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流星の娘



 天を舞う、知性を持つドラゴン。

 暴君オルスロートは、その本性を現し、帝都の民たちの前にその姿を見せた。


 崩壊した帝城と、宙を舞う竜の存在に、帝都の街の方からは民衆の騒ぎ出す気配がここまで届いている。

 民衆からすれば、話題になっているフレアドラゴンが帝城を襲撃しに来たようにも見えるかも知れない。


 けれど、それを否定するかのように、上空から低い声が遠く響いてきた。


『傘下の者どもは瓦礫に潰れたか……これだから、ヒトなどと脆弱な生き物は……まぁ、良い。どうせすべてが従うとも限らぬ、貴族など代わりはいくらでも仕立てれば良い。我こそが「帝国」である』


 オルスロートがエルダードラゴンの姿に戻ったせいで、議事堂が崩壊して参列していた貴族たちが生き埋めになっている。


 中にはオルスロートを知って追従している貴族もいたろうが、ゲルトールさんは「自覚なく所属している」多数派だと言っていた。

 大部分は、オルスロートの存在を知らない貴族たちだったのだろう。


「完っ全に、貴族を、人を手駒扱いしてやがるな……!」


 代わりの貴族はまた叙爵すれば良いとでも思っているんだろう。

 人材の育成に気を遣っておらず、帝国全体の執政官不足を招いていたオルスロートの本性が出ている。


 使い捨てなのだ。奴にとって、人などというものは。

 しょせん、自分の与えた役割をなぞる『駒』に過ぎない扱いだ。


「コタロー、早くグラナダイン殿を召喚してくれ。まずは奴を地に墜とさねば、話にならん」


「いや、無理だ、ナトレイア。意味が無い」


 ナトレイアの意見に対して、首を横に振る。


 俺たちを崩落からかばったアースドラゴンの様子がおかしい。

 たぶん、オルスロートの『覇者の威圧』の弱体化(デバフ)がかかってるんだ。


 能力発動後に召喚したアースドラゴンが対象になっているということは、奴の能力は効果時間が続く限り、敵意を持つ対象なら好きに拡張できるということになる。

 発動時に対象が固定される魔術とは違う、スキルの特性か何かかもしれない。


 奴の弱体化のマイナス修正は、HP、攻撃力ともに2点ずつ下がる。

 2/2のグラナダインだと喚んだ瞬間にHPがゼロになってカードに戻るし、グラナダインの飛行阻害能力は、本人がカードに戻ると解除されちまう。


「クリシュナと所長を残してきて、正解だったな……」


 こんなスキルを使われるとは思わなかったが、HPの低いクリシュナとエルキュール所長がもしこの場にいたら、スキルの効果だけで死んでいた可能性がある。

 そうならなかっただけ、幸いか。


「それに、ナトレイア。あいつを地上に叩き落としても、お前の攻撃力も下がってるぞ。身体に力は入ってるのか?」


「む、それは、確かに……」


 ナトレイアの素の攻撃力は2だ。2点下げられてゼロになっている以上、『精霊の一撃』は意味がない。ゼロを倍にしてもゼロだからだ。

 倍加能力は強化(バフ)とはとても相性が良いが、弱体化(デバフ)にはすこぶる弱い。


 そして、問題がもう一つ。


『……いつまで、その地竜の陰に隠れているつもりだ? 何もせぬなら、遠慮無く叩き潰すぞ?』


 エルダードラゴンの咆吼が響き渡る。

 初手でダメージを与えた俺の魔術を警戒してくれていたようで嬉しいが、これ以上は無理だな。


 欲を言えば、このまま警戒し続けて欲しかった。

 なぜなら――今の俺は、さっきの『パイロニックスピア』で魔力が空っケツだ。

 アースドラゴンを召喚したノアレックさんも、残りはほぼ無い。

 このまま攻められると、回復する時間が足りない。


「味方の攻撃力はのきなみゼロ、相手の防御はアースドラゴンより堅く、俺もノアレックさんも魔術が使えない……さすがに、ちっと難しいか、こりゃ?」


「――ご安心を、お館様」


 俺のそばに、音も無く現れる陰が一つ。

 ハンジロウ! 帝城が崩壊しても、やっぱりお前は無事だったか!

