第32話:そうじゃないんだ
無事にイレギュラーの討伐が完了し、緩んだ空気の中、いざ帰路につこうとした時にアナウンスは響き渡った。
≪本ダンジョンに対し、イレギュラー討伐による歪みを悪用した外部干渉を検知しました≫
≪緊急処置として当ダンジョンを一時閉鎖します≫
「え? 今のなに……?」
「ど、どういう意味? 外部干渉? 閉鎖?」
「今のって、スキル授かる時とかに聞こえる声よね?」
一瞬聞こえたのはオレだけかと思ったが、ここにいる全員が今の声を聞いたようだ。
このダンジョンに潜っている探索者全員に聞こえたのだろうか。
とにかく、経験豊富な百花のメンバー全員が困惑していることから、普通じゃありえないことなのは間違いなさそうだ。
オレにとってはたまに聞く声ではあるのだが、軽トラダンジョン以外でこの声を聞くのは初めてかもしれない。
「み、みんな落ち着いて。全員今の声は聞こえたってことでいいのよね?」
椿さんが混乱しながらも、なんとか状況の把握をしようと皆に問いかける。
「き、聞こえたわ。この様子だとみんなに聞こえてそうね」
「聞こえたよ! ダンジョンを閉鎖とか、こんなの初めて聞いたんだけど!?」
「三上さんも落ち着きなさい。私たちも初めてよ。二人も聞こえましたか?」
椿さんがオレと森羅さんの方を向いて確認してきたので、頷きを返す。
「ダンジョンが閉鎖なんて私たちも聞いたことないけど、今の言葉をそのまま信じるならゲートから出られなくなっているということかしら……。でも、何があっても皆で帰るわよ」
自分も不安だろうに気丈に振る舞う椿さん。
オレも探索者の端くれ、彼女を見習って冷静を心がけなければいけないな。
皆で状況を整理していると、またアナウンスが聞こえてきた。
≪外部干渉者により、異物の混入を確認。異物の排除が必要です≫
「い、異物ってなに……?」
「排除って、何をどうすればいいの?」
困惑の声が広がる中、声は続く。
≪異物の排除を確認次第、ダンジョンの閉鎖を解除します≫
≪力あるものには速やかな排除を要請します≫
「ちょっとちょっと~! だから何をどうすればいいのよ!?」
わかりにくい言い回しに三上さんが文句を言うが、反応はしてくれないようだ。
この声をそのまま解釈するなら、ダンジョンに何者かが干渉してきて、異物と呼ばれるもの、何かの道具? 罠? 魔物? 考えられるものは色々あるが、とにかくそれを配置されたから壊すか倒すかしてくれってことだろうか?
しかしダンジョンのシステムに侵入したってことか?
まるでコンピューターウイルスみたいだな。
もう少し情報が欲しい。
≪特殊事項に該当することを確認。ダンジョン内にいる探索者に対し緊急クエストを発行しま……≫
「え? クエストって、確か三〇年前にダンジョンが現れた時に一度だけ発行されたっていう、あの!?」
≪……クエストの発行を一時中断≫
「って、中断するんかい!?」
三上さんが一人ボケ一人ツッコミみたいなことになってる。
思わず吹き出しそうになったけど、今は深刻な事態なんだから我慢我慢……。
≪当ダンジョン内にダンジョン管理の有資格者を検出≫
≪優先特殊事項に該当することを確認。選任管理者不在のため臨時管理者を任命します≫
は……? 有資格者……?
待て待て待て……!? めちゃくちゃ嫌な予感がするんだが!?
≪本ダンジョンの臨時管理者就任要請に応じますか?≫
「まじか……………………」
周りを見た感じ、予想通りオレにだけ聞こえているようだ。
なんか、すごいデジャブなんだが……。
はっ!? だいふくはいないよな!?
当たり前だが、周りを見回してだいふくがいないことにちょっとホッとする。
しかし、どうしたものか……。
めっちゃ断りたい……だけど、これって断っていいものなのだろうか?
オレがここの臨時管理者とやらに就任した方が今起こっている問題の解決に繋がるのではないか? そう思うと安易に断ることも出来ない。
どうすればと悩んでいると、足元に何かの気配を感じ視線を向ける。
するとそこには、一匹の小さな狐が魔石を咥えて見上げていた。
日暮さんの式神だ。
どうやらさっき回収しそこねていた魔石を見つけたようだ。
あれ……? なんかこの光景見たことがある気が……。
「こん!」
≪承諾を確認しました。あなたは本ダンジョンの臨時管理者に就任しました≫
≪一時的に、本ダンジョンは識別名『霧島 蒼司』の管理下に置かれます≫
あらためて一言いいか?
「まじか……………………」
いや、百歩譲ってだいふくはわかる。
愛犬であり、あいつはオレの家族も同然だ。
でもさぁ……ダンジョンくんさぁ……。
人の式神で承諾を得るとかないわ~。
一人頭を抱えていると、みんながこちらを見ていることに気付いた。
「き、霧島さん? だ、大丈夫です! 私たちがなんとかしますから!」
「そうです! 霧島さん! Eランクダンジョンに百花みたいな高ランクの探索者がいるなんて幸運なんですから!」
不安で頭を抱えていると勘違いされたようだ。
いや、確かに不安で胸いっぱいだけど、そうじゃないんだ……。




