13-26 VSネチュマス 1
本日もよろしくお願いします。
「それじゃあ、みんな、頑張ってね!」
「「「はい!」」」
元気いっぱいのお返事を聞いて、馬場は大きく頷いた。
メンバーは6人だし、なんだか女子バレーの監督になった気分。
刹那眼の調整も終わり、命子たちはいよいよD級ルートのボス・ネチュマスに挑もうとしていた。
「特殊なイベントはくるデスかね?」
「その質問に答えるとどっちに転んでもフラグになるんだよなー」
ルルの質問に、命子はオカルトチックなことを言った。
命子の考えとしては、ない。
フニャルーはもう命子たちに試練を出した。そんな何回もやってこないだろう。それなら、キスミア盆地に古くから住む生物たちに試練を与えるはずだ。世界は広く、別に命子たちだけがアホみたいに修行をしているわけではないのだし。
だが、『ない』と答えるとフラグになる。逆に『ある』と答えれば、やはりそれもフラグになる。これがフラグ建築のジレンマ……っ!
命子たちは雪の道を歩く。
その先は周りよりも少し地面が低くなったすり鉢状の窪地があった。
「ここもメモケットでゴザルよ」
メリスが教えてくれる。
「メモケットって一か所じゃないの?」
「ニャウ。開発とかで少なくなったけど、まだ5か所残っているでゴザルね」
メモケットはキスミア猫が子猫たちを入れて育てる子供を選別する場所の名称だ。要するに獅子の子落としである。
キスミア盆地は国としては狭いがネコの生息域としては十分に広いので、キスミア猫が使用する試練の場は割とたくさんあった。なお、現在残っている5か所は国の保護区である。
命子は子猫たちの試練場であるメモケットがボス戦の舞台となることに、作為的なものを感じた。ルルとメリスなんかは運命を感じているわけだが。
メモケットの中央には、超巨大ネズミとそれを守る12体のネズミ原人の雪像が鎮座していた。
巨大ネズミの体長は2mほどもあり、頭にはヨレヨレのツバ広帽子。手には角笛を持っており、コイツがネチュマスだ。
それを守るは150cm前後のネズミ原人たち。雪像なのでわかりにくいが、構成は盾、剣、槍、双剣、魔法ネズミだとわかる。
ボスフィールドに入る手前で命子たちは足を止めた。
それぞれの顔を見回し、そこにやる気が漲っていることを確認した命子は、ニッと笑う。
「みんな行こう!」
命子の言葉に5人は力強く頷き返す。
ボス戦が始まる。
命子たちがボスフィールドに入ると、ネチュマスたち13の雪像に紫色の靄が渦巻く。
難易度変化級ダンジョンのボスで見られるボス演出だ。
この演出は何らかの魔法原理が働いているのかもしれないが、今のところは不明。ひとつわかっていることは、この状況では魔法の構築ができないこと。紫の靄に絡めとられ、キャンセルされてしまうのだ。
ならば始まる前に陣形くらいは、と思うところだが、命子たちは塊のまま前進する。魔法をキャンセルするので、付与魔法も戦いの前にかけると消されてしまうのだ。
「「「ヂュゥウウウウウウウウウ!」」」
紫の靄を吸収した雪像が、その咆哮と共に内側から弾け飛ぶ。
「はぁーっ!」
「ミシャーッ!」
「むぅん!」
「フシャニャゴーッ!」
7匹から発せられた咆哮の衝撃を、前にいるささら、ルル、紫蓮、メリスが武器で切り裂く。
「イヨちゃん!」
「大丈夫なのじゃ!」
命子の呼びかけに、イヨが力強く返事をする。
いよいよボス戦が始まった。
その瞬間、ささらが全員に守護の魔法をかけた。
「ガードフォース!」
任意の魔力分シールドを付与でき、込めた魔力の分だけ被ダメージをカットする非常に便利な魔法だ。
これでささらの残り魔力は3分の1にまで減少したが、この魔法にはそれだけの価値がある。
