18.刺客
一応ケンタウロスのゲル集落に滞在を許されたが、ケンタウロス以外にも色々な獣人が住んでいるようだ。
【馬国】というだけあって、全員騎乗可能である事は間違いない様で、普通の馬も大量に飼育されている。
ケンタウロスは下半身が馬なので、流石に騎乗しないだろう。つまりそこらを歩いている二足歩行の犬風獣人や猿風獣人が乗るように飼育しているとしか考えられない。
逆に今まで見慣れた普通のヒト型ヒュムはかなり少ない。高原のかなり厳しい土地に適応できるほど肉体的に優れていないということなのだろうか?
そんな事を考えながら結構な広さのあるゲル集落を歩いていると【訓練】中らしき獣人たちと、それを見ている小柄なヒュムが一人いた。
何となく見慣れた姿に話やすそうだなと思って近づく内にそのヒュムがピンクの服を着ていることに気がついた。
そりゃゲームの外、現実でピンクの服を着ていても何にも文句はない。何ならゲームの中だからって文句をつけるものでもないのだが、やはりこの妙に地味なゲームの中でNPCが着る服としてはかなり浮いていると言ってもいいだろう。
そんな自分の視線にいつから気がついていたのか、
「他人の事を影からそんなにじろじろ見るもんじゃないね!お兄さんのスケベ心は中々のレベルだけど、むっつりスケベは逆に犯罪と間違われるね。己に恥じないスケベこそが男を強くするよ」
「女はスケベ心では強くならないのかね?」
「それは難しい問題よ。お兄さんに女心が分るようになったら、教えて欲しいね。でも覗きをしているうちは無理ね。何か聞きたい事があるなら素直に聞くね」
「いや、このゲル集落ではヒュムが珍しかったんで、ちょっと様子を見てただけなんだ」
「そうなのね?てっきりお兄さんもスケベ心を進化させてドスケベになりたいのかと思ったよ!でも確かにドスケベになると色々誤解が生まれて、追われる事もあるから、慎重なドスケベ紳士を目指すといいね」
「いや、まあ自分にスケベ心があることを否定する気はないが、ドスケベっていうのにはちょっと心が動かないかな」
「そうね?でもお兄さんは鞭剣を使うね?相手を拘束しながらいたぶるなんて、考えがドスケベ寄りのスケベよ」
「武器は仕舞って歩いてたんだが、何でばれたんだ?まあ、相手にはっきり痛みと恐怖と絶望を刻み込みたいから使ってるっていう意味ではスケベなのかもな」
「立ち居振る舞いでそんな事はいくらでも分るね。ドスケベには相手の些細な違和感すら捉えるセンサーが必要よ。それで若者よ何を悩んでるね?」
「悩みっていわれてもな。最近俺をまともに刺してくる敵がいないって事くらいか?」
「そうね?お兄さんは戦う事に慣れていないね。人生は戦わねば生き残れないね。でも平和な環境に浸かっていると攻撃していいのかどうか迷う事が増えるね?でも自然界においてはやられそうになったら即やり返さなければ、死ぬだけよ。お兄さんはやられるのが怖いんじゃなくて、やっていいのか確信がほしいだけよ。それは別に弱いって事じゃないから安心するよ」
「確信が持てる前に死んでたら世話ないんだが、それについては何かあるのか?」
「難しい問題よ。本来戦術的には先制攻撃した方が勝ちやすいね。でも戦略的には駄目よ。何しろ結果だけ見てお兄さんを悪にする事は簡単ね。そうなると出来る事は二つ、トラブルに巻き込まれないようにセンサーを研ぎ澄ませ日頃から上手く立ち回る事、もう一つは防御を大事にする事ね。相手から手を出されても防御で相手を疲れさせてからやり返す方法はあるね」
「防御か……思わぬところで、いい話が聞けたよ、ありがとう」
「別にいいね。スケベ同士が世の悪意に負けない強靭なスケベ心を持つ事を祈るね」
ふむ、変なNPCだったが防御ね~……何しろ紙装甲一筋で来ちまったからな。
勿論回避とかガードとかそういうのも含めてなんだろうが、尾節剣で防御なんて離れた所から一方的に殴るくらいしかない。つまり距離がダメージを追いにくい要素になる。
結局蹴りも突き離しが基本だし、まあ<錬金>なら石精が物理防御に効く、あとは氷精か?
