第43話:異邦人を倒せ⑤
なんだこれ?
オレは死の間際で幻でも見ているのだろうか?
何度か目をこすってみるが、やっぱりいつも見ている光景。
愛犬のだいふくが銀の食器を口に咥えて尻尾を振っていた。
「あ~、そう言えば予定よりだいぶん時間が押してるな。もうご飯の時間か~、悪い悪い……………………って、そうじゃない!? なんでお前こんな所にいるの!?」
「ばぅわぅ!」
「いや、ご飯の時間かもしれないが、ちょっと待て!? 頭が追いつかないんだが!?」
だいふくがいつものように銀の食器を咥えて「ご飯くれ」アピールをしているが、まったくもって状況が理解出来ない。
え、まじで時間くれ……。どういう状況?
「そ、そうだ! 分析!!」
スキルを発動すると、急速に音が遠のいていく。
今のオレには、ちょっと混乱を鎮めるのに時間が必要だ。
一度整理してみよう。
目の前にいるのは……何度見ても間違えようがない。
パグだ。
でも、それはおかしいんだ。
通用ゲートから出てきたのだろうが、軽トラダンジョン側のゲートは大量の魔物を配置したエリアに隣接する形で開いたのだ。
だいふくは魔物を配置したエリアにうっかり近づいたら危ないから、ちゃんと今日はDIYで作ったドッグランにだいふくを置いてきたはずだ。
それなのになぜ通用ゲートから出てこられる?
たしかに通用ゲートにはまだ入場制限などは設定していない。
手に入れたばかりのスキルでそんな時間がなかったからな。
だけどドッグランの柵を超え、魔物の群れを抜けてゲートから出てきたというのか?
そんな馬鹿、な……いや、待て……。
そもそも異邦人が吹っ飛んだのはなぜだ?
状況的に見て、だいふくがやったとしか思えない。
はぁ………………うん、わかってるとも。
ちょっと認めたくなかっただけなんだ。
少しぐらい現実逃避してもいいじゃないか。
せっかく正常性バイアスが頑張ってたのに……。
なんかね。最近、ボール遊びする時に身の危険を感じたりしてたんだ……。
追いかけっこしてもさ、ぎりぎりの所で全く捕まえられないからおかしいなぁって思ってた。
だって、ダンジョンの中で探索者が本気を出して追いかけて見失うなんてありえる?
レベル20にもなれば、ダンジョンの中では一般のアスリートを遥かに超える身体能力を持つんだよ?
で………………結局、フィールドボス化したから強いってことか?
でも、なんかそれにしても強すぎないか?
異邦人くん、さっきのオレより遠くまで吹っ飛んでるんだけど?
諦めて、今度時間のある時に軽トラダンジョンのログでも遡って調べてみるのは確定として、ひとまずだいふくのレベルだけでも確認しておくか。
は………………?
………………………………………………レベル108?
え? レベルが三桁? まじか?
煩悩かよ? いや、馬鹿なこと考えてないで、本当に落ち着けオレ。
見間違いでは……ないな。
何度見てもレベル108だ。
探索者は、ダンジョンの等級に合わせてランク分けされている。
例えば、一階層だけで構成されているEランクダンジョンの探索者推奨レベルは1~20だ。
次が五階層で構成されているDランクダンジョンで推奨レベル20~35。
一〇階層のCランクがレベル35~50。三〇階層のBランクがレベル50~75。
五〇階層のAランクが75~100だ。
そして、日本だと一つしかないSランクダンジョンの推奨レベルが100以上とされている。
このことから、実力はAランク探索者に匹敵すると聞いている百花はレベル70台ではないかと思っている。
となると、百花をだいふくのレベルと比べると数値の上ではレベル三〇ほどの違いなのだが、恐らくその差は低レベル帯と違ってかなり大きい。
それは何故か?
レベルは上にいけばいくほど上がりにくくなるのはゲームなどと一緒なのだが、その代わりに高レベル帯ではステータスの伸びが大きく、レベルアップ時にスキルが発現しやすいと言われているからだ。
しかしその強さに決定的な開きがあると考える一番の理由が、だいふくがレベル100の壁を超えていることだ。
レベル100に達すると、存在進化して次元の違う強さになるらしいのだ。
え? あれ? まじか?
だいふく存在進化してんの?
ぶはっ!? なんか種族が『パグム』ってなってるんだが!?
あ、あれ? そもそも、フィールドボスになった時に確認した時も種族『パグ』じゃなくて、種族『犬』だった気がするんだが?
なにパグムって?
新しい犬種? だいふくの血統書書き換えとく?
だめだ……もうオレの頭ではついていけない……。
一旦この問題は置いておこう。
えっと……なにを考えてたっけ?
あ、そうだ。存在進化とその強さについてだ。
秘匿されていて正確なところはわからないが、日本では数人だけと言われているSランク探索者。彼ら彼女らは、一人でAランク探索者パーティーを蹴散らす強さを持っているらしいのだ。
実際に妬んで喧嘩を売ったレベル90台のパーティーが呆気なく返り討ちにされた事件が報道されていたのを覚えている。
ただ、存在進化ってものがどういったものなのか詳しい情報は公開されていないのでわからないのだが、とにかく桁違いに強くなるということだけは確かなはずだ。
しかし、存在進化って言葉を使ってるから、てっきり見た目とかがっつり変わるのかと思ってたが、そのまんまなんだな。※本当は違います
ケルベロスやヘルハウンドみたいな厳つい姿になるのかと思ってたけど違ったようだ。※違ってないです
で……原因や経緯はともかく、状況はなんとなく把握できたが、この後どうする……?




