13-4 ミイラの謎
本日もよろしくお願いします。
もしかしたらご存じない方もいるかもしれませんが、なんとこの物語はフィクションです!
なので、この回もフィクションなのです!
記者会見の高みの見物を終えた命子たちは、馬場や教授を労わってからカイロの観光に出かけた。
これは元々予定されていたことで、記者会見がなければ観光を午前中にして午後に出発という予定だった。記者会見が入ったので、実際の出発は明日の朝一になる。
さて、そんなわけでやってきたのはエジャト大博物館である。
「めっちゃ近代的!」
想像していたよりも近代的な建物を前にして、命子はほえーとした。
それもそのはず。命子たちが訪れたのは昔からあるエジャト考古学博物館ではなく、地球さんがレベルアップする少し前にできたばかりの大博物館なのだ。
ほえーとする命子の手がガシッと掴まれる。
そのままはえーと横を見ると、ささらがニコリと微笑んだ。
さらにもう片方の手を紫蓮が握る。
「お主らは仲良しじゃの?」
そんな3人の様子に、イヨが微笑まし気に言った。
「まあね!」
命子はニコパと笑った。
しかし、これはそんな女子女子した理由ではないのだ。
「イヨさん、違う。我らは羊谷命子が迷子にならないようにしている」
「命子さんはすぐに迷子になっちゃうんですのよ。広い場所だと大体なりますわ」
「おいおいおい、舐められたもんだぜ!」
そう、迷子防止のために手を繋いでいるのである。
命子が異国の地で迷子とか馬場やエジャト大使館の人のクビが飛びかねないので、紫蓮とささらは命子をフラフラさせないようにしているのだ。
そんな命子たち一行のあとには、世界中の偉い学者さんたちがついてきていた。見る人が見れば驚くような顔ぶれだ。
命子はこういうツアーを知っていた。トヨの墳墓を発見した際のツアーだ。きっと新発見を期待されているに違いない!
「よーし、頑張るぞー!」
期待されちゃあ、やるしかない。
命子は手を繋がれながらふんすとした。
そんな命子の肩をポンと叩き、馬場が言う。
「そこまで頑張らなくていいわ。マジで」
「はーい!」
命子はニコパと笑った。信用できない笑顔である。
しかし、馬場の気持ちに反してエジャト政府は期待していた。だから、この特別ツアーをお願いしたのだ。
「ここは危険かも……っ!」
入り口を入った萌々子は、非常に高い天井を見てゾクッとした。姉を何度も迷子にしてきた有明のでっかい建物と雰囲気が似ているのだ。
とりあえず、自分も迷子になったらヤバいので、アリアと手を繋いでおいた。アリアはニッコニコだ。
建物は近年にできたばかりなのでとても新しく、建築様式もモダン。
人の流れが計算された作りなので、入口を入ってすぐに古代遺物がズドンと出迎えることはない。砂が風に運ばれる土地というのも関係しているかもしれない。
「あっ、お土産屋さんだ! ひゃっふーむむっ!」
「行かせぬ」「ダメですわよ」
命子に自由はない。
「えー、改めまして注意点を」
エントランスで馬場が一行に説明する。
「何かを発見しても、起動させようとしたりしないこと! 私や礼子、学芸員さんに知らせてください。絶対です。あと、精霊を好き勝手させないようにしてください。精霊はガラスケースを透過してしまうのでこれも守ってください」
「光子、絶対に私から離れちゃダメだからね」
『やっ』
「あと、イヨ様、ここでは撮影が禁止されています」
「な、なんじゃってぇ!」
『なん~!』
スマホっ子のイヨとイザナミは愕然とした。
というわけで、見学開始。
カイロにはエジャト考古学博物館という非常に有名な建物がある。古代エジャト文明の発掘品が展示される博物館で、ピラミッドをモチーフにした冒険映画なら、秘宝の鍵が盗まれる役割として高確率で出てくる建物である。
考古学博物館は有名だが、実のところ、そこに展示されているのは収蔵されているものの3分の1でしかなかった。秘蔵しているわけではなく、展示スペースがなかったのだ。100年以上前の建物なので無理はない。
そこでエジャト政府はもっと大きな博物館を建てた。それがこのエジャト大博物館というわけである。
ガイドさんの案内でお土産屋さんや飲食スペースをスルーして、展示室に移動。
さすがに3人で手を繋いでいては通行の邪魔になるので、紫蓮とささらをパージし、命子は展示品を興味深そうに見つめた。【龍眼】で。シークレットイベントを見逃さない貪欲なプレイスタイルだ。
とはいえ、それは命子だけのことではない。
