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22.妖怪

 いつか来ようと思って、一回も来た事のない国と言えば【帝国】と【森国】と言われている。


 なにしろこのゲームが始まった当初、多くのプレイヤーがエルフがいるなら【森国】だろうと期待に胸を膨らませて、スタート地点を【森国】にした結果、エルフどころか【森国】のイメージは完全に和だった。


 最初から和風だと分っていれば、逆のニーズもあった筈なのだが、何しろエルフに期待した勢は本気で落胆し、頑張って船代を稼ぎ、他の国へ散っていった。


 それにより、それ以降いつまで経っても過疎地となったままだ。


 日本刀や和風の武器もあるので、個人的にはそう悪いものではないと思うが、如何せん【帝国】程実績あるプレイヤーもいなければ、逆に不人気な最強のPK剣聖の弟子の所属国家でもある。


 そういった事情からも、あまり自分の足が向かなかった事も察してもらえるだろう。


 指示された通りポータルで移動すると海のある貿易都市で、海の匂いが漂い人々のごった返す様は気温の違う【海国】だ。


 正直この前までいた場所と気温以外の違いと言えば、和風顔のヒトが多いってこと位なんだが、趣も風情もない。


 よくよく見れば、建物が漆喰のようだが【海国】だって白い土壁だったし、あちこちの国から船で貿易に来てる都市なのか、見慣れた雰囲気の顔も相応に多い。


 正直な所自分の特徴的な皮服は目立つのだが、プレイヤーが殆どいない所為かあまり見られるような事もない。


 さて、今回の目的は邪神の尖兵を狩る事なのだが、何しろ【森国】に詳しくない自分の為に道案内をつけてくれるという。


 蠍は忙しいのか、またどこかに行ってしまった。


 問題はその案内人の顔を知らないので、どうしようもないと言う事、蠍曰く知っていたところで見つかる相手じゃないとか。


 まあぼんやりしてても仕方ないので、港の喧騒から少し離れた場所でうどん屋を見つけ、のんびりすする。


 正直な所海鮮は【海国】で食べ過ぎてちょっと飽きたところだったので、何となくほっとした。


 食べ終わって御代を払うと、


 「そろそろ、ぃぃかぇ?」


 正面から声をかけられたのだが、視界にずっと入っていた筈なのに、心臓が止まるほど驚いた。


 何しろ見えていたはずの相手を全く認識できていなかったから、風景の一部から唐突に声をかけられ……脳がバグるってのは、こういう事を言うんだろうか?


 「あんたが、案内人か?」


 「そぅさぁ、道案内が得意なじじぃさぁ、別にそぅ警戒する事もなかろぅて」


 「よくも抜け抜けと、凄腕なんだろ?なんて呼べばいい?」


 「里では頭領と呼ばれてぉるょ」


 「そりゃ、お偉いさんじゃないか?いいのか?俺みたいな怪しい者の道案内なんぞ?」


 「かまぃやせんょ、儂がぃつまでも面倒見てては若ぃ奴らが成長せん。じじぃは雑用を引き受けるくらぃでぃぃんじゃよ」


 言うなり都から出て、森の間道を進み始める。


 【帝国】も森が深かったが【森国】は桁が違う。樹齢何年かも想像つかないほど高い木がずっと続いている。


 上を見れば高い木同士が上手く枝をぶつけないようにぎりぎりいっぱいまで広がり、全体として暗いが、隙間から見える空は明るい。


 時折根が張る土道は、かなり歩きづらく、こりゃ不人気なのも仕方ないよなと思うほど、気持ちと体力を削っていく。


 何しろこのゲームは自分で自分の体を動かさなきゃならない、十字キーの上を押しときゃ進むようなゲームじゃないのだから、木の根に足もつっかかるし、転ぶまでいかずともストレスは多い。


 それでいながら、道案内のじいさん。頭領はするすると抜けていく。


 身長はそれこ自分の胸ほど位しかない筈なのに、どうやって足を上げてるのかすら分らない身ごなしで、木の根を越えて、隙間を抜けてさっさと進んでいく姿は、妖怪かなんかか?


 「ぉ主、妖怪に興味ぁるのかぃ?」


 「何だ?心を読めるって事は『サトリ』かなんかか?」


 「そんな妖怪もぉるが?会いたいのか?」


 「いや、心を読まれる敵なんぞ、ごめんだね」


 「ぉ主は邪神の尖兵を倒したいんじゃろ?腕は悪くなさそぅじゃが、ちょっと装備が物足りなくなぃかの?」


 「どうだろうな?一応俺の能力に合わせて特注で作られてる物だろうから、変に弄る気は無いんだが?」


 「そぅかぃ、靴とベルトと腕は確かに見た事なぃ造りじゃ。だが肝心の胴と頭はもぅ少し気を使ってもいいと思ぅがのぉ」


 NPCがこういうって事は、装備を手に入れるクエストを受けられるって事なのか?パワーアップは望む所だが、さてどうしたものか?


