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17.異常

 改人の襲撃後、念のため小屋を一つ借りて緊急に備えていたが、コレと言って何事も起こらない。


 二度目三度目の襲撃どころか外からの来客すら全くなく、やっと現れたのは当の指名手配犯一人のみ。


 この前のミノタウロスと既に知り合いだったらしく、あっさり虎を狩って一緒に食べるようだ。


 全くどんな人付き合いがあるんだか知らないが、NPCすら入り込むのが難しい場所でも平気で出入りするらしいし、そんな事もあるのか?


 更にはどうやって信用を得てるのか知らないが、早々に族長と相撲で勝負するつもりみたいなんだが、プレイヤーじゃどうやっても敵わないであろう筋肉バキバキのミノタウロスと相撲で戦うなんざ、よっぽど自信過剰か、命知らずなのか?


 スキルを使い、気配を消して木影から様子を覗く。


 普通の樵ミノタウロスでも勝てるとは思えない筋肉の塊なのに、族長は更にデカイ!しかも全く無駄な脂肪の一ミリもついてないガチな全身凶器に影で見てるだけでも気圧されてしまう。


 一点気になるのは、族長の語尾が「も~ぅ」なんだが、どうやらミノタウロスとしてのキャラ付けの為にあえて言っているらしい。全く真面目なのかアホなのか、それとも両方なのか判断がつきかねる。


 腰巻一つで他は裸のミノタウロス族長と、あからさまに軽装で体の小さな隊長。並ぶと大人と子供にしか見えない二人がただ土に円く線を引いただけの土俵で対峙し、隊長は剣を抜く。


 合図と共に寸鉄も身につけてないミノタウロス族長の喉を剣で突きこむ隊長に、思わずグロを連想して小さく「ぐっ……」声を漏らしてしまったが、どうやら誰も気がついてない様子。


 なんなら、族長は剣を喉に突きこまれたのに、筋力で耐えたらしい。どうなってんだ?


 すかさず、薙ぎ払うような張り手で隊長を狙う族長だが、隊長も然る者であっという間に姿を消した。


 気がついた時には上空高く、明らかに物理法則を無視した高さまで跳んで逃げ、そこから急落下。


 着地と共にかなり強力なノックバックと分るエフェクトが発生するが、それも一切仰け反る事もなく受けきるミノタウロス族長の受けの凄み、からの絶対に逃がさないとばかりのベアハッグによる拘束。


 両腕を封じられたまま異常筋力でぶん投げられた筈にも関わらず、族長の腰巻を掴んで円の外に投げ出されるのを堪える隊長はゆっくり剣を仕舞う。


 剣で突いてもダメージを与えられなかった相手にまだ有効な攻撃手段が残っているのだろうか?


 族長が頭を低くし相撲で言うならぶちかまし、それを小柄な隊長はさらに頭を下げてやはり正面から受け止める。


 あからさまな小兵の隊長は族長の足を踏み抜いて、地味にダメージを与えながら投げようと必死だが、やはり体の造りで族長の方がパワー勝ちと見えたが、何をどうしたのか術のエフェクトが発生し、族長の動きが止まった。


 大きな隙に隊長が必死で族長の片足を持ち上げて朽木倒しにしようとしているが、族長が再び動き出し、あっという間に体勢を整え真っ直ぐ突っ張り!


 しかしスピードに優れる隊長はそれを回避して寧ろ肘関節を極め、族長の頭の下がった所を空いた手で首を掴んでぶん投げに掛かる。


 だが、筋力で優れる族長は隊長の奥襟を強引に掴み強引に地面から引っこ抜いて、お互い体勢を崩して足元がふらついて、定まらない。


 先に体勢を整えたのは隊長だったが、強引な一撃を先に放ったのは族長の方だった。


 角の攻撃で隊長に穴でも空くかと思ったが、吹っ飛ばされただけで済み、土俵際で踏み止まったのは卓越したボディコントロールあってこそだろう。


 しかしそれでも、族長の追撃に終わったと思った瞬間。隊長がその場で手を叩き、族長は尻餅をついて取り組み終了。


 決まり手は猫だましって!かなりギリギリの白熱した異常身体能力同士の戦いだったのに、そんな事あるのかよ!


