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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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12-19裏 蒼穹の風女 中編

本日もよろしくお願いします。

思いのほか長くなっちゃったテヘペロス!


■明日の夜に後編を投稿します。



 5月の半ばになると、工作部にそれが届いた。

 工作部のガレージの作業台に置かれたアルミケースを見て、1年生たちがゴクリと喉を鳴らす。


「先輩、これが?」


「ええ、浮遊石よ。とりあえず、モコちゃんは写真撮影、えーちゃんは動画撮影をお願い。誰か照明係やってあげて」


「「らじゃ!」」


「照明、あたしがやります!」


 ソラから指示が出されて、2人はアルミケースの写真を撮っていく。ケースの開閉部には封印がされており、まだ誰も開けていないことを示している。その部分もしっかり撮影。


 それが終わると、ソラは事前に教えられている暗証番号を入力してケースの鍵を開けた。

 封印も剥がしてフタを開けると、中にはクッション材に鎮座した3つの石が入っていた。大きさはそれぞれ人の頭ほどもあり、割と大きい。


 おーっと歓声が上がる中、2人はしっかりと商品を撮影した。

 こうやってちゃんと受け取りの記録を残しておかないと、トラブルがあった際に困ったことになるのだ。


「これが浮遊石」


 ソラはそう呟きながら、石を取り出して隅々まで撮影させた。

 ケースの中には他にも産出国の冒険者協会が発行している証明書も同梱されており、かなり高価な商品だとわかる。


 最後に本物であるかの確認。

 浮遊石は魔力を通すと浮かび上がる性質があるため、上下にクッションを配置しつつ、浮遊石に魔力を流してみる。


 ふわりと弱弱しく浮上したのを確認して、部員に上で持ってもらっているクッションへ当たる前に、ソラは浮遊石を回収した。


「話には聞いてましたけど、ぱっと見、物を持ち上げられそうな力強さはないですね」


 2年生のモコが言った。


「うん。未加工だと10gすら持ち上げられないって話だしね」


 それでも、ロマンの塊なので飛空艇のレシピが発見される前から大変な人気の研究対象だった。


 すっかり確認作業が終わり、一息。


「いくらだったんですか?」


 1年生が尋ねた。


「冒険者の伝手を頼って1つ約240万円。3つ買ったから約720万円ね」


 その金額に1年生たちの間から「ひぇ!」と恐怖の声が漏れた。


「中確率ドロップで240万……いや、中確率ドロップだから240万で済んでるのか……」


「国が参加するセリだったらもっと高いよ。最低3つあればラビットフライヤーが作れるわけだし」


「たしかにそうですね」


「あとは関税がかかったってのもあるわね。素材の関税はやっぱりエグイわ」


「どこも自国の産業優先ですからね。今まで第一次産業が経済を支えていた国もジョブの出現で第二次産業の発展を狙っているって日経ファンタジーで読みました」


「そ、それな!」


「にっけーファンタジーね、知ってる知ってる!」


 1年生の賢い発言に、2、3年生は知ったかぶった。


 ちなみに日経ファンタジーは新時代になってから創刊されたビジネス雑誌である。

 もはやダンジョンは立派な資源産出の場所となっているため経済界も無視はできず、日経という頭が良さそうな文字のあとにファンタジーという中高生が好きそうな文字がくっついたビジネス雑誌が出ちゃったのである。


「それにしても、よくお金がありましたね」


「いろいろやってるから資金はあるのよ。むしろある程度は活動で使って経費にしなさいって税理士さんに言われてるのよね」


 ソラの言葉に、それで720万使うってすげぇな、と1年生たちは思った。


「さて、問題は誰がこれを加工するかね」


「浮遊石の加工って、魔法陣を刻んで球体にするんですよね?」


「メインはそう。もう2つは粉末にして金属と混ぜて大魔導回路にするの」


 魔導回路は2種類あると考えられている。

 1つは魔眼を通してでしか見えない魂世界の魔導回路。ダンジョンの武具には必ずこれがあり、通常の道具とは隔絶した能力を宿す。

 そしてもう1つが、肉眼でも見える大魔導回路。主に魔法金属で回路を作り、普通の魔導回路とは違い、例えば『飛行』と言ったような明確な意味があると考えられている。飛空艇の大魔導回路は船体に刻んだ模様に埋め込まれることになる。


