13-20 クウミの遺産
本日もよろしくお願いします。
古のニャルムット村に到着した命子たちは、この場所にある妖精店へチェックインしに向かった。
ここには前回の休憩所と同じように村が存在する。
全て竪穴式住居で、これらは無料で使うことができた。しかし、村はずれにある大木についたドアの先には妖精店も用意されていた。
ちなみに、魔鼠雪原の妖精店は各ルートに存在している。
「妖精店に泊まらずにクリアすると毛皮の服が貰えるんだっけ?」
「ニャウ。妖精店でも買えるやつデスけどね」
このダンジョンにはそんな隠し要素もあった。
しかし、命子たちは妖精店に泊まりたいので、この隠し要素はスルー。
妖精店の前には、雪ウサギならぬ雪ネコがちょこんと並んでいた。
それを可愛く思いつつ妖精店に入っていく。
「頼もうデース!」
「泊めてほしいでゴザル!」
いつもは命子が率先して入る妖精店だが、本日はルルやメリスのテンションの方が高い。
そんなルルたちを迎えたのは、白い猫型の妖精店主だった。
無限鳥居の猫妖精は商人っぽい雰囲気だったが、こちらは明らかに美女猫といった様相。
「あら、元気がいい子が来たニャン。いらっしゃいニャン」
命子は語尾の言い方がエロいなと思った。
「特別ルームに泊まりたいデス!」
魔鼠雪原の妖精店には雑魚寝部屋やパーティ部屋の他に特別ルームがあった。
「それだと1人800ギニー、6人で4800ギニーニャン。このお宿の使用制限は15時間ニャン。よろしくてニャン?」
「よろしくてデス!」
「その前にここまでのドロップ品を売るでゴザルよ。そこから6人分を払うでゴザル」
難易度変化級ダンジョンは妖精店で前後半が分かれているので、前半は妖精店で売って、後半の分を持ち帰るのがベターなのである。
というわけで、命子たちはここまでの戦利品を売り、そこから4800ギニーを払った。残ったギニーはみんなで山分け。
「あら、あなた。2回目のマナ進化をしたニャンね?」
「あ、はい。ついこの前にしました。あっ、妖精カードのスタンプですか?」
「そうニャン。2個目のスタンプで、あなたたちで言うところのE級とD級ダンジョンが好きな階層から始められるニャン。あとD級ダンジョンまでのボスを強化して挑むこともできるニャン。でも同じスタンプを持っている人とじゃなくちゃこの特典は使えないニャン」
「おー、ありがとうございます」
と命子はお礼を言うものの、今のところこの恩恵を使ったことはなかった。
第1のマナ進化でF級とG級が好きな階層から始められる特典が得られるが、微妙に使いづらいのだ。この恩恵を活用できるのは、自衛隊や軍人みたいな職の人が多い。
「そちらのあなたは心眼を使っているニャンね」
「え、あ、はい!」
「いまのあなたなら心眼を使いこなせるニャン。頑張るニャン」
「はい、頑張りますわ!」
命子たちは白猫妖精にお礼を言って、お部屋に向かった。
その際には紫蓮がしっかりとカタログを借りていく。
「今回はシッポ草のお部屋なんだね。紫蓮ちゃん、シッポ草ってなに?」
「シッポ草はキスミア盆地に生えている植物。茎の節の部分から枝葉とは別にピョンって尻尾みたいなヒゲを伸ばす」
「なんでも知ってんな! ルルたち知ってた?」
命子が問うと、ルルとメリスはサッと顔を逸らし、「知ってたデスけど」と言った。草なんてそんなものである。
宿の中は木造建築で、観葉植物が落ち着いた雰囲気を出していた。そんな観葉植物の中には様々な種類の猫の置物が置いてあった。
「わたくしも見たいですわー」
「ちゃんと動画撮っているのじゃ。あとで見せてあげるのじゃ」
「うふふ。ありがとうございます、イヨさん」
いつの間にかイヨが撮影係になっているが、スマホっ子のイヨに不満はない。
そして、やってきたのは特別ルーム。
命子はゴクリと喉を鳴らし、いざ御開帳。
すると、ドアの隙間からニュルンと白い猫が出てきて、命子の足に体をこすりつけた。
「ふぉおおお、ネコちゃん!」
そう、特別ルームは猫がいるのである!
通常のパーティ部屋は1人500ギニーだが、猫がいると800ギニーに跳ね上がる。猫のサービス料金は300ギニー!