「武器強化! 炎属性付与!」
次いで紫蓮が命子とささらと自分の武器に【付与術】をかける。
これは攻撃力アップの魔法だ。シンプルに強い。
あっという間にバフをかけると、即座に陣を構築する。
ささらと紫蓮は前方へ走り出し、ルルとメリスは左右斜め前方へ。命子とイヨは、それぞれルルとメリスを追うように走った。
「唸れ、雷の矢!」
イヨが走りながら雷弓を引き、先制攻撃の矢を放つ。
狙いは笛を吹こうとしているネチュマスだが、それを守る盾士のネズミ原人がジャンプをして盾で弾いた。
しかし、盾士ネズミもただでは済まない。
矢に帯びた雷が盾の表面で弾けたことで盾が砕け、盾士ネズミは数体のネズミ原人を巻き込みながら雪原を転がった。
イヨは薬指と小指に挟んでおいた矢を即座に弓に番え、ネズミ原人が吹き飛ばされた頃には射ていた。この2矢の戦果は芳しくないが、注目がどんどんイヨに集まっていく。
そんなイヨを脅威と思った魔法ネズミから氷の礫が飛んでくる。
『なんな~ん!』
それに対して、イザナミもまた氷の礫を飛ばして相殺する。
「でかしたのじゃ、イザナミ!」
『なん!』
そう言いながらもイヨは三度弓を引く。
その時、イヨとは反対方向へ向かった命子の魔法が敵陣に炸裂した。
「妾だけを相手にしていたらいかんのじゃぞ」
混乱する敵陣に向けて放たれた2本同時の曲撃ちが、魔法ネズミの頭、双剣ネズミの腿に突き刺さった。
「やっぱり矢は早いな!」
今まで戦いの火ぶたを切るのは命子だったが、魔法よりもイヨの早撃ちの方が少しばかり出が早かった。
しかし、そんなセリフを言っている間に魔導書が魔法の構築を終えた。
魔法ネズミから飛んでくる氷の礫を回避しながら、魔導書に命じる。
「行け!」
強化された火弾と土弾が敵グループを無差別に襲う。
敵は13匹いるのでどこへ撃っても当たるような状況だ。
「さぁて、ボスでは初めての接近戦だ!」
今までの命子は防御としての接近戦こそしてきたが、自分から攻めに行くような接近戦はしたことがなかったので、ワクワクしていた。
『プァアアアアアア!』
イヨと命子の先制攻撃に少し遅れて、ネチュマスが角笛を鳴らした。
ネチュマスは配下を召喚するタイプのボスだ。
角笛を吹くことで6匹のネズミ原人を呼び出し、およそ10秒間隔で繰り返される。
10秒というのは非常に短いように思えるが、旧時代の武術家でも10秒あれば3人を昏倒させることができる。ましてや新時代の達人たちにとって、10秒の斬り合いは結構な長さだった。
魔法陣から新たなネズミ原人が現れる。
現れる場所はネチュマスから最大で10m離れた場所まで。その出現場所は、ネチュマスが戦術的に決めて召喚していると考えられている。
最初のひと吹きで現れたのは、命子とイヨの周辺に3体ずつだった。遠距離を潰したいのだろう。
イヨの前に現れたのは、剣士ネズミ3体。
今のイヨには少しばかり危ない相手だ。
『なん!』
「ほっ!」
イザナミが足下の雪を隆起させ、その勢いを利用してイヨが高く飛ぶ。
イヨは空中でくるんと身をひるがえし、再び剣士ネズミを眼下に捉えた時にはすでに弓を引き絞っていた。
ところが、矢を放つ前に剣士ネズミの首が2つ飛んだ。
同じ方向へ走っていたルルがバックアタックを決めたのだ。
剣士ネズミはもう1体いるが、イヨは狙いをネチュマスに変えて矢を放つ。
周りのネズミがそれを阻むが、その分だけネチュマスの守備は弱っていく。
イヨが着地すると同時に、もう1体の剣士ネズミもルルに切り伏せられた。
「ありがとうなのじゃ!」
「いいってことデス!」
ルルはそう言うとネチュマスに向けて再び走り出す。
