14-25 修学旅行
大変遅くなりました。
本日もよろしくお願いします。
精霊さん里親大抽選会の惨事から少し経ち、12月に入った。
朝6時。
冬時間なのでまだ薄暗いそんな時間帯から、命子は制服の上にダンジョン素材で作られた可愛らしいコートを羽織り、リビングで待機していた。
「ほら、みっちゃん。私は4日間帰ってこないから、今のうちに魔力吸っておきな」
『やーっ!』
命子が精霊の光子に朝から魔力を上げていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「来た!」
命子はすぐにインターホンの通話ボタンを押し、応答する。カメラにはネコミミをピョコピョコとさせたルルの顔がドアップで映っていた。
「なにやつ!」
『ルルどすえ!』
「どすえっ! おのれぇ、偽物か!?」
『変幻自在どすえ! ネコゆえに!』
「倒置法まで!」
『いいから早く来るどすえ! 遅刻したら大変どすえよ!』
姉に付き合って少し早めに両親と朝食を食べている萌々子は、そんな姉のやりとりを見て、朝からテンション高いなーと思った。
「それじゃあ行ってくるね」
「気をつけていくのよー」
「楽しんでくるんだよ」
ダンジョン用のリュックを背負った命子は両親から見送りの言葉を貰い、居間を出る。
「ちょっとちょっとちょっとお姉ちゃん!」
玄関で靴を履いていると、萌々子が慌ててやってきた。
「どうしたの。もう寂しくなっちゃった?」
「んなわけあるかぁ! 光子が角にくっついたままだよ!」
「ハッ!?」『やっ!』
命子は龍角に抱き着いている光子をむんずと掴んだ。光子はイヤイヤしながらもキュポンと離れる。
「それじゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい」
『やーっ!』
改めて挨拶をして、命子は家を飛び出した。
そこには学校行きのいつもの格好をしているのに、カバンだけが学校用ではないルル、ささら、メリスの姿があった。
「どすえー!」
「「どすえー!」」
謎の挨拶を交わす命子たちに、くすくすと笑うささら。
「よし、それじゃあいざ出陣!」
命子たちは学校ではなく、駅の方へと歩き出した。
なんだか特別な感じの朝。
それもそのはず、本日から風女の2年生は3泊4日の修学旅行なのである!
集合場所へ向かうべく命子たちが電車に乗ると、風女の生徒がたくさん乗っていた。サラリーマンの眠気も吹き飛ぶキャッキャ空間が構築されている。
「おはようどすえー!」
「敵はホンノージにありどすえー!」
「あははっ、なにそれー?」
「修学旅行仕様どすえ!」
メリスとルルがどすえどすえと挨拶をし始める中、命子はクラスメイトの天邪鬼っ子ヒナタが席に座っているのを発見した。
命子が近づいてくるので、ヒナタの隣に座っているサラリーマンは「えーっ!?」といった顔。
「チッスチス、ヒナタちゃん。こんな日なのにだりぃとか言いそうな顔してるね!」
「言わねえよ、喧嘩売ってんのか。でもまあ、また京都かーって気はしてる」
「ヒナタちゃん。それ言っちゃおしめぇだよ!」
風女の修学旅行先は、ルルたちの語尾が特別仕様になっていることからもわかる通り、京都奈良大阪である。
例年は沖縄か北海道かをアンケートで決めるのだが、今年は飛行機が飛べなくなった影響で京都奈良大阪になった。昨今は大型飛空艇もそこそこの数が運行し始めたが、さすがに高校でチャーターできるほどの数はまだないのだ。無念無念。
ちなみに、現在の3年生は昨年が大変な有様だったので、風女の場合は今年の春に修学旅行があった。全国的には中止になってしまった学校も多いという。
「もういっそのこと、どっかのG級ダンジョンに3泊4日で女子高生をぶち込めばいいじゃんね? レイドの腕輪をつけさせてさ」
命子がヒナタに言う。
「それもまあ面白そうだけど、それだと修学旅行じゃなくて林間学校のキャンプじゃん。いまの日本には早すぎる概念だ」
「3年くらい早いか……」
「いや、20年くらい早いだろ。ダンジョンができたの去年だぞ」
そんなふうにヒナタと話していると、隣の席のサラリーマンが話しかけてきた。またとない機会なので声を掛けちゃったが、旧時代なら学校の連絡網で回るレベルのプレイング。
