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セタンタ 聖堂 『ミーナの講演会(前)』

挿絵(By みてみん)

 二日後、セタンタ聖堂準備室にて。


「……まったく……。余計なことを」

「……いやはや。驚きました」


 そこには声を上げる俺とモグリフ教授の姿があった。理由は明白である。何故なら──、


「ここで十分だったろうが。こんなでかい所を用意しおって」


 これである。普段モグリフ教授が講演を行っているのは、今俺たちがいる場所──貸し出しされた聖堂(教会)の空き部屋らしい。広さは、現代の学校の教室一部屋分と言えば分かりやすいだろうか。そこに十程の椅子を並べて、聞きに来た人間に話をしているのだとか。

 しかし、昨日の夕方になって、ダニエルの所のオリバーから「会長が講演用に聖堂を丸々押さえたそうです」と通達があったのだ。

 勿論驚いた。広さは勿論のこと、聖堂丸々など私用で借りたいともなれば相応の大金が必要だからだ。少なくとも一回の利用に金貨十枚(百万円)ほどは必要だろう。どう考えても他人の為にポンと出して良い額ではない筈なのだが……。


「どうせ十人も来ないだろうに。あの馬鹿者めが。無駄遣いも甚だしい」


 フン、と鼻を鳴らして憤るモグリフ教授であったが、そんな彼の心配を他所に講堂には続々と人々が集まりつつあった。


「おいおい。埋まりそうだぞ席が」


 ちらりと部屋の外を見てきたバレナがそんなことを言う。緊張するからやめてもらいたいのだが……。


「ち。どういう風の吹き回しだ。……あの小僧め、他にも余計なことをしおったな?……確かにあいつが抜かる筈もなかったか」

「……随分と、親しいんですね」


 モグリフ教授の口調が、可愛い弟子を悪く言う師匠のそれであったことが気になって、つい俺はそう口にしていた。そういえば、ダニエルからの相談を受けてわざわざ商会に足を運んでいるあたり、相当懇意にしているのではないだろうか?


「フン。ただの腐れ縁よ」

「…………そうですか」


 これ以上の話は引き出せなそうだ。俺は小さく息を吐き出すと、自身の話す内容を呟きながら再確認する。ええと、まず挨拶をして――、


「おいおいおい!満員じゃねえか!?」

「こりゃ間違いなく奴の手口じゃな」


 だからやめろっつうの。

 後から聞いた話だが、モグリフ教授の想像通りこの満員御礼もまたダニエルの仕業であった。彼は人を使って、『モグリフ教授の所に若い美女が弟子入りしてそのお披露目をするらしい』という噂を街中に広めて回ったのである。

 噂はあっという間に広まると人が人を呼び、気付けば教会を埋め尽くす程の人々が集まってしまったのだとか。


「やれやれ。これではいちいち馬鹿でかい声を張り上げにゃならん」


 声の通りを心配するモグリフ教授。彼の言うように、観客の数が増えれば増えるだけ、それらに声を届けるのも大変になる。声量によって、声が届く範囲は決まっているからだ。


「…………」


 少し思案した後で、俺は「あの……」と声を出していた。


「もし良かったら、お手伝いしましょうか?」

「いらん」


 即答である。


「そ、そうですか」

「貴様の手を借りることはせん。余計なことを考えるな」

「…………はい」


 こんなこともあろうかと用意した秘策があったのだが、そう言われてしまっては仕方がない。程なくして開始時間を迎えると、モグリフ教授は講堂へと出ていった。


「んっ、ん……」


 流石、何度となく講演を行ってきたベテランだけある。ざわざわと騒がしかった講堂が、彼の咳払い一つでそちらに注目し、自然と静まり返っていた。埋め尽くされた座席をぐるりと眺め、小さく頷くとモグリフ教授は口を開く。


