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確認と準備



 コームナスに帝城見取り図の空白をある程度埋めてもらい、現皇帝の幽閉されている部屋の場所も詳しくわかった。


 一度俺たちに加担した以上、彼は泥沼にはまることになる。

 残された道は、現皇帝に取り入って、オルスロートに首謀者は『父』の公爵その人だと口裏を合わせてもらうしかないのだ。


 この取引を断るなら――

 皇帝の居場所はオルグライトさんが割り出していた。俺たちは勝手に帝城に忍び込んで現皇帝を救出し、オルスロートと対峙したなら情報源はコームナスだと話す。

 それだけだ。


 どのみち失態がバレるなら、まだ生き延びる道を選ぶ。

 その証左として、帝城見取り図の補強という協力を引き受ける。


 けれど、今度はその協力した事実がコームナスを縛る。

 彼は、「公爵に指示されて皇帝の脱出を支援した」という体裁を取り繕うしか、つじつまを合わせる道が無いのだ。


 空白の埋められた見取り図を手に、オルグライトさんが満足げに言う。


「ご苦労さま。さ、閉じ込められているのも窮屈だろう。屋敷に帰ると良い、コームナスくん」


「い、いいのか、ハーマン伯爵……俺を、解放するつもりか?」


 戸惑いながら、オルグライトさんを見上げるコームナス。

 もちろん、とオルグライトさんはうなずいた。


「――だって、この見取り図に記入してしまった以上、きみは『きみの意志で僕らに協力した』ことになる。もう、お父上はきみの敵だろう? 僕らのことを報告するだなんて、思っていないさ」