「風見女学園は修学旅行なんですか?」
「はい。京都の方に行きます」
「それは楽しみですね。私も夏にあちらの方へ遊びに行きましたが、大きなダンジョン街ができていて観光地として一層面白くなっていました」
「へえ、素敵ですね!」
などと命子は社交的。ヒナタは『このおっさん、よく話しかけてきたな』と思いながら2人の会話を聞いていた。
この日、サラリーマンのおっちゃんは会社に行くと、みんなに滅茶苦茶自慢した。
「小田☆原!」
修学旅行の集合場所である小田原に到着。ここから新幹線に乗るのだ。
「まだ時間があるからお城を見に行くデス!」
「ホージョーさんちで鯉を釣るでゴザル!」
「ルルさん、メリスさん、メッですわよ。もしも遅れたら置いて行かれちゃいますわ」
ルルとメリスは日本で初めての修学旅行なので、テンションはバカ高。ささらもお友達がたくさんの修学旅行は初めてなので、パンフレットを片手に持ち、お目々をキラキラさせてウキウキ状態。
「ルル、メリス、駅弁買わないと!」
「にゃーっ、こうしちゃいられないデス!」
「拙者、今日は鯛めしにするでゴザル!」
「駅弁を買うんですの? あ、待ってですのー!」
「えー、命子ちゃんたち駅弁買うのー? あたしも行く行くぅ!」
「私もーっ!」
滅茶苦茶である。
集合時間になり、出席確認が取られる。
その前を通る人たちは、かの有名な風女の生徒たちがワラワラいるので凄いものを目撃した気分。マナ進化している子も多いし、精霊さんを連れている生徒や教師もいるし、最高にファンタジーしている。
「羊谷ー」
「はい! 元気いっぱいです!」
命子がお返事すると、アネゴ先生が名簿にチェックを入れる。
その頭の上で、最近アネゴ先生の里子になった精霊のミウが、返事をした生徒の顔を見てミニ手帳に何かをチェック。アネゴ先生の真似をしているのだ。その育成は順調で、教師陣や生徒とも仲良くやっていた。
遅刻者はゼロ。こういう時はしっかりしてんだ。
予定通りに新幹線に乗りこむ。
向かい合わせの6人席に、命子、ささら、ルル、メリス、ヒナタ、ナナコで座った。これが命子の班のメンバーだった。ナナコには精霊のルナがいるので、2倍お得である。
「これから修学旅行出発ですっと」
ナナコがプイッターに投稿した。
「ニャーコはマメでゴザルなー。拙者もアカウントを持ってるけど、すぐ忘れちゃうでゴザル」
「まあね。いっぱい反応してくれるからすっごく楽しい」
「うむ、楽しいのは良いことでゴザル」
「ほら、見てみてー」
などとメリスとナナコが会話を始める傍らで、命子はさっそくコーラグミを出してもきゅもきゅし始めた。
「またコーラグミ食べてるデス!」
「まあね、旅といえばコーラグミだって松尾芭蕉も言ってるし。炭酸を、集めて美味し、コーラグミっつってね」
「にゃんと。どういう意味デス?」
「炭酸を集めたみたいにコーラグミって美味しいねって意味。たしか、芭蕉が東海道を旅した時に詠った俳句だったかな?」
「はえー素敵……なんて言うと思ったデスか! 騙されないデス!」
ルルは命子からコーラグミを奪い取ると、口に放り込んで「にゃー」と鳴いた。周りの粉がシュワシュワしとる。
新幹線が出発し、命子はいそいそと冒険者雑誌を取り出した。
「お前マイペースかよ。ていうか、なんでそんなの持ってきてんだよ」
ヒナタがツッコンだ。
「京都奈良大阪のダンジョンのチェック用だ。今はクリスマスと年末のシーズンだから、観光地のそばのダンジョン特集をしているの」
「え、毎週買ってる感じ?」
「買ってるが。まあ、これは週刊誌じゃなくて隔週誌だけど」
命子は日本にある全てのダンジョンのパンフレットを持っており、さらに冒険者系雑誌も購読していた。
この雑誌は、冒険者ファッション、ダンジョンそのものやダンジョン街の特集、修行場の特集、有名冒険者のインタビュー、ダンジョン素材の買い取り相場情報、武具フェス情報、武術指導など色々な記事があり、命子的にとても楽しく読める1冊だ。
先ほどおっちゃんのダンジョン街談義に「へえ、素敵ですね!」などと返していた命子だが、実はすでに知っていたのである!