「待たせたな。世界学者のモグリフである。んっん……。普段と勝手が違い、困惑している者もおるだろう!また、本日が初見というものもおるだろう!」


 ふー。と分かりやすく息を吐き出した後で、声のトーンを上げるとモグリフ教授はにやりとした目を客席へと向けた。


「言わずともわかっておるわ!ワシの弟子とやらが気になるんだろう!?」

「お、おお、そうだ……!」

「本当にいるのか!?」


 モグリフの言葉に再びざわめく講堂であったが、騒いでいる限り次の言葉が訪れないと理解して、すぐに再び静まった。


「くっくっ。慌てるな。ちゃんと聞いておればその答えはいずれ分かるわい!──では、本日の講義を始めるぞ!……そうさな、新規が多い故、懐かしいやつを話そうか!」


 そうしてモグリフ教授は声を張り上げて語り始めた。


「太古の昔!人々がまだ猿との間の子であった頃、この星に別の星が衝突した!

 衝突の衝撃は凄まじく、実に多くの生き物が死に絶えた!しかし、それはこの星に大きな変化を起こした……!」


「!」


 横合いでそれを聞きながら、思わず俺は口元を押さえていた。


──これ、クエハーのオープニングナレーションのやつだ!


 ゲームを付けると始まる、世界の成り立ちの説明。恐らく一言一句同じであろう。……と、するとまさか、あのナレーションを口にしているのはモグリフ教授だった……?


「後に“魔力”と呼ばれるその未知の力は、それを操る人間を超人へと変え、それを色濃く取り込んだ動物を魔物へと変えた!そして、魔力を取り込みすぎた人間は心を失い、力に溺れて人間の敵となった!人々はこれを魔族と呼び、畏れた!そして長きに渡る人間と魔族との戦いの歴史が始まったのだ!……ここまでは良いかの!?」


ふぁー!生ナレーションが聞けるとか!まさかのサプライズだよ!


 この後は、『フラリア暦三四一五年、魔族の長である魔王を倒すため、一人の青年が旅立とうとしていた……』という締めくくりと共に、


こちらのタイトル画面が表示されることとなる。ミーナになる直前はもうオープニングなどはスキップしてしまっていたため、実はこうして全文を聞くのは久し振りなのだ。故に、初心に返ったかのような新鮮な気持ちで俺はモグリフ教授の言葉を聞いていた。まるで、初めてクエハーをプレイした時の高揚感──ワクワクが甦ってくるかのようでこう──こう──、

ダメだ言葉に出来ないや。


「……聞き入ってるところ悪いのだけれど」


 と、ただのファンボーイと化していた俺の肩に、手が乗せられた。振り返るとウィズが、真剣な目でこちらを見つめている。


「私たちも準備を進めましょ」

「────あっ、そ、そうですね!すみません!」


 そうだ。今日の俺は講義を聞きに来た観客ではなく、講義をする側なのだから。

 そうしてちょいちょい教授の講義に気を取られながらウィズや皆と打ち合わせをすること一時間。


「さて、大陸の歴史について長々と話してきた訳だが、何か質問はあるか!?」


 と、モグリフ教授の講義が質問タイムに移ったようだ。


「あっ、質問!質問したい!」

「オメーが出てどーすんだよ」

「我慢なさい」


 質問したいことなど星の数程もある。控え室から飛び出しそうになる俺だったが、残念なことにバレナとウィズ、そしてリューカによって止められていた。


「だってぇ!歴史の謎が分かるかもしれないのにぃ」

「我慢ですわよミーナ。わたくしだってそこのお魚を食べないように我慢しているのですから」


 毅然とした態度で俺を制するリューカの目線の先には、ガラスの水槽の中ですいすいと泳ぐ魚の姿があった。今日の講演の為に市場で生きた魚を売ってもらったのである。


「うん。使うやつだから、終わるまでは食べないでね?もう一匹しかいないから」


 本当は四匹買っていたのだが、リューカに任せたら一日後には三匹いなくなっていた。曰く、ダイダラスの朝日焼きの話を聞いたら魚が食べたくて仕方なかったとのこと。なんて奴に任せてしまったんだ。


……よく考えたら微塵も我慢出来てないな?


