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【WEB版】婚約者が浮気しているようなんですけど私は流行りの悪役令嬢ってことであってますか?  作者: コーヒー牛乳
-Season2-

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悪役令嬢の婚約者-リチャード- 7

2022/12/15 納得いかなかったので修正加筆しました。

紆余曲折の後、時の運を掴んだ俺はローズと婚約を結びなおすこととなった。

選考の際に俺から推薦するまでもなく、ローズ・アディールは王子妃に納まる令嬢では無くなっていたからだ。


アディール侯爵領といえばローズがきっかけで発案された新刺繍技術から始まり、数々の名産品が生まれた。

目立つ動きがあれば他領からの妨害があってもおかしくないのだが、そうはならなかったのには理由がある。


例えば刺繍の時は、織物産業が盛んな領や

染料の原料・加工、針などの金物が得意な領や各地の細工師などなどを巻き込み結果、他領も富ませたからだ。


アディール侯爵領だけでは無く、他の領地にも恩恵があれば妨害より協力が集まる。それをローズ本人は狙った訳ではないのだろうが、結果は自然とついてきた。


恩恵に預かった貴族は「自領だけで独占しようと思わないのか」と聞いたことがあるらしい。

答えは「こんなにも素晴らしいものが既にこの世にあるのに、一から始めるなんて待てないわ」だったとパトリックが言っていた。


こんな調子で貴族院での評判はすこぶる良いのはもちろん。

どこかの家だけが力を増すのを避けたい貴族からも賛成の票が入った。

…………それでも王太子妃の座を狙う家には少し挨拶をしたが、必要悪だ。


そんな折にローズの侍女となったモネからの報を受け、久しぶりにローズと顔を合わせることにした。


ローズにつけていた護衛から聞いていた通り、ローズはなぜだか木陰に隠れていた。

いつかの思い出のように銀の髪が発光しているように輝いていて、話しかけてしまうのが勿体ないと少し眺めてしまった。


振り返ったローズは、大輪の花が綻ぶように成長していた。

好奇心旺盛だった瞳は湖面のように澄み、よく動いていた小さな唇は品よく結ばれ、俺のことを「王太子殿下」と呼んだ。


会わなかった期間がそうさせたのか、最後の拒絶が原因か、ローズとの心の距離感は想定していたよりもずっと遠く離れていた。


一抹の寂しさがよぎるが、これは仕切り直しなのだと思い直す。

リヒトに向けていた心と同じとまではいかないまでも、今度は兄では無く婚約者として少しづつ心を通わせていければと。そう願った。



そう考えていたんだが、なにがどうなったのか

『悪役令嬢としてリヒトを幸せにするのだ』というローズの決意を聞き、早速計画が崩れた。


謎は深まるばかりだが、ローズの様子を一番近くで見守るために悪役の演技指導を買って出たのは英断だった。

やはりローズは、おもしろく、素直で、強かった。

傷つきながらも前に進もうとするローズから目が離せなかった。


いつの間にか婚約者として心を通わせるはずだったのに”悪の師匠”という位置付けになってしまったが

まぁ、いいだろう。”王太子殿下”と呼ばれるより、遥かに良い。だからいいんだ。な。


全く計画通りにはいかず、振り回されてばかりだが悪くない。

この”史上最高の悪役令嬢”を目指すローズに、何度も何度も繰り返し惚れ直す俺はそう思う。



──『悪役が己の信じ築きあげてきたものを疑い始めたら、そこでおしまいですわ! 悪役は散る最後の時まで悪役です!!』


リヒトにローズは勿体ない、と結果的に婚約者を奪うことになったものの。

弟としては憎からず思っていた弟を殺さなければならないのかと。あの時の俺は少し、後悔していた。

頭を占めるのは「何を間違えた」「ああすればよかった」という堂々巡りな思考だった。


目標に向かって邁進していた足がピタリと止まったのを感じた。

そして、この決断を。ローズは何と言うのか恐れていた。

幼い頃からの婚約者であったリヒトを幸せにするのだと奮闘していたローズは、殺す役目を担う男を拒絶するのではと。


俺は一体、何のためにここに立っているのか。

ローズを悲しませたかったのか?いや、違う。

弟を殺したかったのか?いや、違う。

諦めて抗わず己に課せられていた役目を受け入れていればよかったのか?


ローズの好む”王子”の顔も繕えないほど疲労が溜まった俺をローズは。


ローズの白く細い指が俺の胸倉を引き上げる。

指が痛んでしまう、と動きをあわせて腰を持ち上げれば視界に鮮烈な、あの瞳が、宝石のような輝きを放ってこちらを見ていた。


こんなの。惚れないはずがないだろう。完敗だ。



突飛な発想で”史上最高の”悪役として目的を遂行したローズはとても満足気にしていたし、その顔を見て俺も満たされたのだった。


今までローズの突飛な発想を叶え続けてきた宰相には頭が下がる。

これは大変だと思いながらも、この顔を知ってしまえばつい何度だって叶えてしまいたくなる。


これで悪役は終わりかと思えばまだ引き続き、高みを目指しているらしい。どこまでいくんだ。

今度は俺を幸せにしてくれるらしいが、その目標はローズがいれば毎時間達成しているのだと伝えてもイマイチ伝わっていない。伝え方が婉曲過ぎたか。


まあ、そのうちでいい。この時間も楽しいのだから。


──婚約を結んだことで余裕の出来た俺は、少々浮かれすぎていたのかもしれない。


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