちょっと変ったもんが多い筈さ。精霊術でも陽精、木精は分るとして、陰精とかあると言われて久しいのに一向に使い手が現れないし」
「ちょっと待て!陽精はわかるぞ。かなりメジャー精霊だし使い手も多い。だが!陰精は聞いてないぞ?どういう事だ?」
「どういう事だ?ってお前<錬金>使いなんだから、お前の方が詳しいだろうが?」
「いや、俺だって陽精があれば、陰精もある事くらい知ってるが【森国】にあるとは聞いてないぞ!今まで偶に手に入る程度のレア精霊素材だと思ってたが、これである程度まとまった量が手に入るのか!」
凄い情報を手に入れてしまったぞ。これで研究が更に進む!ああ……でも今はまだ、重精の素材を手に入れてもらうように依頼中だったんだ!焦るな自分!まずは重精から、次は陰精!
「なんだ、悩みはもういいのか?目を輝かせやがって、まあ別にいいけどよ。とりあえず小包届いてたぞ?」
「ん?」
「ん?じゃねぇよ。受付に聞いたら一向にお前が受け取らなくて困ってるって言うから、持ってきてやったんじゃねぇか。そしたら、何か考え事してたんだろ」
そう言って渡された小包はサイーダからだ。流石は女性プレイヤーといった所か、何気にセンスのいい箱だ。
中に入っているのは指輪が二つ。
-説明書-
この前は開発が完了してなかったから説明してなかったけど、そのベルトには急速回復装置をつけてある。
ベルトの術士の石の横に丁度この指輪の石が嵌る隙間があるだろう。ベルトに溜め込んだ精神力が切れたら、そこに指輪を差し込むといい。
二つの内一つは術士の石を加工したもので、日頃指輪として装備しておいて自然と溜まった精神力を使えるぞ。
もう一つ指輪は装備者の精神力を流し込む用となっている。
きっと今頃アンタは継戦能力が足りないなどと、ぼやいているだろう。大急ぎで開発完了させてやったのだから感謝するように!研究費は大目に振り込んでくれて構わないぞ! -サイーダ-
なんともまあ、タイミングのいい事で、ホントに感謝しかないな。
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【王都】隠れ家-夜-
「敵の狙いがまた少し分った。100人級ボス魔物の魔石だ」
「?魔石ってのは魔物の核みたいなやつだよな?100人級ボスってのは、100人で戦わなきゃ勝てないようなボスって事か?何でそんな物が必要なんだ?」
「何で必要かは分からんが、隊長に調査を頼んだ件から芋づる式で情報がくっついてきてな。100人級ボスの魔石となれば流通量が少ないし、動きを確認しただけで怪しい連中が何人か見つかった」
「ふーん、だがその前に俺が疑問に思った事に答えてくれ、確か隊長は『改人』の事知らないよな?俺達が秘密裏に相手してる訳だし、なんで邪神教団の狙いが分かるんだ?それとも邪神教団の事は隊長も知ってるのか?」
「いや、それは知らないだろうな。隊長は表寄りの仕事、ちとオイタしてる堅気の調査を頼んだのさ。そこで聖石を狙う連中が魔石も狙ってるって事を発見してきたんだよ」
「隊長自身が聖石を集めていて競争相手がいると、それは俺達が知っている相手とは違うって訳だ。俺達は邪神教団、隊長はいったい誰が相手なのかね~。そう嫌な顔すんなよ……別に無理に聞き出そうなんて思っちゃいないさ」
「ふん、妙に聞き訳が良くて、それはそれでな。まあいい明らかに怪しい魔石を追えば、邪神教団と鉢合わせる可能性が高い。そこでお前の出番って訳だが、頼めるか?」
「別にいいぜ。ところで四天王は出てこないよな?」
「それは分らん。何しろ俺も四天王の事を知らないからな。そこまでちゃんとした役職があるほどキチッとした組織だとも思ってなかったぜ」
「そうか。じゃあ一旦聖石は置いておいて魔石を追うって事でいいんだな」
「ところが、そうもいかん。聖石の件も実は話が動いてるんで、ちょっと立て込んできたのさ」
