12-7 初戦闘
本日もよろしくお願いします。
「日本時間1520。これより、ウラノスと雷神はダンジョン探索を開始します。本作戦は私、馬場翔子ダンジョン特務官が総指揮を執り行うものとします」
ルルパパが持つカメラに向かって、馬場が宣言する。
資料として残すのだ。
ところが真面目な資料なのに、フレーム外からは命子たちの歓声と拍手が聞こえ、なんとも気が抜ける様子。キャッキャが必要な資料じゃない。
さらには馬場の周りで、イザナミやアイが構えるスマホに向かって、光子やアリスがビシッと敬礼。その様子を見て、イヨは自分の教育が行き届いていることに頷き、萌々子があわあわした。
もはや海外の軍人さんに見せていいのか会議が行なわれそうなレベル。目元を隠してHAHAHAとか笑われそう。
「現状に至るあらまし、乗員乗客の紹介については別途資料を作成いたします。現状は話し合いの結果、スタート地点であるこの浮遊島から離れることに決定しました。まずは護衛艦・雷神を先行させ、ダンジョンの特性と敵の情報を収集します。それではカメラの移動をお願いします」
というわけで、馬場の移動に合わせてルルパパの向けるカメラも移動する。命子たちもカルガモの子供の如く、ちょろちょろとついていった。
その先では発進準備が整った雷神の姿が。
馬場が合図を送ると、雷神は浮遊島の水面から浮上した。
「ちょっと急いでます?」
「いや、そんなことはないよ。いつまでもここにいても得られる情報は少ないからね」
命子の質問に、教授はそう答えた。
これは嘘だった。
命子たちが着替え終わって戻る前に、馬場たちはひとつの懸念を話し合っていた。
それは『海外の調査隊がヘリで乗り込んでくる可能性』である。
いつ事故ってもおかしくないので機械式の航空機はあまり使われなくなったが、飛ぼうと思えば飛べるのだ。そのため、ヘリでやってくる可能性があった。
『来るとしたらパイロットを含めて6の倍数。しかし、6人では済むまい。おそらくは1国あたり18人から36人ほどになるだろう。考えすぎならいいが、もし、この人数が飛空艇ではなくヘリで来たら、我々は詰むかもしれない』
教授は今回の探索で、真っ先にこの懸念を提示した。
6の倍数というのは、ダンジョンの探索人数が1チーム6人までだからだ。外の人は集団で探索できると知らないため、編成されるとしたらまず間違いなく6の倍数になる。
未知のダンジョンを探索するのはリスクがあるとはいえ、超大型浮遊島にできたダンジョンの攻略は、国益にも軍人の個人的な栄誉にも繋がる。
浮遊島が現れた場所は公海でもあるため、周辺国はダンジョン利権に食い込むためにも何らかの形で初動から参加したいはずだ。
そして、アラビア海周辺は宗教に熱心な国が多いため、ファンタジーな試練にウキウキで飛び込む人が多かった。
こう言った理由から、1国が突入を決めたら数か国が連鎖的にやってくる可能性は十分にあった。
彼らが飛空艇で来るなら良い。
飛空艇は人の魔力を使うため、人の飯と魔力回復の休憩さえあれば無限に飛べるからだ。
しかし、航空燃料を使うヘリは不味い。ダンジョン内では燃料の補給ができないため、攻略は難しくなるだろう。
そもそもヘリの装甲は【合成強化】してもたかが知れているので、魔物の一撃で沈むかもしれない。
彼らがヘリで来たら、乗船人数のキャパシティを超えていても人道的に乗せないわけにはいかなくなる。
飛空艇は搭乗者の総合魔力に比例して速度などの性能を増すが、空間と食料は増やせない。10人程度ならば戦力増強になるが、あまりに多くの人を乗せると戦闘できるスペースすら危ぶまれていくのだ。
それに、仮に馬場が断る決断をしたとしても、命子たちのモチベーションがダダ下がるはずだ。
だから、大人たちは急いでこの場から離れる決断をしたのだ。
この懸念を知れば優しい命子たちは少し待とうと言うかもしれないので、子供たちには内緒にして。
一点、動きがわからないのが、雷神の姉妹船・風神がどう出るかわからないことだ。
ウラノス船団にはアリアパパを筆頭にキスミアの要人が乗るキスミアの飛空艇もあるので、おそらくはそちらの護衛を優先すると思うが。
「それよりも命子君。よく見ておきたまえ」
教授は話を変えて、顎をクイッと浮上する雷神へ向けた。
大人の考えを知らない命子は、隣に立つ紫蓮と一緒に目をキュピンと光らせてスタンバイ。
