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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第13章

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13-9 メリス妹

本日もよろしくお願いします。

★記号説明:会話記号として『』はキスミア語とさせていただきます。くどくない程度に前後の文中でも言及します。


■■■■■■■■■■■■■


「おー、去年来た時はあんなのなかった!」


 空港からバスで首都のニャルムットへ向かう道すがら、命子は去年にはなかった風景を発見した。

 近くに座るアリアが、命子の言葉に嬉しげに答えた。


「キスミアは海がないれすから、あれは魔法場なのれすよ」


「あー、魔法場か。いいねー、風見町にもできないかな」


 魔法場は、基本的に海辺や荒野にしかない。銃の射撃場とは違い、魔法はコンクリートの壁でも破壊できてしまうため、何もない場所に作るのが一般的なのだ。


 そんなふうに変わっている部分もある一方、猫じゃらし畑は意地でも潰さないつもりなのかそのままだ。


「猫じゃらし畑はそのままなんだね」


「伝統的な農作物れすからね。たぶんキスミアで栽培しなくなったら絶滅しちゃうのれす」


 イネ科である猫じゃらしは、他の猫じゃらしとすぐに交配して野生に近づいてしまう。キスミアの猫じゃらしは地形に守られた種類なのだ。このため、キスミアの猫じゃらしを日本で育てるのは不可能と言われていた。他の国でも同じだ。


「それにネコパワーの源だって、今では他の国で爆売れなのれすよ」


「あー、日本のお米みたいな感じだね」


 いま、神獣のお膝元で作られている作物は世界中で爆売れしていた。

 風見町がある神奈川西部で作られているお米もブランド化しており、キスミアの猫じゃらしもそんな扱いのようだった。


 変わったものもあれば変わらないものもあるんだな、と命子がしみじみ思っているとバスは首都ニャルムットの郊外へと入っていった。


 そこには高さがまちまちの杭が無数に刺さっていた。

 斜め上の方向にすんごく変わっていた。


「なんだあれーっ!?」


「あれは超猫忍養成場なのれす」


 アリアが言うように、たしかにその杭の上では多くの人や猫たちがシュババと移動していた。中には杭の側面を蹴って移動している人や猫もいる。


「超猫忍養成場……!」


「ニャウ。今年からウニャリンピックが再開されるから、みんな気合が入っているのれす」


「ほう、ウニャリンピック。あの伝説の」


「メーコお姉様知っているのれすか?」


「うん、フォーチューブで観た」


「お姉様たちが滞在する期間に開催するれすから、ぜひ見ていってくださいなのれす。今年から新しい競技もいっぱい増えたんれすよ」


 ウニャリンピックは旧時代からキスミア国内で行なわれている猫のオリンピックだった。

 短距離走やアスレチック競技、羊の追い立てや救助競技など、他国が犬や馬で行なっていることを猫でやっているのである。

 昨年は色々忙しかったので行なわれなかったが、今年からは競技もパワーアップして再開するそうだ。


 やがて命子たちを乗せたバスは、ニャルムットへと入っていく。


「はえー、猫がいっぱいおるのじゃ」


 イヨが窓に顔を貼りつけて珍しげに言う。


 やはり目に入るのは猫だ。

 適当に視線を向ければ、超高確率で猫が視覚に入るくらいにはいる。


 そんな猫たちと共に生きているキスミア人は、ルルたちのように相変わらずシュッとした体形の人が多い。彼らの中にはマナ進化したのかネコミミを生やす人も見られた。


「むむむっ、壁を歩いとる!」


 キスミア猫たちは当たり前のように壁に足をつけて歩いていた。そうかと思えば、20mくらい離れた屋根から屋根へふわーと飛ぶ猫もいた。そんな光景がそこら中で繰り広げられている。