 「じゃあ、道々機会があったらって事で、その妖怪?ってのを紹介してもらう事は出来るのか?」


 「構わんぞぃ、ぉ主の上司も知らん間柄じゃなぃしのぉ。何やら厄介な相手を敵に回してぉるんじゃとの?なら若ぃ奴にちょっと位手を貸してやるのが、じじぃの役目で、暇つぶしじゃょ」


 「暇つぶしね。それはいい趣味だ」


 そのままどれ位進んだろうか?何しろ時間の感覚がおかしくなる暗さと、ひたすら木しかない光景にちょっと飽きてきた所で、家が一軒唐突に現れた。


 何でこんな森の奥にとも思ったが、よく周囲を注意深く観察すると、そこは村か町のようでチラホラ家が建っている。


 木にまぎれて木の住宅が立ち並んでいても、こりゃ現地民でもなきゃ完全に見逃すぞ?


 「疲れたろぅ、ここで休憩するぞぃ。この国じゃぁ比較的歩きやすぃ所を選んだが、それでも慣れぬと疲れるもんじゃぁ」


 「これで歩きやすいのか……、こりゃ先が思いやられるな」


 言いながら、一軒の家に向かって行く。そこには暖簾がかけられ甘味処となっていたので、団子を貰ってお茶で流し込む。


 落ち着いた程よい甘みで、結構好みだった。出来ればおやつに持っていきたい位だが、このゲームじゃ完成された食事は割りとすぐに悪くなってしまう。


 素材で持ち歩けばその限りではないらしいが、やむを得ない。また他所は他所で美味い物もあるだろうと、諦めて先へ進む事にする。


 「こう道が悪いと余所者は難儀するな」


 「そぅじゃの、大抵の者は海岸沿いの開けた平らな道を行くのぉ、だがそうぃう人通りの多い場所に瘴気溜まりは出来んでの。だが稀にこの地形をモノともせん変わり者も訪れるがのぉ」


 「そりゃまた、どうやってこんな根っこの張り出した道を進むのか、そいつに聞いてみたいぜ」


 「簡単じゃぁ、木の上を歩けばぃぃんじゃょ」


 「はぁ?あの高さの枝の上を渡り歩くってか?それこそ妖怪じゃねぇか!」


 「かっかっか、そうじゃのぅ、本当に妖怪の様な奴じゃて!風の様に木の上を駆け抜けて、気がついたら酒と飯を出してくる妖怪じゃぁ」


 何がつぼに入ったのか知らないが、機嫌がいいので、まあ良しとしておこう。


 その後も代わり映えしない光景が続き、時折野生の魔物が出てくるが、別段強くもなんともない大鼠やら種類の分からん虫やらそんな物ばかり。


 つまりこの頭領が言う事は事実で、この歩きづらい道が本当に歩きやすい主要道路だということを示してる。


 何しろ、魔物と言うのは大通りにいる奴らは基本弱い。奥まった場所に入り込めば入り込むほど癖の強い魔物が現れるものだ。その辺は普通のゲームと同じような配置とも言える。


 なんとも不人気理由だけが、よく分る土地だ。でもまあ【帝国】の様に雪で足が埋る上に常に寒いより、やっぱりマシなんじゃないか?と思うのは自分だけだろうか。


 歩きながら取り留めのないことを考えている内に、夜が来た。


 何しろ周囲が真っ暗だ。ただでさえ暗かった森の中が更に暗闇に覆われると、不思議な安心感があるのは自分だけだろうか?


 何しろ自分はスキル構成的に夜間行動に強い、前を行く頭領も全く歩速が変わらないと言う事は、同様だろう。


 そして遠目にヒトの済む集落を見つけた。


 夜間行動に強い自分からすれば、民家からこぼれる明かりを見つける方が、昼日中森の中に埋った村をみつけるよりずっと、楽な仕事だ。


 「今夜はこの町に逗留するぞぃ」


 言うが早いか、少し小高い場所にあるやや大き目の建物に入っていく。


 土間があり、すぐに店の者が御用聞きに来てくれるそこは宿屋なのだろう。履物を脱げば、すぐに部屋に案内されて一心地つく。


 「何か思った以上に居心地のいい宿だな」


 「そぅかぃそれは良かったのぉ。とりあえず飯食ったらすぐに休むと良ぃぞ。夜中に出るからの」


 「出るってのは出掛ける方と、妖怪とどちらだ?」


 「妖怪じゃょ」


 「分った。飯食ってすぐ休んで準備しよう」


 夕飯は山菜が沢山使われた御膳だったが何より玄米がうまい。体にいいものをゲームで食って意味があるのか分らないが、それでも食わずにいられない体の求める味だった。


 少し休憩し、身の回りの事を準備し終わると、夜にもかかわらず何となく周囲から感じていた気配が一つ、また一つと消えていく。


 気配を殆ど感じなくなり、頃合かと宿の外に向う。


 「お客さんこんな時間に外に出ると、妖怪に化かされるよ?」


 「その妖怪に会いに行きたいんだが、やめておいた方がいいかい?」


 「物好きな御仁だね。この辺じゃ松明の妖怪が出るから気をつけることだよ」


 それだけ言われて見送ってもらったが、松明の妖怪って一体何するんだ?


