プロローグ
最初は短めです。
次からはもう少し長くなります。
彼女はその日、すべてを失った。
一族は離散し、財産は押収。
完全に生家のノーヴァス家は没落した。
そして挙句の果てに国外追放。
彼女はなぜこうなってしまったのか。
少し時をさかのぼる。
その女、リアナ・ノーヴァスは俗にいう悪役令嬢であった。
フォルス王国の懐刀ともいわれるノーヴァス家に生まれ、第一王子、アグノス・ウィル・フォルスの婚約者でもあったリアナ。
そんなリアナは親の愛情を知らなかった。
もちろん彼女の両親はリアナを深く愛していた。
だが、母は早くに他界、父は仕事に追われており、家族団らんの時間がなかったのである。
故に父親が与えたものはお金だった。
いつも寂しい思いをさせている娘にせめて不自由がないようにと毎月使いきれないほどのお金がリアナに送られてきた。
リアナはその寂しさを紛らわせるかの如く、派手に散財するようになった。
膨大な財力でほとんどのものが手に入るという優越感は次第にリアナを麻痺させ、我慢というものを知らないまま成長していった。
その横暴ぶりは外にも聞こえ、いつしか王国一の我儘娘と揶揄されるようになった。
それでも彼女は気にも留めなかった。
持たざる者の僻みなのだと。
私が羨ましいからそうして悪口を叩いているのだと。
そう捨て置いていた。
彼女の運命が大きく変わったのは、学園に入学してからだった。
ほとんどの貴族は専属の家庭教師を付け、必要な教養を学んでからこの王立学園に入学する。
婚約者であるアグノスもこの学園に入学予定であり、初めての顔合わせにリアナは心躍っていた。
しかし、リアナが勝手に舞い上がっている一方で、アグノスはある少女とともに現れる。
正門の前で待っていたリアナは硬直した。
そんな姿を見て、周りの生徒たちは「捨てられたんじゃないの?」などと噂している。
誰だ、あの女は。
当然、リアナは激怒した。
問い詰めるもごく冷静に、途中で出くわしたというアグノス。
アグノスの手前、その弁解で引き下がったが、リアナは恥をかかされた、とあの少女への怒りを募らせていた。
その翌日から、リアナは件の少女、アリシアに対しての嫌がらせを始めた。
それはまさに執念を感じさせるかのような執拗さであった。
しかしアリシアは温室育ちの貴族ではなく特待枠で入学した一般人。
リアナより遥かに厳しい環境で生きてきたアリシアはそんな嫌がらせには屈しなかった。
それどころか見るに見かねたアグノスが止めに入る始末。
なぜ、そんな女をかばうのか。
リアナはさらに激情を募らせるのだった。
リアナの嫌がらせは一層、度を増し、とうとう命に関わるレベルにまでなっていった。
もはや止められず、そんな彼女に失望したアグノスは婚約を解消。
さすがに目に余るとして学園側も彼女に停学を言い渡した。
だが、彼女は止まらなかった。
彼女の中で燃え上がった感情は既に理性を燃やし尽くしてしまっていたのである。
手始めに停学などという処分を下した学校を爆破すると予告。
そしてそれを止めに来たアグノスをリアナは殺そうとした。
結果的に言えば未遂に終わった。
だが未遂とはいえ、アグノスに弓を引こうとしたことを国王陛下は許さなかった。
リアナは罪人として捕らえられた。
自分が罪人であると理解した瞬間、リアナの中の何かが崩れ去った。
罪を裁く法廷に上がるリアナ。
そこでリアナの罪状が読み上げられていく。
周りからは野次が飛び、彼女を糾弾する声がひっきりなしに響いていた。
だがリアナは何を言われても法廷で微動だにしなかった。
彼女がしたことといえば、罪を認めるかと聞かれ、縦に首を振っただけだった。
リアナに下った処分は国外追放。
それだけでは飽き足らず、75日後死ぬ呪いをかけられた。
この呪いは対象者の自害を認めない。
直接的に言えば楽な終わりは許さないということである。
ノーヴァス家は全財産を没収された上、貴族の身分をはく奪された。
リアナの父は失踪。
他の一族のものはどこかへ散っていった。
そして今に至る。
リアナは今、国外へと送られている最中であった。
目隠しをされ、両手は縛られた状態で馬車に揺られている。
彼女に残された時間は75日。
その期間の内に彼女は何を思うのだろうか。




