11-2 サプライズ再会
本日もよろしくお願いします。
「命子君。ダンジョンクエストを受けてみないかい?」
GW前の最後の学校が終わり、帰りに病院へ行くと、教授がそんなことを言った。
「企業クエスト!」
「いいや、国のクエストだね」
命子たちはダンジョンに入る際に、冒険者専用アプリ『ダンジョントラベラー』で予約などをしているのだが、そのアプリのホームページには、企業からの依頼をまとめた項目があり、これらの依頼は『クエスト』と呼ばれている。
依頼の内容は、大体が以下の3つ。
ダンジョン素材の納品。
研究者などの護衛。
ダンジョン硬貨『ギニー』でしか買えない物の納品。
特に、3番目の依頼は、実質ギニーを円やドルに換える割のいい手段であり、かなり人気があった。現状で生産職に必須な『工作道具セット』の納品が非常に多い。
「内容はどういったものですの?」
「樹海ダンジョン内でのイヨ君の護衛だ。メンバーは命子君とあと1人、イヨ君、私、翔子、医師の方。レイドの腕輪で自衛隊があと4部隊同階層で行動する。ほかの子も来たかったら、もう1部隊作ろう」
「おー。イヨちゃんもダンジョンに入るんだ?」
命子が言うと、イヨはニコパと笑った。
「ダンジョンに入って化け物を倒すと龍気が増すと聞くのじゃ。わらわもぜひ入りたいのじゃ!」
「そっか。頑張ろうね!」
「でも、不安だから一緒に入ってほしいのじゃ」
「もちろんいいよ!」
命子もニコパと返した。
「ということは、私が龍神っていう勘違いはもう解けた?」
「うむ。ちょっと勘違いしちゃったのじゃ。でも、命子様たちはとても尊敬できるのじゃ。龍神様の寵愛を受けるのも納得なのじゃ」
「んっ! 是非もなし!」
「「使いどころが違う」」
マイブームを口にしたら、紫蓮と教授から同時にツッコミが飛んできた。命子は語感だけで言っている。
「イヨちゃんはステータスをもう知ってる?」
「うむ、知っておるのじゃ。教授殿、見せてあげてほしいのじゃ」
教授は一枚の紙を命子に渡した。
命子たちは顔を突き合わせて、イヨのステータスを見た。
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イヨ
17歳
ジョブ 見習い精霊使い
レベル 27
カルマ +7350
魔力 850/850
★スキル
【龍眼】※初期スキル、未完成と思われる。
【古代巫女セット】※一般ジョブと思われる。
・【マナ術】
※魔力を触媒にマナを使い、魔法現象を起こす。
・【魔力回復速度アップ 極小】
・【古代巫女の精神】
【精霊使役】※ジョブスキルから即座にスキル化した。
★ジョブスキル
【精霊魔法】
【仲間精霊学習力アップ 小】
【魔力回復速度アップ 極小】
【精霊使いの心得】
【精霊の飼い方】
・称号
【古代の巫女姫】
【龍の巫女姫】
【時を越えし者】
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「「「おーっ!?」」」
イヨのステータスを見た命子たちは、いろいろと気になって声が裏返った。
「こんなに可愛いのに、ワタシたちより年上デス?」
「そのようだね」
「ニッポンは昔から……」
ルルはすげぇと思った。
「なんでこんなに魔力量が多いんでしょうか? 私の目にはレベル25前後に見えるんですけど」
命子が教授に問うた。
「そこが面白いところの一つだ。現代人はジョブ習得と修行による身体強化に魔力が持っていかれているのは回復薬で証明されているが、それらにほぼ振り分けられないとこうなるのだろう」
「なるほど。あれ、でも魔力は使わないと増えないのに、どうしてこれほどあるんでしょう?」
「それについては2つの仮説が挙がった。1つは、魂魄の泉で長い間眠っていたからそうなった。1つは、その長い眠りの間に、精霊によって定期的に魔力を吸われたことで間接的に魔力消費をして魔力が鍛えられた。証明がなかなか難しいが、このどちらかだろうというのが我々の見解だね」
ふむふむ、と頷く命子の隣で、ささらが手をあげた。
「そもそもですが、なぜこれほどレベルが高いのでしょうか?」
「その原因については解明している。イヨ君は精霊石の棺の中で眠っていたわけだが、救助した直後にイヨ君の耳の中から採取した液体と、龍宮で私が採取したエリクサーの成分が酷似していたんだ」
「えー、いつのまに」
「つまり、イヨ君は龍宮のカプセルで眠っていたのとほぼ同じ状態にあったと考えられる。相違点は、あそこが各神獣のマナ因子を人為的に注入できたのに対して、イヨ君は次元龍のマナ因子のみだったことだろう」
