第46話:だしな
第三の視界に表示されたメッセージに気を取られていると、突然身体に力が漲ってきた。
しかし、溢れ出してくる力に耐えられず、身体が悲鳴をあげる。
「ぐっ!? な、にが、起こった……」
今までの疲労と合わさって立っていられなくなり、膝から崩れ落ちる。
ようやくタスクが完了出来たというのに、何が起こっている?
「ばっばぅ!?」
慌ててだいふくが駆け寄ってきてくれるが、相手をする余裕がない。
なんだ、これは……。
異邦人とはオレも戦っていたので、だいふくが倒したことで大量の経験値を得て一気にレベルアップでもしたのか?
でも、レベルアップの時の感覚とは根本的に違う気がする。
レベルアップはなんというか、外部装甲的なものが強化されていくような感覚だ。
身体を動かす時も、外部からアシストされるような感じで強さが増していく。
スキルを使う時はちょっとまた違うんだが今は一旦置いておく。
だがそれに対し、今感じているこの感覚はまるで体の中から力が湧き上がってきているようだ。
これが一体何を意味するのかわからない。
だが、今はただ耐えることしか出来なさそうだ……。
身体が悲鳴をあげて蹲ってから、いったいどれぐらいの時間が流れたのだろう。
何十分も経ったような気もするし、もしかすると一分も経っていないのかもしれない。
気を失っていたわけではないが、耐えるのに必死で時間の感覚がわからなくなっていた。
「ばぅぅ……?」
なぜか、背中の上からだいふくの声が聞こえる……。
「だいふく……心配してくれてるみたいだけど、なんでオレの背中の上に乗っかってるの? まぁいいや。大丈夫だ。だいぶん落ち着いてきた」
どれぐらい蹲っていたのか気になったのでログを見てみると、まだ五分も経っていなかった。
まるで身体の中を弄られているような感じがして全く余裕がなかったので、もしかしたら長い時間そうしていたのではないかと焦った。
「ばぅ?」
「あぁ、本当にもう大丈夫だと思う。心配掛けて悪かったな」
そうだ。百花のみんなも作業部屋の中で心配してるよな。でも……この状況だけでも把握しておきたい。
みんなには本当に悪いけど、もうちょっとだけ待ってて貰おう。
「ん? レベルアップはしていない……? じゃぁ、今のはやっぱり別の原因なのか?」
浅井ダンジョンのログをオレのレベルアップに関するものに絞って検索してみたが、さっきレベル20になった時のものしか表示されなかった。
「そうだ。D-Loggerでも一応確認しておくか」
端末を操作して確認してみるが、やはりレベル20のままだ。
「あ~もうっ!! わからないことだらけだ!」
本当に頭を抱えたくなる。
身も心も疲れ切っていて今すぐにでも横になって眠りたい気分だが、そう言うわけにもいかない。
今回の一連の出来事を何も報告しないわけにはいかないが、ありのまま報告するわけにも行かない。
だって、ここに大福がいるし……。
「ばぅわぅ!」
「あ、飯まだだったな……」
あれ? その銀の食器どこから出した?
今自分の影に顔突っ込んで取り出さなかったか……?
状況を理解しようと努力すると、さらにわけわからんことが起きる件について一度ダンジョンシステムと膝を突き合わせて語り合いたい。
でも……まいっか。だいふくだしな。
「ばぅ?」
「あぁ~なんでもない。ほら、食器を渡してくれ」
こういう時だけ素直に渡してくれる。
オレは管理者倉庫からだいふくのご飯を取り出すと食器に入れてやる。
ん? ご飯を入れた瞬間にひったくられたのはいい。
今どうやって取った? 見えなかったんだが?
まいっか。だいふくだしな。
あ。一瞬で食べ終わったと思ったら、食器が地面……いや、影に沈んでいった。
やっぱり見間違いではなかったか……。
だいふくだしな。
オレは魔法の言葉「だいふくだしな」を獲得した。
え? ちらちらち影を気にしていたら、今度は影が大きくせり上がってきた……。
「わふっ!」
「あ、うん。あ、ありがとな……」
影かと思ったら、さっきのアビスコボルトが現れて「これ、ドロップ品です」って渡してくれた。
だいふくだし………………じゃなくて、その眷属だしな。
魔法の言葉「だいふくだしな」を即潰しに来る件。
もう眷属も含めてだいふくってことで。
あれ? なんか気付けば周りを眷属にも囲まれてる。
「えっと……?」
「「「わふっ! わふっ~!」」」
「あ、護衛してくれるのか。疲れてるようだからごゆっくりって?」
なんかだいふくだけじゃなく、眷属の感情もわかるっぽい。
うん。ドロップ品貰った時にそんな気はしてたけど。
だいふくだしな。だいふくの眷属だしな。ぶつぶつ。
でもこれで周りを気にしないで言い訳を考える事ができる。
「で……こんな状況どうしろって?」
なんか言い訳考えるほうが異邦人よりも強敵な気がしてきた。
「ばぅ?」
「「「わふぅ?」」」
「あ、うん。独り言だから気にしないでくれ」
眷属にまで心配されてしまった……。
今は気配遮断のようなものをしていないのか、しっかり見える。
こうして見ると意外と可愛いな。
身体は大きいし、しゅっとしててカッコいいけど、オレがだいふくの飼い主だからか、それともダンジョンの管理者だからか、本気で心配そうにしている姿はちょっと愛嬌があって可愛い。
「わふっ?」
ん? あ……これ、いけるんじゃね?
この後、だいふくとアサシンコボルトにいくつか確認すると、オレは作業部屋のゲートに向けて歩き出したのだった。




