表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/52

14.雪国

 初めて【帝国】に行ったのはただの興味。


 映像で見る限り一対一ならいい勝負できそうな軽装のライバルの国に興味があったから。それだけの事。


 相手は集団戦の専門なんだから一対一で戦おうって言う想定自体が無理な話なのは分かってる。


 しかし集団戦中とは言え、自分の所属するクランの幹部を一対一で屠った相手。普通なら到底勝てる相手じゃない筈だ。


 ところが何度見ても戦えない相手には思えなかった。そう言う所が余計に自分の興味を引くのだろう。


 それにしても寒い。ゲームにしては容赦なさ過ぎるだろ!と思わず文句を言いたくなるような身を切る寒さ。


 雪が舞い上がり皮膚にぶつかる度、本当に切れたんじゃないかと錯覚する程だ。

 

 寒いとは聞いていたし店売りの耐寒付き服を着込んで来たが、それでも足元から冷えるリアリティ。


 これがフルダイブVRか……変な所で実感してしまった。


 集団戦イベント以来ポータルで都を飛べる様になったので【王都】から一気に【帝国】スタート地点の【古都】へ移動。


 都内はまだ良かったが、フィールドに出た瞬間寒いわ、歩き辛いわ……なんとも酷い環境に、


 こんな環境を耐えられる根性のあるプレイヤーならそりゃ強いのかなと納得してしまう自分がいる。


 ふと気が付けば、例の軽装プレイヤーとは真逆の重装プレイヤーが20人近くと一緒に雪道を行く。


 他はNPCの様だが、あからさまにおかしな装備だった所為か目に付いて、左手の甲を見やってしまった。


 ただでさえ足を取られる雪道で重装備をしてるものだから、一歩が深い。


 それでも当たり前のように歩き続けるあたり、やはり【帝国】プレイヤーってのは根性が違うのかもしれない。


 ゲームで根性鍛えてるってのも不思議な話だけど、何かやばそうな匂いがぷんぷんする。


 しかしまあ、こんな足場じゃ自分が何をしたところで活躍できるものじゃ無い。


 よっぽど限定的な仕事でも割り振られない限り、縁のない土地だろう。


 そもそも、例のハリボテ装備でどうやってこの寒さを防ぐのかそれが問題だ。


 ……考えた所で自分に出来るのは鞭剣と<練金>なのだから、選択肢はそう多くない。


 いつ、いざこの雪深い国で仕事になってもいいように準備しておいても無駄にはならないか……。


 そう言えば、以前使った空気に触れるだけで発熱する石。アレは完全に火精の力が宿っていると考えていいだろう。


 しかし実際に出るのは火じゃなく熱だ。


 つまり上手くコントロールできれば、程よい熱で持続的に温まり続ける事も可能何じゃ無いか?


 日頃とにかく抽出を繰り返し、純度を上げて、高威力ばかり目指しているが、元々精霊の力を日常に使える道具にするのが<練金>だとすれば、これが本筋。


 ちょっと時間のある時にでも、研究してみよう。


-----------------------------------------------------------------------------------------------

【帝国】【古都】周辺、森


 「うぅぅ寒い……。さっさとPK共暴れねぁかな」


 「何言ってんだ?PK狩りするとか言いながら、結局目ぼしい相手が見つからず【帝国】まで来て、また待機って、意味分からないんだが?」


 「いや、お前まで付き合わなくていいんだぞ?」


 いつもの白い騎士と一緒に【帝国】まで来て、雪の中で愚痴られる。まあさっきから寒い寒いとうるさいし、ちょっと温かくなるアイテムでもくれてやるか。


 持ってるだけで温かくなる袋をポイッと投げて渡すと、


 「何だコレ?」


 「ちょっと待っとけば、温かくなるから少し寒いの我慢しろよ」


 「そうなのか……寧ろお前の方がよくこの寒さで我慢できるな」


 「偶に来てるから、結局慣れだな。それより何でわざわざ【帝国】まで来てPK待ち伏せしてるんだ?」


 「あ?いつも引き篭もってるのかと思ってたら、いつの間に来てたんだ?まあいっか!出掛ける方が健康にいいしな。それでなんでこんな所で待ち伏せしてるかだが、そりゃ尽くスカされたからだ。PKを狩ろうと情報をいくら集めても、当の隊長の所在が知れず、PKすら困惑する始末でよ……」


 「そりゃ狩りたくても所在が知れないんじゃ無理だな。向こうの隠れる能力の方が上だって事だろ?」


 「ああ、完全に神出鬼没の隊長だったんだが、今回有力筋からこの辺に現れるって情報があってな。それでPKの動きもあるだろうって、現在待ち伏せ中だ」


 「ふぅん……。まあPK狩る事については俺も賛成だが、PKだってこの寒さじゃ待つの辛いだろ?いくら有力な情報があったところで、本気で狙ってくるのなんてごく一部じゃないか?」