 召喚枠が埋まったままだから、カードに戻っていないとはわかっていたけど……


 ハンジロウは、すっと空の一方向を指し示した。

 機を同じくして、上空のオルスロートも同じ方角に目を向ける。


「――お館様のしもべが、多少なりとも時間を稼いでくれます。その隙に、回復なされませ」


「フレアドラゴン部隊!」


 そう、ハンジロウの指し示す先の空には、急速に巨大化していく五つの陰。

 帝都付近まで接近していた、五匹のフレアドラゴン部隊だ。


 足の遅いアースドラゴンを置いて、オルスロートの姿を見て急行してくれたらしい。

 五匹のフレアドラゴンの内、先頭の竜が吼える。


「シギャアァ――――――――ッ!!」


『知性無きトカゲどもが……』


 オルスロートが翼をはためかせ、接近する群れに対して迎撃する態勢を取る。

 オルスロートはブレス攻撃を持っていない。『覇者の威圧』でない限りは、直接攻撃でしかフレアドラゴンを倒せないのだ。


 それを理解しているわけでは無いだろうけど、フレアドラゴンの群れはオルスロートに接近するや否や、その爪も牙も振るうことはしなかった。


『――ぬぅっ!?』


 五匹一斉の炎のブレスによる、目くらまし。

 上空に広がる炎にオルスロートが怯んだ瞬間、フレアドラゴンたちは散開し、個別の軌道を取った。


 それで良い。

 フレアドラゴンたちも4/4にまでスタッツが下がっている。攻撃力は元より身体能力も落ちている上、そもそも万全の状態でもオルスロートの『肉壁4』『甲殻4』のコンボを打ち破れない。


 気を引いて時間を稼いでくれるなら、俺たちの魔力が回復できる。


 オルスロートの都合8点分の防御を打ち破れるのはアースドラゴンくらいだが、それも『覇者の威圧』下だと打点が7点に下がって通じない。

 となると、


「ハンジロウ、創国の王剣(アルストロメリア)を使えるか?」


「……難しいかと存じます。あの剣はそれがしのものよりも長く、ひどく重うございます。使えと言われれば使いますが、それがしの技が十全に使えるとは限りませぬ」


 そうなるよな。

 ハンジロウの剣は片手剣で、アルストロメリアは両手用の長剣だ。

 身軽なハンジロウのスタイルにはまるで合わないだろうし、重すぎる武器を持たせるのは鉄棒を持って振りかぶれと言っているのと変わらない。


 アルストロメリアが所持しているだけで『貫通』を付与してくれるんなら、いくらでも手はあるんだが。残念なことに付与条件は「装備」だ。それで攻撃したときだけしか、『貫通』能力は発揮されない。