 迷わない程度に森の方をうろうろしていると、唐突に辺り一帯が昼のように明るくなる。


 なんなら昼でももっと暗い筈なのに、あからさまに異変を感じる明るさに警戒しつつ、様子を窺う。


 しかし、待てど暮らせど何も起こらない。


 ふと後ろを振り返った所に、黒い鳥のような頭の化け物が立っていた。


 頭が鳥で二足歩行なんてカラス天狗くらいしか思いつかないのだが、こいつが妖怪か?


 鞭剣を手に取り、構えると相手も同様に鞭状の武器を構えてこちらに対峙するが、何しろ相手は黒一色で、動くも出足も分りづらい。


 様子を見ていると敵から仕掛けてきた。


 伸びる鞭が顔を掠めるが、直線的な動きだったので最低限の動きで回避、お返しに相手の足を狙って節尾剣を伸ばす。


 巻きついたと思ったが、するっと抜けて、再び敵の攻撃が飛んでくる。


 今度はしなりの効いた打撃だが、敢えて肩口で受けるとそれなりに重い……と言う事は幻覚でもなんでもないという事だ。


 何しろ相手は黒い影のような敵、もしかしたらと言う思いだったが、ちゃんと存在する相手と分ったので、攻撃を再開する。


尾剣術 串


 節尾剣を地面に突き刺せば、敵の真下から剣先が襲い掛かる。


 それを避けるでもなく、するっと通り抜け何の手応えもない。敵の攻撃はこちらに当るけど、こちらの攻撃は当らない?


 妖怪ってのはどんなものかと思ったが、随分厄介な相手だ。


 よくあるパターンだと、自分が見てる黒いのは本当に影で、自分の真後ろに敵がいる!


尾剣術 円


 周囲の木々を傷つけながら、一帯を吹き飛ばすつもりで節尾剣に精神力を込める。


 うーん、ハズレか……。


 相変わらず自分の目の前の黒い敵は何の痛痒も感じてない様に立ちすくむ、そして自分の攻撃終わりに合わせて、また武器を伸ばしてくるので、それを回避する。


 結構鋭い攻撃だが、白い騎士を相手に練習する自分にはちょっと物足りない程度か。


 ならば、距離を詰めてみるかと、節尾剣を仕舞うが、敵は相変わらず手に武器を提げたまま。


 やっぱり影ではないのだろうと、見当をつけるがあとは直接この手でぶん殴ってみないと分らない。


掃蹴術 篇吟


 奇襲はやっぱり一気に距離を詰められるコレだろうと、飛び上がって急降下し、相手の腹部を蹴り飛ばす筈が、敵を突き抜けてしまった。


 どういう原理か分らないが、どう考えても術効果である事は間違いない。


 ならばやる事は一つ、術は術で相殺する。


 バイザーに仕込まれた黒い遮光板を提げつつ目を瞑り、光精のフィルムケースを引き抜いて精神力を流し込む。


 ただでさえ昼の様な明るさだった空間に、あらゆる物の色を塗りつぶすような強力な光が満ちた。


 うっすら目を開けると、すでに影は消えていた。ただ自分の足元に一羽の大きな鳥が落ちている?


 ピクピクしているが、まだ生きている。さて、どうしようか?


 「その光を消しんしゃい」


 頭領に声をかけられたので、光精のフィルムケースに精神力を流すのをやめて、仕舞う。


 辺には元の暗闇が戻ってきたが、どうしたものか。


 「こやつはペンタチコロオヤシ、大ガラスの妖怪じゃぁ」


 「それで、討伐しなくていいのか?迷惑な妖怪なら倒しまうが」


 「うんにゃぁ、コイツはいたずら好きで困った奴だが、役目のある妖怪じゃぁ。【森国】じゃ烏天狗ってのが妖怪の取締りをしとるから、町の者に引き渡すように伝えておくぞぃ」


 ふむ、上手い事利用されたような気もするが、道案内してもらうお代と思えば仕方なしか。

次週予告


 独特の文化や敵のいる【森国】で

  邪神の尖兵を探すため森深くに踏み込む黒い怪鳥

   その先に現れる『武人』のような風体の強敵に翻弄される

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