 「……そういう事言うなよ。みんな寒いの我慢して待ち伏せしてるんだからさ……」


 その後も寒い寒いと言いながら待ち伏せ。一向に目的のPKも隊長も現れない。


 「この何か温かい袋のおかげで俺は何とか耐えられてるけど、他の連中は都に戻っちまったな」


 「だな。ちなみにその袋は、空気に触れるだけでどんどん熱くなる石を砕いて、熱量を調整出来るように、色々と混ぜ物をしただけの物なんだが、この【帝国】では役にたつ」


 「ああ、コレはクエストとかで作る量産品じゃ無いのか?」


 「コレは一応俺のオリジナルだな。売ろうと思っても値段と効果が合わないんで、完全に自分専用」


 「そっか。しかし、隊長もPKも現れないな~」


 「ガセだったんじゃ無いか?もしくは向こうの事情で、予定が変更したか。なんならざわついた気配に気がついて逃げたか」

 

 「どれもありそうなんだよな。隊長を支援してやろうってのに、結局俺達の想像の斜め行っちまうんだよな~」


 「ちゃんと意思疎通出来てないのに、一方的に支援しようってんだからそういう事もあるだろ」


 一人また一人と都内に帰り、そして本当に誰もいなくなる。騎士団でPKを狩ろうという話は結局実現しなかった。


 やはりこの寒い中ただただタイミングを待ち続けるのは、並みの忍耐では無理か……。


 【古都】の外れの森にはいつまで経っても雪が降り、頭や肩の上に積もる雪を払っても払ってもキリがない。


 やたらと辛抱強く待ち続ける白い騎士は別にそこまで隊長に思い入れがあるとも思えないのだが、じっと耐えてる。


 「どうする?皆帰ったみたいだぞ?」


 「ああ、だがいつ隊長とPKが動くとも分からないしな」


 「まあ別にいいが、何でそこまでこだわるんだ?」


 「……こだわるって訳じゃ無いけどさ。今回の指名手配はいくらなんでもきついだろ。一人でプレイヤーからNPCから狙われるんだぜ?確かにそういうゲームもあるけど、フルダイブで追われまくるってのも、考えるだけで緊張するしさ。せめてPK位はこっちでなんとかしてやりたいじゃ無いか」


 「まぁ、確かにそうかもな」


 結局この白い騎士はなんだかんだ隊長の立場に立って、助けてやろうってそういう奴らしい。


 知ってか知らずか……多分何にも知らずに逃げ回る指名手配犯の自由さが、ちょっと恨めしい。


 まぁ、向こうは向こうで必死だろう。何しろ世界が敵の状態で逃げ回らなければならないのだから、想像するだけで身震いがする。


 それこそ雪の中で待ち伏せする事の比じゃ無いプレッシャーじゃなかろうか?


 ただその指名手配犯はこの寒すぎて待つだけの事すら困難なこの環境に適応した根性の化け物。


 何をどうしたらそんな精神性になるか分からないが、そうやすやすと人前に姿を現すこともないだろう。


 「俺はもうちょい粘るから、先に戻ってていいぞ」


 「そうか?じゃあ、コレ使えよ」


 いくつか温かくなる袋を渡し、深く沈みこむ雪を踏み分けてその場を立ち去る。


 白い騎士は雪に溶け込んで、いつの間にか姿が見えなくなってしまった。でもまだ森の木陰で寒さに耐えているのだろう。


-----------------------------------------------------------------------------------------------