「舐められたもんだぜ!」
命子の下に召喚されたのは、剣士、槍士、盾士ネズミ。
普通なら怯みそうな相手に対して、命子は獰猛に歯列をギラつかせる——と、本人は想定しているが、獰猛さよりもスポーツ少女味が強い健全な笑顔。これが童顔の限界。
【覚醒:龍脈強化】が粉雪を舞い上がらせ、命子はノータイムで盾士ネズミに斬りかかった。
さすがに盾士だけあって命子の斬撃は捌かれるが、盾士のわき腹には剣が突き刺さっていた。魔導剣だ。
膝を突こうとする盾士だが、その追撃はまだ行なわない。
【龍眼】が尾を引く。
その分だけ移動した命子の体の横を槍が通過し、反撃の火弾が槍士ネズミに至近距離から直撃する。
「スラッシュソード!」
槍の回避で動かした足が着地すると同時に、腰をどっしりと沈め、【剣技:スラッシュソード】を力強く発動させる。
スラッシュソードは上段に振りかぶった剣士ネズミの胴を切り裂いた。
「土弾」
死角から射出された土弾は、わき腹に魔導剣を生やした盾士ネズミにトドメをさす。
まだ倒し切れていないのは剣士ネズミ。
さすがに命子のスラッシュソードはまだ必殺の域には達していない様子。しかし、3対1で勝てない相手に、1対1ではどうにもならない。
サーベルと魔導剣、そして2冊の魔導書を操る命子。
その新世代型武術により、3体のネズミ原人を瞬く間に血祭りにあげた。
「うぉおおおお!」
アタオカ系女子高生はこの戦果を誇ることもなく、高い声の雄たけびを上げて敵陣に向けて突っ走る。
「にゃーっ!」
命子なら大丈夫という信頼感のもと、メリスはそのまま敵本陣に突撃する。
魔法ネズミが射出する魔法を、前に前に移動しながら回避し、その速度はほとんど落ちない。
イヨと命子の先制攻撃により、敵本陣はすでにてんてこまい。
敵陣の左から攻め込んだメリスの役割は、魔法ネズミの攪乱と始末。その後は臨機応変に。
魔法ネズミの前に剣士ネズミが躍り出る。
剣士ネズミの横薙ぎ。その背後にいる魔法ネズミが杖に魔法を宿しながら、射線の確保のために横へ移動する。
なかなかのコンビネーションだったが、2体の目にメリスは映っていなかった。一瞬で姿を消したメリス、いったいどこへ?
「んにゃっ!」
その気勢と共に、氷の小太刀が生み出した青い剣閃が煌めき、魔法ネズミの首が落ちた。
猫に側面から侵入されて、ネズミさんたちのてんてこまいは加速する。
ささらと共に正面突撃をするのは紫蓮。
命子たちと出会うまではチームプレイにあまり縁のない一匹狼気質だった紫蓮なので、顔にこそ出さないが、こういったボス戦は脳汁がドバドバ出るほど熱くなれた。
イヨと命子が先制攻撃し、ネチュマスが笛を吹く。
その笛の音を聞く頃に、紫蓮とささらは敵本陣に接敵した。
前衛は剣士、槍士のネズミ原人が1体ずつ。他にも盾士ネズミや双剣ネズミなどがいるものの、イヨと命子の先制攻撃によって転倒してしまっている。特に、命子の先制攻撃は強力なのでそれを防いだ盾士は瀕死の状態だ。
ささらと少し距離を取った紫蓮は、勢いを緩めずに突撃する。
「火弾」
接敵間際に火弾を放つ。
火弾が狙うのは槍士ネズミ。その背後にはネチュマスがいるため、回避はできない。ならば槍士ネズミの取れる行動は2つしかない。肉壁になるか、槍で切り裂くか。
槍士ネズミが取ったのは槍で魔法を切り裂く行動だった。
槍士ネズミは穂先で見事に火弾を斬ってみせ、さらに紫蓮への迎撃のために槍を握る手に力を籠める。しかし、火弾を斬って生じた隙を紫蓮は見逃さない。鋭く踏み込み、薙刀・龍命雷が胴を切り払っていた。
「無駄」
槍士の犠牲でできた紫蓮の隙を狙い、剣士が切りかかる。