雷神の甲板には自衛官たちが杖や魔導書を構えていた。
さらには小型飛空艇もスクランブル態勢を取って、不測の事態に備えている。
浮上した雷神は、現在いる浮遊島の範囲から出ていった。
特になにも起こらず、雷神は30m、50mとゆっくり離れていく。
「懸念点は多いが、一番は船底からの攻撃だ。これをやられると一方的になりかねない」
「でも、船底にも魔法射撃用の小さな開口部があるって設計図に描いてあった」
教授の説明に、設計資料を舐め回す系女子高生の紫蓮が言う。雑誌が行なったウラノスの特集資料からの知識だ。『ウラノスの全てが丸わかり!』みたいな謳い文句で、雑誌は飛ぶように売れていた。
命子は、なんでも知ってんな、と友人の博識ぶりに感心した。
「鳥が強くなる世界になったから一応ね。ただ、視界が非常に狭いし、1方向に対応できるのは1人まで。使い物になるかは不明だ」
「あっ、ホントにあそこが開いてる!」
命子が指さす雷神の船底には、4か所にハッチがあり、そこから人が鋭く警戒していた。
「むき出しでめっちゃ怖いじゃん」
「大人なら落ちるほどの大きさではないよ。片腕と頭を同時に出せるくらいかな。まあ命子君は細いから出ちゃうかもしれないが」
そんなことを話している内に、雷神はどんどん離れていく。
話に上がっていた穴も小さくて見えなくなるが、それでもなにも起こらない。
「飛空艇の速度を考えると、早々にはエンカウントしないのかもしれないね」
「はい。数千kmの旅をするなら、あのあたりじゃ微々たるものですからね」
命子の言葉に相槌を打ち、教授は下唇を親指でウニウニした。
「さて、そうなるとここで得られる情報もいよいよなくなってきたな。ウラノスも出発するべきか」
「雷神をずっと先に行かせるのは不味いんですか?」
「可能な限り連携できる距離にいたいからね。離れすぎるのはあまり良くない」
「じゃあ、いよいよ出発ですね!」
命子たちがそんなことを話していると、撮影を終えた馬場が船長と一緒にやってきた。
「この辺りじゃ敵さんは現れないわね。出発しましょうか」
そちらも同意見のようで、ウラノスが発進することに決定した。
500mほど先を雷神が先行し、その後ろをウラノスが飛ぶ。
各甲板の四方には武装した船員が警戒し、最大戦力である命子たちは船内入り口付近で陣を作った。
船内への出入り口は船尾楼(甲板の後方付近にある構造物)にあった。
「お主たちと共闘する時が来るとは、わからぬものデスな」
そう言ったのは、ルルママ。
陣羽織を羽織った侍スタイル。近接アタッカーのため陣の外縁にいる。
飼い猫であるジュウベエも今回の旅にはついてきており、船尾楼甲板で警戒中。
「ニャウ。しかし、我らに馴れ合いは無用デス」
くのいちスタイルのルルが鋭い目つきで言う。
母娘でアニメや特撮ヒーロー物を見すぎなやり取り。
ルルママは親の中で1番強かった。
キスミア人は戦闘センスが高いのだ。
ジュウベエと共に船尾楼甲板に上って、片膝をついて被弾面積を少なくしつつ警戒しているのは紫蓮パパ。
スラックスのズボンに魔法使いのローブマントを羽織っているが、特筆すべきはその色だろう。子が子なら親も親と言うべきか、全身黒づくめなのだ。
指ぬき手袋から出た親指で唇をピッと撫で、歯列をギラリと光らせながら、瞳に紫色の炎を灯す。イメージは獲物を発見した漆黒の狩人。なお、獲物は未だに現れず。拗らせてしまった中二病患者が作り出すイマジナリーワールドだ。
これにはジュウベエも猫パンチした。
「紫蓮ちゃんのパパは現役だね」
「ぴゃわー、ついにバレた」
「風で前髪が揺れるのも意識してるね。あれは達人の領域だよ」
「やつは母が幼馴染じゃなかったらヤバかった」
娘たちに熱く語られるそんな紫蓮パパは、遠距離攻撃タイプ。娘と同様に職人もやっているものの、腕は良かった。
「ふぅー」
ゆっくりと息を吐いて緊張を和らげるのは命子パパだ。
命子パパは短槍に大きな盾という盾職スタイル。熱心に修行しているので、守備の強さは親の中では1番だ。
「やることはやっておるのじゃ。一撃で死ぬことはあるまいよ」
「老師。はい、そうですね」
自然体の老師にアドバイスされ、命子パパは頷いた。
一撃で死なない。
旧時代でも言えることだが、新時代でもこれは非常に大切だ。
いまの命子パパならば、娘たちを十分に庇えるだろう。