 ソラが説明すると、全員が手を背中の後ろにササッと回した。

 240万円の威光にビビったのだ。


「オッケー。じゃあメインは私がやるわ。あとの2つはスキル覚醒している子から選びます」


 ソラが自ら立候補すると、ふいに第三者の声がした。


「話は聞かせてもらったわ!」


「お、お前は魔法陣研究部!」


「あたしを忘れてもらったら困るぜ」


「お、おのれ、武具部まで!」


 ガレージに寄り掛かってカッコよく登場した他の部の人たちに、ノリのいい3年生たちが反応した。

 そんな三文芝居を終えると、他の部の人たちもキャッキャとお話に混ざった。


「一つは私が加工するわ」


「あたしも一つやるよ。で、ソラがメインの一つ」


「そう? まあ、レミと森野がやってくれるなら間違いないわ。ありがとう」


 ソラは工作部の仲間達でも十分に加工できると思ったが、生産部連合はみんな仲間みたいなものなので、お言葉に甘えることにした。


「一応、手順の確認をしとこうぜ」


 3つの浮遊石は、それぞれの部の部長が加工することになった。部長というだけあって、腕は確かなのである。




 授業が終わり、生徒たちがわいわいと部活動の準備に入る。

 工作部もすぐに部員たちが集まっていき、作業前にキャッキャとした。


「ソラ、今日も夜にやってくの?」


 えーちゃんが問う。


「うん」


「それじゃあ私もやっていくよ」


「彼氏はいいの? あんたの口から全然そういう話聞かないけど」


「もう別れちゃった」


「えー」


「工作部にいた方が楽しいんだもん」


「それ、女としてどうなの?」


「だって私たち、石音部長世代じゃん!」


 その言葉に、2、3年生が、あー、となった。

 修行部の前部長は女の子たちから大変な人気で、その淡い恋は実らずとも、『あれ、女でもよくね?』という思考を在校生たちに残していた。


「え、英子先輩はその、か、彼氏とどんなことしてたんですか?」


 そんな会話に2年生のモコが混じった。

 モコの質問にえーちゃんは指を折りながら言う。


「毎晩チャットしてぇ、チャットしてぇ……うーんと、チャットしてぇ……」


「チャットしかしてないじゃん!? 鬼かよ!」


「いや、ちょっと待って。カラオケに行った。あとファミレス。うん」


「それ彼氏じゃなくて友達っていうんだよ」


「だって思ってたのと違ったんだもん! えーい、私のことはいいの! それよりも今日の部活を始めるよ!」


 むきーとするえーちゃんの姿に、ソラたちはみんなで顔を見合わせた。


 それぞれが可愛い顔をしているが、どうにも男っ気がない。友達と部活をしている方が楽しいのは、みんなも一緒だった。


 そんなふうにわいわいキャッキャとしながら部活動を始める。

 今日は依頼が薄かったので一部の部員にそちらを任せて、残りの部員はすぐに飛空艇の製作に入った。


 ソラは浮遊石と向かい合う。

 浮遊石は魔力に反応して浮かび上がるため、【生産魔法】を使えば浮いてしまう。だから、浮遊石は浮かび上がるのを防止する押さえが付いた台座に置かれていた。

 それはソラの専用の机で、この工作部で一番腕がいい証でもあった。


 ソラが扱う浮遊石はすでに成形と研磨を終え、三角が組み合わさった正八面体となっていた。


 綺麗に整えられた浮遊石の表面には下書きがされている。

 その下書きに沿って狂いなく動く彫刻刀には、スキル覚醒を表す紫のオーラが宿っていた。さらに視覚系のスキル覚醒もされており、職人モードに入ったソラの姿は鬼気迫るものがあった。