手の中で回転した龍命雷は攻から防へと一瞬で切り替わり、剣を柄で弾く。そうかと思えば、再び攻撃に転じ、剣士ネズミを切り裂いた。
「我らには最初から上級を出すべき」
紫蓮は眠たげな眼をしながら言う。
切れ長の目を光らせるのはささら。
ここまでの冒険でネズミ原人との戦闘回数が一番少ないにもかかわらず、その切込みに一切の迷いはない。
体の前面の大部分を狙ったラインが一瞬にして小さな点にまで収束する。刹那眼が見せている攻撃の気配だ。
ささらが半歩体をずらした瞬間、点が示していた場所に槍士の鋭い突きが通過した。通過する槍の側面を盾で叩き、槍士の次なる攻撃を遅らせる。
ささらは次に対処すべき攻撃を察知していた。
それは槍士からのものではなく、刹那眼には映らない右側面からの袈裟斬り。心眼による修行は刹那眼を得るだけでなく、もともと高かったささらの攻撃察知能力を格段に上げていた。
右手に持つサーベルを高速で振り上げると、ギンッと刃と刃がぶつかり合う。
剣士ネズミはそのまま押し切ろうと力を籠めるが、ささらは足を動かして力を受け流し、剣士の剣を雪原に振り下ろさせた。
相手の剣をなぞるように紫蓮の炎を宿したサーベルが走り、剣士の体が下段から上段に斬り上げられる。
ささらに殺到する攻撃の気配。
その1つが紫蓮によって潰され、さらに1つはメリスによって斬り伏せられた。
残るは今しがた後回しにした槍士からの横薙ぎの殴打。
回避するのは容易だが、ぶん回された槍は戦場を乱す。冷静に分析したささらは、盾で受け、接触と同時に跳ね上げる。
跳ね上げられた槍に引っ張られてがら空きとなった胴を、ささらはすれ違いながら一閃し、さらに敵陣深くに踏み込む。
左手には双剣ネズミ、右手には剣士ネズミ。
ささらは迷わず剣士ネズミの斬撃を盾で弾き、胸に刺突を入れる。
そんなささらの背後で、命子が4つの武器を駆使して双剣ネズミを撃破する。
背中合わせになった命子は、楽しげに笑った。
「やるね、ささら!」
「3日間もサボったんですもの。頑張りませんとね!」
そうやって背中合わせで残心するものの、すでにネズミ原人は全て倒されていた。
開戦から20秒と経たず、敵陣から一斉に光の粒が沸き上がる。
召喚速度を上回ったため、後に残るのはネチュマスのみ。
「うーん、強すぎる」
ボスフィールドの外から見学するのは馬場たち自衛官とキスミア軍人たち。命子たちから撮影を頼まれた人がハンドカメラを構える姿もある。
「しかも、武技や魔法もほとんど使っていませんからね」
「まあ、羊谷さんたちはペガサスナイトを単独撃破できますから、こうなるのも無理はありません」
それぞれが大技を持っているが、強い技はほぼ使っていない。強いて言うなら、ささらのガードフォースが強いが、それはあくまでも保険である。
「全員凄いですが、今日の笹笠さんのキレは凄まじいですね」
「お前ら、あの子に勝てるか?」
「いやぁ……」
隊長の質問に部隊員は若干の悔しさを滲ませながら答える。
当たり前のように多勢に飛び込み、何の問題もなく斬り、防ぎ、斬る。まるでどこからどんな攻撃が来るのかわかっているかのような動きだった。
それは自衛官やキスミア軍人でもできるが、もっと無駄な動きをしてしまうだろうと彼らは自己分析する。
「一度、目隠しをして訓練するか……」
隊長の呟きに自衛官たちは、自分たちもマンガのような修行をする領域に踏み込みつつあるのだと実感した。
そんな会話をしているうちに、ネチュマスは上級ネズミ原人を召喚する。ピンチになると6体だけ召喚されるエリートネズミたちだ。
第二ラウンドが始まった。
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