「さて、それでは良い頃合いなのでそろそろいくとするか!」


 と、こちらがごたごたやっている間に、質問タイムも終わってしまったのだろう。モグリフ教授がそんなことを口にした。


「お前たちも散々焦らされて我慢の限界だろう!──弟子について、だったな!ちょいと待っとれ」


────来る。


 ふわふわとした気分に留まっていた緊張感が一気に押し寄せ、額に汗が浮かぶ。

 俺の様子など構わずいよいよ控え室に顔を覗かせたモグリフ教授は、


「出番だぞ。来い」


 と、ぶっきらぼうに口にして即座に踵を反した。とことんこちらのことなどお構い無しである。


「っあ、は、はいっ!」


 慌ててその後を付いて出る。


「頑張ってね」

「きばれよ~」

「リラックスですわ!」


 ウィズたちからの声を背中に受けて講堂に出ると、小さな部屋から一気に世界が広がった。


「────」


 来たときにもその空間は目にしていた筈だ。しかし、壇上から見回す光景は──満員の観客で埋め尽くされたそこは、まるで見たことのない別世界に迷い込んでしまったかのような印象を与えてくる。気付けば俺は、息を飲んでいた。


「……ほれ。挨拶せい」


 隣に立ったモグリフ教授が、またしてもぶっきらぼうにそう言い放った。……俺を紹介してくれるつもりはないらしい。


……それならそれで問題はないけどな。


 こほん。と咳払いをした後で、俺は広い客席へと改めて目を向けると口を開いた。


「始めまして。ご紹介に預かりました。世界学者見習いをさせて頂いている、ミーナと申します」


 ぺこり、と頭を下げると、会場からはざわめく声が聞こえてくる。どよめきと困惑の声が殆どだろう。まあ、突然モグリフ教授の弟子が生えたんだから無理もない。

 目を向けると、モグリフ教授はフン、と鼻を鳴らした。


「後の時間はこやつが話をする!ではな!」


 それだけ口にして、控え室へと退散していく。一人残された俺は、教授を見送るついでに控え室へと目を向けた。入り口に控えるウィズが、こくりと頷く。──よし。


「では、ここからの時間は私が一つお話をさせて頂ければと思います」


「「!?」」


 俺が話を始めるのと同時に、客席からはざわめきが起きた。うむうむ。予想通りの反応だ。なら、上手くいってるな?


「今私は声を抑えて喋っていますが、ちゃんと声が届いておりますでしょうか?」

「き、聞こえるぞ!?」

「なんでだ!?」

「まるで隣にいるみてぇだ」


 遠くの席からそんな声が聞こえる。そう。何ら声を張り上げてもいないのに、最奥の席にまで変わらぬ声量で俺の言葉が届いているのである。皆の困惑を受け取ると、俺は満足して頷いた。


「これは、ちょっとしたイタズラです。──ウィズさん、お願いします」


 俺がそう口にすると、控え室からウィズが歩み出た。俺の横に立つと、同じように観客に頭を下げる。


「ウィズです。宜しくお願いします」


 その声も一律に耳元に届けられ、観客たちが一層ざわめく。では、そろそろ種明かしをば。


「実は今、彼女に魔法を使ってもらっているんです。風魔法である、【ライトウィンド】。簡単に言えば、ちょっとした風を起こす魔法ですね」


 そう口にしながら、ウィズの手へと目を向ける。そこには、緑に輝く魔力が渦巻いていた。


「この風魔法に私の声を乗せることで、風の届く範囲に私の声をお届けすることが可能になる、というわけです。ふふ」


 悪戯っぽく笑いを含ませた後で、困惑する観客へと今回の意図を説明する。──と、皆がこちらに注目している中、最奥にて丁度よくそっぽを向いている小太りの男が目に入った。あまりに遠く故、モグリフ教授の講義がよく聴こえずに飽きてしまったのだろう。

 退屈そうに欠伸をしている男に狙いをつけると、ウィズに耳打ちする。


「──ええ。分かったわ」

「それじゃあ、宜しくお願いします。え~と、ごにょごにょ」


 囁くような呟きは、前列の人間であっても聞き取れず、顔をしかめている。そう。これは、たった一人の為だけの呟きなのだ。


『この魔法を利用することで、貴方だけに声を届けちゃうことも出来るんですよ』

「っ!?」


 耳元で突然囁かれ、男は驚いて跳び跳ねたようだ。キョロキョロしたところで、彼以外に俺の声が届いた人間はいないのだ。慌てている男へと目を向けると、ピースサインを作ってウィンクする俺。