 作業の合間にそんなソラをチラリと見つめては、何かを振り払うように頭を振る子がチラホラ。石音前部長と同様に、ソラもまたファンタジーな色香を宿す者だった。


 2、3年生には他にもスキル覚醒に至っている子が多い。

 修行部の冒険者ガチ勢が夢中でダンジョンに入っているように、生産ガチ勢はファンタジーな作品が自分の手で完成していくのが楽しくてたまらない。

 修行部の武具の備蓄や日々の依頼、そして武具フェスでの大量製作と、スキル覚醒に至る場数はみんな踏んでいるのだ。


 仮組された船体は大魔導回路の下書きが描かれると板ごとに一度バラされ、部員たちが下書きに沿って彫り物を進めていく。

 やはり全員がスキル覚醒をしており、使い込まれた道具に紫色のオーラを纏わせている。


 ガレージではそんな張りつめたような時間が進む一方で、部室の方ではまた別の作業が進められていた。部室にいるのは1年生がメインで、2年生のモコが指導にあたっている。


「モコ先輩、どうでしょうか?」


「ここの彫りが甘いですね。そこを整えれば問題ないです」


「んー……あっ、ホントだ。ありがとうございます!」


 1年生たちは魔石に魔法陣を刻んでいた。


『成形した魔石に魔法陣を刻み、それを粉末にして、ほかの材料に混ぜる』という技法は魔法生産の基礎だった。こうすることで、その材料に力が宿るのだ。


 そんな作業から1年生たちが作っているのは、飛空艇用の魔法塗料。


 魔法塗料の良いところは、アイテムが素の状態で持っている性能とは別に、使用した塗料によって別の性能を付加できるところにあった。

 その付加性能は微々たるものだが、従来の塗料よりも格段に性能が高かった。


「みんな見てください。一昨日作ってもらった耐久ニスが出来上がりました」


 モコが仕込んでおいた耐久ニスを別皿に移して、みんなに見せた。

 それは淡い桜色をした透明なニスで、白い皿の中でキラキラと輝いていた。


「わぁ、凄く綺麗です」


「美味しそうな色ですね」


「塗ると少しピンク色になるんですか?」


「ううん、固まると無色になって光沢が出ますね。この桜色はしっかりと効果が宿っていることを意味しています」


「やったね!」


「うん!」


 喜ぶ1年生たちにモコは、うむと頷いた。


「魔法塗料の注意点は、保管している缶の中に他の液体を混ぜないことです。この缶の中のニスにはみんなが加工した魔石の力が宿っているので、ほかの液体が混じることで急速に劣化していきます」


 モコの授業に、1年生たちはふむふむと頷く。


「生産用の道具は自分の魔力で生み出した魔法の水で洗うように教えたと思いますが、塗料用の筆はその最たるものです。水道水で洗うと凄く劣化した塗料を筆に残した状態で次回の塗りをすることになるからです。この点はよく注意して道具を管理しましょう」


「「「はい!」」」


 1年生の元気なお返事に、モコはうむぅとした。


 こんなふうに1年生にもしっかりと技術を教えたことで、部活が終わっても残って一緒に作業をしたいという子が増えていった。

 未熟な技術力では邪魔になると、今まで遠慮していたのだろう。


 そして1度参加すると、みんなで料理部の作るご飯を食べ、その楽しさにハマる子が続出した。えーちゃんが「彼氏といるよりも工作部にいた方が楽しい」というのは、きっとそんな理由もあるのだろう。