ほかにもささらパパやルルパパも陣の一員になっているが、一方でささらママ、命子ママ、紫蓮ママは船内にいる。全員が一応は魔法で戦えるが、敵の強さを調査する段階で出せるほど強くはなかった。
萌々子とアリアは精霊魔法が強力だが、年齢的にひとまず待機。
ちなみに、アリアパパはウラノスや雷神に乗っていなかった。キスミアに贈られる飛空艇でキスミア使節団をまとめていたためだ。
一方、娘たちもそれぞれが近接職を外側、遠距離職を内側にして陣の一員をしている。
そんな中で、イヨはこれだけ規模の大きな戦闘にちょっと緊張気味だ。
「妾、足手まといにならんかの?」
「大丈夫だよ。むしろ弓や精霊術で大活躍するかも」
「そうかの。イザナミ、頑張ろうな?」
『なん!』
命子に慰められて、イヨは元気を取り戻した。
その手には双子の姉妹トヨから贈られた古代の魔法武器・雷弓が。
雷神とウラノスは1km、2kmと問題なく進んでいく。
このダンジョンはそこら中に浮遊島が浮かんでおり、両飛空艇が目指しているのは一番近くにある浮遊島だ。
そんな命子たちの下へ、馬場と教授がやってきた。
「どうでした?」
「遥か下が雲海だったよ。それ以外は特に見つからないね」
命子の質問に教授が答えた。
2人は甲板の縁で下の様子を見てきたのだ。
「無限鳥居みたいな感じですか」
「うん。おそらく、無駄な空間はさすがに作りきれないということだろうね。ダンジョンは小世界と言ってもいい規模だからね」
たしかに、と命子は頷いた。
「まあ、このダンジョンのルールがわかったら、君らも見てくるといいよ。なかなかの絶景だ」
船の縁や船室の窓からも見られるので、警戒が終わったら見に行けそうだ。
一番近くの浮遊島が近づいてくる。
「かなりでかいな。一辺1kmはあるか?」
「ひとつひとつに上陸できるようになっているのかしら?」
「そうなると、なかなかの探索範囲になりそうだな。いや、小型飛空艇で空から目視も可能ならば、案外狭いか」
教授と馬場がそう話しているところで、雷神から発光信号が光る。
「全員、警戒を強めて! こちらに敵が来たら出し惜しみはしなくていいわ!」
馬場の鋭い声に反応して、全員が武器に手をかけて構える。
両船が目指す浮遊島から、鳥類と思しき魔物が飛び立った。
その数は百を超えている。
それほどの数が一斉に飛び立ち、先行する雷神へ向かう。
「こちらが戦闘に入る前に、雷神の戦闘を見て敵の脅威度を探りなさい!」
馬場が全体に指示を出す。
船員の動きもよく、戦闘のために一斉にマストが仕舞われ、視界の確保がなされた。
馬場に言われるまでもなく、命子は敵の情報を探る。
しかし、陣形の内側にいる命子は背丈の関係でよく見えない。
そこで、命子は入口の雨除けに手をかけると、反動をつけて一気に船尾楼甲板へ飛び乗った。同じく、紫蓮もそのあとに続く。
ギンッと目を光らせる命子と紫蓮。
その姿はすでにその場に陣取っている紫蓮パパのように、片膝をついて獲物を探る獰猛な目つき。
「なかなか速い!」
「羊谷命子、スキル覚醒している個体が混じってる!」
「ホントだ! 紫蓮パパ、動きは見えそう!?」
「問題ない!」
雷神を襲う鳥たちは、甲板の上を優先して襲っている。
近接系の鳥が8割、遠距離系の鳥が2割いる様子だ。そのどちらにも紫色のオーラを纏った鳥が混じっており、その動きは他の鳥よりもいい。
「攻撃方法は突撃と何かを飛ばす遠距離攻撃! 一撃で戦闘不能になることはなさそうですが、ノックバックに気をつけて!」
雷神の戦闘を観察した命子が、全体にそう伝えた。
魔物の強さは攻撃方法と攻撃力の把握がとても重要なのだ。
雷神を襲っていた鳥の群れから、こちらに向かって60羽ほどが飛んでくる。
その動きに合わせてウラノスは船体を横に向け、戦いやすい位置取りに変える。このままいけば、右舷方向で敵と戦うことになるだろう。
「妾もこっちの方が戦いやすそうなのじゃ!」
『なんなん!』
「オッケー!」
そこにイヨとイザナミがやってきた。
人の頭が多い下よりも、船尾楼甲板の方がいいのだろう。
教授の懸念通り、敵の移動速度は速く、500mほどあった距離を瞬く間に詰めて接近する。
先ほどの雷神での戦いを見る限り、近接タイプはこのまま突っ込んでくるはずだ。
「レイブンか!」
鳥の姿を間近に見て、紫蓮パパがそう叫びながら炎を手に宿した。
そう、その敵はワタリガラスによく似ていた。ただ、大きさがその倍はあるだろう。