【帝国】【古都】近く森-夕-


 「相変わらず、この国は日が傾くのが早いな」


 「まぁ、そういうお国柄だからな。まあもうすぐ出番だから頼むぜ」


 「ふん……【帝国】【古都】近くの森に現れるとだけ情報流して随分と大勢集まっちまったみたいだが、どうすんだ?」


 「まあでも大抵は普通の歩きやすい場所周辺に陣取るものさ。相手がどれだけの者かも知らないでな。おかげで相手の進路を調整できたし、このまま予定の合流地に追い込む」


 ふむ、ゲームAIの情報に踊らされるプレイヤーって構図らしい。


 なんとも将来と言うか、このままAIが発達する世界に不安を覚える事案だな。


 でも今はそのAIのおかげで戦えるようになった訳だし、この状況も面白いと思ってる自分がいる。


 遠くで『ピーッ』と笛の音が聞こえたと思ったら、一気に緊張感で空気が張り詰め、思わず大きく息を吐く。


 一瞬影が見えたそれだけ。


 あっという間にターゲットが走り去っていく、しかも木の上を飛ぶように駆け抜ける様は妖怪を見ているかのようで、非現実的な光景に何も言わず見過ごしてしまった。


 「……今のか?」


 「今のだな」


 既にターゲットは見失い、途方に暮れ【帝国】の妙に深い森をただ眺めるのみ。


 「本気であれと合流できるのか?」


 「実際この目で見ると自信は無いがやるしかないだろ。一応この先にもそれなりの賊が待ち構えているが……」


 「まぁ、化け物と言えども敵の数が多ければ辛いだろ。それで俺はどいつを間引けばいい?」


 「ちょっと待ってくれ、今考えてる。……無理か?今集まってる戦力であいつを止めるのは無理か?」


 「はぁ?あいつを丁度よく削る為に、俺が控えてるんだろ?手伝う必要すらないのか?」


 その時、集団が横を抜けていくが、皆走るのでいっぱいいっぱい、必死の形相で駆けて行く。


 「あれも追っ手だろ?どうすんだよ……」


 「どうするか?」


 プレイヤーを手玉に取った筈のAIを困らせる指名手配犯。


 何か逆に落ち着いたと言うか、気楽になった。


 「しゃーない、仕事は仕事だし俺も追うぞ」


 「じゃあ、最短距離を取るといい、木を避けながら進むとどうしても遠回りになるが、目的地は森の先の崖だ」


 案内されるままに雪を掻き分けて森奥へ、


 幸い軽量の自分は森内の少な目の雪はサクサク進めるし、そこまで苦しいものじゃ無い。


 気がつけば日の落ちていくのが見える崖。正面から森に差し込む陽の光が目に沁みる。


 「ここが合流地点か?」


 一緒にいた筈のいつもの男の返答がない。


 「おっ?俺の他にもこんな所で指名手配犯待ち伏せする奴がいたのか?」


 代わりに聞こえる声は、如何にも下品そうな男の声。


 「あんたもPKか?」


 「じゃなきゃこんな所にいないだろ?まぁ俺もここで一発決めて、やるって所アピールしたいんでな。協力してくれや」


 「協力ってのは?」


 「死ねってことだよ!」


 言うが早いか、手鎌を投げつけてきたのに対し、


 土石を起動。


 足場が悪く、どうせ動きづらいのだから防御を上げて行く方針。


 相手の初撃は牽制だったのか、はたまたノーコンなのか、かすりすらしなかったが、


 どこからともなく取り出した大鎌は紛れもなくメインウエポン、それだけのオーラとプレッシャーは感じる。


 一歩踏み込んできた所に、節尾剣で先制攻撃を食らわせ、胴体に巻きつくがちょっと変な感触。


 そのまま、巻きついた節尾剣を引き、剣の節で多段ダメージを与えた筈だが、相手はぴんぴんしている。


 ぱっと見はロングコートに大鎌の攻撃偏重タイプ。


 しかし手応えは……。


 「なんだ?もう終わりか?PKだからって軽量装甲ばかりだとでも思ったのか?」


 コートの下には金属防具を備えていたのだろう。しかしそれが部分的なものなのか、全身なのかはそれこそコートの所為で分らない。


 節尾剣は軽量相手には多段ダメージが入り、当りさえすれば相応のダメージが入るのだが、重量系はちょっと苦手だ。


 何しろ金属防具にダメージを与えるには打撃力が必要になってくる。鈍器なんかが代表的だし、大剣と呼ばれる両手剣や、大斧ならダメージも通るだろうが、


 節尾剣の打撃力は低い。元は鞭剣だったはずなのだが、鞭ほどの打撃力がないって言うどうにもならないネックを抱えている装備だ。


 そういう場合は、急所を狙うのが一つ。首に巻きつけることが出来れば、大ダメージも狙えるだろう。


 もう一つは……、節尾剣を左手に持ち変える。


 左手には盗賊の篭手を装備しているので、必然的にまぜーる君ナックルを装備しているのは右手になる。セットするのは火と風。


 PKが振り込んできた大鎌を一歩踏み込む事で、打点をずらす。


 右拳を握りこんだところで、引き込まれた大鎌が背中に食い込む。


 しかし、寧ろPKの懐に入れたので、そのまま右拳を腹にぶち込み、ダメージの無い拳打に一瞬きょとんとしたPKの間抜け顔。


 直後には轟音と共に吹き飛び、近くの木にぶち当たった。


 ちなみに土石を発動している自分はちょっと仰け反る程度で済んだ。


 息が詰まったのか一瞬動きが止まった所を木ごと節尾剣を巻きつけ拘束。


尾剣術 縛


 火精のボトルを引き抜き握り込みながら、動けない相手に目の前に立ち、もう一発ダメージの無いボディブロー。


 しかしボトルに精神力を流し込む事で、一気に自分もPKも燃え上がる。


 すぐに節尾剣の柄に仕込んでおいた氷水を発動し、耐えながら相手の様子を伺っていると、顔を歪めながら死に戻った。


 しかし、負け惜しみも恨みごとも言わずに散ったのはPKながら見事といったところか?


 陽精のボトルで自分に付いた火を中和して、森中に戻る。


 自分の戦いを隠れて見ていたいつもの男が言うには、


 「コレくらいで丁度いいか……、ターゲットは既に14人のPKを斬ってこちらに向かってるらしい」


 「おいおい……本当に俺が来た意味無かったんじゃないか?」


 取り合えず自分までPKに間違われないようにさっさと引き上げよう。

次週予告

 

 雪国から帰って一息つく黒い怪鳥

  ゆっくり腰を据えて<練金>の研究の予定が新装備を持った尋ね人が現れる

   しかしその装備を待っていたかのように今度は『聖石』の守護を依頼される事に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