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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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12-5 青い海

大変お待たせしました!

本日もよろしくお願いします。



 白い雲の切れ間から青いオーラを纏った巨大なクジラが姿を現した。

 その姿は青い空に溶け込むような色合いで、それでいて朧気。


「「「っっっ!?」」」


 そんな姿を目撃した命子たちは、揃ってぴょんとした。


 そのアクションが今回の神獣の目撃の特異性を物語っている。

 空飛びクジラからは、神獣のプレッシャーがほとんど感じられないのだ。

 しかし、決して目が離せない。


 命子はかつて上空を飛ぶ飛行機を見ると、おーい、と手を振る系の幼女だった。三つ子の魂百までというが、空飛びクジラの存在はその本能を刺激して、命子の角をピカピカさせた。


 すでに始まっている指遊びから右手がパージされ——


「ふぉおおおお、お空の神様なのじゃ! へへぇ!」


 その声に、命子はハッと広げた手を閉じた。

 声の方を見てみれば、イヨがへへぇとしていた。


 それで正気に戻った命子は、己はいったい何をしようとしていたのかとわなわなし、とりあえず、幼き日に育んだ本能のままに小さく手を振った。

 特にそれでどうにかなるわけではなかったが、ルルが「わかるデス」と同類宣言をした。


 一方、空飛びクジラの目撃に一番泡を食ったのは馬場である。

 すぐに甲板にある緊急電話を取った。


「緊急事態発生! 船体上空をクジラ型の神獣が飛んでいます! 大至急着水してください!」


 そう告げてすぐに、ウゥーッと警報が鳴り始める。

 周りを飛行する船団でも、甲板にいる人たちが空を指さして大騒ぎしていた。


 その大事な様子に、命子は手を振ったことに罪悪感を覚えてシュッと下ろした。


 ウラノス船団の全ての飛空艇が止まり、高度を下げていく。


 その時であった。


 空飛びクジラがこちらへ向きを変えたと思った次の瞬間、命子たちは船体共々に青い奔流に包まれた。


「「「うぁあああああ!」」」


「「「きゃぁああああ!」」」


「「「みゃーっ!」」」


 質量こそ伴っていないが、それぞれが柵やベンチなどに掴まって悲鳴を上げる。


 空色の光の中を、銀色のキラキラした輝きが降り注いでいく。

 その光景を命子は以前にも龍宮で見たことがあった。

 その時は下から上であり、今回は上から下という違いこそあるが、もう一度見たいと思っていた綺麗な光景だった。


 青い奔流は命子たちや船体をすり抜けて、海に落ちていく。


 しかし、これだけ大きな現象を受けているのに、海はむしろ平時よりも静かだった。どうやら青い奔流は海すらもすり抜けているようだった。


 ほどなくして、ウラノス船団は海に着水した。

 ウラノスと『雷神』という飛空艇が青い奔流の中で海面に着水し、ほかの3隻はその範囲外で着水している。


 その際に立った波飛沫すらも、不自然なほど早く静まっていく。

 青い領域内では海が作り続ける波も静まり、潮の音も消えていた。


 青い奔流がやがて消えていく。

 だが、事態が未だに終わっていないのは海面を見ればわかった。青い輝きを放っているのだ。その輝きは船体側面どころか、命子たちの姿も淡い青に染めている。


「馬場さん、海に降りたのはヤバかったんじゃないですか?」


「言わないで。私もちょっとそう思ってるところだから」