まあデモ、相手が攻撃してくるまで待つってのもアホだしな~。奇襲で離れた場所から攻撃するから勝てるんであって、やっぱり受動的な敵の選別ってのは苦手だ。
気に入らない奴らを全部敵に回すつもりで、この格好してる訳だしな。いくら戦わなきゃ生き残れないっつっても、無策で全部敵に回すのはやっぱりアホだ。
どうしたもんかね~。
でも、そう言えば全部敵に回した奴がいるんだよな~使命手配犯。十中八九族長と戦う約束しているのは間違いない。
誰を通してどうやってそんな約束をしたのかは知らないが、その勝負を裏から守んなきゃならないそれが仕事だ。
まあ取りあえずはこの前みたいに、無限再生するような変な敵は何も考えずに燃やしてやろう。アレは確実に敵だ。
そんな事を考えている内に、作り物をしているエリアに踏み込んでしまった。
いかにも戦闘員って感じの空気の尖った住人が多い中、ちょっと空気感の違う一帯に少しほっとする。
結局根は<錬金>生産者なのか?と己のあり方を問うてしまう。
皮をなめしたり、肉を捌いたり、金属を打ち直している者のいる中、ちょっと気になったのは金属アクセサリーを作る工房?
工房と言っても、屋外なので房ではないのだが他に適当な表現が思いつかなかった。
しかし金属アクセサリーなんて一見珍しくもなんともないのだが、そこの連中は何故か金属に穴を開けて紐を通している。
普通は金属チェーンに何か石とかくっつけるんじゃないかと思うのだが、なんで金属の方を通しているのかな?と、しかも花でも動物でも細工がしてあれば、それほど気にならなかったのだろうが、本当に表面を研磨してそのまま紐に通しているようにしか見えない。
「何か、珍しいものでもあったか?」
自分があまりにも食い入るように見ているもんだから、向こうから声をかけてきた。
「ああ、作業中邪魔してすまん。その金属は一体なんなんだ?」
「これか?重精様の力の宿る宝石だが?普通の金属や石とは比べ物にならない程比重が重いんだ。勿論逆に軽い石もある」
「軽石の事じゃなくてか?」
「それは多孔質で中がスカスカの石の事だろ?そうじゃない重精様の力を取り込んだことで、重くなったり軽くなったりするんだ。そしてそれはこういう金属みたいな色になる」
「っていうか、重精ってのは初めて聞いたんだが、ここらじゃ普通なのか?なんなら近似精霊は何になるんだ?」
「別にここらじゃ普通だぞ?風精様と重精様の力がこの辺は強いんだ。だからその二精霊様が近似なんじゃないか?」
「そうだったのか、風精の近似って分らなかったから、てっきり酸素を作る木精何じゃないかって勝手に最近思ってたんだが、そんな事無いのか……」
「木精様は陰陽両方持ってんじゃないか?多分な」
「両方?陰を持ってるとか陽を持ってるとか、どういう事だ?」
「いや、俺だってただの【細工師】だし詳しい事は分らんよ。そういうのは<錬金>やってる奴か、【巫士】にでも聞けっての」
「俺がその<錬金>やってんだよ!その重精の石ってのはどこで手に入るんだ?頼む教えてくれ」
「いや、別にそんな必死にならないでも、普通に売ってやるよ。<採掘>しに行こうと思ったら、今の季節は危険な魔物が道塞いでるから無理だぞ」
「つまり、このゲルと取引ができたら、その重精の石を売ってもらう事が出来るんだな?」
「あ、ああそういう事だ。別に掘る場所さえ分ってれば珍しい物じゃないし、実際金属と見た目がそんな変わる物でもないから、そこまで売れるものでもないし、好きなだけ売ってやるよ」
「じゃあ、今手持ちコレしかないんでコレで買えるだけ譲ってくれ!」
興奮した。ずっと不明だった風精の近似精霊が、こんな偶然で見つかるなんて思いもしなかった。
まさか重力にまで精霊がいて、重くしたり軽くしたりするなんて……。
でもそうか、風の相反である土の近似である石は重くなるんだった。これに反発するのは重力しかないのか?