「もうこんなん遊園地じゃん!」


 いよいよ我慢できなくなり、命子はツッコンだ。

 その認識は正常であり、鉄道でやってきた観光客たちもとても楽しそうに猫たちを指さしていた。


 命子のツッコミが嬉しいのか、キスミア勢は良い気持ちになった。


「お姉ちゃん、あっちになんかある!」


「にゃんだあれーっ!」


 すると、今度は通りに謎のオブジェクトが現れた。


 キスミアは猫の他にも水車が有名な国なのだが、命子が注目した水車は水の代わりに光の粒を羽根に貯えて回っていた。


「アリアちゃん、あれなに!?」


「アリアたちもよくわからないのれす!」


「えーっ!」


「光の粒を出す魔法陣が見つかったのれすよ。それを水車の羽根に描いているのれす。ちなみに人力で動いているのれす!」


 アリアが言うように、水車の横で子供がハンドルを握ってグルグルと回して遊んでいた。


「えーっ、光関係ないじゃん!」


「ニャウ。ピカピカして綺麗だから、とりあえず車輪にしたのれす」


 どうやら完全にオブジェのようだ。

 と、そこで瞳をペカらせながら紫蓮が言った。


「あれはハンドルを回す人の魔力を消費させているみたい」


「ダンジョンのオモチャみたいな物?」


「うん。だけど、あれはレシピから作られていない完全オリジナルの魔法生産物」


 ダンジョンで見つかるレシピから、魔力を消費して動くオモチャが作られている。魔力が少ない子供がそれを使うと、魔力を鍛えられるのだ。光の車輪はキスミアが作ったオリジナルのものらしい。


「はえー、意味不明と思ったけど最新技術じゃん。まあ、やっぱり意味不明だけど」


「でも、キスミアらしいよ」


 萌々子はニコニコと肯定的だ。


 龍宮で教授が魔法陣を発見してからというもの、世界中でプロやアマの魔法陣研究家が現れた。世界中で予備知識なくゼロから未知の分野の研究を始めたのなら、普通に考えて人口が多い国ほど有利だ。あとは研究できる暇が国民にあるか。