興奮して早口気味の教授の説明を聞いて、命子たちは感心した。
「はえー。お主らは賢いのう……何を言っているのかさっぱりわからぬのじゃ」
「イヨちゃんもすぐにわかるようになるよ」
そんなふうに、命子たちはステータスに着目したが、紫蓮だけは別の視点で疑問をいだいた。
「教授さん。イヨさんはステータスを読めたんですか?」
それを聞いた教授は、とても嬉しそうに笑った。
「それもまた興味深い発見だった。イヨ君は、自分のステータスをマナ文字『オモイカネ』で読んでいるらしいのさ」
命子たちは、オモイカネとは綴った者の思いを伝える技法だとイヨが言っていたのを思い出す。
「そして、動物もステータスを理解できるのはご存じの通りだ」
「ということは、動物たちのステータスにはオモイカネが使われているってことですか?」
「可能性があるという段階だね。オモイカネを視認できるのはマナ進化して魔眼に慣れた者だけだから、証明できるのは少し先になるだろう」
「じゃあ、将来的には猫と文通できるデス!」
「言葉と鳴き声で意思疎通できるだけでも凄いですわよ」
「「「違いない」」」
イヨのステータスで話はそれたが、クエストの諸々のすり合わせをした。
「それじゃあ親御さんの方にも連絡を入れておくから」
「お願いします」
というわけで、命子たちは青空修行道場で軽く汗を流してから帰宅した。
その晩のこと。
ご飯をモグモグする萌々子は、眉毛をむむむっとしていた。
食卓を囲む家族がどこかそわそわしている。
いったいなんだ?
萌々子は、人形用のテーブルセットに座ってご飯ごっこをしている光子に魔力をちょっと与えつつ、家族の気配を探った。
『にゃんにゃんおっ! にゃんにゃんおっ! にゃん、にゃん、おーっ!』
ふいに命子のスマホが鳴った。
青空修行道場のクララたちが販売しているスマホ用着信ボイスである。グループで活動しているのだが、風見町で生まれたこの機運を商機と見るあたり、なかなかにしっかりしている。
命子は箸を置き、チラリとスマホを見た。
「馬場さんだ。ちょっとしっつれーい」
命子は家族に謝って、食事の席を立つ。
お姉ちゃんは相変わらず忙しいなー、と萌々子は思った。
「こちらGWの申し子こと羊谷命子です」
『あ、命子ちゃん。GWの馬車馬こと馬場翔子です。馬が3つ入ります』
「悲しきケロベロ馬ですね」
『三頭立てで良くない?』
そんなふうに開始された電話を終えて食卓に戻った命子は、両親に目配せする。すると、両親のそわそわ具合がアップした。
「なに、どうしたの?」
萌々子が尋ねた。
「なんでもないけど」
すっとぼける命子。
怪しい。
しかし、その怪しさの正体がなんであるかわからないまま夕食は終わり、夜も8時を回ろうという時間。
この時間帯の命子は、いつも庭で修行しているか、なにかしらの研究をしているのだが、この日は珍しくリビングで光子と遊んでいた。
怪しい。
萌々子はGWの宿題をしながら、そんな姉の姿をチラ見する。
その時、ふいに光子が何かに気づいて顔をあげた。
そして、エーックスと唐突にポージング。
「あっ、みっちゃん!」
ポーズを決めた光子は、ピューンと玄関に向かって飛んでいってしまった。
「モモちゃん! みっちゃんがフリーダムした!」
命子はそう叫んで椅子から立ち上がり、萌々子も慌てて光子を追おうとした。
と、2人が立ち上がると同時に、インターホンが鳴った。
すると、どうだろうか。
今にも走り出そうとしていた命子が、ストンと席に座りなおすではないか。
そうして、お膝に手を置いて、何食わぬ顔で言った。
「モモちゃん。お客さんだから出て」
「どういうこと!?」
「はわっ! も、モモちゃーん。お母さん忙しいから出てぇ!」
「えぇええええ!?」
台所でもママが言う。
命子が有名になってから、来客は大抵パパかママが出ているのに。
そんなパパも。
「お父さんもちょっとトイレに行きたいから、萌々子、出てくれるかい?」
「下手かよ!?」
どうやら、家族はなんらかのサプライズをしたいらしい。
しかし、光子がお出迎えに出てしまったので、萌々子はしぶしぶ対応することにした。
「誰だ? クララちゃんたちがサプライズお泊まり会しにくるとか?」
同級生である萌々子を通さずにお泊まり会は普通ならないだろうが、青空修行道場の中学生たちは命子とも仲が良いので、ありえなくはなかった。GW初日だし、絶好のお泊まりシチュエーションでもある。