 馬場にそう言われ、命子は両手で、んっ、と口を塞いだ。


「とはいえ、あの状況じゃ無理もなかろう。問題はこの後だ」


 ウサギのまめ吉を抱きかかえた教授がフォローをいれつつ、今後のことを言う。

 その足に繋がった紐はなぜか萌々子が握っていた。ロリっ娘によるお姉さんのお散歩調教の図ではない。


「浮上するか、様子を見るか。そもそも魔力で動く飛空艇がこの状況で離水可能なのか」


「浮上できるか点検をさせておきましょう。とりあえず、みんなは船内に戻ってちょうだい」


 馬場に言われて、命子たちはぞろぞろと船内へ続く階段へ向かった。


 すると、ささらが海の彼方を見つめて足を止めた。


「もぎゅ」


 そんなささらの背中にぶつかった命子は、急ブレーキという危険を冒したささらのお腹に背中側から制裁を入れた。


 いつもならひゃーんとぶっ叩かれるのに、ささらは何かを見つめるばかりで動じない。

 これはただ事ではないと、命子もささらの肩からぴょこんと顔を覗かせて、そちらへ視線を向ける。

 すると、すぐにささらの見ているものに気づいた。


「……海が沈んでいますわ」


 ささらが呟くように、300mほど先の海がどんどんズレていくのだ。


 ほえーっとする命子とささら。

 ささらは無意識で、未だにお腹をこしょこしょする命子の指をエビぞりにし始めた。ほえーっとしていた命子の顔が、いーたたたたっと歪む。痛いので夢じゃない!

 そんな命子と入れ替わりで、他のメンバーたちがその光景を見てほえーっとした。必然的に正気な命子の行動ターン。


「海が沈んどる!」


 命子は茫然とするみんなの代わりに、むむむっとした顔で宣言した。


「海が沈むのは現代でもおかしいのかの?」


 イヨも正気だったが、現代と古代の差異を把握しきれていないので、驚きは薄い。

 命子は、うん、と力強く頷いた。


「大丈夫か!?」


 その時、ちょうど船内に続く階段から、船長さんや命子パパたちが現れた。


「あ、お父さん! 見て見て、海が沈んどる!」


 なので、命子は指を向けながら、さっそく命子パパたちに教えてあげた。


「いや、違う!」


 すると、教授が鋭く叫んだ。

 寝不足系女子の普段使わない声色に、命子たちはびっくりして注目した。


「海が沈んでいるんじゃない。我々のいる海域が上がっているんだ。見たまえ!」


 その指の先では、青く光る海域の範囲外に停泊する飛空艇の姿が、ちょうど見えなくなる瞬間だった。


「翔子、すぐに『風神』へ連絡を入れて近海の状況を観測させ、アラビア海に面した国々に警戒するように伝えてもらえ。津波が発生する恐れがある」


 教授の指示に、馬場は慌てた様子でどこかへ連絡を入れた。

 ちなみに『風神』は日本独自開発の飛空艇だ。この旅には同型の『雷神』の姿もある。なお、海外共同開発の場合は洋風な名前がついている。


「津波が起こるんですか?」


 命子が不安そうに尋ねると、教授は難しい顔で答えた。


「いや、何が起こっているのかここからではわからないから、正確なことは言えない。しかし、これほど広範囲の海水が持ち上がっている以上は、その懸念をするべきだろう」


 そう、ウラノスの船上からでは、なにが起こっているのかわからなかったのだ。

 だが、次のルルの言葉で朧気だが、命子たちは状況を理解する。


「見るデス! 陸地が出来上がったデス!」


 盛り上がっている海域の縁から海水が流れて、陸地らしきものが現れたのだ。


 それはウラノスがいる海域を取り囲むようなドーナッツ型の陸地で、どこの幅も数十mくらいあるだろうか。陸地は礫岩と泥に塗れているが、命子たちのいる位置からは遠すぎるためその詳細は窺えない。