命子一行や教授だけでなく、マナ進化している学者さんも魔眼を光らせて展示物を見ている。ただ、彼らはシークレットイベントを探しているわけではなく、古代のロマンを紐解きたいから魔眼を光らせているのである。
「学者さんも魔眼を持ってるし、もう調べ尽くしちゃってるんじゃないですか?」
命子は教授に問うた。
教授も【神秘眼】を光らせながら答える。
「いや、そんなことはないよ。我々はまだ君らよりも深くは見えないからね」
考古学者はアウトドアな人が多いが、武闘派というわけではない。彼らの多くは、教授と同様に神秘のイベントに関わってマナ進化した人たちなのだ。
命子はそれを聞いて俄然やる気が出た。やめろ。
「ふむふむ、なるほどなるほど」
石造りのちっちゃなピラミッドを眺めて、命子はふむふむとした。その周りには命子でも抱えられそうな石像がたくさん展示されていた。もちろん触ることはできず、ガラスケースの中に収められている。
命子たちの周りでは、オジサン考古学者たちがうずうずしていた。下心とかではなく、単なる説明したいオジサンである。
「はー、すごいものじゃな。妾がいたヤマトよりも古い物なのじゃろ?」
イヨが教授に問うた。
「君がいたヤマトよりもずっと古いね。諸説あるが、いまから5000年くらい昔に王朝が誕生し、2000年くらい前に滅びた文明だよ」
「はえー。3000年も続いたのかえ? 凄いのじゃ。なっ、イザナミ」
イヨが言うと、イザナミは『なん~』としみじみ頷いた。
「あっ、あれ見たことある!」
しばらく進むと、命子たちも見たことのある石板が展示されていた。
「ロゼッタストーン!」
命子と紫蓮は気合を入れてペカーッと魔眼を光らせた。
「ほう、命子君も知っているか」
「アニメで出てきました。これを解読するとピラミッドからレーザーが出ます」
命子は真剣な顔で言うが、紫蓮は眠たげな眼だ。ロゼッタストーンの真実をすでに知っている様子。
「はっはっはっ、それはフィクションだな。ロゼッタストーンはプトレマイオス5世というギリシア系のファラオの徳を称える内容なんだよ。エジャト人の土地なのにギリシア系の王様が統治したら反感を買いそうなのは想像がつくだろう? そのために3つの文字で碑文を残して、民に布告したと考えられている。それに、クフ王のピラミッドと同年代に作られたのなら話はわかるが、それよりも2300年ほど後に作られたものだし、レーザーを出すような秘密はないだろうね」
「ふぇえええ、そんな……12歳の頃から信じてたのに」
「まあフィクションとはそんなものさ。見たまえ。上がヒエログリフという神官が使った文字、中段にデモティックという古代エジャトの民衆が使った文字、下段にギリシア文字という異国の文字。これは文字こそ違うが全て同じことが書いてあるんだ。古代エジャトが滅んだあとの人たちは古代エジャトの文字が読めなかったんだ。しかし、このロゼッタストーンが発見されたことで飛躍的に解読が進んだわけだよ」
「なるほど、だからみんなにチヤホヤされるわけですか」
「そうなるね。このロゼッタストーンはエギリスにあったんだが、地球さんがレベルアップしたことで、かつてヨーロッパが略奪した国の文化遺産の返還が世界規模で行なわれて、ここに戻ってきたわけだね」
「あ、それニュースで見た! 長い旅をして戻ってきたんですね」
「そうだね。エジャト政府が君たちに見てほしい物も、そんな長い旅をした物の中にある。ただ、国家が保有していた物ではないけれどね」
「どこにあるんですか?」
「展示物としてはまだ飾られていない。その時になったらまた説明しよう」
命子はワクワクしながら順路を巡った。
しばらくすると、ミイラの展示場に入った。
そこには古代エジャト文明の独特の棺が並んで展示され、その中身は最新の3D技術を用いて映像で展示されていた。ガラスケースの中であろうと容易に外気には触れさせられないのだろう。あとは地球さんがレベルアップしたことで、死者を見世物にしていいか改めて議論されたという経緯もある。
場の空気がそうさせるのか、命子たちは展示品としては見られなかった。葬儀の際に献花に向かうような気持ちで棺の横に立つ。死者に詫びつつ、ひっそりと瞳をペカらせる。
「これはなにか……」
イヨが眉間にしわを寄せて、棺や足元、壁の向こうを透かしたように見つめる。
「イヨちゃん、なにかあったの?」
「いや、なんじゃろう。よくわからんが不思議な……あ、これ、イザナミ!」
イヨの制止を聞かず、イザナミがひとつのガラスケースの上に降り立った。
その下には、人型を模したひとつの木棺があった。黄金で作られたツタンカーメンの棺のように有名なものではない。
