第51話:記者会見
異邦人を倒し、ダンジョンのシステムから課されたタスクをこなしてゲートを再稼働させたオレたちは、ようやく外の世界へと帰って来る事ができた。
ゲートを出たあとも、途中の記憶が飛びそうになるぐらい色々と大変だった。
でも、探索者協会への報告の大半を椿さんたちが受け持ってくれたお陰でかなり助かった。
ちなみに三上さんと森羅さんの二人とは、後日あらためて時間を設けて話し合うことになっている。
みんな報告で捕まってしまったのと、三上さんの怪我の治療を優先させたというのものあるが、一番の問題はマスコミが大挙して押しかけて来たことが原因だ。
「いや、まさか他のダンジョンでもゲートの機能停止が発生していたとはな……」
すべてのダンジョンというわけではないが、世界各地のいくつかのダンジョンで、ゲートが急に稼働を停止するという事件が起きていたのだ。日本でも他にもう一件発生していたらしい。
ダンジョンが発生してから三〇年の歴史の中で、こんなことは初めてだ。
このニュースはネットでもテレビでも大々的に取り上げられており、最初の報道直後から様々な憶測が飛び交っていた。
そんな中、初めてゲートが再稼働したダンジョンが現れたのだから、マスコミが殺到するのも無理はない。
「そのお陰でちょっと早めに解放されて助かったんだけどな。けど、まさか大門寺さんが支部長だったとはなぁ」
ただの買取窓口担当職員だと思っていたら、元高ランク探索者で探索者協会浅井支部のトップだったとは。あの体格と強面だから探索者あがりだろうとは思ってたが……。
いや、強面は関係ないな。
しかし、その見た目に反して案外優しくて気が利く。
オレと森羅さんの存在がマスコミにバレないようにと、こっそり裏口から逃がしてくれたお陰で、今こうして軽トラダンジョンの中で一息つけている。
それもこれも、名前や顔の売れている自分たちが矢面に立ったほうがいいだろうと、椿さんを初めとした百花のみんなが庇ってくれたからだ。
記者会見が開かれることになったと聞いても、こういうのは慣れていますからと言ってさらっと流す椿さんまじカッコいいと思った。
オレ自身いろいろやらかした自覚はあるので隠しながら説明するの難しいだろうに……。
百花のみんなには本当に感謝してもしきれない。
「そうだ。百花のみんなに、今度なにか美味しいお菓子でも送っておくか」
「ばふわふ!」
「わかってるって。だいふくがいなかったら詰んでたからな。本当に感謝してる。ほら、食べながら喋るな」
軽トラダンジョンに入るなり陰から飛び出てきて褒美を要求されたので、今はとっておきの犬用ケーキを食べさせている。
これが食べ終わったらデザートにちゅるるびーを要求されているのだが、だいふくのデザートの定義を一度確認しておく必要がありそうだ。
しかし……こういう姿を見ていると、とてもレベル108の存在だとは信じられないよな。
あの時、もしだいふくが助けてくれなかったらと思うと……。
「そう言えば、最後異邦人はオレのこと捕まえようとしてたんだよな……こえぇ……」
まがりなりにも殺される覚悟はして戦いに望んだつもりだったが、囚われの身になる覚悟なんてこれっぽっちもしてなかったわけで、今更になってちょっと恐ろしくなってきた。
だいふくにばかりに頼っていられないし、探索者を続けていくなら本当にオレも強くならないとな。それも、当初のCランク探索者なんてほどほどの強さではなく、最低でもAランク探索者ぐらいには。
それまでは、いざという時はまただいふくの強さに助けられることもあるかもしれない。
だいふくが頼れる強さを手に入れたことは本当に助かった。
だけど、それはそれ。
オレ的にはだいふくとある程度の意思疎通が出来るようになったのが一番嬉しかったりする。
一応、オレも愛犬家の端くれ。以前から仕草とかである程度はこう思ってるんだろうなぁとかはわかっていたつもりだが、やはり感情や考えていることがダイレクトに伝わってくるのは全然違う。
だいふくとしっかり意思疎通出来るなんて、本当に夢のようだ。
「ばぅ! う~……ばぅ!? ばぅわぅ!」
「あぁ、はいはい。ちゅるびびーもその器に出したらいいんだな? え? 今はとりささみ味の気分ではない? まぐろ味を所望する? いや、それってオレが前に間違って買った猫用だからな?」
うん。夢は叶うまでが一番楽しいのかもしれない。
マグロ味は猫を飼ってる同僚にあげてもうないので、とりささみ味をそのまま銀の器に出してやる。
「ばぅ♪」
結局、気分ではないと言っていたくせに、とりささみ味を機嫌よく尻尾を振って食べているだいふく。
その姿に癒やされながら、ふと時間が気になり、第二の視界に映った外の時刻を確認する。
「あ、そろそろ記者会見の時間だ。一度、外に出るか」
だいふくが一瞬でちゅるびびーを食べ終わったので、そのまま抱えて軽トラダンジョンの外へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
母屋の方に入って古いテレビをつけると、ちょうど記者会見が始まろうとしていた。
他のチャンネルも確認してみるが、どこも似たりよったりの報道番組に切り替わっていた。
それだけ注目度の高い事件なのだろう。
「お。始まった」
席に付いているのは、椿さんと大門寺さん。
知り合いがテレビに映ってるのはちょっと不思議な感じだ。
横並びの席には他にも二人座っていたが、こちらは知らない人だった。
椿さんは百花を代表して。
大門寺さんは事件のあった浅井支部の支部長だから。
となると、残りの二人は日本探索者協会の偉い人とかだろうか?