相反なのに似てるののは中々不思議なもんだ。でもそうなのか土は堆積だが、間逆となると平均化?崩して均すのは重力のなす範疇ってことか?
まあこういうのはゲームデザインした人間のこじつけもあるだろうし、あまり深く考えない事だ。
ところで、お金を出してから相手が全く動かないんだがどうなってんだ?バグッたか?
「なぁ、これじゃ足りなかったか?」
「馬鹿かお前!こんな大金で何トン買う気だったんだ!ちょっと細工で使う程度しか掘ってないからそんな大量に手に入る訳ないだろうが!まあそろそろ移動シーズンだし、次に大量に掘ってきてやるから、お前本人か代理の者を寄越すといい」
そう言いながら、ゲルの中から小箱をいくつか出してきてくれた。
「随分小分けにしてるんだな」
「いったろ?この量でもくそ重いんだよ。獣人の俺でこのサイズがやっとなんだからお前じゃ持ち上がらんぞ?」
地面に置かれた箱は言われた通り、ピクリともしない。それでも触れていればアイテムバッグに仕舞えるので、今買えるだけ買った。
こんなにいい物なのに、安すぎて逆に申し訳ないほどだ。ありがたい!これで研究が捗るぞ!
そんなこんな時間を潰しているうちに夜中。流石に大半のNPCはゲルに入って眠り、一部の夜衛が外をぐるぐる回っているだけだ。
そんな折、表に族長のデカイ影と対比すると小さく見えるヒト影がゲル集落の外で並んでいる。
ちょっと縮尺の感覚がおかしくなるほど、族長はデカイ!これが英雄の子孫なのか?と思っていいるうちに二人同時に駆け出す。
「どうやら、駆けっこで決めるらしいぞ」
何処にいたのかまたヌルッと現れたいつもの男がいきなり声をかけてくる。
「ふん、ケンタウロスにどうやったら足の速さで勝てるんだよ」
「さあな?だがこの辺りはかなり起伏に富んでるし、全く勝ち目ない事もないんじゃないか?」
「勝ったら、本当に化けもんだぜ」
「ああ、だが先に倒さなきゃならない化け物のお出ましだな」
やはりというかなんと言うか、例のローブの連中が深夜の闇の中うすボンヤリと篝火に照らし出されている。
「ふん、俺も同感だどう転んでもあの族長に駆け比べで勝てる奴はいるまいよ。だが全力を出させる事が出来れば、帰りには疲れ切ってるんじゃないか?」
「だとして、お前はこの世にいないがな」
「かっかっか!面白い奴だ。お前らかかれ!」
話していた中心の小柄の相手は様子見らしい。結構な慎重派だな。
両手に尾節剣を抜き、まずは手早く有象無象を片付けてしまう。
尾剣術 円
飛び掛ってきた奴らを一掃するように、跳ね飛ばす。そこへ、
「何事か!」
巡回していたケンタウロス族の夜衛が誰何してくるが、タイミングが悪い。
「ふん、大人しくしていればいいものを!お前が出てきた所為で、こやつが好きに武器を振るえなくて困っておるぞ!」
残念ながら、術一発で全部倒せるほど楽な相手じゃない。ばらして一体づつ仕留める気だったのに、とんだ邪魔が入った。
「何を言っておるか!ゲルを守るのは我の仕事だ!貴様ら如きに遅れはとらん!」
言うが早いか、大槍で敵を二体まとめて弾き飛ばすと、確かにそれだけで倒してしまった。
攻撃力の桁が自分とまるで違うんだけど……これで族長じゃないとかどうなってんのよミノタウロスもケンタウロスも……。
だが嘆いている場合じゃない、すぐさま一体を伸ばした尾節剣で貫通し、引き抜きながら連続ダメージを与える。
その間に更に一体止めを刺したケンタウロス相手に、微妙な距離感で囲み始める敵の手下共の手には鉤縄がある。
自分の位置からだと絶妙にケンタウロスが邪魔で直線的には狙えない位置取りが上手い。だが、
尾剣術 串