『や……』『むー……』『にゃん』
他の精霊たちも飼い主の言うことを聞かずに、イザナミと共にガラスケースの上に降り立った。
教授はこの場の責任者に視線を向けると、責任者はそのままにさせてみようと頷いた。
「萌々子君、アリア君、少し様子を見たいんだが、いいかい?」
「え。私はいいですけど、壊しちゃうかもしれませんよ」
その言葉に責任者である館長は冷や汗をかくが、好奇心が勝ってこれを華麗にスルー。博物館の館長なんてやっている人物なので、古代文明への好奇心は人一倍あるのだ。
『なん~、なん~……』
その場にいる全員が見守る中、イザナミは悲しそうに枝をフリフリする。
『やー……』『むー……』『みゃー……』
同じく、光子もアイもアリスもどこか悲しげにピカピカと光った。
「教授、古代エジャト文明は精霊と関わりがあるんでしょうか?」
「わからない。イザナミ君以外の子たちにとって、人の死体というのはあまり見たことのないもののはずだ。もしかしたら、それがあの子たちに感傷を呼んでいるだけかもしれない」
「あー、たしかにその可能性もありますね」
しばらくすると、イザナミたちはそれぞれの飼い主の下へ戻り、顔にぺたりとくっついて甘えた。
「イザナミよ。どうしたのじゃ?」
『なん~、なんなん……』
「なんと。そうか、この場に宿っているのはそういう想いか……妾たちにはなかった考え方じゃの」
イザナミと会話するイヨが何かを納得したように頷いた。
一方の萌々子、教授、アリアは精霊たちから同じ報告を聞いて、驚愕した。
精霊の言葉がわからない命子たちは、好奇心いっぱいの顔で話を聞きたそうにしている。それ以上に、古代エジャト文明を研究してきた学者たちの目がヤバい。
「れ、礼子、説明してちょうだい」
学者たちの目が怖いので、馬場が答えを急がせた。
「あ、ああ。アイが言うには、その木棺に入っているのは、精霊になりたかった人なのだそうだ」
「光子も同じです」
「アリスもそう言っているのれす」
「うむ。イザナミも同じなのじゃ」
4人の言葉に、命子たちはおーっと目をキラキラさせた。
古代エジャト人は精霊を知っていたのか、と。
考古学者たちも気持ちは同じだが、リアクションが異なった。
バーとかカーとかアクといった単語が頻繁に叫ばれ、大騒ぎである。これを止める役目の館長でさえも大興奮で、学者に混じって騒いでいた。
「ふむふむ、バーとカーか」
「紫蓮ちゃん、知ってるのか!?」
ススッと隣に来て呟く紫蓮に、命子はむむむっとした。
「人間の霊魂の構成要素のこと。バーは魂、カーは精神みたいな感じ。他にもある」
「マジでなんでも知ってんな!」
「知っている時にでしゃばるだけ」
それが紫蓮のスタンス。命子の下にススッと寄って呟いたのもアピールプレイなのである。
「でも、そうなるとヒエログリフの翻訳がまったく変わる可能性がある。これまで定説だった古代エジャトの死生観が全然違うものになるわけだし」
「そうなの?」
「うむ。ミイラは来世で生き返るために肉体が必要だから作られたと考えられている。もし精霊になりたいという想いで古代エジャト人がミイラを作っていたのなら、ヒエログリフの翻訳がおかしかったことになる」
「翻訳を間違えていたなんてことってあるの?」
「自分たちの概念にまったく存在しないものは、たぶんこういうことなのだろうと予想し、検証されて翻訳される。古代エジャト人は自分たちのことを文章として多く語らない民族だったと言われているから、精霊のような特殊な存在だと、なおさら翻訳した人は理解できなかった可能性もある」
「つまり精霊って単語が全部違うものに置き換わるってこと?」
「うむ。ちなみに精霊は日本での名称だから、古代エジャト人は違う感じで呼んでいたはず」
「ふーむ……神様とか?」
「それはたぶんないと思う。もし精霊を神様という単語に誤訳していたら、激震どころの騒ぎじゃない」
「でも、精霊なら魔法を使えるから神様みたいに崇拝されてもおかしくないよ。『このみっちゃんは、かつて天地創造に携わったアイちゃんのラクガキから生まれ落ちた神様なので凄い子なんです』みたいなストーリーとか考えられちゃったりして。精霊は姿も変えられるし、アヌビスとかにもなれちゃうし」
「ぴゃ、羊谷命子のくせに口答え」
「これは命子さんの技ありですわ」
そんなことを命子たちが話していると、教授がオジサンたちに詰め寄られ、早く次に行こうとせっつかれた。教授はオジサンに大人気なのである。