絶対に驚かないぞ、とサプライズキラーの萌々子は思った。姉はサプライズを受けたならビックリしてあげようと思うエンターテイナーなのに。
ガチャリ、と玄関を開けた。
するとそこには、金髪碧眼の少女が満面の笑みで立っていた。
「モモコちゃん、お久しぶりなのれすぅ!」
特徴的な喋り方の少女。
そう、それはキスミアでお別れしたアリアだった。
「うそっ、アリアちゃん!? きゃー、どうして日本に!?」
一瞬にして女子女子エネルギーを爆発させる萌々子。
すかさずアリアの手を取り、2人でピョンピョンと飛び跳ねる。
その近くでは、光子と、アリアの精霊であるアリスが同じようにピョンピョンする。
そんな2人の下へ、隠れていた馬場やキスミアの一団がやってきた。
少女たちの再会をみんなで微笑ましく見ている。
「あ、シーシアさんもお久しぶりです」
「お久しぶりです。モモコさん」
シーシアはキスミアの国民的英雄の美女だ。
すでにマナ進化も終えており、キスミアでお約束のネコネコ進化をしていた。
「こんな所じゃなんだから、アリアちゃん、上がって上がって!」
「はいなのれす!」
萌々子はアリアを家に招いた。
上がったのはアリアとシーシアと馬場だけで、あとは警備に残る。命子の家は普通の一軒家なのでとても目立った。
「お姉ちゃーん! アリアちゃんが、アリアちゃんが来たよー! ……はうわッ!?」
玄関でサンダルを脱ぎながら叫ぶ萌々子は、喜色に富んだ声で全部言い終えてからハッとした。
絶対に驚かないと決めていたのに、完全にしてやられた。
しかし、それで拗ねている場合ではない。
アリアが来たのだ!
アリアと手を繋いでリビングに入ると、命子と両親が拍手でお出迎えした。
「ようこそ、日本へ! アリアちゃん、久しぶりだね!」
「メーコさん、お久しぶりなのれす! 活躍はキスミアまで届いてるのれすよ!」
「キスミアの活躍も日本に届いてるよ。最近凄いね」
「メーコさんたちが龍宮から魔法陣の知識を持ち帰ったかられすよ。そのおかげで、少しずつペロニャの遺産の謎が解けているのれす」
そんなふうに挨拶をしつつ、ソファ席に案内する。
すぐにテーブルにアイスティが置かれるあたり、歓迎の準備は整っていた。
「それでどうしてアリアちゃんは日本に?」
萌々子が問う。
「ニッポンの偉い人と会談するパパたちについてきたのれす。アリアがいても仕方ないから、アリアは先に精霊洞窟の見学に来たのれす」
「あー、ライバルになっちゃうかもしれないってこと?」
「そんなことはないのれす。キスミアの大臣は他国から精霊石をくれくれ言われて、過労死待ったなしなのれす。だから、ニッポンで手に入るようになれば、圧が分散されてとても助かるのれすよ」
「そうなんだ~」
政治の話をさらりとするアリアに、萌々子はとても感心した。
萌々子は気づかないが、風見町の中学生はこの町の経済にかなり影響を及ぼしていたりする。
「というわけで、モモコちゃんに精霊洞窟を案内してほしいのれす。ニッポンはいま大型の連休れすよね?」
「うん。いいよ。いつ?」
「明日は風見町を案内してほしいので、明後日はどうれすか?」
「それなら大丈夫だよ」
萌々子の予定は命子からリークされているので、アリアが提示したのも空いている日だった。
それから再会を喜んでお喋りを続けていると、萌々子が言った。
「アリアちゃん、今日は泊まっていくの?」
「にゃんと!」
お嬢様なのでその考えがなかったアリアはお尻をぴょんと浮かせた。
そうして、お付きのシーシアを上目遣いで見る。
「いえ、ご迷惑になりますから、ホテルに帰りましょう」
上目遣いは効かなかった。
「迷惑なんてそんなことないですよ。……でも、そっか」
萌々子は、羊谷家というより、警護の人の迷惑になってしまうことに気づいた。
しゅんとする萌々子に、今度はアリアが言った。
「それじゃあ、アリアの泊まっているホテルにモモコちゃんが泊まりにくればいいのれす」
「わぁー! お母さん、お父さん、行っていーい?」
「ご迷惑ではありませんか?」
両親は割と常識人なので、シーシアに尋ねる。
シーシアはそれならばと許可を出した。
「お姉ちゃんは来る?」
「私は明日の朝からイヨちゃんの所に行くから、モモちゃんだけ楽しんできて」
「そっか、わかった!」
こうして、萌々子はアリアと楽しい夜を過ごすのだった。
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