「────っ」


 しかし、次の瞬間彼はふい、とそっぽを向き直してしまった。あれま。やり過ぎたか。

 こほん、と咳払い一つして、俺は本題について口にすることにした。


「と、まあ、魔法は戦闘だけでなく、こんな使い途もあるのです。と、いうわけで、頂いたこの時間で、私は“身近で使える魔法”について話をさせて頂きたいと思います」


「身近で使える魔法……?」

「魔法って言ってもなぁ……」


 当然ながら、観客たちの反応は困惑の色を強く残したままであった。この世界に魔法があることは知っているが、自分たちには関わりのないもの。と、そういった様子だ。残念ながら、そんなことはない。


「魔法、と急に言われても皆様あまりピンときていないご様子。……ですが、この世界に生きる以上、誰しも魔力の恩恵は受けているんですよ」


 そう切り出すと、俺は予定していた話を始めた。


「まず、何処の家庭にもあり、今や生活の要となっているトイレ。台所の水道に、調理用コンロ。これらが魔石を利用したものであることはご存知でしょうか?」


 流石にそれは周知の事実故、観客たちも頷いた。俺は満足して言葉を続ける。


「それに、手紙を送ったり自己の証明として使用されるマジックストーン。あれも人間の持つ魔力を利用したものです。こうして考えれば、そもそも我々の側に魔力、魔法に類する力の恩恵は常に存在しているのです」

「しかし、魔法となると途端に敷居が高くなってしまう。魔法は魔法使いが使う恐ろしく攻撃的なもの。その程度の認識になってしまうのです」


 ゲームのクエハーにおいても、魔法を使う一般市民は存在しない。魔法そのものが秘匿された技法であるのならそれもむべなるかな。なのだが。


「実際問題、魔法というのは簡単なものから難しいものまで幅広く存在しており、簡単なものであれば習練さえ重ねれば誰でも使用することは可能なのです」


 セタンタには宮廷魔導師団が存在しており、そこでは魔法使いを募集している他、魔法の訓練や指導なども行っている。魔法使いの母数が年々減少している為に、少しでもその数を増やしたいのだろうが、参加者は殆どいないとのこと。クエハーで宮廷魔導師団の本部を訪れた際に聞いた話だから間違いないだろう。


「けれどどんなものか分からなければ、そもそも興味を持つことも難しいでしょう。……そこで」


 そこで今回の講演の主題なのである。


「魔法を身近に感じて頂く為に、色々な準備をして参りました。是非聞いて頂けますと幸いです」


 そうして頭を下げた後、ざわめきが落ち着くのを待って俺は再度口を開いた。


「では早速、身近に使える魔法を紹介したいと思います。宜しくお願いします」

「はいは~い」


 次いで壇上に姿を見せたのは、ギャル衣装のスルーズであった。宣教師バージョンで良いのではないかと言ったのだが、教会に所属している彼女が関係者に見付かると、何かと面倒なのだとか。それじゃあ仕方ない。


「う~重い重い……」


 大きなかぼちゃと包丁、まな板を手にした彼女は、それを講義用の机の上にどん。と置いた。(勿論教会に許可は取ってる)


「はい。かぼちゃです。お料理をされる方であれば、生のかぼちゃの硬さは存じられているでしょう。ほんとーに硬い」


 俺の言葉に、客席の女性陣がうんうんと頷く。


「ならば茹でて柔らかくするしかないのですが、大きいかぼちゃだとそれも大変ですよね。……誰か切ってみたいという方はいらっしゃいますでしょうか?」


「──は、はいはい!」

「…………よし!俺が!」


 急に話を振られて困惑したものの、ややあって、力自慢であろう男たちがこぞって手を上げ始めた。


「ん~。では、そこの人」


 俺はその中の一人に目を向けると、指名して壇上へと上がらせる。いかにも強そうな筋骨粒々の男は、「よし、俺に任せておけ」と鼻息荒く上がってきた。


「こいつをぶったぎればいいんだな……!?うぉらあッッ!」


 そうして無造作に包丁を掴み上げると、かぼちゃへと叩き付けるのだが──、


「なんだこりゃ、か、かてぇ……!?」


 熟していないかぼちゃの余りの硬さに悲鳴を上げることとなった。下手に包丁を食い込ませてしまったが、それ以上刃が進まず、引き抜くことさえ困難になって数分の格闘の末に退散することに。