命子はネコちゃんを捕獲して、撫でまわした。
「美人な子デスね」
「拙者も仲良くなるでゴザル! シャーラ、ほら、行くでゴザルよ」
「は、はい!」
メリスがささらの手を引っ張ってお部屋に突撃すると、そこには他にも5匹の猫が待っていた。
特別ルームのお客さんは、お宿に泊まっている間、この子たちと遊びたい放題なのである。
「おー、可愛いのじゃー」
「もふもふ」
「うぉおお、コイツめコイツめ!」
それぞれが猫をもふもふし始める。
ささらはお膝の上の猫をさわさわして、虚空に向かってデレデレした頬を晒した。
「みんな、そろそろ行くデス」
「はうわ!?」
時間が10分消し飛んでいた。
ダンジョンファイター羊谷命子、一生の不覚。
「なんという恐ろしい罠。おのれ地球さんめぇ!」
「メーコもまだまだでゴザルなー」
「ニャウ。猫耐性が低すぎるデス」
「そんなんじゃあキスミアでは生きていけないでゴザルよ」
一方のルルとメリスは、猫からの魅了攻撃に強耐性を持っていた。そうでなければ猫の国キスミアでは生きていけないから。この宿の特別ルームもそんなキスミア人が使うことを前提にされているのかもしれない。
どうやらここの猫たちは好き勝手やるようなので、しばしのお別れをして。
命子たちは妖精店を出て、集合場所に向かった。
「遅れてすみません」
「特別ルームはどうだった?」
「ヤバかったです。宿泊タイプの猫喫茶ですわ、あんなの」
「私も任務じゃなかったら泊まるんだけどなー」
「泊まればいいじゃないですか」
「自衛隊はそういうところ厳しいのよ。魔物の売却代金も納めないといけないし、買ったものは申告しなくちゃならないしね」
「公務員……」
その分、自衛隊はダンジョンや修行に関わる様々な便宜が図られている。人類最強が命子はもちろん一般人から出ない理由とは、つまりはこのサポート体制にある。尤も、サーベル老師の存在はそれを揺るがしているが。
「さて、それじゃあ行きましょうか」
これから命子たちは、このダンジョンに来た目的であるクウミの遺産の調査をしに行くのだ。
おさらいとなるが、約1800年前にクウミが遺産を埋めた場所に、現代から600年ほど前にペロニャが大レリーフを作ったため、遺産の所在が不明となってしまった。
しかし、魔鼠雪原は1300年前のキスミアをモデルにしていると考えられているため、もしかしたらクウミの遺産も残っているのではないかという話である。
「レリーフの場所は正確にわかるんですか?」
「ええ。アイルプ家がある場所には、かつて大岩があったっていう言い伝えがあるのよ。まずはそこを目指すわよ」
「わかりました」
一行はひとまずその大岩を目指して出発した。
「アイルプ家に大岩なんてあったっけ?」
「モモコが落ちた穴の近くにあったレリーフがその大岩の跡地でゴザル。その大岩の上でペロニャが見つかったと言われているでゴザルよ」
「あー、あそこか」
「ニャウ。あそこにペロニャとその夫が家を建てて、いまいたニャルムット村がキスミアで一番大きな村になっていくデス。魔鼠雪原のモデルが1300年前と言われているでゴザルから、ずっと未来の話でゴザルね」
とメリスに説明させたが、ルルよりもメリスの方がキスミアの歴史に詳しかった。
メリスの実家のメモケット家はアイルプ家の遠い分家なので、お祖母ちゃんの昔話でよく聞かされて育ったのだ。
妖精店があるニャルムット村は未来でペロニャの建てる家まで広がるわけで、そこまでの距離は1km程度とあまり離れていない。
とはいえ、この地は日暮れも早いので一行はバトルをこなしつつ早足で向かった。
「ささら、大丈夫?」
「はい、問題ありませんわ」
「無理そうなら言ってね。おんぶするから」
「え? あ、ありがとうございます。その時はお願いしますわ」
命子におんぶされる自分を想像して、ささらは思わず言葉が詰まってしまった。
やがて、雪の帽子を被った大岩が見えてきた。
ひと際大きな石が1つに、それよりも小さな石が周りにゴロゴロと。
さっそく大岩のそばに自衛官が機材をセットし始めた。
それを待っている間に、命子は大岩を見物。
「この下に魂魄の泉があるわけか」
「キスミア軍の調査では、さすがにダンジョンでは魂魄の泉は見つからなかったみたいだけどね。一応、命子ちゃんたちも視てくれる?」