『ふん――目障りな獣風情がぁッ!』


 オルスロートの一撃が、バラバラに飛ぶフレアドラゴンの一体を捉える。

 12点の打撃の前に、フレアドラゴンは一撃でカードに戻った。


「コタローくん……勝てるのか? あんな、強大なバケモノに……」


 ゲルトールさんが、肩にオルグライトさんを支えながら俺に尋ねてくる。

 さすが、鍛えていそうなだけあってデバフ下でも動けるのか。


「悔しいけど、あれは人間の手が届く相手じゃない……帝国の支配は、くつがえらないよ……」


 オルグライトさんも、調子は悪そうだけれど生きてはいる。きっと、頭の中で対抗する手段を必死に考えてくれてるんだろうな。


 今まで好き勝手やってくれた、あの暴君に一撃かましたい。倒したい。

 その気持ちは、みんな同じだ。


 だから、そんな二人に、俺は胸を張って言った。



「勝てますよ。――今は、どの手で勝とうかを考えているところです」



 俺の言葉に、ゲルトールさんたちは意表を突かれたかのように目を見開いた。

 やや置いて、ぷっ、と二人が噴き出す。


「はは、まったく……頼もしいな、きみは」


「知性を持つ竜、伝説のエルダードラゴンだろ? 本当に、何とかなるのかい?」


「問題無いですよ」


 強敵とは何度もやり合った。

 絶望しろと言わんばかりの窮地は、いくらでもあった。

 ドラゴンは二度倒したし、今では分身として召喚することもできる。


 今までに比べたら、あんな相手は強敵でも何でもない。


「なぁに。あんなの、何か偉そうなトカゲが空飛んでるだけです」


 呆然と、二人が言葉の真意を測りかねたように俺を見る。

 別の笑い声が漏れるのが、周囲から聞こえた。


「ぷっ、あはは! そうね、あんなの、デカいトカゲだわ」


「まぁ、不思議と負ける気はしないな」


「ほんと、あんたら大物やねぇ。ウチまで気が抜けるわ」


「お館様ならば、造作も無きことかと」


 仲間たちが、そう言ってくれる。誰もが勝利を信じて疑わない。

 唖然と口を開くゲルトールさんたちを振り返り、俺は尋ねた。


「――知ってました?」


 人間なら、手が届かないんだろうな。人間を、あいつは支配してきたんだろうな。

 でもな。こちとら、とっくに人間辞めてんだ。

 辞めざるを得ないように、覚悟させたのは、お前だ。――オルスロート。


「俺って、実は『神様』みたいなもんらしいですよ? トカゲなんぞに威張られる筋合いはありませんよ」


 ……『魔法(エクストラルール)』を、ナメんじゃねぇ。


「バカを言うな!」


 ドン、と瓦礫の一部が弾け、その下から人影が這いずり出てくる。

 起き上がったその人物は、俺たちに縁の深い人物だった。


「幾千の時を生き、比類無き力を誇る竜種の王だ! オルスロート帝こそ、この帝国の真の帝王だッ!!」


「コーネリアス父上……」


 アシュリーの父親。アルクラウン公爵家当主、コーネリアスだった。


 自前の魔術で崩落を防いで生き延びていたのだろうか。その姿はボロボロで、顔色には生気もあまりない。魔力も切れているのかもしれない。


 けれども、その瞳だけは狂気に満ちて、オルスロートの絶対の武力――いや、暴力こそを真の支配者だと信じ切っているようだった。


 息を荒げ、目を血走らせる老いた公爵に、アシュリーがゆっくりと歩み寄る。


「父上……いえ、アルクラウン公爵。あなたの、力があれば何をしても良い、という姿に、家の者たちは従わされてきました。いいえ、あるいは、帝国の貴族たちすべてが」


 アシュリーが振り返り、俺に手を差し出して求めてくる。

 俺は、回復した魔力でカードから喚び出し、「それ」を手渡す。


 アシュリーの愛弓となった、『流星弓、グラナート』を。


「誰かと思えば、アシュリーか! おのれ、おとなしく駒として朽ちておれば良かったものを! 力なき者は、力を持つ者に利用されることこそが幸福なのだ! どこまでも役にも立たぬ出来損ないが! やはりワシの手で……」


「――その『力ある者』は、力なき者とやらに、地に墜とされることだってあんのよ!」


 そう叫び、アシュリーは天空に向けて弓を引き絞る。

 ……まさか!


「伝説の弓聖から受け継いだ、この弓術! とくと見ろってのよ! ――本当の力を示しなさい、『流星弓、グラナート』ッ!!」


 解き放たれ、大空に吸い込まれる一本の矢。

 そうして、俺たちの予想通りに、天から無数の光の矢が降り注ぐ。


「墜ちろッ、――クソドラゴンッ!!」


『な、何だ、これは! 我が――』


 降り注ぐ光の矢に翼を射貫かれ、オルスロートのその巨体が、大地に叩きつけられる。

 地面に縫い止められあがくオルスロートを見据え、アシュリーは、ふん、と勢いよく鼻を鳴らした。


 グラナダインの弓術――飛行阻害能力!

 あいつから弓を教わってたのは知ってたけど、グラナダインの能力を再現するほどの弓術を身につけてたのか!?


 コーネリアスだけでなく、ゲルトールさんやオルグライトさんまでもが呆然と、悪竜が墜ちるその光景を見つめる中、アシュリーはぼそりと言った。


「あー、成功して良かった。十回に一回くらいなのよね、これ成功するの」


 それを言わなきゃ格好良かったのになぁ。

 まぁ、周りはそれどころじゃなくて、耳に入ってないみたいだし。良いか。


 地に墜ちてもがく支配者の姿に、愕然とひざをついてくずおれるアルクラウン公爵。信じるものが地に墜ち、幻想が崩れたのか。

 何もかもを失ったような、その姿は見るものの哀れを誘う姿だった。


『くそっ! この、余が、地を這いずるなどと――』


 さて、後は――




 あのトカゲ、どうやって始末してくれようかね?









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― 新着の感想 ―
[良い点] 「あー、成功して良かった。十回に一回くらいなのよね、これ成功するの」 ↑ 今回のThe 理不尽☆ミ(≧∇≦)b 『魔法(エクストラルール)』になる前からグラナダインはこれを完成させていたと…
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