第53話:いつも通り
世界探索者機構が異邦人により運営されているという衝撃的な記者会見から数日。
加熱する報道とは裏腹に、新しい情報が公開されることはなかった。
ただ、再びダンジョンに大きな注目が集まり、世界各地で発生したダンジョンゲート機能停止事件の首謀者もまた異邦人ということが発表されたため、その熱が冷める様子はない。
そんな状況の中、しかしオレはいつも通りの生活を送っていた。
「久しぶりにダンジョンの外に出てきたけど、あまり新しい情報はないな」
一番近いE級ダンジョンである浅井ダンジョンが、調査のために当面閉鎖すると発表されたため、この数日はほとんどの時間を軽トラの荷台に出来たダンジョンの中で過ごしている。
そのため、オレ的にはかなり前の出来事の感覚だった。
「ばぅわぅ!」
もちろん愛犬のだいふくも一緒だ。
というか、自分のやったことちゃんと覚えてるのだろうか……。
オレはお前に命を救われたんだがな。
と言っても、それとこれとは話は別だ。
「皿咥えてアピールしてもダメだぞ。さっきご飯食べたとこだろ」
お気に入りの銀の器を咥えてアピールしているが、ほんの一〇分ほど前にあげたばかりだ。
最近はますます丸みが強くなってるのに、これ以上太ったら地面でお腹を擦るようになるぞ?
「ばぅぅ~……」
しょぼんとしながら、何気ない仕草で影に銀の器を収納するだいふく。
「はぁ……未だに信じられないよな~」
どう見てもただの『パグ』にしか見えないが、その実態は存在進化を果たした『パグム』という新しい幻想種らしい。
うん。自分で言ってて意味がわからん。パグムってなんだ。パグムって……。
探索者でもレベル100を超えると存在進化をし、例外なく強くなるらしいが、どうもだいふくの場合は輪をかけておかしいぐらいに強いようだ。
ダンジョンの普通の犬なのにフィールドボスとなり、そこから新しい幻想種になったのが起因しているのかわからないが、とにかく同じく存在進化をしているアビスコボルトたちがたばになっても敵わないのだから、その強さは生半可なものではない。
オレの目では動きを追うことすら出来ないスピードで戦闘を繰り広げ、ものの数分で決着がついてしまう。
レベル差がそこまで開いているわけではないので、やはりだいふくが特別なんだと思う。
あと驚くことに、だいふくやその眷属のアビスコボルトたちは、ダンジョンの外でもその強さが変わらなかった。
最初、母屋でおやつを袋ごと影にこっそり収納しようとしている所を見た時は本当にびっくりした。
魔物がダンジョンの外で被害を及ぼすことは残念ながらよくある。
ダンジョンブレイクが起きると、魔物はダンジョンの外に溢れ出てくるからだ。
しかし、ダンジョンから離れれば離れるほど、その強さに陰りを見せ、最終的には銃器で普通に倒せる程度まで弱体化すると聞いていた。
でも、だいふくたちはこの制約がない。
これはあくまでもオレの推測だが、レベル100を超えて存在進化を果たすと、この制約がなくなるのではないだろうか。
探索者もレベルがあがっていくと、徐々にダンジョンの外でも人の域を超えた力を発揮できるようになっていく。
詳しい調査結果などは公表されてないが、ダンジョンの中で得る力のおおよそ一〇分の一程度の力が出せるのではないかと言われている。
しかし、だいふくやアビスコボルトたちはダンジョンの中と同じ様に動けるし、スキルも魔法も使える。
このあたりのことをだいふくに確認すると、やはり存在進化前はダンジョンの外では若干力が弱まっていたような気がするということだった。
なぜはっきりわからないかと言うと、基本的にだいふくは軽トラの側からあまり離れなかったからだ。
最近は散歩などもダンジョンの中の草原でしていたからな……。
「しかしということは、もしかするとレベル100を超えた探索者も、外で人外じみた力をふるえるようになるかもしれないってことだよな……」
もし本当なら、そりゃぁSランクの探索者の情報が秘匿されるわけだ。
Aランクで活躍していた有名な探索者パーティがSランクに昇格してからメディアにあまり出なくなったりするのもそのせいかもしれない。
ただこれに関しては、海外のSランク探索者には有名な人も結構いるので、あくまでも日本の方針かもしれないが。
「ばぅぅ~」
「わかったわかった。ちゅるびびーやるから、これで我慢しておけ」
まぁでも、だいふくはだいふくだ。
相変わらず食っちゃ寝が大好きで、普段は疲れるのが嫌だからと動きも緩慢な今まで通りのオレの愛犬であり、大事な家族だ。
夢中におやつのちゅるびびーを舐めている様子を見ていると、とても驚異的な強さを持つとは思えない。
「しかし、これからどうするか決めないとだな」
母屋に入り、テレビに流れるニュースを横目に物思いにふけっていると、D-Loggerに一通のメッセージが届いた。
「森羅さんか」
このあと会うことになっているので、それについてのメッセージだった。
三上さんと森羅さんからはパーティのお誘いを受けているので、そのことについて今日直接会って話し合うことになっていた。
しかし、本当にどうしようかな……。
軽トラダンジョンの中でも散々考えたのだが、まだ答えを出せていなかった。
二人ともオレなんかには勿体ない優秀な探索者だ。
レベルが上がってもスキルが何も取得できない探索者も多い中、有用なスキルを既にいくつも発現させている。
先日の異邦人との邂逅でいくつか明かしたスキルについても、ちゃんと協会にも黙っていてくれているし信用もできる。
二人ともタイプは違うが容姿端麗で、アイドルやモデルでも食べていけるほどだ。
じゃぁ何が引っかかっているのか。それは、その後者の部分だ。
「二人とも美少女過ぎなんだよなぁ……」
いや、まぁ、それだけが理由ではないが、三〇半ばのオレなんかとは釣り合いが取れない。
三人でパーティなんて組めば、悪目立ちすること間違いない。
「正直、今は目立ちたくないんだよ」
注目を浴びると、オレの秘密にしていることが色々バレるリスクが跳ね上がる。
中でも軽トラダンジョンとだいふくのことだけは絶対にバレるわけにはいかない。
レベル20になった時に、オレもとうとう念願の戦いに使える派生スキルがいくつか取得出来ていた。
それらを使い、これから実力を示していけば、いつかは堂々としていられるようになるだろうか。
「おっと。そろそろ出かける準備をしないと」
場所は浅井ダンジョン近くのカフェで待ち合わせをしている。
ここから軽トラで一時間ちょっとかかるので準備を始めることにした。
※※※ あとがき ※※※
大変長らくお待たせいたしました!
諸事情で開始が遅れましたが、いよいよ新章連載開始です!
たまに更新でない日もあると思いますが、
できるだけ毎日更新するつもりですので、
これからもご愛読よろしくお願いします!