 大きな声でつっ込みたい気持ちを全力で抑え、見守っていると無事隊長が聖石を手にしたようだ。


 いつの間にか自分の横にいつもの男が立っていたので、一緒にその場を離れる。


 「どうやら無事聖石は隊長の手に渡ったようだな」


 「らしいな。それでこれからどうする?」


 「少なくともこの集落にはもう聖石はない。例の連中も目的のブツの無い場所にいつまでも固執せんだろうと希望を持って部下を一人監視に残して、俺達は移動だ」


 「ふん!まあなまじの連中よりはミノタウロスの方が強いしな、それで次の目的地は?」


 「同じく【馬国】の高原を移動生活している族長の所だ」


 「ふ~んこの広い高原を移動生活ね」


 「ああ、巨大魔物の生息域から上手く外れるように季節ごとに移動している。ある意味この国の原初的生活をしている者達で、この国の精鋭達でもある。隊長はそこへ向かう」


 「向かうように部下に言い含めてるんだろ?しかしまたもや国の精鋭だって?ミノタウロス同様俺達より強いってオチじゃねぇのか?」


 「だが、あの敵はお前のその火精の武器じゃなきゃ倒せなかった。ただ戦闘が強いだけじゃどうにもならん事は世の中ありふれてるさ」


 そんな話をしつつも、別に自分に否は無い。何しろ最初から隊長が聖石を手に入れるまで、それを狙う奴らの足止めをするのが仕事なのだから。


 森から出れば、馬車が待っていてそのまま移動。


 段取りが完璧すぎて逆に気持ち悪いが、馬車に乗っている間は暇だ。


 時折鳥型魔物が襲ってくるので尾節剣で撃ち落すか、お喋りするくらいしかやる事がない。


 「ところで、【教国】の()から来たって奴が、あんたの仲間らしいじゃねぇか。やっぱりあんた詐欺師なのか?」


 「何だ藪から棒に、違う。詳しい身分はまだ明かさないがコレでも国に雇われて部下もいる身さ。ただ仕事がちょっと特殊なだけでな」


 「ふーん」


 なるほどね。いつも【王国】の拠点で会っていたが、実は【教国】の手の者って訳か?しかも役職もちとかな。


 「それよりお前こそ、そのベルトと武器どうしたんだ?専門は<錬金>だろ?そんな使い方があるなら報告しておけば、上のハリボテももう少し改造の余地があるんだぜ?」


 「なんだってんだ急に、何か光らないようにする方法でもあるってか?」


 「逆だ。ハリボテのガワにも精霊の力を通す事で、その内着にかかってる負担を減らせるってんだ。足の方の武器だってそれじゃまだ十全な威力を発揮してるとは言えんだろう?」


 「それじゃ寧ろ全身から光りを発するって聞こえるんだが?」


 「光りたくないなら、色が変わる程度で済ませる事も出来るぞ?」


 「……まじかよ!どうやって光りを隠すかそればっかり考えてたが、鎧にも通せば色が変わるだけで済むのか!」


 「ま!とりあえずは次の目的地の件を解決してからだな。そうすれば少しまた時間を取れるから、その時改造を依頼してやろう」


 こうして、ひたすらゴトゴトと馬車に揺られ高原の移動生活者達の居所を目指す。


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 自分を刺してくる相手を探す為に敢えて、手加減をする様になったのはいつからだろうか?


 PKだろうと裏の仕事だろうと何でも良かった。攻撃される事に恐怖を感じない一瞬があれば、まだやれると実感できた。


 別に相手を舐めてるとか、余裕を見せているつもりはなかったが、相変わらず【訓練】なんかに出てみてクランの仲間と一緒に剣を振ってるといつの間にか体が萎縮する。


 それにもかかわらず、好きにやっていい相手ならば何にも感じない。刺されると思っても、冷静に刺されて寧ろそれを最大の攻撃チャンスだと捉えることが出来る。


 この差は何なのか?やけにリアルで時々本気で没入しては現実と勘違いするゲーム世界。


 勿論周りのヒトの顔はアバターだし、現実では到底ありえないのだが、やはり自分の感覚として体を動かしているのが大きいのか、もしくはあらゆる感情の表現が作りこまれすぎているのだろうか?


 そんなある日の事、相変わらず意味の分からん裏の仕事。


 それなりに身分もあって自由に好きな事が出来るであろう奴らのオイタを懲らしめる為に鞭剣を振るう。


 「おいおい!お前!俺に手を出してもいいのか?」


 「さあな?ただお前をこの剣で斬り刻めってのが命令でな。俺を恨まないでくれ」


 「そんな訳に行くか!一生恨むぞ!絶対に化けて出てやるからな!俺の後ろには……」


 「親父でもついてるってか?それとも偶には母親って事もあるのか?どうでもいいわ」


 言いながら鞭剣で腹を貫通、ジワジワと抜いていく。


 一節抜ける度にうめき声を上げるどこぞの坊っちゃんが、それでも断末魔につげるのは、


 「違う!俺の後ろ盾は邪神様だ!到底ヒトの手の及ぶ相手ではないぞ!皆みんな滅びるんだ!」


 「あれか?お前も邪神教団とかなのか?何か貧しい奴とか不遇な目に合ってる奴が入団するって聞いてるんだがな」


 「そうさ!俺はどうせ親父の跡目は継げず、兄貴の世話になって生きるだけの日陰者だ!あんな屑兄貴に毎日毎日『命令を聞いていればいいんだ』と言われ、いいようにこき使われる。そんな生き方だけはごめんだ!」