ケンタウロスの下を通して一体を串刺しにすると、続くようにケンタウロスも片っ端から駆け寄って倒していく。
一体だけ鉤縄を巻きつけることに成功していたが、哀れな事に寧ろそのロープを逆に捕まれ、武器代わりに振り回される事になった。
どうやら部下の方は任せても大丈夫だなと、相手の代表に尾節剣を巻きつけて、
尾節剣 縛
拘束して燃やそうかと思ったらローブを脱ぎつつ、拘束から抜け出されてしまった。
そんなに弱く巻きつけたつもりはなかったのだが、手元が狂ったかと再び首に巻きつけると、皮膚ごと剥がして抜け出されてしまった。
「ふん!お前の切り札は拘束して燃やすんだろ?だったら燃えてる部分を剥がせばすむと思わないか?皮膚ぐらいなら俺達『改人』は一瞬で回復するぞ?」
既に敵に情報が渡っていて、対策まで打たれているとは思わなかった。
「だがアイツほど、大暴れもしないんだな?」
「ふん!冷静に対応出来ればどうという事は無いのに、冷静さを失ったあ奴が出来損ないだったのだ」
言いながらも向かってくる姿はやはり筋肉が極限まで強化され、飛び掛ってくる飛距離も長く高い。
だが空中なら狙い撃ちだと、尾節剣を腹に突き刺そうと真っ直ぐ伸ばした所で、自ら皮を引っぺがして空気を掴み方向転換!からの脇腹を狙うボディブロー。
念のため氷水は発動していたが、尋常じゃないダメージ量にあっさり危険域に到達する。それでも、
掃蹴術 駝懲
何とか蹴り飛ばし距離をとるが、相手はまだぴんぴんしている。
そして、素早くジグザグに動きつつ距離を詰めてくるがそのスピードもかなりのものだ。
どこかのアホみたいにパワーを振り回すだけじゃなく、パワーをスピードに転化しつつ一撃は重い、厄介な相手だ。
そこにケンタウロスが割って入り、敵を槍で殴り飛ばすが、同時に下半身の足を一本やられたらしく、その場に座り込む。
「どうやら、尋常の相手ではないらしいな」
「ああ、だが一瞬動きを止められれば何とかなるんだがな」
「かっかっか!強がりはよせ!お前達を倒したあとは馬鹿みたいに寝とる奴らを皆殺しにして、族長から聖石を奪った上で、絶望を見せてやろう」
この敵は自分の火を警戒して、いつでも皮を脱げるように多少余裕を持って対応してきている。
そうじゃなければ再生力任せに遮二無二攻撃してきた方が早い筈だ。
氷のフィルムケースと風のフィルムケースを装着し、起動すれば緑と白のエフェクトがハリボテの鎧の下から漏れ出す。
これで、相手のスピードに追いつける。
さっきまでとは明らかに違うスピードで追い始めた事に、ぎょっとした敵だが、すぐにニヤッと笑いケンタウロスの方へ走り始める。
「ふははは!動けない方を先にやってやろう!」
そのまま走る勢いを利用したパンチでケンタウロスの胸を打つが、それでも高原の精鋭の意地か、敵をベアハッグで捉えた。
しかし、それも一瞬の事、皮を剥いで抜け出す敵だが、自分はその皮をはぐ一瞬を待っていた。
走りながら飛び、レバーを下ろし氷精をセットした側のスイッチを押すと、一瞬発光が止まりすぐさま全身タイツのラインが白く輝く。
風精で全力強化された移動速度を乗せた飛び蹴りで、皮を剥ぎたての敵が凍りつき、そのまま勢いでバラバラに砕け散る。
そこから再生するとも分らないので、一応見ていたが、流石にバラバラ状態からは復活しないらしい。
「アンタ凄いな。よくあんな敵の攻撃を何発も受けて耐えられるもんだ」
「これでも高原の戦士だからな。だが、鎧はもう使い物にならんな」
防具ごと破壊するって、本当にこいつらどうなってんだ?
次週予告
聖石を追う勢力との衝突
二体目の改人も撃破した黒の怪鳥に訪れる束の間の休息
しかしその間にも『準備』を進めねば強敵に勝ち続けることは出来ない




