第二十二話 勇者がいないこの時代にこそ
日が頂点へ昇り、少し傾き始めた頃。
他の屋台に少し遅れて、孤児院の屋台が完成した。
柱を立てたり、工具を使って固定したりした簡素なものだ。
けど、立派なものを作れた気がする。
かなり重労働だったが、クルス教官の地獄特訓の方が辛すぎたから、思いの外楽だったな。
というか、これをシスターたちだけで作ろうとしてたのか……毎年大変だぞ。
カルミアさんも屋台を見上げ、手を組んで喜んでいた。
「まさか、間に合うだなんて……これもライゼル様のお陰ですね」
「みんなで頑張ったからですよ。子供たちも、飾り付けをやってくれましたし」
大きな布に書かれた、『くっきーやさん』の幕。
柱や売り場に張り付けられた色布。
花や、木で作った人形も並んでいて、他の屋台と比べても遜色ない出来だ。
「あとは、明後日の本番ですね。その時は俺も、売り子として手伝いにきます」
「何から何まで……お金も返せていないのに……」
「金のことは気にしないでください、本当に。子供たちの笑顔への、先行投資ですよ」
みんなもう朝のことは忘れている。
笑顔で祭り当日へ思いを馳せ、ポックルをもみくちゃにしていた。
……あ、ポックルのこと忘れてた。もう毛並みがボサボサだ。
「……あの、ライゼル様。お聞きしても?」
ふと、カルミアさんが呟いた。
どこか惚けているような表情で……どうしたんだろう。
「はい?」
「あなた様は……どうしてここまで、無償の施しをするのですか? さっき、町の人に聞きました。昨日も色んな方を助け回っていたと」
「あ……あはは。大した理由じゃないですよ」
「良ければ、お聞かせ願えませんか?」
手を組み、真っ直ぐな目で見つめてきた。
ん、ん~……神に仕えるシスターの手前、これを言っていいのだろうか。
罰当たりとか言われたら悲しいんだけど。
けどはぐらかすのも、申し訳ないし……話してもいいか。
「……俺、勇者になりたいんです」
本当の気持ちを口にすると、カルミアさんは目を見開いた。
「俺の故郷は、とある悪い組織に滅ぼされて……生き残りは、俺一人です。悲しくて、苦しくて、世界を恨んでいて……」
「それは……大変な幼少期を過ごされてきたのですね」
悲痛な面持ちで、俺の告白を聞いてくれた。
はは。まさかこんなに親身になって聞いてくれる人がいるなんてな。
「勇者がいれば、こんな事にならなかったんじゃないか。家族や故郷を失わずに済んだんじゃないかって、ずっと考えていました。……そこで思ったんです。俺が勇者になって、世界中で悲しんでいる人を、一人残らず救ってやるって。傲慢で、自分勝手で、子供っぽい願いですけど……唯一の、心の支えなんです」
本当に……こんな人助けで、真の勇者になれるとは思っていない。
けど、まだ勇者じゃない俺が一人でも悲しむ人を救えるなら、手を差し伸べたいんだ。
手をジッと見つめると、不意にカルミアさんに包まれた。
「なれますよ、あなた様なら。力及ばずですが……この地から、遠くお祈り申し上げております」
「っ……あ、ありがとう、ございます」
な、なんかすげー顔が熱い。
俺、こんなチョロかったっけ。
慌ててカルミアさんから手を離す。
あ、危ない。相手はシスターだぞ。こんな邪なこと、考えちゃ駄目だって。
「しかし、何故勇者に? 勇者でなくても、あなたの行動はとても立派なものだと思うのですが……」
あ~……確かに、そう思われても仕方ないか。
「勇者ってどういう時に現れるか、知っていますか?」
「えっと……世界に本当の危機が訪れる時、天が唯一人の勇者を選ぶのでしたよね。勇者降誕の祝によって」
さすがシスター。よくご存じで。
「カルミアさんの言う通り、人助けなら勇者じゃなくてもできます。でも本当の危機が訪れなくても、世界は苦しさと悲しみで溢れているんです。それなのに、勇者は存在しない……そんなの、おかしいでしょう」
今までいろんな苦しみを感じてきた。
悲しみに暮れ、心の拠り所を無くし、失意に沈む人を何人も見てきた。
俺が勇者を心の支えにしているように……みんなも、勇者を支えにしてほしい。
どんなに打ちのめされても、前を向こうと思ってほしいんだ。
「勇者がいないこの時代にこそ、勇者が必要なんです」
だから……いつもこう言うんだ。
俺は、勇者だって。
そして、いつかは俺が真の勇者に! ……本当になれるかはわからないけど。
黙って聞いていたカルミアさんは顔を伏せ、肩を震わせている。
ど、どうしたんだ……?
「か、カルミアさん。大丈夫ですか?」
「は、い……すみません。素晴らしいお話で……私、泣いてしまって」
カルミアさんは目元を拭い、顔を上げた。
あぁ……こんな俺の話を、笑わずに聞いてくれるなんて……初めてだ。俺の方まで泣きそうだよ。
「ッ……俺の告白を聞いてくれて、ありがとうございました。そ、それじゃあ俺、もう行きますね」
これ以上この人と話していると、本気で泣いちゃいそうだ。
子供たちからポックルを返してもらい、頭に乗せる。
もうへとへとみたいで、俺にパンチを食らわせる力も残っていないみたいだった。
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