「まさか、海底からお椀型の浮遊島が浮上したということなのか? ……こんな巨大な?」


 教授がそんな憶測をすると、電話を通話状態にしたまま馬場がそれを肯定した。


「どうやらその通りみたいね。風神から浮上する巨大な岩盤が観測できたらしいわ」


「おいおい、直径5、600mはあるぞ」


 その規模だと間違いなく世界最大の浮遊島だった。


「翔子、周辺の海の状況は?」


「とりあえず、この範囲外の海も静かなものらしいわ」


「そうか、それは良かった。となると、やはり空飛びクジラの作り出した青く輝く領域と関係しているのかもしれんな」


 2人の会話を聞いた命子も、さきほどウラノスが着水した際にとても静かだったことを思い出す。


「おー、うっすらと反射してまるで空を映す鏡みたいだ」


 そう言ったのは、二重柵に手を添えて船の周りを見る紫蓮パパだった。


 青い海はオーラのようなものを発しているが、よく見ればその中にある水面は眠っているように静かで、空模様を映し出しているのだ。


 そんな興味深いことを言われたら命子の足もふらふらーっとしてしまうが、馬場にすかさず襟首を掴まれて、その場からの観察となった。


「わぁー、ホントじゃの」


 その代わりに、フリーなイヨが紫蓮パパの隣に並んで楽しそうにした。

 フォーチューブを手伝ってくれるので、イヨは紫蓮パパに懐いていた。


 紫蓮が、そんな2人の服を引っ張って柵から引き離そうとした。


「そういう好奇心はサメフラグだからダメ」


「はっ、たしかに。娘よ、助かった」


「さめふらぐなのじゃ?」


「うむ。怪しいところで海を覗き込むとサメに上半身を食われるという言い伝えがある。ちなみに、サメはフカとも言う」


「フカ! 怖すぎるのじゃ!」


 こういう状況で海面を覗き込むのはサメの餌になりに行くようなものと、紫蓮も紫蓮パパもアニメや映画で学んでいるのだ。


 と、その時、新しくできた陸地の向こう側から風神が姿を現した。こちらの状況を確認するために浮上したのだろう。

 その姿を見た紫蓮は、眠たげな眼をしながら首を傾げた。


「おかしい」


「……ああ、実に奇妙だ」


 いち早くなにかを察した娘の姿に、紫蓮パパは便乗しつつ、必死におかしい場所を探す。

 見栄っ張りな紫蓮パパをスルーして、紫蓮は海面を指さした。


「海面に飛んでいる風神が映り込んでいない。この角度なら映り込むと思うのに」


「だな。胸騒ぎがする」


 ほ、ホントだ! とばかりに目を輝かせる紫蓮パパは、すぐに自分も気づいていたふうな顔になった。


 話に上がっている風神に手を振りつつ連絡を取っていた馬場が、みんなに告げる。


「どうやら浮上が止まったらしいわ。海面から500mくらいの位置で止まったって」


「ふむ。船長、離水はできますか?」


 それを聞いた教授は、不安げな船長に問うた。


「船体にはどこにも異常ありませんが、状況が状況なので可能かどうかは試してみなければわかりません。離水しますか?」


 その質問に、教授は判断を馬場へ任せた。


「離れましょう」


 馬場がそう宣言した時だった。


「ぴゃわーっ!」


「た、大変だ!」


 海を見ていた有鴨父娘が、悲鳴を上げた。


「ウラノスが沈んでる!」


 珍しくおっきな声で、紫蓮が言った。

 そうウラノスが沈み始めているのだ。


 しかし、それはどこかに穴が開いたような沈み方ではなく、全体が均等に沈む不思議な沈み方だった。

 だが、その違いを船の素人の命子たちが知るはずもなく、甲板内は大騒ぎになった。


「ぴゃ、ぴゃわわわっ、さ、サメが!」


「にゃーっ、キスミア人は泳げないでゴザルよ! シャーラ!」


「みゃーっ、ワタシもデス!」


「はわわわっ! モモコちゃんお助けなのれすぅ!」


「アリアちゃん、私もそこまで泳ぎは得意じゃないよ!」


「2人とも妾に掴まるのじゃ! 妾は泳ぎが得意なのじゃ!」


「「古代巫女万能説!」」


 特に、紫蓮とキスミア勢の慌て方が酷い。

 それぞれが助けを求めて、誰かしらに飛びついていく。


「き、緊急発進!」