 そんなわけで、この夜もいつも通りみんなで夕食をもぐもぐしていた。

 今日のご飯はネギ多めの親子丼。親の方は魔物肉が3割混じっているので、『この中に親じゃないのが混じってる丼』だ。


「この分だと想定よりもずっと早く完成しそうだね」


 コンクリートの床に座って食事するソラが、大魔導回路用の文様が刻み込まれた竜骨を見て言う。


「スキル覚醒してるから、やっぱり作業が早いよ」


「武具フェスで魔石に死ぬほど魔法陣を彫ったからね」


「ねーっ!」


 いま1年生がやっている作業は、2、3年生もかつて体験しており、そのおかげで技術力が格段に上がった。その体験が飛空艇の製作を予定よりもずっと早めていた。


「このままだと来月には完成しそうに思うけど」


 えーちゃんが言う。

 彼女自身もスキル覚醒しており、感覚的に完成時期が予想できた。


「飛空艇に乗るには無線の免許取らないとダメなんでしょ?」


「うん。それで操縦者なんだけど、私でいい?」


「ソラ以外にいないでしょ」


 えーちゃんがそう言うと、他の部員たちも頷いた。


「ありがとう。それじゃあ無線の免許は私が取りに行くよ」


「自分を追い込むねぇ。ほどほどにしなよ」


「修行せいってやつよ」


 一般的にはもう受験勉強を始めていなければならない時期だが、ソラは一切していなかった。それに若干の不安は感じるものの、いまはこの情熱に身を任せたかった。




 命子たちが学校を休んでキスミアへ向かう計画が立った頃。

 ついに飛空艇が完成した。


 その外観は3mほどのカヌー型で、塗装は上品な艶を見せるメタリックブルー。


 その美しい外観を見て、1年生たちは手を震わせるほど感動していた。

 あの魔法塗料は自分たちが作ったのだ!

 そうみんなに自慢したかった。


 一方で、外観からは2、3年生の苦労はあまり窺えない。

 けれど、その外装を一枚取れば、そこには彼女たちが刻み込んだ文様に埋め込まれた美しい大魔導回路の姿が隠れていた。

 それは隠してしまうのが惜しいほど美しい幾何学模様で、自分たちで作ったのにうっとりするほどの仕事ぶりだった。当然、1年生の尊敬を集める結果にも繋がった。


 そして、隠れている物はもうひとつある。

 飛空艇の心臓とも言える、ソラが加工した正八面体の浮遊石だ。

 今までソラが作ってきたどの立体魔法陣よりも複雑で、けれどその完成した姿は誰もが見惚れるほど美しい出来栄えだった。


 今はまだ、その隠された仕事ぶりを知っているのは風見女学園の関係者だけ。けれど、全てが終わったらフォーチューブにこれまでの作業の日々を大公開予定である。


「部長、名前はどうしますか?」


 完成したラビットフライヤーを前にして、顔を上気させたモコが問う。


「私が決めていいの?」


 ソラが問い返すと、部員たちは笑顔で頷いた。

 その姿を見たソラは、唇を震わせた。


 思えば、みんなには自分のわがままにずいぶんと付き合わせてしまった。

 部の活動という大義名分を掲げていたけれど、そう、これは自分のわがままの結晶で、みんなの優しさが形にしてくれたのだ。


「ありがとう、みんな……っ!」


 ソラは仲間たちに深々と頭を下げた。

 そんなソラの背中を撫で、えーちゃんが言う。


「お礼なんて必要ないよ。最高に楽しかったもん!」


「そうだよ。ねーっ?」


「「うん!」」


 仲間たちから温かな言葉を貰い、ソラはグシグシと涙を拭いながら笑った。


「それで名前はどうするの?」


 再び問われ、ソラは頷いた。


「蒼穹。この子は蒼穹1号!」


 こうして、ラビットフライヤー蒼穹1号が完成するのだった。


 それから本当に浮くのかという根本的な実験をしたり、試運転の場所を決め、その管轄の市に協力要請を行ったりして日々が過ぎ。


 いよいよ試運転を数日後に控えたある日、旅立った命子たちがまた行方不明になった。


「マジかよ、命子ちゃん……っ!」


 工作部の全員が総ツッコミを入れるのだった。



読んでくださりありがとうございます。


■明日の夜に後編を投稿します。

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― 新着の感想 ―
この時点で国にはバレてるでしょうね 浮遊石クラスの取引なら国家間の行政で追跡されてるだろうฅ^• ·̫ •^ฅ
[良い点] まず出てくる感想がマジかよで草
[一言] >日経ファンタジー 日経エンタテインメント!なんてのも実在してるし、本当に出版されそうな誌名だな この話が書籍になるときは別名にしないで日経BP社の了解とってそのまま掲載してほしい
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