「わかりました」
命子の呟きを拾った馬場が、そうお願いした。
命子や紫蓮は魔眼を発動し、イヨは何かを感じないか探る。ささらもせっかくなので心眼を発動した。
しかし、特に異常は見当たらない。
「妾は何も感じないのじゃ」
「私も他の場所と変わらないですね」
「我も」
「じゃあやっぱりこの場所には何かがあるわけじゃないのね」
「もしくは何か条件を満たせば良いのかもしれませんね。私も無限鳥居の裏ダンジョンに挑戦できる権利とか持っているわけですし」
その条件は不明だが、命子たちが見つけられるものとは限らない。ピラミッドの時にイヨも言っていたが、そういうのはその土地に縁が深い者がやがて発見していくことなのだろう。
「準備ができました」
隊員が石の上に機器をセットし終えた。
「じゃあ現地に向かいましょう」
「もうわかるんですか? どういう仕組みですか?」
「いまセットした機器が、大岩からの距離と方角を正確に示してくれるのよ」
「おーっ、便利!」
それから30分ほど移動して、目的地付近に到着した。
「この辺りのはずです」
子機を見つめて隊員がそう告げた。
辺りは特に何もない雪原で、遠くに林や森が見えるばかり。
「予想はしていたけど、ここから見つけるのは大変ね」
馬場はそう言いつつ、時計を見た。
妖精店に帰る時間を考慮しても、あと2時間くらいが限度か。
少し離れて雪原に立つ命子は、精神を集中した。
「宝箱さん……宝箱さん……応えて……」
緑色のオーラに粉雪が舞った。
「神秘的な俗物」
「実績ありですぅ!」
紫蓮からのからかいに言い返して、改めて集中した。
そんな命子の頭にイザナミが乗っかり、枝をフリフリ。
「宝箱ぉー、宝箱ぉー」
『なん~、なん~』
「妾も力を貸すのじゃ!」
イヨも加わり、命子と向き合ってスマホのストラップをフリフリした。
龍神の巫女が加わったことで謎電波の力が増したのか、イザナミが命子の頭からピュンッと飛び立った。
「あっちなのじゃ!」
「宝箱さん!」
イヨと命子もイザナミを追いかけて駆けだした。
イザナミが降り立ったのは30mほど離れた場所だった。
「ここ? 結構離れているわね」
「おそらく機器の設置位置がずれていた所為かと思います」
馬場の呟きに技術隊員が推測を口にした。
機器は現代のアイルプ家にあるレリーフの座標をベースにしている。そのレリーフはあくまで大岩が存在した名残なので、ずれが生じたのだろう。
そんな話はすでに命子の耳には届いておらず、犬のようにわしゃわしゃと雪をかいた。
「ひ、羊谷さん、ここは我々が」
自衛官がシャベルで掘り始めた。
元々穴掘りが得意な職種の人たちだが、レベルアップしたことでその速度は相当なものだ。あっという間に1mと少しほど雪を掻くと、やがて地面が見え始めた。
イザナミが地面の一か所に枝の先を向け、「なーん!」と勇ましく振り上げた。
「ひゃっふーい、ここほれなんなん!」
「命子ちゃん、マジで宝箱の場所がわかるようになったのね」
「はい、愛ですね!」
「執念だと思うけど」
作業しやすいように周りの雪も退けられ、地面をむき出しにする。そこからイザナミが示した地面を掘っていく。
1mほど掘ると、シャベルの先端が何か硬い物に当たった。
それから慎重に掘り進めると、それが木製の箱であることがわかった。箱はダンジョンの力を得ているのか木製なのにかなり硬いようだ。
自衛官によって箱は引き上げられ、雪原まで運ばれた。
「本当にあったわね」
「雪上から考えると深さ2m半と言ったところですか。これはノーヒントでは見つかりませんね」
馬場と隊員がそんな話をしているが、命子の瞳はすでに宝箱型だ。雪と土に埋もれていたこの子は、きっと特別な宝箱さんに違いないと。
「ありがとうなのじゃ!」
イヨは、掘り出してくれた自衛官たちにお礼を言った。
そんなイヨに馬場が言う。
「イヨ様、開く前にひとつよろしいでしょうか?」
「なんじゃ?」
「ここはダンジョンです。この中に入っている物はクウミ様が埋めた本物の贈り物ではないかもしれません」
「わかっておるよ。ダンジョンは同じような場所がいくつもある不思議な場所なのじゃろう? それだとクウミの贈り物がたくさんになっちゃうのじゃ」