 そんな中で人口の少ないキスミアは、魔法陣を一番発見している国であった。


「ペロニャの遺産か……」


 そう呟いた命子は、この原因をペロニャの遺産だと睨んでいた。

 というか、そう予想している人は多い。世の中のオカルト好きを舐めてはいけない。新時代になってから水を得た魚の如く、あれこれ考察しているのだ。




 地球上でトップレベルにファンタジーしている町をバスは進み、昨年も泊まったホテルへと到着した。

 ホテルの前には昨年の焼き写しのように、メイド服を着たネコミミ美女たちが待ち構えていた。


 そんな中には、ちびっこのメイドさんがおり、その足元にはキスミア猫がお座りしていた。


 ちびっこメイドは到着したバスの窓を、ぴょんぴょんと跳んで覗いている。

 命子はそのちびっこに見覚えがあった。


「メリスの妹ちゃんじゃん!」


「にゃっ、今年はメーニャデス! ニルナもいるデスね」


 メリスは命子と同じくお姉ちゃんである。

 命子たちは、メリスのスマホで何度も写真を見たのでメーニャのことを知っていた。今年、7歳になった銀髪の幼女である。ニルナはメリスの実家の猫のことだ。


「ちょっと先に行くでゴザルよ」


 メリスは嬉しそうにそう言って、バスの外へと出ていった。

 すると、メーニャがすぐにメリスの腰にしがみつき、みゃーと泣き始めた。ニルナもメリスの足に体をこすりつけて挨拶している。


「か、可愛い……! め、命子さん、いきますわよ!」


 ささらがやる気だ。

 命子も出遅れてなるものかと、ささらのあとに続いた。


 命子たちがぞろぞろとバスから降りると、メーニャはハッとした様子で一行を見つめた。

 そして、「にゃごーっ」と可愛い声で威嚇すると、ささらに向かって突進した。


「お、お姉ちゃっのカチャキィ!」


「え、えーっ! な、なんでですのーっ!?」


 なぜかささらはポカポカと殴られた。


 その様子を見て、命子は昨年のことを思い出した。

 メリスとも同じようなことをしていたなと。


 命子たちは幼女に絡まれて困るささらを見て、ドッと笑う。


「ちょ、ちょっと笑ってないで助けてくださいまし!」


 ポカポカポヨンポヨンと叩かれるささらを見かねて、命子がやれやれとした。


「どぉれ、ここはお姉ちゃん属性ってやつをみせてやるかな。ぎゅおん、ぶわりっ!」


 命子はお姉ちゃんヂカラの封印の解放音を口にしながら、メーニャに近寄った。

 すると、メーニャはささらから標的を変えて、命子にポカポカしてきた。


「ふわぁあああん、お姉ちゃっのカテチィ!」


「なにぃーっ!」


 出オチした命子を見て、ルルたちや萌々子は指をさして最高に楽しそうに笑った。


「おのれぇ!」


 命子は幼女連撃から抜け出すと、懐から出したコーラグミをバッと突き出した。


「に、日本で一番美味しいお菓子でございます!」


 まるで、この紋所が目に入らぬかと言わんばかり。


「ポークジャーキーの方が美味しい」


「サケトバの方が美味しいのじゃ」


「ニャムチュッチュの方が美味しいデス」


「カニの方が美味しいですわ」


「だまらっしゃい! どれ一つとしてお菓子じゃないじゃん!」


 メーニャは両手を「にゃごー」と上げて威嚇するが、突きつけられたコーラグミから目が離せない。所詮は幼女、お菓子耐性はゼロだ。グミにありがちなご機嫌なパッケージともなれば8倍特効である。


 命子は刺激しないようにゆっくりとした動きでコーラグミを袋ごとメリスに渡した。


『ほら、メーニャ。日本のお菓子だよ。メーコがくれるって』


 メリスは日本で一番美味しいお菓子の扱いとは思えないほどあっさりと封を切り、キスミア語でメーニャを呼ぶ。


「にゃごー……」


 メーニャは両手を上げながら、命子を警戒しつつメリスの下へ向かった。


 そして、お姉ちゃんの手でコーラグミを口に入れてもらう。

 すると、威嚇のために上げていた両手がほっぺに添えられて、ほわーとした顔になった。


『美味しい!』


 こんな美味しいお菓子をくれるお姉ちゃんはやっぱり最高だぜ!

 メーニャはお姉ちゃんに抱き着いた。手柄を奪われた形だ。


「ふ、ふぅ……さすがコーラグミ。泣く子も笑う神の食べ物なりにけり」


「ポークジャーキーでもできる」


「紫蓮ちゃん、ポークジャーキーは吐く子をさらに吐かせる酒飲みの好物だよ?」


「そういう用途も否定できない」


 コーラグミに助けてもらった命子は、メリスに抱っこしてもらい、なにやらキスミア語で一生懸命お話ししているメーニャを眺める。


「それで、ルル、『カテキ』ってなに?」


「たぶん、『カタキ』デスね。使い方を間違えて覚えてるデス」


「お姉さんを取られちゃったと思っているんですのね? はわー、可愛いですわ」


 ささらの言葉に、命子と紫蓮は顔を見合わせた。

 去年のメリスも同じような理由でささらに突っかかったし、メモケット家はそういう性格なのだろうかと。


 そんな事件がありつつ、命子たちはネコミミメイドさんたちの歓迎を受けて、ホテルのロビーへと入っていった。


 支配人さんとご挨拶をした命子たちは、チェックインの手続きを馬場たちに任せて、ソファー席でくつろいだ。


 すぐにカートにお茶のセットを乗せたメイドさんがやってきて、ドリンクのサービスをしてもらう。いろいろあるようだが、せっかくなのでキスミアらしい飲み物を頼んだ。


「猫じゃらし茶か。去年も飲んだっけ」


 キスミアでは猫じゃらしでお茶を作っているのだ。


「ホットの麦茶とあまり変わらないデスけどね」


 身も蓋もないことをルルが言うが、実際にキスミアの猫じゃらし茶はホットの麦茶に味がよく似ていた。焙煎の方法で薄いブラックコーヒーのような味にもなり、キスミア通はどちらが好きかでよく揉める。