 報告すれば、確実にアルクラウン公爵から処罰されるよ――

 と、暗にほのめかしている。


 処罰されたくなければ、公爵を蹴落とすしかない。

 コームナスは、もはや自分の身が可愛ければ、公爵に服従するフリをしたまま敵対するしかないのだ。獅子身中の虫になる、ってとこか。


 公爵家の権力を使って、俺たちの派閥を潰そうとでもしようものなら、俺がドラゴンを召喚して抗戦するだけだしな。


「そんなわけだから、実家に帰ってもらって結構だよ。後は僕たちがやるから。……なに、悪いようにはしないよ」


 オルグライトさんの提案を受けて、ゲルトールさんが馬車を用意しよう、と部屋を出て行く。


 コームナスは愕然と肩を落としたまま、絶望の瞳で床を見てうなだれていた。

 これから自分が立ち向かう相手を考え、自分の置かれた立場が重くのしかかっているのだろう。


 しかしまぁ、俺にとっての問題は――まだ、別にある。


「オルグライトさん。コームナスのことは任せます。皇帝の救出に関しては、何か案をもらった方が良いですか?」


「いや、コタローくんたちに任せるよ。――手の内を明かしたくないんだろう? コームナスがここにいるのに、なぜ公爵邸が騒ぎになっていないのか……とか、ね」


 見抜かれてるか。

 ハンジロウのことも気づかれてそうだな。さすがに詳細まではわからないだろうけど、擬態ができる潜入のプロが、他に仲間にいる、くらいは思われてそうだ。


「手の内を隠すのは正解だ。この国は、きみたちにとって敵地だろうしね。僕らはきみを信用するけど、きみらが僕を信頼する必要はない」


 なんともまぁ、割り切った考えだ。

 自分の都合じゃなく、俺の立場からもモノを考えてくれている。

 冷たいようだけど、ここはその言葉に甘えさせてもらうか。この場にはまだ、コームナスもいるしな。


「じゃあ、俺たちは俺たちで対策を練ります。あとのことはお願いしますね」


「任されたよ、コタローくん。ごゆっくり」



******



 オルグライトさんたちに確認を取って、俺たち用に割り当てられた部屋の一室に集まる。

 メンバーは、帝都に潜入したときと同じ王国組の面々だけだ。


 コームナスが屋敷に戻るなら、その前にハンジロウを呼び戻さなければいけない。

 人前にいたのが急に消えた、なんて場面じゃ無ければいいけど。

 そう思いながら、一度カードに戻して再召喚した。


「――ハンジロウ、御前に」


「ご苦労さん、ハンジロウ。お前に頼りっぱなしだな。……消えるとき、周りに誰かいたりしたか?」


 俺の懸念に、ハンジロウは首を振る。

 良かった、一人のときにカードに戻せたか。

 あとは入れ替わりでコームナスが屋敷に戻るだけだな。


 安心したところで、ハンジロウに手製の帝城見取り図を見せる。


「帝城の間取りだ。聞いた限りだと、北西のこの辺に現皇帝が幽閉されてるらしい。次の俺たちの目標は、ここに潜入して帝国の皇帝を救出することだ」


「御意。では、また先んじて道を作りましょう」


 頼もしくうなずいてくれるハンジロウ。

 けれども、話し合っておかなきゃいけないことがある。


「待ってくれ。実は、問題が一つあるんだ。それを全員で話し合っておきたい」


「コタロー殿、問題とは?」


「そんなに難しい顔をするほどのことかの?」


 所長とクリシュナが、不思議そうに尋ねてくる。

 今さらと言えば今さらなんだけど、コームナスを捕らえてみて確定したことだ。


「……オルスロートは実在する。姿を変えられる長命種の実力者が、帝城に潜んでることになる」


 その言葉を聞いて、アシュリーが目を細めた。


「やっぱり、コタローも少しは疑ってた?」


「ああ。ドラゴンの群れが報復に攻めてきて、実は黒幕は別にいました、なんて都合の良すぎる話だからさ。……お前の姉のカラフィナさんには悪いけど、ゲルトールさんとオルグライトさんの話を、完全に信じてはいなかったよ」