 船長が緊急電話で操縦室に命令を出す。

 しかし、その指示は遅く。


「ぴゃ、ぴゃわーっ!」


 命子に抱き着く紫蓮が悲鳴を上げる中、ウラノスは空を映し出す海面の中に沈み込んでしまうのだった。


 だいしゅきホールドで紫蓮に抱き着かれる命子は、紫蓮の頭の横からその光景を一部始終見ていた。

 空色の海面に沈み込んだウラノスは、水面に沈むと同時にまた浮遊島の上にゆっくりと着水したのだ。

 ウラノスの近くには、浮遊島に一緒に着水していた『雷神』の姿もある。


「ど、どうなったの!?」


 馬場が目をぱちぱちさせて周りを見回す。

 その言葉に、命子が答えた。


「ダンジョンの匂いがします。たぶん、ここはダンジョンです」


 ダンジョンソムリエ・羊谷命子の嗅覚がそう告げていた。

 抱き着き紫蓮というオプションをつけているものの、その目はいつものニコパ系女子ではなく、ダンジョンソムリエとしてのキリリとしたもの。


「め、命子さん、見てください!」


 ささらが言った。

 ささらは溺れるのを恐れたルルとメリスに抱き着かれており、そんな姿を見せつけられた命子のキリリ顔が瞬時に困惑の色に染まった。


「う、うん、とんでもねえ格好してるね」


「め、命子さんだって人のこと言えませんわよ! そうじゃなくて、あっち!」


 ささらが指さす方向には、なるほど、見覚えのない浮遊島が見えた。

 それも一つではなく、無数に見える。


 明らかにウラノス船団がいたアラビア海の光景ではなかった。


 命子は冒険の予感にドキドキし始めた。


 久しぶりの誰も入っていないダンジョン。

 そこは地図のない真っ白な世界だった。


 こんなにドキドキしてたら紫蓮ちゃんに聞かれちゃうと心配になるほどだ。

 そんな紫蓮も実はもう安全と理解しているが、むっつりな気があるのでこの状態を延長した。


 一方、馬場は青い顔をしていた。

 ダンジョンの難易度決定は、最初に入った者の戦力に依存する。

 このダンジョンの難易度決定を自分たちが行なっているとしたら、最上級ダンジョンになっているのは間違いないのだ。


「翔子。たぶん、君が心配している状況にはなっていないだろう」


 そんな馬場の心中を察したのか、教授が言う。


「おそらく、ここは我々でもクリアできるダンジョンだ」


「なんでそんなことが言えるのよ」


 馬場は理由を聞く前に教授の言葉に心底ホッとしつつ、若干ツンケンした口調で理由を尋ねた。


「まず、空の生き物のためのダンジョンにしてはゲートが大きすぎる。見ろ、我々から150mくらいは離れた場所にいた雷神が一緒にやってきたということは、あの浮遊島の水面の大半はゲートと思っていいだろう。つまり、ここは飛空艇ありきの人間を想定したダンジョンだと考えられる。もちろん、鳥類も入れるだろうがね」


「ふむふむ」


「次に、神獣は無茶な試練は課しても、無理な試練に落とすことはない。今回が初めての無理な試練となるかもしれないが、そこはまあ信用するしかあるまい」


 迷惑な話よね、という愚痴を呑み込んで馬場は頷いた。


「以上のことから、我々がダンジョンの難易度を決めたとは考えにくい。しかし、おそらくここはまだ誰も入っていないダンジョンだろう。だが、誰も入っていなくとも等級が最初から決まっているダンジョンが一つある」


 教授の推測を聞いて、馬場は天を仰いだ。


「難易度変化級ダンジョン……」


 ダンジョンと思しき空間の空は、素晴らしく綺麗だった。



読んでくださりありがとうございます。


お待たせしてしまって申し訳ありません!

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― 新着の感想 ―
因果とかで結局巻き込まれるの止めれないんだし国側もさっさと受け入れりゃいいのに無駄な抵抗してるよね
緊急連絡を受けた日本の閣僚たち「・・・シープ・・・バレー・・・(胃の辺りを擦りながら」
初回イベントに定評がある「はじまりの子」は伊達じゃない!
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