それからも展示品を見て回り、精霊たちは猫のミイラに先ほどと同じように反応した。
「にゃー。古代エジャト人は名誉キスミア人デス」
「ニャウ。猫を盾にされて負けただけのことはあるでゴザルな」
「猫と共に生きる者の鑑なのれす」
素朴な雰囲気のネコ型の木棺に納まった猫のミイラの前で、アリアが祈祷を行ない、キスミア勢は黙祷した。
そんなイベントが起こるが、命子は特になにも発見できず。
「オモイカネとかないね」
命子は実のところ、人に想いを伝えるマナの秘術『オモイカネ』を期待していた。あとは空間属性の痕跡とか。
「オモイカネは弱いからの。少し触ったくらいでは消えたりせんが、長く残したいのならできる限りその場から動かさず、触ったりもしない方が良いのじゃ」
「ぬぅ、ピラミッドレーザーの発動方法は残されてないか」
しつこい。
命子は多少ガッカリするが、気分を観光モードに切り替えて楽しんだ。
しばらく進むと、オジサンたちは目からレーザーが出そうなほど期待に溢れた表情になった。早く行こうよと飼い主を引っ張る犬のよう。どうやら、次の展示場は特別なもののようだ。
「トゥト・アンク・アメン」
次に何があるのかを案内板で見て、紫蓮が言う。命子は同じ物を見てみるが、わからぬ。ぐぬぬ。
「紫蓮ちゃんがまた賢いふりしてる」
「ふりじゃない。我は賢い」
「ぬぅ。じゃあそれどういう意味さ」
「この先にツタンカーメンの特別展示室がある」
「それ知ってる! ツタンカーメンはトゥトなんとかさんが本名なの?」
「むしろ、ツタンカーメンと呼ぶのは日本くらいだったはず」
「ハッ、もしかして日本人特有のいつものアレ?」
「うむ、ミシンとかと同じ」
「そんな日本人が大好きです!」
命子は開き直った。
オジサン教授たちにせっつかれて、一行はツタンカーメンの展示室に入った。
壁から床天井まで古代の壁画のモチーフを刻まれ、見るからに特別なフロアであり、そこには命子ですら知っている黄金のマスクが展示されていた。
「おー、すっげぇ……」
「はー、本当に凄いですわね」
並んで見上げる命子とささらは、黄金のマスクによって情操教育された。
「メーコ、ウチのパパたちがエッチなことしてるデス!」
「そんなヤバイことってある!?」
ルルからの報告に困惑しながらそちらを見ると、そこには壁に開いた小さな穴を覗いて「おーっ!」などと歓声をあげる命子パパの姿があった。
「なにそれなにそれぇ!」
楽しいことが大好きな命子は一瞬で釣られた。
すると、命子パパが小さな穴を指さして言った。
「命子も見てごらん、凄いよ」
命子はワクワクしながら覗いてみた。
すると、そこには金銀財宝が煌めく小部屋があった。
「おーっ!」
「命子さん、なんですのなんですの!?」
ささらにも見せてあげると、ささらも「まあっ!」と歓声を上げる。
命子は「すごいでしょう!」と自分の手柄のようにドヤ顔をした。
「それは王家の墓でツタンカーメンの墓室が発見された時の再現。発見者はそうやって小さな穴からその光景を見た」
紫蓮が解説してくれた。
こいつマジでなんでも知ってんな、と命子は感心した。
さすがにメインの展示物だけあって、特別フロアは広い。命子たちは黄金の品々に彩られた空間を見て回った。
「めっちゃ多くない?」
「ツタンカーメンの墓室はほぼ盗掘されなかったから、他の王よりも多くの副葬品や宝物が残っていた」
「はー、そうなんだ。じゃあ盗掘されなかったら他のファラオもこんだけ持ってたのかな」
「ツタンカーメンは特殊なファラオと言われているから、普通のファラオはもっと持っていた可能性もある」
「盗掘許すまじ」
教授がオジサンたちに捕まっているので、紫蓮は大活躍である。
ツタンカーメンが安置されている棺まで来ると、やはり精霊たちはその棺を悲しそうに見つめた。
それを見てまたどよめく学者たちは、同行しているアリアパパや日本の大使になにやら必死にお願いしている。
精霊の貸し出しについてである。この4体だけでなく、他の精霊も同じように感じるのか。そういう検証を行ないたいのだろう。
一方の命子たちは特に何かを見つけることはなかった。
ツタンカーメンの墓はほとんど盗掘されなかった場所なので、魔術的な宝物が残っていても不思議ではないとエジャト政府や学者は考えて、今日の観光ツアーをお願いしていたのだが、活躍したのは精霊たちであった。
そうやって博物館を巡り、いよいよ命子たちは非展示物の下へ向かうのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




