第54話:そうじゃないんだな
軽快に軽トラを走らせること一時間。
目的のカフェの駐車場へと辿り着いた。
「カフェというより喫茶店と言ったほうがあってるな」
近くにダンジョンが出来たお陰でなんとか潰れないですんでいるといった感じのお店だ。
ただ、見ようによってはレトロで味のあるお洒落なお店に見えなくはない。かもしれない。
「あっ! 霧島さん!」
「お。ちょうど一緒になったねぇ」
振り返ると、そこには白い清楚なワンピース姿の森羅さんと、身体にフィットした千鳥格子のミニスカートにロングブーツというギャル風衣装に身を包んだ三上さんが手を振っていた。
どうやら同じ車で来たらしい。
運転は三上さんがしてきたようで、うしろにお洒落な赤のミニ・クーパーが止めてあり、ちょうど降りてきたところだった。
「少し早めに来たつもりだったんだけど、一緒になりましたね」
車で移動すると交通事情で到着時間が前後するので少し早めに家を出たのだが、向こうも同じだったのかもしれない。
「そうね。でも、前も別れ際に言ったけど、もう敬語はやめてよね~」
「そうだったな。悪い」
協会で分かれる間際に「次会う時は仕事じゃないから敬語禁止で」って言っていたことを思い出す。
まぁ二人とも一回りほど年下だし、会社の後輩には女子社員も何人かいた。だから、話すことにはそこまで抵抗は感じないのだが、この歳になると敬語で話すのが染み付いていて砕けた話し方の方が逆に難しく感じる。
「あ、あの、私はちょっと慣れるまでは今まで通りこんな感じでも……?」
「うんうん。鏡花ちゃんはそのまんまでいいよ。無理にタメ口にしようとしても話しにくいだろうし」
「三上さんは別に前から敬語って感じでもなかったし、そうすると話し方変えるのオレだけじゃない?」
「はははは。細かいことは気にしな~い」
結局まだパーティをどうするかの答えは出ていないが、こうやって他愛もない話をできる仲間がいるってのは、やはりちょっと魅力的ではある。
浅井ダンジョンでも軽トラダンジョンでも、一人で黙々と探索をしていた。たが、先日のような問題が起きても一緒に立ち向かえる仲間がいるというのは頼もしい。
一緒に探索に向き合える仲間か……。
「さ。こんなとこで話してないで中に入るよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
三上さんに連れられて中に入ると、意外にも……というと失礼だが、外観からは想像がつかないほど雰囲気の良い店だった。
アンティークで固められた店内の奥には、個室が設けられており、どうやら三上さんが予約しておいてくれたらしい。
「カフェに個室とかすごいな……」
思わず漏れた一言に、三上さんが自慢げに答える。
「へへへ~。ここ、探索者パーティ向けに個室があるんだよ」
なるほど。ダンジョン特需というと言い過ぎだが、うまくやってるな。
防音ではないそうだが、聞かれたくない話は声のトーンを落とせば外には聞こえないだろう。
「さて……世間を賑わわせている異邦人の話題でもしたいとこだけど、今日は本題のパーティの件、返事を聞かせて貰えるかな?」
「いきなりか。まぁでも、ズルズル引っ張っても仕方ないか」
森羅さんがなんかすごい緊張した面持ちで見てくる。話しづらい……。
まぁでも、ようやく気持ちは固まった。
「えっと……結論から先にいうと、今は無理だ」
「そんなぁ……」
森羅さんが心底悲しそうな声をあげる。
がっかりされるのは申し訳ないような、そこまで望んでくれて嬉しいような複雑な気持ちになるな。
でも、やはり軽トラダンジョンとだいふくの秘密を守るためには、これが最善だと思うんだ。
「鏡花ちゃんちょっと待った。霧島さん、今って言うのは?」
「ああ。知っての通り、オレはいろいろ秘密にしたいことがある」
軽トラダンジョンやだいふくのことを除いても、オレのスキルはいろいろと異常だからな。
「わかってるよ。でも、だからこそ、既にその秘密をある程度知っている私たちみたいなのがよくない?」
「そう思う。だから、すこし待ってくれないかな? オレの返事はどうあれ、二人はパーティを組むことに決めたって言ってただろ? 地力をつけていきたいとも言っていたよな。それはオレも同じなんだ」
「そ、それなら! 私たちと一緒でも!」
「森羅さん、三上さんだけでなく、調べたら森羅さんも期待の新人ってインタビュー受けたりしてるよね?」
ネットで調べてみたら、普通に森羅さんの記事がいくつも出てきてびびった。
さすが日本を代表する大企業のご令嬢で、優秀なスキルにも目覚めている新人探索者。
そのうえ容姿端麗とくればメディアが放っておかない。
今の世の中、探索者やりながら芸能活動をしている人も多い。
荒事なので探索者は男性が多いが、その実力に男女の差は現れない。
有名な高ランク探索者の男女比率で言えば、女性も少なくない。
分母が男性が多いのでもちろん男性の方が数は多いのだが、世間の注目度は女性の方が高いようで結果的にそうなっているのだろう。
まぁ中には、芸能活動が本業で話題作りのために探索者をやってるような人もいる結構いるようだが。
「あ、あれは……」
「そして三上さんは言うまでもなく有名人」
「ふふん♪」
いや、褒めてるわけではない。
「そんな二人と、今までエンジニアとして普通に働いてたおっさんがパーティ組んでみろ。いろいろ探られるのが目に見えているだろ」
「むっ……たしかに無駄に注目は浴びるかもしれないけど……」
「注目だけじゃない。やっかみもある」
「そ、そんなの無視していればいいんです!」
「そう。そうなんだ。無視するためにオレはもう少し一人で地力をつけたいんだ。なにかあっても跳ね除けられるような」
だいふくとその眷属のアビスコボルトたちがいるから暴力はある程度なんとかなるかもしれない。だが、それを表に出すわけにはいかない。
なら、どうするか?
オレ自身の強さが認められばいいんだ。
「実は先日の探索でレベル20になったんだが、なかなか強力なスキルが取得できたんだよ」
「おぉ! さすが霧島さん! 私が見込んだ男なだけある!」
「す、すごいです! さすがです!」
いや、なんだよ見込んだ男って……。
森羅さんは森羅さんで相変わらず全肯定な感じでむず痒い……。
「と、とにかく! まずはそのスキルをきっちり自分のものにして、周囲にオレ自身の実力を認めて貰うことが必要だと思うんだ」
「ん~……不本意だけど、言いたいことはわかったわ」
せっかく誘ってもらっておいて図々しいとは思う。
結局スパッと断るわけでもなく、ちょっと今から頑張って強くなるから待っていてくれって言ってるような感じだからな。
「周りの目を気にしないといけないとか、すごく煩わしいですが……私もわかりました。じゃぁ私たちも霧島さんをがっかりさせないようにスキルを磨いてレベルをあげていきます!」
森羅さんが可愛く「ふんす!」と気合いを入れているがちょっと待ってほしい。
これで話は終わりじゃないんだよな。
二人と話してて決心がついた。
「そうなんだが……そうじゃないんだな」