 「そりゃ可哀想にな。だが俺も命令されてる身なんでな勘弁してくれや」


 いい身分の生まれだろうに、いつまでもぐずぐず言う相手の話をいくら聞いても、何の感情も湧かずそのまま鞭剣を一気に引き抜いて、トドメを刺す。


 「ぐぞ……お前だけは絶対許さんぞ」


 寧ろ兄貴の方を許さない方がいいんじゃないか?とんだとばっちりだな。まあこういう仕事をしていればそういう事もあるか。


 くだらねー。誰か刺しにくる根性のある奴はどこかにいないもんかね?


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【馬国】高原地帯族長ゲル集落近く


 「おい!そろそろ着くぞ」


 男の声に目が覚める?ゲームの中で寝るってのも中々不思議な感覚だが、ちょっと昔のことを思い出していた気がする。


 周囲は相変わらず気持ちの引き締まる冷たい風が吹きすさび、荒涼としつつ強者しか受け入れぬ厳しさを感じさせる空気感に頭があっという間にハッキリしたきた。


 見渡せば白いゲルというのか?大きなテントが立ち並ぶ高原の集落。


 集落というにはゲルの数が多すぎるかもしれないが、まあなんでもいい。こだわる事じゃない。


 馬車が止まった所で降車すれば、二人のケンタウロス?下半身が馬で上半身が人間。何よりデカイ!


 「何の用だ?」


 「聖石の件で尋ねたい事がありまして」


 「ならば族長を尋ねよ」


 ふむ、どうやらケンタウロスは本当に最低限の話しかしないタイプなのか?質実剛健ってやつだ。


 しかし、話が早いのはそれはそれで助かる。何しろ既に族長のゲルに向かって案内してもらっているんだから。


 逆にいきなり来た相手を族長にすぐさま会わせていいものなのか?


 「力を示せ」


 「あっ!そういうの間に合ってます」


 一番大きなゲルに入るなり確信した。この族長には勝てない。


 踵を返して帰ろうと思ったが、既に出口は固められている。


 「どうした?我にはお主が尻尾を巻いて逃げるほど弱くは見えないが?」


 「俺はやっていい相手以外にはとことこん弱い。アンタ方と事を構える気はないのに、やれと言われても困る」


 「……なるほどな。そういう事なら先に用件を聞こう」


 「多分聖石っていう先祖代々伝わる玉を欲して誰かが訪ねて来たと思うが、その中に怪しい奴はいなかったか?」


 「そうだな【教国】の方から来たという者はいたが、試練を受ける気がない様なので帰らせたが?」


 「また【教国】か」


 チラッと、一緒に来た男を見やるが表情を変える様子はない。


 「そしてこの後、玉を求める者と勝負する予定だ」


 「その相手っていうのは?」


 「それは言わぬ。戦士として族長として堂々と立ち合う事を約束したのでな。余計な横槍は入れられたくない」


 「分った。俺達は他にもっと怪しい奴等……簡単に言うなれば本来敵である筈の邪神を信奉してる奴がここを襲撃してくるかもしれないんで、それに備えたいんだが場所を借りる事はできるか?」


 「そいつ達は玉を狙っているのか?」


 「多分、その玉が邪神と関係あるんだろう。逆に言えばアンタの立ち合いを妨害する可能性もある」


 「そうか……夜集落の外に来れば分る。が、くれぐれも立ち合いの邪魔はせぬ事だ」


 「約束する。力も見せてないのに信じてもらって、すまないな」


 「よい、戦うという事は相応の覚悟がいるものだ。戦う相手を選ぶ、お主のあり方を見せて貰おう」

次週予告


 ミノタウロスに引き続きケンタウロスにも出会った黒い怪鳥

  未だ自在に己の力を振るう事のできない彼の様子を見るとしたケンタウロス族長

   そんな族長と隊長の次なる勝負は駆けっこ?妨害の為ゲル集落を狙う新たな『刺客』

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