「はい、その通りです。コピー……複製品ならばいいですが、別の物と置き換わっている可能性も十分に考えられます」
「馬場殿。地球さんや龍神様、猫神様は途方もなく偉大な存在なのじゃ。そんな偉大な存在たちが、見よ、この通り、己の作る小世界の中にクウミの足跡を残してくれたのじゃ。それは凄いことなのじゃ。ここに入っている物がなんであれ、偉大なる存在の記憶に残ったクウミを妾は誇りに思うのじゃ」
イヨが指さした箱は、クウミが埋めなければ存在しなかった物。さらに言えば、取るに足らない物ならこうしてダンジョンの一部として再現しなかっただろう。
クウミは人の歴史にこそ名を残していないが、地球さんの歴史の中ではたしかに特別な存在だったのだ。
「……仰る通りです。出過ぎた真似をしました」
「いいや、ありがとうなのじゃ」
イヨは気遣ってくれた馬場に感謝を述べ、宝箱に手をかけた。
「命子様、開けるかの?」
「ううん、それはイヨちゃんが開けるべきだよ」
さすがの命子もグッと我慢。
一行からの好感度は保たれた。
イヨが箱を開けた。
少し開けた隙間から、白い冷気が外界へ流れ出た。
イヨはちょっとびっくりしつつ、箱を全開にする。
すると中には青く輝く氷の玉がゴロゴロと入っていた。それらは絶えず白い冷気を吐き続けている。その傍らにはレシピのスクロールが一つ添えられている。
それ以外には、クウミが遺したメッセージなどはなかった。
「雪? いや、氷かの?」
「ただの氷ってことはなさそうだけど、紫蓮ちゃん、わかる?」
「レシピを見ればわかると思う。見せて」
イヨからレシピを受け取り、紫蓮が読んだ。
「『氷雪の心』という素材みたい。この氷を武具に宿すことでその武具が永続的に氷属性を宿すんだって。我なら宿せると思う」
「氷の武具! すげぇー!」
「命子様、これは良い物だったかの?」
「うん、すっごく!」
と命子はテンション高く言うが、内心ではきっとクウミの遺した物はこれではなかったのだろうなと思った。
その考えはイヨも同じだった。
「これはおそらくクウミの遺した物ではないのじゃ」
「イヨちゃん……うん、私もそうだと思う」
「しかし、命子様、これは良い物なのじゃろう?」
「うん、世界中の冒険者たちが欲しがるような物だよ」
「ならば、偉大なる存在は、クウミが遺した物はこれと同等の価値があったと判断してくれたのじゃろう。実に天晴なことなのじゃ!」
イヨはそう言って胸を張った。
そんなイヨを見て、命子もニコパと笑った。
その時、木製の宝箱が光の粒子となって周辺の雪上に散らばった。
光の粒子は雪ウサギならぬ雪ネコに姿を変え、雪原に掘った穴を囲むように円となっていた。
「なんじゃろう?」
「なんだろうね。普通の雪っぽいけど」
雪ネコはそれ以降に何か起こすわけでもなく、猫の形をしているだけの普通の雪になっていた。
命子が首を傾げながら紫蓮を見るが、紫蓮もわからず首を捻っている。
「円になって囲っているし目印でゴザルかね? でも今さらでゴザルけど」
メリスの疑問に紫蓮がハッとした。
「あっ、メリスさん。たぶんそれだ」
「どれでゴザル?」
「馬場さん。帰ったら、もう一度ここを掘るように報告した方がいいです。もしここに宝箱がなかったら、各サーバーに雪ネコが円を描いている場所がランダムに出現しているかもしれません。その中心に次回以降の隠し宝箱があるかもしれません」
「紫蓮ちゃん天才かよ」
紫蓮の推測に、命子も大人たちも感心した。
ちなみに、天空航路の隠し宝箱によって精霊たちは鳴き声をあげるようになった。
「たしかに、天空航路にあった隠し宝箱も開けたら別の場所に飛んでいったし、この雪ネコのサークルが次回以降の目印になるという示唆とも考えられるわね」
紫蓮の推測は正しく、この場所に宝箱が埋まっていることは二度となかった。しかし、これ以降、魔鼠雪原の各サーバーで雪ネコが円を作るスポットが現れるようになる。発見難易度S級の宝箱を発見したことで、妖精の輪ならぬ雪ネコの輪の封印が解かれたのだ。
こうして、クウミがキスミアに遺した宝探しは幕を閉じた。
あとは無事に帰還するのみ。
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