第37話:分析
目の前の光景が信じられず、動けなかった。
ついさっきまで笑っていた彼女たちの姿が脳裏をよぎり、言葉が出てこない。
Eランクダンジョンとはいえ、イレギュラーを圧倒的な力でねじ伏せた百花が、今まさに蹂躙されようとしている。
なんとかしなくちゃ駄目だ。
なんとかしなくちゃ、駄目なのに……オレにいったい何が出来る?
異邦人は矢の雨を放つ椿さんを忌々しそうに睨んでいる。
シールドを展開しているということは、椿さんの攻撃がまったく効かないというわけではないのだろうが、椿さんもあの守りを突破出来ずに攻めあぐねている。
スキルの使用にはMPを使う。
どう考えてもシールドよりも、あの椿さんの攻撃スキルの方が消費MPが多い。
そもそも奴の放つ気配からしてシールド程度何時間でも張っていられるのではないだろうか?
椿さんのMPが底をつき、攻撃がやめば……きっと奴は動き出す。
「ど、どうすれば……」
落ち着け! 考えろ……考えるんだ!
直接的な強さはオレにはない。
オレの強みはただ一つ。
ユニークスキル『ダンジョンアドミニストレーター』だ。
これを駆使して抗うしかない。
まずは状況把握だ。
使うのは初めてだが、さっきの最後のゴブリンを倒した時にレベル20になっていた。その時に覚えたこのスキルがきっと使えるはず。
ダンジョンアドミニストレーターの派生スキル『分析』!
頭の中が澄み渡り、思考が早まっていく。
戦闘中には使えないのが残念だが、思考加速系のスキルだ。
スキルを発動した瞬間、椿さんが放っている矢の雨が静止したかのように見えるようになった。
二倍や三倍とかのレベルではない。
少なくとも軽く一〇倍以上に感じる。
基本は見たり感じたり考えることしか出来なく、ちょっとした行動で解除されてしまうみたいだ。ただ例外として、動作を伴わないアドミニストレーター系のスキルに関しては効果中でも使えるようだ。
この有用そうなスキルの検証をしたいところだが、もちろん今はそんな時ではない。
百花の置かれている状況を分析していこう。
まず事前情報として、ポーションはたっぷり渡してある。
こんなにいらないと遠慮する彼女たちに、無理やり多くのポーションを持たせた。
さすがにまだ使い切っていないはずだ。
穂上さんと本庄さん。HPは……十分にあるな。
二人が身に纏う魔力が戦闘前と変わらない程度に感じるからだ。
ただ、未だに立ち上がれず膝をついており、体にかなりのダメージが残っているのが見て取れる。
恐らく一度HP全損して、その時に攻撃を受けたのだろう。
苦しそうだし戦線復帰は難しそうだ。
でもレベルの高い二人なら、すぐに命の危険がないのが救いか。
次に椿さん。彼女は攻撃の手を休めることなく、魔力回復ポーションを器用に口に加えて飲んでいる。ポーションは振りかけても効果を発揮するが、飲むほうが効果が高い。少しでもMPを多く回復するために経口摂取しているのだろう。
ダメージは無さそうだが、スキルを連発し続けているのでかなりきつそうだ。
ただ、彼女は後衛なのでMP回復ポーションを多めに渡してある。
ジリ貧ではあるが、あともう少し異邦人をおさえてくれることを願うしかない。
そして日暮さんと三上さん。
日暮さんは大丈夫そうだが、やはり心配なのは三上さんの容態だ。
HP全損させられた時にかなり大きな怪我を負ったのは間違いない。
ポーションを豪快に振りかけているので、HP自体は十分回復しているはずだ。
ただ、怪我や病気など身体に問題がある場合は、回復したそばからHPは減少していく。
だから日暮さんは何度かにわけて回復ポーションをかけているのだろう。
頼みの綱の日暮さんの回復スキルは、祈祷系というものに分類されるとさっき教えてもらった。
祈祷系のスキルは、じわじわとしか効かないかわりにHPよりも物理的な身体の方に作用する。軽い病気や毒、怪我なども治す効果もあるらしく、三上さんがなんとか命を繋げられているのはその御蔭と思われる。
あらためて現状分析してみたが、やはり状況はかなり悪い。
オレが打てる手は限られている。
だがオレのスキルは意表をつけるものが多い。
うまく使いこなせればそこに活路が見えるはずだ。
ん? これは……?
なにか有効な手はないかと第二、第三の視界の情報に意識を向けていると、タスク1の表示が点滅していることに気付いた。
えっ!? タスク1、完了しているじゃないか!!
さすが三上さん! いや、さすが百花! やってくれる!
百花から援護射撃を貰った気分だ。
タスクは完了させることで報酬が得られる。
今回のタスク1とタスク2は関連付けされており、両方を終わらせることでゲートが再稼働するとう報酬が設定されていた。
だが、タスク1、タスク2、それぞれにも個別の報酬が設定されているのだ。
そのタスク1の報酬が管理者権限のアップだった。
権限がアップして何が出来るのかまでは書かれていなかったが、ダンジョンアドミニストレーターのスキルレベルとは別で、ダンジョン管理において出来ることが増えるというものだ。
オレは逸る気持ちを抑え、すぐさま第二、第三の視界の情報をチェックしていく。
だけど……増えたのはいずれも選任管理者を務めている軽トラダンジョンの方だけで、今いるこの浅井ダンジョンでは臨時管理者の制限の方が強いらしく、出来ることは何も増えていなかった。
くっ……やはりオレに出来ることはもう何もないのか……。
しかし諦めかけたその時、一つの項目が目に止まったのだった。