 高そうなティーカップで猫じゃらし茶を一服しながら、命子が問うた。


「メリスは泊まるところはどうするの? やっぱり実家?」


「特に決めてないでゴザルけど、大体は自分の家で寝ると思うでゴザルよ。メーニャも寂しがるでゴザルし」


 そう答えるメリスのお膝にはメーニャが座り、ニコニコしていた。日本語はあまり話せないようだが、自分の名前が出ると頭の上の姉の顔を振り返って、ニコパと笑う。


「それがいいだろうね。まあ何かする時は連絡するよ」


「ニャウ。それでキョージュ殿、これからの予定はどうなってるでゴザルか?」


 同席する教授にメリスが問う。

 教授はフーフーしていた猫じゃらし茶を諦めて、答えた。


「ひとまず明日はアリア君の凱旋パレードだね」


 教授が言うと、アリアは恥ずかしそうにもじもじした。


「凱旋パレードですか?」


「ああ。キスミアの巫女が天空航路のクリアメンバーだったわけだからね。国民としては嬉しいことなのさ」


「たしかにそっか」


「でも、アリアは活躍してないんれすけどね」


 アリアは申し訳なさそうに言う。

 そんなアリアに命子が言う。


「アリアちゃん、そんなことはないよ。精霊の力を借りたり、船内で手伝ったり、自分にできることをしたんだからそれもまた活躍だよ。実際にウラノスや雷神の船員さんの中には1体も魔物を倒していない人はいると思うけど、戦わなかったからといってアリアちゃんがその人の評価を下げることはないでしょ?」


「それはもちろんなのれす」


「みんなから見たら、アリアちゃんやモモちゃんだって同じだよ。むしろ泣き言を言わずに頑張っていたから、凄いって思っているはずだよ」


 命子の言葉に、ささらたちもにこやかに頷いた。


「えへへ、そうれすかね?」


 命子から褒められて、アリアはテレテレしながら隣の萌々子にうにゃうにゃとした。


「ちなみにですが、そのパレードはアリアさんだけなのでしょうか?」


 ささらが恐る恐る教授に尋ねた。


「いや、できれば君たちと親御さん、それに自衛隊にも参加してもらいたいというのがキスミアからの意向だ。君たちは両国の発展のための特殊な任務を受けているし、昨年に『両耳猫の感謝』を国中から受けているからね。自衛隊はアリア君を無事に届けたからだろう」


 両耳猫の感謝とは、キスミアでの最上級の感謝の作法である。

 これを受けた人は、与えた人から生涯絶対に裏切られないと言われるほど重い作法と言われている。まあ、凶悪犯罪者になったりしたら普通に諭されて通報されると思うが。


「そ、そうですの……」


「まあオープンカーに乗って、手を振っていればいいさ。急なことだし、完璧は求められていない。私も参加するが、過度なパフォーマンスをすることはないだろう」


 自分たちもパレードに出ると知り、ささらはずーんとした。

 命子はそんなささらの肩をポンと叩き、ニパッと笑った。自分はそういうイベントが全然苦にならないので、余裕の微笑みである。


 話を聞いていた両親たちもプレッシャーで胃が痛そう。


「パレードのあとに、そのままアイルプ家に寄ることになるだろう。そこでキスミアの魂魄の泉に入ると思うが……申し訳ない、このあたりの段取りはまだ不明だ。今日の夕食が終わるまでには決まっていると思う。まあ、明日中に全部を終わらせるようなわけではないことだけは確かだね」


「じゃあメリスは、今日はホテルに泊まった方がいい感じですか?」


「いや、迎えを出すから実家でも平気だよ。パレードは11時からだから、時間的な余裕は十分にある」


 命子たちは、メリスに甘えまくるメーニャを見て、引き離すのは可哀そうだなと思うのだった。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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[気になる点] 魔法場は魔法の有効射程からすれば学校の校庭より広めの場所、例えばバッティングセンターやゴルフ練習場と同じか倍程度があればいいのでは? 風見女学園やDRAGON東京で散々ぶっぱなして十分…
[良い点] ほんと遊園地みたいな国になってるw [一言] 更新ありがとうございます!
[気になる点] 凶悪犯罪者になると、この世界では諭される以前に炭になりそうなんですがw
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