でも、一人は金髪だし海外の協会の人?
時間を持て余して、なんとなく予想を立てていると……。
『それでは、これよりダンジョンゲート機能停止事件についての記者会見を行いたいと思います』
横に立っている司会者の声で記者会見が始まった。
「お。予想が当たったな」
最初の自己紹介によると、知らない人のうちの一人は、やはり日本探索者協会本部の幹部のようだ。
もう一人の金髪の若い男の紹介はなかったが、同じ本部の人だから説明が省かれたのかな。
それから大門寺さんが中心となって今回の事件の経過を話し始めた。
椿さんが要所々々で説明を足していく形のようだ。
その会見の内容は、記者たちにとっては驚くような報告の連続で、会場はほぼずっと騒然としていた。
ただ、当たり前だが当事者のオレにとっては全部知っていることばかりなので驚くことはなにもない。
秘匿しておきたかった部分も上手く隠して説明してしてくれており、そのことにほっと胸を撫で下ろす。
想像通りの内容で記者会見は進んでいった。
途中、記者が話に割って質問をしようとして中断した一幕もあったが、質問は最後に纏めてと言って、とにかく話を先に進めていた。
だが、ダンジョンがクエストを発行したという内容に差し掛かり、異邦人と呼ばれる未知の存在が今回の騒動の犯人だとう話に差し掛かった時、その人物は話に割り込んできた。
『失礼。ダンジョンのクエストで触れている異邦人という存在について、ちょっと誤解があるようなので補足させて貰ってもいいかな?』
若い金髪の男だ。
さっきは本部の人だろうと思って流したが、もしかしてSランク探索者とかだろうか。
画面越しだと伝わらないが、男が話しだした瞬間、会見場が異様なほど静まり返ったので、なにか圧のようなものを発したのではないだろうか。
「この感じ、どこかで……」
『は、はい。もちろんです』
元Aランク探索者だとい大門寺さんの額に汗が浮かんでいる。
え? 緊張こそしてたが、さっきまで涼しい顔で話してたのに……。
『まず、当たり前のことだが、人の中にも良い人間もいれば悪い人間もいる。それはみなさんも当然わかっておられると思います』
なにを話し始めるかと思ったら、突然そんなことを語りだした。
いや、まさか………………。
『それは異邦人にも当てはまると思いませんか? 私はその良い異邦人です』
突然のカミングアウトに会場は騒然と……ならなかった。
この男が浅井ダンジョンの異邦人と同じような強さを持っているのなら、一般の記者が言葉を発することが出来るわけがない。
いや、探索者でも無理だ。
だって、探索者はダンジョンの外ではその力を発揮することが出来ないのだから。
『わかっています。私が自分で「自分は良い異邦人だ!」と言っても中々信じて貰えないでしょう。でも、こう言えば信じて貰えるのではないでしょうか?』
テレビの放送中だというのに、その場を静寂が支配する。
たっぷり間を置いてから、男はこう告げたのだった。
『世界探索者機構は我々異邦人の手によって運営されている』
ダンジョンが出来て三〇年。
世界は新たな時代を迎えようとしていた。
※※※ あとがき ※※※
第一章完結までお読み頂きありがとうございます!
最後に衝撃の発表で締めくくらせて頂きました(笑)
物語はこの後第二章へと続きますが、
まずはここまでの『感想』や『レビュー』、『評価』など
を頂けると、すごくすごく執筆の励みになります。
今後の予定としては、第二章開始までに数日ほどお時間を頂く予定です。
その後、週3回ぐらいのペースで更新していければなぁと思っております。
えっと……もうストックがですね……頑張ります。
どうぞブックマークはそのままで、第二章の開始を楽しみにお待ち下さい!




