第29話:返納制度?
三体のゴブリンは手に粗末な棍棒を持つ、一番オーソドックスなタイプだ。
ゴブリンの中では最弱な部類になるが、それでも普通の新人探索者にとっては一対一でもそれなりに慎重に戦うべき相手だった。
だけど森羅さんは、その普通の新人探索者には当てはまらない。
「やぁ!!」
凛とした掛け声から薙刀を振るい、先頭のゴブリンを一刀のもと斬り伏せる。と思うと、今度は彼女に続くように二体の式神『前鬼』と『後鬼』が素早く踏み込み、棍を無造作に振り下ろして残りの二体を頭から叩き潰した。
「えっ!? すごっ!!」
ゴブリン三体を比喩抜きで一瞬で片付けてしまった。
まさに秒殺だ。
「うはっ。鏡花ちゃん、やべ~。瞬殺じゃん!」
「これは予想以上ですね。さすが本家の子は式神の格が違います」
三上さんがギャルみたいな口調で大喜びし、森羅さんと同じ陰陽系のスキルを使うという日暮さんが目を見開いて感心していた。
「スキルだけじゃないわ。薙刀の腕もたいしたものよ。技のキレなら私より上かも?」
通じるものがあるのか、槍使いだという本城さんもべた褒めだ。
「そうね。正直思ってた以上だったわ。でも、その式神は長時間維持するのは難しそうね」
「はぁはぁ……。さすが椿さん、ですね。維持しているだけでMPがどんどん減っていくので、まだここぞと言う時しか使えないんです」
そう言うと森羅さんはすぐに召喚を解除した。
式神を維持するのがMPってのが、ちょっと和と洋が混ざって変な感じがするな。
まぁそれはいいとして、MPだけでなく精神的な消耗もあるのか、この短時間でもかなり疲労しているように見える。森羅さんにとっての切り札ってところなのだろう。
「そのようね。それがわかっているなら私から言うことはないわ。探索者になって間もないことを考慮すれば、百点満点の戦いだったわよ」
「ありがとうございます!」
軒並み高評価だ。
まぁそれはオレも当然だと思うし異論はないのだが……。
えっと……この後、オレが戦いを披露するのか? めっちゃ嫌なんだが?
オレ、ようやくメイスの扱いに慣れてきた普通の探索者なんです。
スキルは珍しいものいくつも持ってるけど、戦闘系のスキルは何も持っていない。
レベル上げが高効率なだけで、特別なのは管理者ローブと非戦闘スキルだけなんだよな~。
ドロップした魔石を拾ってすぐ探索は再開された。
そして数分後、すぐにまたミニレーダーに反応があった。
言われてみれば、確かに遭遇頻度が高い気がする。
浅井ダンジョンではサーチ&デストロイでサクサク狩ってるし、軽トラダンジョンでは自分で配置しているので、そもそも探すことすら必要ない。
だから、これがどの程度の遭遇率なのかピンとこないが、周りの反応を見る限りかなり高いようだ。
「やっぱりイレギュラーが発生しているだけあって多いな~。もう少ししたら接敵するよ。数はまた三体。次は霧島さんだけど準備はいい?」
愛用のメイスとポリカーボネート製の盾の握りを確かめ、返事をする。
「はい。大丈夫です」
森羅さんの真似なんて出来るわけが無い。だから、オレはオレのやり方でやるだけだ。
見られているのでちょっと緊張しているが、いつも通りやることは変わらない。
「行きます」
少し先の角からゴブリンが見えたので、盾を構えてゆっくりと近づいていく。
「ギャギャ!!」
「「ギャッ!」」
ゴブリンまで視線を遮るものはなにもない。
当然、向こうもすぐ気付いて襲いかかってきた。
手に持つのは棍棒ではなく短剣か。
HPがある限りは斬られてもすぐに出血したりはしない。それはわかっているが、やはり刃物を持っている相手にはちょっと腰が引ける。
と言っても……さすがにいい加減慣れてきた!
「はぁっ!」
ゴブリンが振り回す短剣を危なげなく盾で弾き、がら空きになった体にメイスを叩き込んで一匹目を一撃で仕留める。
「まずは一匹」
一瞬で靄になって消えたゴブリンから、すぐさま残りのゴブリンに意識を移す。
二匹目と三匹目のゴブリンは横並びだったので、焦らず左に回り込み、一対一の状況を作り出すと短剣を狙ってメイスを振り抜いた。
「ギャ!?」
弾け飛んだ短剣に気を取られている隙に、振り抜いたメイスをすぐさま返して頭を潰して二匹目を倒した。
「これで二匹」
二匹目が靄になって消えた瞬間、靄を突っ切る形で意表をついて掬い上げるようにメイスを振り抜いて三匹目も短剣を腕ごと強打。振り上げたメイスをそのまま振り下ろして戦闘を終わらせた。
「ふぅ~。なんとか無事終わりました」
もうゴブリンとも嫌と言うほど戦っているが、やはり見られていると緊張するな。
知らず余分な力が入っていたようで、戦闘が終わって大きく息を吐いた。
「いやいやいや! 霧島さん、安定しすぎでしょ!? もう風格まで出てきてるから!?」
「うん、新人探索者の戦い方じゃないね……」
「これはもうベテラン探索者の戦い方だよね」
「実は昔やってて復帰したとか?」
「探索者免許って、返納とか出来たっけ?」
なにげにひどい言われようだ……。
褒められてるのか貶されているのか微妙な評価だ。
間違いなく新人探索者だから!
ちょっと普通の新人探索者よりダンジョンにいる時間が数倍長くて、数倍の効率で戦っているいだけだか、ら……えっと、自信無くなってきた。
なんと答えればいいか苦笑いを浮かべていると、森羅さんが助け舟を出してくれた。
「もう! 霧島さんは私と一緒に探索者試験受けたんですから、同じ新人ですよ!」
だよな? オレ、新人探索者を名乗ってもいいよね?
「うん、新人探索者です?」
「どうして本人が自信なさげなのよ? 霧島さんって意外と面白いね! でも、スキルな~んも使わずに完勝か~」
三上さんはオレがなにか戦闘系のスキルでも持っているのかと期待していたようだ。
でも残念ながらダンジョンアドミニストレーターには派生スキル含めても直接戦闘に役立つようなスキルはなにもないんだよな。
ここで軽トラダンジョンの魔物でも配置出来れば最強なのだが、もちろんそんなことは出来ない。
魔物には簡単な指示が設定できるから、配置さえできればリソースが許す限り召喚士的な戦い方も出来るんだけどな。
ダンジョンブレイクさせれば外には出せるが、ダンジョンの中で出せなければ意味がない。
「派手さはないけど、凄く安定していて安心して見ていられました。思い切りもいいし、本当にベテラン探索者の戦いを見ているようで素晴らしかったですよ」
美人の椿さんに真正面から褒められると、ちょっと照れるな。
高ランクの探索者の目から見てもちゃんと戦えていたという評価を貰えて安心した。
焦らずこのまま頑張っていこう。新人探索者として……。