「それって石音元部長のインタビューが載ってたヤツだよな?」
「そうだよ。今週号はー……コウジ&ケイタだって」
「あー、白神山地の精霊洞窟を発見したコンビの冒険者だっけ。じゃあ精霊使い特集か。ちょっと見せてよ」
「もー、しょうがないな。はい、先月のヤツね」
「なんで先月のも持ってんの?」
「そっちには大阪のダンジョン街特集があるから」
命子はリュックから前号の雑誌を出して、ヒナタに渡した。
リュックに雑誌なんか入れている余裕はあるのか心配しそうなところだが、昨今の女子高生はカバンに【アイテムボックス】を使用している。命子は『見習い空間魔法使い』をマスターしているので、【アイテムボックス】はさらに効率化されていた。
「ダンジョン街はとっても楽しみですわね」
ささらが言う。
今回の修学旅行では、1日分の自由行動がある。自由行動は生徒たちが自分で計画し、それを学校側に提出して、許可を貰う形だ。当然、命子たちの計画にはダンジョン街もあった。
「うん。めっちゃ色々なお店があるみたいだし、超楽しそう。ほら、これ!」
命子はルルの太ももの上に雑誌を置いて、1席離れたささらに見せてあげた。間に挟まれたルルは両サイドからもちゃもちゃされて、ニコニコである。
「富士山だ!」
ずっとハイテンションを維持していると、誰かが言った。
「まあ、富士山ですわ!」
「フニャルーとはまた違った良い感じさがあるでゴザルな」
「ニャウ。おっきなかき氷みたいデス!」
命子たちの席でもすぐにキャッキャが始まるが、ヒナタはちょっと冷めていた。
「いや、お前ら、こっちの方へダンジョン遠征に来るたびに見てるじゃん」
「それ言っちゃおしめぇだよ、ヒナタちゃん!」
昨今の女子高生はダンジョン遠征で月に何度も旅行する子が割といる。そのため、電車の中から見られる富士山の絶景は、目新しいものではなかった。だが、修学旅行で見るのは別腹なのだ!
「紫蓮ちゃんとイヨちゃんに送ろ」
命子はスマホを取り出し、もたもたしながらカメラを起動して、富士山をパシャ。
『命子:富士山の前を通過中! 続報を待て!』
『紫蓮:しょっちゅう見てる光景だがな』
『命子:それ言っちゃおしめぇだよ、紫蓮ちゃん!』
紫蓮とはそんな感じ。
1学年下の紫蓮は今日も普通に学校だ。おウチで登校の準備をしていた紫蓮は、ルインで画像を貰い、「むぅ」と羨ましげに唇を尖らせた。
『命子:富士山の前を通過中! お土産買っていくからね!』
『イヨ:【なのじゃのスタンプ】』
イヨはまだ文字を完全には覚えていない。読みは割とできるが、アウトプットが難しい様子で、スタンプで返信してくることが多かった。
イヨは紫蓮よりも老成しているので、命子たちがいなくて寂しいという感じではない。帰ってきたら土産話を聞かせてもらおうと、落ち着いて構えていた。
プイーンと移動すること、2時間30分ほど。
風女の生徒たちを乗せた新幹線は京都駅に着いた。
「はえー。ここ東京?」
まるで幼女みたいなことを言い始めた命子が目にしているのは、とても栄えた京都駅。
「命子さん」
ささらが命子の手を握り、ニコリとする。
「女子女子してんね!」
命子もささらの意図を知らず、ニコパ。
そんな命子の背後にルルとメリスが立ち、目を光らせる。
各クラスの担任が旗を持って生徒たちを誘導し始めた。
「うわ、風女だ!」
「うそ、命子ちゃん!?」
「ルルメリだ!」
いまや風女のちょっぴりギャルゲ風味な制服は日本一有名になっており、そんな一団が練り歩く様は京都の人たちを驚かす。
注目を集めていることを理解している風女の生徒たちは、胸を張って歩いた。しかし、唇をむにむにと動かしちゃうのは気持ち良くなっている証拠。
「わぁー……」
さっそく命子が何かを発見した。
それは、柱についているデジタルサイネージだ。
モミジがはらはらと舞う中で京都を代表する女性冒険者が居合の構えをしている姿が映されていた。モーショングラフィックスを使っており、構えはそのままでポニーテールや和服が風に揺れる仕様。画面越しでも張り詰めた静寂が伝わってくるような映像だ。
一枚のモミジが画面を隠して、そのモミジが一文字に斬られる。そうして、2つに分かれたモミジの裏側から現れたのは、華やかなダンジョン街の景観。そこに、『京都 冒険活劇』とカッコイイ行書体が出て、広告は終わった。
京都駅は広告が少なく、それだけにとても目立っていた。
それを見た命子はふらふらーと柱の方へと向かおうとする。
「命子さん、メッですわ!」
ささらが手を引っ張り、メリスがシュバッと行く手を阻む。
命子はハッとした。
「お、おのれぇ、京都めぇ……っ!」
都会はすぐに人を迷子にしようとする。
危ない危ないと命子は気を引き締め、すぐにまた「わぁ……」とした。今度は天井が気になる様子。滅茶苦茶高い天井だ。こんな駅、見たことない。
「これは先が思いやられるデスな」
「おちおち観光もできないでゴザル。まったくメーコは!」
「居なくなったら置いて行っちまおうぜ」
「命子ちゃん、迷子になったら配信でネタにするからね」
修学旅行のパーティメンバーからも口々に言われ、命子はぐぬぬ。
こうして、高校生最大のイベントである修学旅行が始まった。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