紫蓮パパの独特な言葉のチョイスにゾクゾクしつつ、命子は火と水の魔導書に魔法を灯した。鳥には鳥をと考えて、変化の魔導書が2つの魔法を鳥の形に変えていく。
その時、命子たちの体が光った。
命子パパのスキル【かばう】が保護したのだ。
【かばう】は盾騎士系の技で、他者のダメージを肩代わりするスキルである。
とても便利な技である反面、このダメージは術者の魔力で肩代わりするため、大きなダメージを受けると術者の魔力は一瞬で消し飛び、生命維持すら危ぶまれるリスクもあった。
しかし、情報が少ない初戦では、父親としてこの技を使いたかったのだ。
父親の気持ちに感謝しつつ、命子は目に力を入れた。
「遠距離魔法、放てぇ!」
馬場の号令に、命子たちや船員から魔法が一気に放たれた。
炎に水、風に土とそれぞれが使える属性魔法が飛んでいく。
魔法タイプは魔導書を使う場合が多いので、一斉に放たれた魔法の数は魔法使いの数よりも多く、大迫力だ。
命子は自分が放った火鳥と水鳥の行く末を見守りつつ、サーベルを抜き放つ。
魔法に当たったカラスは、一撃で墜落していった。
脆い。
そう判断した次の瞬間、魔法の弾幕から抜けだした個体がウラノスに襲い掛かった。
命子たちに迫りくるのは5羽。
そのどれもが紫色のオーラを纏い、野球選手の剛速球よりも速い突撃をしてくる。
その内の2羽がイヨの雷の矢とイザナミの水の矢に射られて絶命し、そんなイヨを狙ったカラスが瞳を光らせた命子によってサーベルで斬り落とされる。
「助かったのじゃ!」
『なん!』
「ふふ、余計なお世話だったかもしれないね」
弓を放ったあとのイヨは、すでに腰の剣に手を添えている。
やるじゃないかと命子は口角を上げた。
そして、残りの2羽は紫蓮の龍命雷とジュウベエの爪撃で落とされた。
「父、油断大敵」
「これ見て、ほら。命子ちゃんみたいなセリフにして」
「口答えはダメ。0.1秒反応が遅かった」
「厳しい」
娘にディスられた紫蓮パパは、自分もしっかり接近戦用の小太刀の柄に手を添えていることをアピールするも、手厳しく叱られた。
「火弾!」
その時、紫蓮パパが紫蓮を抱きよせて、その背後に火弾を放った。
遠距離タイプのカラスから放たれた黒い羽根が、火弾によって燃やし落とされた。
「娘よ、油断大敵だ」
「んーっ!」
ニヤリと笑う紫蓮パパは赤面する娘にぽかぁと殴られて、その姿はまるでラノベの主人公のよう。
紫蓮に黒い羽根を放った遠距離タイプのカラスも、船員の魔法で撃ち落とされていく。
「あっちの方も問題なく終わったみたいね」
みんながいる甲板を見下ろして、命子が言う。
心配そうに見上げる父親に、命子は片手を上げて無事なのを合図した。
「命子様、こんなのが落ちたのじゃ」
『なんなん!』
白兵戦で甲板上に落ちたカラスたちのドロップを拾って、イヨが報告した。
それは、黒い羽根と小さな爪だった。
「カラスのドロップみたいだね。たぶん通常枠かな」
「魔物が落とすやつじゃな。これで何が作れるのかのう?」
「我なら矢が作れる」
「おー。紫蓮殿、矢が無くなったら妾に作って欲しいのじゃ」
「うむ、時間を見て作り貯める」
そんなこんなで初戦は問題なく終わり、一行は初戦闘の意見会を始めるのだった。
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★有鴨鏡夜
紫蓮の父親。中二病かつゲーム・アニメ系サブカルオタク。
紫蓮ママとは幼馴染であり、遊びに来た紫蓮ママを放置してギャルゲーでハーレムエンドを目指した過去がある外道。
戦闘スタイルは魔法タイプ。
しかし、杖は好まず、手や魔導書から魔法を出したいこだわりがある。
近接用に小太刀を持っているが、近接のジョブスキルは持っていない。
覚醒しているスキルも多いので、マナ進化は近いかもしれない。
・ジョブ履歴
現在:『火魔法使い』
『修行者セット』『冒険者セット』
『見習い魔導書士』『見習い火魔法使い』
『見習い武器職人』『武器職人』
・装備
頭 黒い額当て
首 黒いマフラー
胴1 漆黒のローブ
胴2 黒いインナー
足 黒いスラックス
靴 黒いブーツ ※スラックスをインしている。
武器 八咫烏 ※命名された自作の小太刀。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