「そりゃまた、難儀な事だな。それで結局俺は何処に行って何をすればいい?アンタはあっちの事もあるんだし、指示だけ出してくれりゃ、勝手にやっておくぜ」
「本当にお前を選んでよかったと思うぜ」
「なんだ?隊長はそんなに厄介なのか?」
「いや、普通に接してりゃ別におかしな奴じゃないが、暇だからって【訓練】に付き合わされるんだわ。それが何処で覚えたんだか陰険なナイフ戦闘の使い手でな。神経が削れてしょうがねぇってな」
「アンタも相当な使い手だと思ってたんだが、向こうはそんななのか。まあ俺の方はいつも通り平常運転でやっておくから安心しろよ」
「そうか、じゃあ今回の行き先だがすぐ近くの【闘都】だ」
「なんだ【闘技場】に聖石があるってのか?それとも魔石の方か?」
「両方さ。まず聖石のほうから説明するとそろそろ『決闘王』の代替わりがある。そして次の決闘王を決める為に大会が催されるんだが、その決闘王に代々受け継がれてるのが聖石なんだ」
「なんだそりゃ!それじゃ隊長に優勝させろってのか?出場者を闇討ちにするのが任務とか?」
「俺が、堅気を闇討ちしろなんて依頼出すと思うか?ただそこに奴らが現れる可能性があるから、お前も出場して様子を見て欲しいってのが一つ」
「ああなる程な。邪神教団の妨害を妨害すればいいって事か、それなら全然構わないぜ」
「もう一つは魔石の取引があるらしいんだが、候補の金持ちが数名いてちょっと複雑な感じなんだわ」
「俺はアンタの依頼で暴れる方はやってきてるが、調査なんかは出来ないぜ?」
「まあ、そりゃそうさ。寧ろ調査は俺の部下を使ってやらなきゃならない事だ。場合によっては取引現場に踏み込んで実力行使の必要があるかもしれないって話さ」
「ふーん、いずれにせよ実力が必要な事か。報告は入れてるが、俺はこの前良いようにやられたばかりで、実力不足を痛感してる所なんだが?」
「そうだったな。まず試作剣はお前に渡された術士の石を使って、一定時間その石からの供給で賄えるし、それが切れたら直接おまえ自身の精神力でも使えるよう切り替えも可能にしてある。試作剣Ⅱってとこだ」
「仕事の速いことだな。コイツで少しは戦えるようになるといいがな」
「もう一つあるぞ。お前が【森国】で解決してきた妖怪の一件と魔素溜まり浄化の礼って事で、向こうからちょっと特殊な素材を貰えたんでお前用に誂えた冑だ」
そう言って渡されるのは、相変わらず鳥型の冑だがややカラスっぽさを感じるのはあの妖怪の礼だからって事か?
「見た目以外に、何が変ったんだ?」
「一応今まで通り、そのベルトに反応するよう調整はしてあるが、一番は任意で幻影を生み出せる効果だな」
「なんじゃそりゃ?」
「お前そっくりの影を生み出して、動いているように見せるだけの代物だが、代わりにお前の姿は見えなくなる。【森国】お得意の術に近い能力を装備効果として使用可能って訳だ」
「影と入れ替わった所で、すぐにばれそうなもんだがな」
「まあ、何でもうまく使って小細工を重ねなきゃ、まともにぶつかり合える構成じゃないだろうが」
「まあそうだな。確かに切れる手札は多いに越した事無いし、ありがたく使わせてもらうぜ」
「使い方は簡単だ。その冑に精神力を流し込むだけだ。影の動きはお前のイメージ次第なんで【訓練】するしかないな」
「分った。じゃあ闘技に参加して邪神教団が現れたら妨害、【闘都】で行われる魔石の取引の妨害って事で引き受けるぜ」
「ああ、頼む邪神教団の件はよく分かってないことも多いし、お前だけが頼りだ」
随分と難儀な事を頼りにされてる気もするが、仕方ない。自分は自分の出来る事をするしかない。
次週予告
強大な敵と戦う力を手に入れる間もなく
動きの活発になる邪神教団
【闘都】の武闘会で黒い怪鳥は『ブラックフェニックス』として戦う事となる