 今までの俺の情報源は、ゲルトールさん、そしてオルグライトさんの証言だけだった。

 これだけだと、仲の良い二人が口裏を合わせて、俺を煙に巻こうとしてた可能性もある。


 けれども、コームナスもその名前に反応したことで、オルスロートの存在が確定した。

 味方のみならず、俺たちの会話を知らないであろう敵までもがその名を口にしたのだ。


 両陣営が揃って、その実在を前提としている。

 これほど信憑性のある根拠はない。


「ゲルトールさんの話は本当だ。俺がだまされているわけじゃない。……そうすると、九百年を生きて帝国を支配してる長命種の魔術士と、相対することになる」


 又聞きだが、現皇帝の証言によれば相手はかなりの魔力を持っている。

 手の内も、どんな魔術を使われるかわからない。


「所長、相手の予想はつくか?」


「……長命種は多数存在するが、わからないね。相手は魔術士だろう? エミル殿の意見も聞いた方が良いと思う」


 そうだな。

 もしかしたら、エミルはオルスロートの時代まで現役だったかもしれないし。


 魔力が回復したのを見計らって、エミルを召喚する。

 エミルは出番が少ない、とぶーたれていた。


「窮屈な思いさせてごめんな、エミル。――それで、魔力の多い長命種、ってのに何か心当たりはないか?」


『えー? 長命種は、大抵魔力が多いよ? 魔王種とか、ハイエルフみたいな精霊種もそうだし。幻獣や神霊だったら、それこそ人間とは比べものにならないよ?』


 長く生きている分だけ、魔力は衰えず、伸びる機会にも恵まれやすい。

 そういう点から、長命種には魔力が多い種族がほとんどなのだそうだ。


 両腕を組んで小首をかしげながら、エミルは続けた。


『でもまー、そばにいて魔力を感じるくらいなら、長命種なんだろうね。普通は、魔力なんて外からじゃ、あまり感じないもん』


 確かに、そうだな。

 所長やノアレックさんも人類の中じゃかなり魔力が高い方だけど、それでも、そばにいて魔力に威圧されるなんてことはない。


 よほど魔術に長けてる相手だ、と仮定しても良いだろう。


「種族は絞れないか……とりあえず、『スペルキャンセル』は大量にカード化しておくか」


 もし万が一帝城で遭遇すると、魔術戦になる可能性が高い。

 そうなると、アバターで魔力を食う俺以外にも、『スペルキャンセル』が撃てる所長とノアレックさんには同行して欲しいところだ。


「……わたしもかい? 良いけど、足手まといにならないかが心配だな」


「いざというときは、城内でフレアドラゴンを召喚して逃げましょう。城が壊れたら、さすがに追ってくるどころの話じゃないはず」


 いざというときは最終戦争しましょう、と言ってるような提案だけど。

 所長は苦笑しながらも、なんとか了承してくれた。


「わらわも行くぞ!」


 ちょっと待てお嬢様。

 突然、何を言い出す。


「クリシュナは留守番だろ。所長だって遠慮がちだったのに」


「わらわも戦えるわッ! エルキュールの護衛としてなら良いじゃろ!? ……そもそも、エルキュールまで行ってしまうのなら、わらわ一人だけ留守番ではないか!」


 そんなの嫌じゃ! とわめくクリシュナ。

 ……そういや、こいつ三回攻撃のスキル持ってたな。

 並の兵士よりは強いって言ってるし、まぁ、良いか?


 本音は危険なので、一人だけ留守番させる予定だったんだけど。

 ドラゴンズに召喚枠を圧迫されている以上、アバターではない剣士は正直、とても欲しい。

 けど、戦場に出すにはあまりに幼いし……


 俺が迷っていると、ノアレックさんがクリシュナを擁護した。


「ええんやないの? ほら、――『魔獣の力』やったっけ? いざとなればそれで強化すれば、お嬢の能力やったらとんでもない威力になるんやろ? 城内では、うちが召喚獣出して乗せるけん、みんなに遅れることもないと思うよ?」



名前:クリシュナ

種族:普通人

1/1

『高速連撃3』・一度の攻撃時間で3回攻撃できる。



 うーん。確かに。

 クリシュナは武器を持ってやっと1/1のスタッツなんだけど、『魔獣の力』で3点加算すると、4/4になって、三回攻撃で12点のダメージを叩き出せる。


 これは、ナトレイアの『精霊の一撃』を超える威力だ。

 なにげにパーティ内の最大個別火力でもある。


「……仕方ないな。ケガだけはすんなよ、クリシュナ。お前、HP少ないんだからな?」


「ふはははー! 強敵が出たら、わらわを頼っても構わんぞ、コタロー?」


 この性格が先行き不安なんだよな。歳の割に聡明なことは知ってるんだけどさ。


「じゃあ、全員で行くか。――すまん、ハンジロウ。負担をかけるけど、先行して潜入ルートを確保してくれるか? 城内の誰かに化けられそうなら、いつでもサポートする」


「負担など、お気になさらず。このハンジロウ、全力を尽くす所存にございます」


 そう言うと、途端にハンジロウが姿を消した。


 えっ? まさか、もう帝城に行ったの?

 少しは休めば良いのに……


 頼もしさの反面、過労にならないか申し訳なく思ってしまう。


『ハンジロウはねー、マスターが、自分ができなかったことをやっちゃったからって尊敬してるんだと思うよー。やりたいって言ってるんだから、張り切らせてあげなよ』


 ハンジロウの過去を知るエミルが、そんな訳ありな言葉を投げかけてくる。

 まぁ、無理をしてないなら任せた方が良いか?


 全員を見渡し、気合いを入れ直す。




 よし、現皇帝を救うべく、帝城へと殴り込みだ!







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― 新着の感想 ―
[一言]  コームナスは、もはや自分の身が可愛ければ、公爵に服従するフリをしたまま敵対するしかないのだ。獅子身中の虫になる、ってとこか。 ↑ 彼が寄生虫飼ってるかは知らんけど、さぞかし胃が痛くなること…
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