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鋼鉄の炎



「自己紹介させてくれ、俺はこのパーティ『鋼鉄の炎』のリーダー、ジョアンという」

斥候(スカウト)職のデルバーだ。パーティの目と鼻をやってる。で、この子がうちのメイン火力――」

「魔術士のミリィです。あの、危ないところを助けていただいてありがとうございました」


「召喚術士のコタローだよ。間に合ってよかった、周りのこいつらは俺の召喚獣。で、パーティ名はまだ無いんだけど、もう一人向こうの茂みから矢を放ってたのが――」


「アシュリーよ。元気そうね、ジョアン」


「おお、『必中』のアシュリーか! 久しぶりだな!」


 茂みの奥から姿を現したアシュリーが、盾役の男に声をかける。

 どうやら、アシュリーとこの盾役のリーダー、ジョアンって人は顔見知りみたいだ。


「知り合いか、アシュリー?」

「『鋼鉄の炎』はギルドでも結構有名なパーティよ。斥候(スカウト)のデルバーが獲物を探して、ジョアンが盾でモンスターの攻撃を防いでるうちに、ミリィの魔術が獲物をどーん。この連携で、この辺じゃ主を除いて相手になるモンスターはいないわ」


「……の、はずだったんだがなぁ」


 デルバーが、気まずそうに頬をかいた。


「いきなりモンスターの群れに遭遇だ。こっちが気配を察知したときには、もう遅かった。なんと言ってもあの数だ。最初のウルフ一・二匹を振り切る間に、続々と後が続いてきやがったよ」


 なるほどね。

 あの群れは一つだけじゃなく、複数の群れの集合か。

 ボアオーク、ハウンドウルフ、ポイズンバイパーなんて生態の違う三種が行動を共にするとか、普通あり得ないもんな。

 単発の高火力で大物も倒せる『鋼鉄の炎』だけど、あの数相手だと分が悪いか。


 こっそり『鑑定』してみよう。


名前:ジョアン

種族:普通人

2/4

装備:蟻の盾(1点以下の攻撃を無効化する)


名前:デルバー

種族:普通人

1/2

・探知


 おお、デルバーさんは『探知』持ちか。斥候って言ってたもんな。

 『奇襲』を無効化して罠を感知したりするこのスキルの有用さは、同じく『探知』を持つデルムッドにお世話になりっ放しの俺たちが一番知っている。

 ジョアンさんはHP高いな。さすが盾職。

 持ってる盾はキラーアントの素材で作ったものか? 甲殻1と同じ効果がついてる。


「災難だったわね、ジョアン」

「助かったよ、アシュリー。そちらの兄さんのおかげで、どうにか俺たちも生き延びて帰れそうだ」


 周囲を散策し終わったウルフたちが帰ってくる。

 この辺に他のモンスターの臭いは無く、ようやく安全が保障されそうだ。


「とりあえず、素材を回収した後は、俺たちは街に帰るつもりです。結構な稼ぎになりましたし。『鋼鉄の炎』の皆さんはどうされるんですか?」


「我々も戻ろうと思う。回復薬が底を尽きた。ミリィの魔術はまだ使えるが、もう一度大きな群れに出くわしたら相手にできる余裕が無い」


 ジョアンさんが答え、それにデルバーさんとミリィが頷く。

 道中の安全のために、合同で街に戻ることにした。盾職のジョアンさんが護衛してくれるのは頼もしいし、『鋼鉄の炎』にしても俺が治癒術を使えることを知るとぜひ同行を、と頼まれた。


 この群れの素材はどうするか、と言う話になったが、助けてくれたお礼に、というジョアンさんの申し出に対して、俺とアシュリーはもうずいぶん獲物を狩っている。

 山分けでいいよ、と言うととても感謝された。



*******



 何とか日の傾く前に、トリクスの街に帰ってこれた。

 さっそく冒険者ギルドに向かい、買取査定を受ける冒険者の列に並ぶ。


 俺たちの順番になると、受付のファリナさんは意外そうな顔をした。


「あれ? コタローさん……たちと、『鋼鉄の炎』の皆さん?」


「うん、ちょっと一緒になってね。ファリナさん、アシュリーのバッグに入ってる獲物なんだけど、『鋼鉄の炎』の人たちの分も入ってるから、別に計算してもらっていいかな?」


「それは構いませんけど……珍しい組み合わせですね。森の中で合流したんですか?」


 ファリナさんの談笑に答えたのは、ジョアンさんだった。


「そうだ。恐らく昨日と同じ大移動らしき、モンスターの群れに遭遇したところを助けてもらった。ファリナ、キラーアントの縄張りまでポイズンバイパーの群れが来ていたぞ」


「……本当ですか、それ?」


 ファリナさんの顔色が変わる。

 見過ごせない情報、とでも言うように緊迫した面持ちでジョアンさんに確認を取る。

 ジョアンさんも、真剣な表情で再度頷いた。


「『鋼鉄の炎』からの報告ですか……見間違いじゃ無さそうですね。わかりました、皆さん、申し訳ありませんが裏手のほうまでお越し願えますか?」


 アシュリーも、何かに気づいているようだ。

 わけがわかっていないのは、俺一人。言われるままに、カウンターから離れギルド奥の事務スペースへと移った。




 結論から言うと、森の生態系がおかしいらしい。


「普通、キラーアントの縄張りにはポイズンバイパーというモンスターは踏み込まないんです。というのも、キラーアントの甲殻の前には蛇の牙が通らず、攻撃手段の毒が通じないからですね。ポイズンバイパーは、キラーアントのエサなんです」


 キラーアントは、ステータス上『甲殻1』という能力を持っている。

 カードの表記だから他の人には知りえないかもしれないが、この能力は1点以下のダメージを無効化する。

 ポイズンバイパーのスタッツは1/2だから、ゴブリンと同じくキラーアントに一方的に刈り取られる存在、というわけだ。


「理由は調査してるのか、ファリナ?」

「おおよそは。近々、一般冒険者にも発表されると思います」


 ジョアンさんの問いかけに、ファリナさんが頷く。

 ファリナさんは口外禁止だと言い含めて、続きを口にした。


「森の毒系モンスターが出る区域の向こうには、山脈があります。その山脈に、とあるモンスターが現れました。森の中の大移動はそのモンスターに住処を追われた種が、積み木倒しのように生態系を狂わせたんだろうと推測されています」


「ファリナさん。その、モンスターってのは?」




「――『ドラゴン』です」








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