「いや、こいつは硬いぞ。嘘じゃねえ!丸太を切ってるみたいだった」


 欲しい反応をくれた男に感謝しつつ、俺は口を開いた。


「はい。どれだけ美味しくとも、このかぼちゃを切ることは苦難の一つとされています。……そこで、支援魔法の出番です。スルーズさん。お願いします」

「はいさい。【サークルアタッカ】!包丁よ強くなれ!【ルソフ】!かぼちゃよ弱くなれ!」


 スルーズの声に呼応するように、魔法が包丁、そしてかぼちゃへと掛けられる。その様を眺めて俺は頷いた。


「はい、これだけです。では、試してみましょう」


 言い終えると同時に、俺は包丁を手に取るとそれをかぼちゃへとあてがった。


 ────すとん。


 その瞬間、まるで豆腐でも切るかのように、重力に負けた包丁によって硬かった筈のかぼちゃは真っ二つになっていた。


 当然、客席からはどよめきが起こる。


「はい。魔法の力で、あの硬かったかぼちゃもご覧の通りです」


 ドヤ顔を浮かべながら黄色い断面を皆に見せるように差し出すと、わっ、と拍手が起こった。

 どうやら皆、魔法の力を信じてくれたらしい。まあ俺のこの細腕がさっきの男よりも強い筈はないので、力業でないことは一目瞭然なのだが。

 ちなみに、皆には言っていないが、スルーズにはテーブルにも魔法を掛けて貰っている。【サークルディフェンド】これを重ね掛けして防御力を最大に上げているので、うっかり強化した包丁が当たっても傷付く心配がないという訳である。万一教会の備品に傷なんてつけたらどんな目に遭うか分かったもんじゃないからね!


「ありがとうございます。スルーズさん、こちらの魔法の習得は難しいものでしょうか?」

「え~?いやいや。教会で教えを請えば、人によっては数ヵ月で覚えられると思うなー」


 スルーズの言葉に、「「おお……」」と感嘆の声が客席から漏れ聞こえた。すかさず俺は次の質問を口にする。


「でも、魔法をそんな動機で覚えていいのか?なんて声もありますよね。それについては如何でしょう?」

「あーね。気持ちは分かるよ。なんか魔法って神聖なものっぽい感じするし。でも国から魔法使える人間を増やせってお触れがでてるくらいだし、どんな理由でもいいと思うケド。少しでも生活の助けになるなら国だって嬉しいっしょ」


 重ねられたその言葉に、観客たちはざわざわと声を出し合う。しかしそれは当初の困惑時よりも、期待や希望に満ちたものであった。

 魔法を楽しんでいる人々の姿に、俺はクエハーに初めて触れた時──、この世界に来て初めてレオンの技を目の当たりにした時の感動と興奮を思い出していた。思わず弛みそうになる頬を押さえて、真面目な表情を作る。まだまだ。まだ講義は終わってないからな。……でも、上々だ。


 掴みに確かな手応えを感じると、俺はぱん、と手を叩いた。次への切り替えの合図だ。


「はい、スルーズさんありがとうございました!それでは次に行ってみましょう」

「ありがと~」


 観客に手を振ると、切れたかぼちゃを抱えてスルーズは退散していった。そして交代で、大きな影が控え室から姿を見せる。


「お待たせしましたわ~!」


 大きな水槽を抱えながら姿を見せたのは、リューカであった。


「ましたわ~」


 何も入っていない水槽をちゃぷちゃぷ揺らしながら、リューカが、そこに。


「────えっ」



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― 新着の感想 ―
[一言] 美味しかったのかな……美味しかったんだろうね。
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